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55_先人の知恵(黒歴史ともいう)

本日は11時にも更新いたします。


 なぜこんな状況になってしまったんだろう?

 自分の部屋で俺と小笠原は並んで正座している。

 俺達の前には怒りながら涙を流しているすみれさんと激怒している直哉が仁王立ちして腕を組み俺達を睨んでいる。

 静菜さんは声を上げず静かに涙を流しながら俺の顔を見つめている。

 だめだ、わからん。俺はまともに動かない寝起きの頭で、今までの出来事を少しづつ思い出していた。




 蜂女討伐が終わった俺は、現場の後始末を手伝った。

 その後にすみれさんによる小笠原への説明と事情聴取に立ち合う事で、その日は無事終わった。


 そして次の日の日曜、俺は小笠原を自分の家に呼び出した。

 今後の事について注意事項を伝える必要があるからだ。


 記憶が戻った当時の俺は、現実と過去の記憶が入り混じって大変な黒歴史を量産してしまった。

 俺は記憶が戻ったのが小学生の頃だったので傷がまだ浅いが、高校生での中二病発症は小笠原の学園生活にとって、致命傷となりかねない。


 本当は名取川姉妹と直哉と一緒に、小笠原の今後について相談する予定だった。(その為に昨日の内に怪異やら退魔組織等の大まかな説明を終えていたのだ)


 俺は自身が犯した過ちを、小笠原が繰り返す事が無い様、自身の過去を小笠原に伝えることが必要だと考えた。

 だけど俺の黒歴史は広めたい話では決してない。

 その為、名取川姉妹と直哉には時間をずらしてきてもらい、先に小笠原に注意事項を伝えようと考えた。

 黒歴史の内容は言わなかったが、概要を話して名取川姉妹と直哉にも、注意事項の重要性について理解してもらった。


 俺は朝食を食べながら、脳の底に沈めていた忌々しい記憶を一つずつ思い出し、どのような順番で説明するべきか考えていた所でチャイムが鳴る。

 玄関のドアを開けると小笠原が立っている。

薄手のパーカーにジーパンのラフな格好だ。


「おはよ。呼ばれたから来たけど」


「ああ、日曜なのに悪いな。わざわざ来てもらったのはお前のこれからについて、注意事項を伝えようと思ってな」


「注意事項?」


「詳しい事は中で話す。まあ、上がってくれ」


「はいはい、お邪魔しまーす」


 俺は小笠原を自分の部屋に案内した。


「適当な所に座ってくれ。飲み物取って来る」


「私、オレンジジュースがいい」


「オレンジジュース・・・。あったかな?探してみるけど無かったら諦めろ」


「えー、買って来てよ。あたしはお客さんだぞ~」


「ざけんな」


 ()のように他愛もない事を言い合いながら、俺は台所に向かう。

 偶々残っていたオレンジジュースの缶が冷蔵庫の中にあったので、麦茶とグラスを一緒にお盆にのせて自分の部屋に戻ると、小笠原は窓際の鉢を見ながら笑っている。


「あんた、こっちでも魔封石作ってんの?」


「ああ、色々あってな」


 俺は魔封石を作った経緯を説明すると、彼女は大きなため息を吐いて呆れた様に言う。


「なんというか、そういう所、全然変わらないのね」


「変わらないというか・・・。()の事は()も引きずることになるんだよ。どうしてもな」


「そっか・・・」


 彼女は少し考える様に下を向いていたが、ベッドの縁に座りこちらに顔を向ける。


「さて、それじゃあ博人先生による前世持ちの生き方講座を拝聴しようじゃありませんか」


「あのなあ・・・。正直これから言う事は俺の恥だから本当は言いたくないんだ。だけどそれはお前にとって有益な情報なんだから真面目に聞けよ」


「はーい、わかりました〜。せんせー」


 俺は床に座って胡坐を掻きながら話し始めた。




 注意事項伝達という名の俺の黒歴史披露は、小笠原の笑いのツボをことごとく突いていたらしく、ベッドの上で手足を暴れさせるようにしてずうっと笑っていた。

 そんなこいつを怒りもせず、滔々と語り続けた俺は本当に偉いと思う。

 聖人のような忍耐で話を続けていた俺だったが、こいつは笑いすぎたのか、咳込みながら涙を流している。


「あー、本当に面白いわ〜。笑いすぎて疲れちゃった。そうだあんた、足を伸ばしなさい」


 そう言いながらベッドから立ち上がり、俺の前にある机を横に動かしながら言う。


「あん?何なんだ?」


「いいから!」


 仕方なく足を伸ばすと、小笠原は俺の太腿の上に自分の頭をのせて横になった。


「昔からこれが落ち着くのよね~」


「結構重いぞ」


「文句言わない。でも羽のように軽いはずのあたしを重いなんて。あんた、なまってんじゃないの?」


「そんなことはねえよ。お前が太っただけだろうが」


「あのねえ。うら若き乙女に"太った”なんて普通言わないわよ。本当、昔からデリカシー無いわよね」


 彼女はジトっとした目つきを俺に向けて、呆れたように言う。


「うるせーよ。ほら続きを話すぞ。俺が身を削って得たノウハウなんだから真剣に聞けよ」


「はいはい、こんな面白い話を聞き逃したりしないわよ」


「マジざけんな。笑わそうとしている訳じゃねーぞ。真面目に聞け」


 そう言って俺はノウハウ伝授という名の黒歴史披露会を続けた。

 こいつの笑い声をバックミュージックにしながらだったが。



「あー、笑った、笑った」


 俺の足の上で散々大笑いして満足したようで、笑いすぎで流した涙をハンカチで拭いている。


「おい、真面目な話なんだぞ。ちゃんと覚えておけよ」


「わかってるって、この歳で中二病発症は本当にヤバいしね」


 すこしの間俺の黒歴史の話をしていたが、話の内容が昔の事になった。

 俺は今まで誰とも共有できなかった話ができることが嬉しくて、ずいぶん饒舌に話をしたと思う。

 そんな風に懐かしい話で盛り上がっていたが、その内眠気を感じ始めていた。

 昨日は戦闘をこなしていた事もあって疲れていたのだろう。小笠原もかなり眠そうになっている。

 俺の意識は少しずつ薄れていった。




「博人さん!」「ヒロ君!」「真姫!」

 なんだ?騒がしいな。俺はあくびをしながら体を大きく伸ばした。


 目の前には、静菜さん、すみれさん、直哉が顔を強張らせて俺の顔と足を見ている。

 何だ?怒ってるのか?

 足の上が重いので見てみると、小笠原が俺の足に顔をうずめる様にして眠っている。


「小笠原、起きろよ。重てえぞ」


「うーん、もうちょい寝かせて・・・」


「真姫っ!」


「はっ、はい!」


 直哉の怒鳴り声で、小笠原が飛び起きる。全くやっと足が軽くなった。

 痺れている足を微妙に動かしながら、何とか状況を把握しようとする。

 時計を見るともう12時半になっていて、2時間ほど眠っていたようだ。

 恐らくチャイムを鳴らしたのだろうが、眠りこけていた俺達は気が付かなかったので、渡していた合鍵で家に入ってきたのだろう。


「チャイムに気が付かなかったのは悪かったよ。でもどうしてそんなに怒ってるんだ?」


 俺の言葉に、すみれさんと直哉は顔を真っ赤にし、静菜さんは鳴き声を上げずに涙を流し始める。

 えっ?泣かせてしまった・・・?


「えっ、えっ、静菜さん泣かないで。どこか痛いの?回復魔法をかけようか?」


 俺の言葉を聞いて、今度はすみれさんが涙を流しながら静菜さんと抱き合い、直哉の表情が今まで見たことがないような怒りの顔に変わった。


「博人・・・。お願いだからこれ以上怒らせないでくれ。それにそんな誤魔化し方じゃあ、誰も騙せないよ」


 え、俺は何か不味い事を言ったのか?

 ・・・駄目だ、考えてみたが全くわからん。


「すまん、直哉。本当に心当たりがないんだ。泣かせたり怒らせたりするつもりなんて無いんだ。理由を教えてくれないか?頼む」


 俺の言葉に、小笠原は激しく頷く。

 そんな俺達を見て、直哉の顔が凄まじいほどの怒りの色に染まる。

 あ、殺される?

 俺と小笠原は同時に正座する。



 そんな俺達を疑わしげな表情で見ていた直哉だったが、俺達が本気で質問していることに気が付いたようだった。

 顔が怒りより困惑に変わっていく。


「博人。僕は君の事を本当に親友だと思ってる。だから真剣に聞くよ。おふざけは一切無しだ。その言葉、本気で言ってる?」


「ああ、本気だ。俺は静菜さんやすみれさんを泣かせるつもりも、直哉を怒らせるつもりも本当に無いんだ。それは小笠原も一緒だと思う」


 小笠原はさっき以上に激しく頷いて同意している。


 はあと大きくため息を吐いて、直哉は俺達の目を見ながら説明を始める。


「僕達がさっきこの家にお邪魔したとき、家の中がとても静かで驚いたよ。もしかしたら急用ができて出かけているのかもとも思った。でもすみれさん達が合鍵を持っていたから、僕らは君の部屋で待たせてもらおうと部屋にお邪魔してみたら・・・」


 そこで直哉は怒りがぶり返してきたのか、顔を真っ赤にして右手を強く握る。


「博人と真姫がとても仲よく眠っていた。安心しきった様子で・・・、そうまるで恋人みたいに!」



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