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57_小笠原家の事情

ご無沙汰しております。大江の麦茶でございます。

先日活動報告で連絡しておりました、真姫の後日談編を更新いたします。


今回は本日から3日間の更新を予定しております。

お楽しみいただけましたら幸いです。

 

「直哉、部活の後に時間あるか?」


 冬休みも終わり学校が始まって2週間が経ったそんなある日、部活に向かおうとする直哉に声をかける。

 直哉は微笑みながら向き直るが、俺の後ろに小笠原が申し訳なさそうな顔で立っているのを見て、一瞬顔を引き攣らせるが、すぐに表情を微笑みに戻した。


「ああ、大丈夫だよ」


「そうか。ちょっと相談があってな。俺の事じゃなくて小笠原の事なんだが・・・」


 俺の話を聞いて微笑みがまた一瞬ひきつる。

 直哉としては、自分ではなく先に俺に相談したことが気に食わないのだろうけど。


 ・・・だけどな、それは直哉が悪いんだぞ。

 すみれさんも呼んでいる事を伝えると、直哉は疑問に思ったようだが、小笠原の今後の事と言うと一応納得はしたようだった。




 部活が終わり、弓道部の小笠原が部室に来るのを俺達は待っている。

 すみれさんはすでに部室に来ていて、顧問や部長、副部長と親し気に話をしている。

 彼女は考古部のOGだそうで、部長達と面識があり昔の話に花を咲かせている。


 サッカー部上がりの藤井が寒そうに手を擦り合わせ、体育会系の挨拶をしながら入ってきた。


「うー、寒い。雪が降ってきやがったぞ」


 マジか。寒い寒いと思っていたけど、雪が降るぐらいとは。


 藤井は、結局こちらの世界に足を踏み入れる事になった。

 オリエンテーリングの時と中島の事件という2つの事件に短期間の間で巻き込まれた事。

 そしてサイレンという特殊能力持ちだった事もあり、記憶を消すよりは組織で庇護する事になったのだ。

 オリエンテーリングの記憶を戻された藤井は記憶を消されていた事を怒っていたが、最近の状況から庇護を受けたほうが良いと考えたようだ。

 今は顔の広さと能力を活かして、考古部の情報収集を任されている。


 俺たちが最近の天気について話していると、ノック音が聞こえ、小笠原が入って来た。

 今回の話の内容が自身のこれからを左右する事を理解しているので表情は強張っている。



「これで関係者は揃ったと思います。話を始めたいのですが・・・」


「それは私達も聞いてもいいのか?」


 部長の言葉に俺は申し訳なさそうに答える。


「小笠原家の込み入った話なのでできれば遠慮を・・・」


 俺は2人にそう言うが、


「今ここにいる人達には聞いていて欲しいかな。この後の事もあるから」


 とすみれさんに言われたので、立ち会ってもらうことになった。

 今度こそ俺は話を始める。


「えー、小笠原のことを部長たちはご存じなんですか?」


「先輩から聞いている。君と同じだとね。そして先日の事件についても説明を受けている」


 部長は俺と小笠原を見ながら言う。


「そうですか。では説明は省略します。で小笠原からの相談なんですが・・・」


 俺は相談内容について語り始める。


 小笠原の父親が会社を首になった事。

 その原因が前回の麻薬騒動が絡んでいるらしい事。

 そのせいで家計が苦しくなり、父親の実家がある四国に引っ越しする話が出ている事。

 でも小笠原はこの学校から転校したくないし、両親も助けたいのでなにか仕事の紹介をお願いできないか?(蜂女を見ている小笠原は、昔の様にああいったモンスターを狩る事で金を稼ぐことが出来ないかを確認したいようだった)


 俺が話し終わると、直哉が声を上げる。

 かなり興奮しているようだ。


「真姫!どうしてそんな重要な事を相談してくれなかったんだ!僕はそんなに頼りない?!」


 直哉の言葉に、小笠原は震えながら下を向くばかりだ。


「直哉。その事で小笠原を責めるのは酷だぞ」


「どうして?!」


「お前、小笠原に言ってないだろ?」


「何が?!」


「お前が家を継いだことだよ」


「えっ?」


 俺の言葉に小笠原は顔を上げて直哉を見る。かなり驚いているようだ。


「あっ」


 顔を青くして小笠原を見る直哉。


「お前、小笠原に親父さんが病気になったから当主代理することになったって説明してたんだってな。だから小笠原は忙しいお前に迷惑を掛けない為に、俺に相談してきたんだよ」


 俺の言葉を聞いた直哉はしばらく俯いていたが、顔を上げて小笠原を見つめる。


「真姫、嘘をついてゴメン。本当は僕が当主になったんだ。でも当主になった方法は言えなかった。嘘をついて本当にごめん」


 そう言って、素直に小笠原に頭を下げる直哉。


「ううん、ちゃんと本当の事を言ってくれたもの。うれしい・・・」


 そういって直哉と小笠原は軽く抱き合うようにして、正面から見つめ合っている。

 しっかしあのフラミアが乙女しているのは本当にびっくりだな。

 フランベルグやカリンが見たらひっくり返るんじゃないか?

 いやカリンなら爆笑するか。



「見つめ合うのはいいが、その続きは後で二人きりの時にやってくれ。まずは小笠原の現状を打開する方法について検討させてくれ」


 俺の言葉に直哉は顔を赤くして小笠原から離れる。

 小笠原は俺を軽く睨み、「せっかくいい雰囲気だったのに」と声を出さずに呟く。

 緊張感ないな、オイ。お前自身の事だぞ。



「そう言う事なら、加賀谷一族で対応するよ。小父さんに仕事を紹介すればいいんだから」


 そう、そうなんだけどな。でもなあ・・・。


「なあ、直哉」


「なに?」


「どこを紹介するんだ?」


「どこって?」


「いや、前に言ってたよな。加賀谷一族は学問で身を立てる人間ばかりだって」


「そうだよ」


「いや、その小笠原の親父さんって普通の会社の経理やってたんだろ?その人が出来そうな仕事ってあるのか?」


「・・・」


 やっぱりか。以前加賀谷一族の説明を聞いた時に、表の顔は医師や大学教授、研究者や教師が多いと聞いていた。総合病院を経営している人や塾を経営している人もいるそうで、そこなら仕事があるかもしれないが、直哉の話しぶりから仲が良くなさそうだったので、紹介は難しいだろう。


「なら名取川家から仕事を紹介してもらった方が良いと思う。小笠原の親父さんも、これから慣れない仕事を始めるのは辛いだろうから、できれば慣れた仕事に就いた方がいい。そうなると顔が広い名取川家に頼んだ方がいいと思うんだ。その代わりに小笠原には名取川家の紹介する仕事をこなしたり、考古部に所属して俺達を手伝ってもらう。小笠原を自由に使えるのは名取川家にも大きなメリットがあるし、小笠原も学校を辞めなくて済むだろう?」


 俺の言葉を聞いた直哉は難しい顔をしていたが、


「…そう、そうだね。その方がいいかもしれない・・・」


 と自分を説得するように呟いた。


「本当にいいの、直哉君?」


「はい、小父さんにはこれ以上辛い思いはしてほしくない。僕にとっては父のような人なんです」


 すみれさんの問いかけに直哉は答える。

 直哉の親父さんは悪い人じゃないんだけど、病的な女好きのせいで、直哉は自分の父親を毛嫌いしている。

 なるほど小笠原の親父さんを本当の父親のように思っているのか。


「直哉君が良いなら、名取川でお仕事紹介するのは良いんだけどね」


「何か問題がありますか?」


「うーん、真姫ちゃんの人柄は直哉君が保証してくれているから問題ないよ。それで彼女の退魔師としての腕ってどれぐらいなのかなって。前の事件の時には蜂を叩き落していたから、凄腕なのはわかるんだけどね」


 ああ、そっちか。


「それは本人から言ってもらった方がいいですね。小笠原、よろしく」


「えっ、えっと、どう説明すればいいの?」


「自分の売り込みだな。()を思い出せよ。新人の時、ギルドの親父に自分の出来ることを説明しただろ?」


 俺の言葉を聞いて考えを纏めていたようだが、少ししてから話始める。


「えっと、小笠原 真姫です。直哉や名取川さん、博人と同じ1年B組です。弓道部に所属してます。出来ることは精霊魔法と曲刀を少し、あとは弓が得意です。よろしくお願いします」


 パチパチと拍手が起こる。

 それにしても売り込み方が下っ手くそだな。自己紹介で終わってるじゃねーか。

 こいつこんな売込み方しかできなかったのかよ。大丈夫か?


 俺の心配を他所にすみれさんの質問は続く。


「精霊魔法っていうのが、前に蜂を落としていた術なのね。その上で、剣や弓も使える。多才なのね」


 すみれさんの言葉を聞いて、小笠原は顔を赤くしている。照れているのだろう。

 照れてどうする。自分を売り込むタイミングだろうに。

 俺は小笠原の売り込みを手伝う事にする。


「弓もそうですけど、剣も相当に使いますよ。俺は負け越してますから」


「「「「「えっ!?」」」」」


 皆の驚く声を背景に、思い出すような表情をする小笠原。


「あれ、そうだっけ?」


「最後は俺が寝込んじまったからな。結局負け越してるよ」


「そう言えばそうだっけ」


 やっと思い出したようで頷いている。


「そ、それってホントなの?」


 すみれさんが恐る恐る俺達に聞いてくる。


「そうですね。剣はこいつの方が上です」


「まあ、あんたは剣が苦手だったし。それにこの体でどこまでやれるか、まだ分からないし」


「じゃあ、ぼくがお相手するから一度打ち合って見ないかい?練習試合ってところだね」


 小笠原の言葉に、副部長が申し出る。

 副部長は目がギラギラと輝いている。かなり小笠原の剣に興味があるようだ。


 副部長の剣の腕はかなりの物で、この若さで剣術の免許皆伝をいくつか持っているらしい。


 副部長の話を聞いたすみれさんは問いかける様にこちらを見たので俺は首を縦に振る。


「それじゃあ、剣道場を借りよっか。可児先生。剣道場の借用って昔と同じですか?」


 すみれさんの言葉に、他の部員たちも準備のために動き出す。

 部長に興奮したように話している副部長に俺は声をかけた。


「副部長」


「いやはや、異界の剣術にはとても興味があるよ。ああ、心配しないで。怪我はさせないように気を付けるから」


「いいえ、本気でお願いします」


 俺の言葉に驚いたように瞬きをする副部長。俺は言葉を続ける。


「これは副部長の事を軽んじている訳ではないです。ただあいつの剣は()()()()()()()()ので」


「わかったよ。一人の剣士として、真剣に相対することを約束する」


 俺の言葉を聞いた副部長は何か考えていたが、納得したのかニコッと笑った



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