53_強制捜査と退魔業
名取川本家で行われたミーティングの後、俺は自分で設計した鎧の最終調整の為に東京を訪れていた。
本来なら制作も自分ですべてやりたかったのだが、魔封石や月光糸関連の仕事に忙殺されている俺にそんな時間もなく、仕方なく設計図だけ送って製造は財務省の野田さんから紹介された職人さんにお願いすることにした。
今までも何度か着心地やサイズ、動きやすさの調整等はあった。
だがフルプレートの鎧制作は珍しく面白い仕事だったらしく、鎧を着た状態でいろいろな動きを要求されることが多々あって非常に疲れることもあった。
たけど苦労した甲斐はあって、かなり満足できるものに仕上がったと思う。
まだ何かをやりたそうな職人さんを振り切り、鎧を学園の考古部室に送ってもらうようにお願いして工房を後にする。
これで東京での用事はすべて済んだ。
このまま東京見物としゃれこもう。
案内をするという野田さんに断りをいれて俺は最寄りの駅に向かう。
最近は誰かと一緒に行動することが多く、元来自由気ままに行動することを好む自分としては結構なストレスを感じていた。
そのストレスもこの東京観光で発散することにしよう。
駅に向かう俺の足取りは自然と軽いものになった。
東京観光でストレスを解消した俺は、少しの間平和な日々を送ることが出来ていた。
予定されている蜂女の討伐は、準備や調整に時間が掛かっているようだった。
まあ東京から事情を知っている刑事さんや討伐部隊の増援がある討伐作戦なので、それらのスケジュールを合わせる事が必要なので時間が掛かるのも当然だろう。
俺と言えば作成した鎧は既にこちらに届いているので準備万端、開始の合図を待つばかりと言った所だ。
そんな風にのんきに構えていた俺に突然の招集がかかった。
土曜日だったので大慌てで学園に向かい、名取川家で用意してもらった車に鎧を詰め込んで指定された場所に急ぐ。
運転手さんが今回の招集について説明してくれたのだが、どうやらこちらの討伐(強制捜査)の情報が漏れていたようで、あのミーティング後の調査で目星をつけた麻薬生産工場と思われる敷地を見張っていた所、妙に騒がしくなり、大掛かりな一部荷物の搬出が確認されたらしい。
このままだと証拠隠滅や逃げられてしまう可能性が高くなったので、急遽召集をかけてこのまま生産工場に踏み込むことになったのだ。
なんともいきなりの展開だったが昔にも同じようなことはよくあったので驚きは少なかった。
今回の討伐は非常に大掛かりで関係する組織も多い為、大まかな作戦が立案されていた。
俺は運転手さんに作戦の説明を受けたのだが、今回の流れとして、まず刑事さん達が敷地内に強制捜査を実施。
麻薬関連についてはすべて刑事さんに任せるとの事。
その最中に蜂女が出た場合、刑事さんは一旦避難して名取川家と飯田市の退魔組織、東京からの増援で混成された部隊で排除する。
警察と退魔組織が協力することは今までにもあったけれど、合同捜査&退魔業は今回が初との事だった。
その為、柔軟性を維持するために、あまり物事をガチガチに決めない方が良いと言う事らしい。
刑事さん達が敷地内に突入していく。妨害しようとした警備員も既に制圧済みだ。
俺達は敷地のフェンスの外の木立の間に待機して、その作業を見守っている。
刑事さん達は皆体格もよく押出も利きそうな人ばかりだが、いかんせん人数が少ない。
スケジュールが唐突に前倒しになったこともあり、人数を集めきれなったようだ。
それでもプロの手際で容疑者の確保と証拠書類の押収と並行しながら、敷地内の広場になっている場所に確保した人間を集めていく。
俺達はその作業を見守っていたのだが、広場のあちこちで集められた連中の一部とそれを見張っている刑事さんで小競り合いを始めている。
どうも刑事さんの人数が少ない事に気が付いた奴らが暴れ始めているらしい。
刑事さん達は混乱を鎮めようとしているが、いかんせん人数が違いすぎるので、騒ぎは大きくなるばかりだった。
どうしたものかと考えていると、すみれさんから連絡があった。
警察から応援要請があって、よく目立つ俺に少しばかり威嚇をお願いしたいとこの事だった。
刑事さんのお手伝いはするつもりでいたけれど威嚇って言われてもなあ。
方法は俺に任せるが怪我をさせるような事は避けて欲しいとの事だ。
俺にもそのつもりは無かったから、ちょっと脅かせるぐらいでいいか。
腰に差している変換杖を抜いて、昔使っていた戦争用のハルバートに変えた。
これは3メートルほどある長鉾で、先端には大型の槍と斧が組み合わさった形でかなりごつい代物だ。
それを右手に構えながら、フェンスをジャンプして飛び越え敷地内に飛び込むと、一番騒ぎが大きくなっている場所に目掛けて突撃する。
滑る様に足を運びながら騒いでいる連中の目の前で急停止して右手に持つハルバートの柄を地面に刺す様に叩きつけながら大声で叫ぶ。
「警察だ!おとなしくしろ!」
今考えていると警察を名乗ったのは不味かったような気がするけど、そう名乗るしかなかった。
考古部だって名乗った所で訳わからんだろうし。
だけど突然鎧姿の変なのが威嚇してきた事に非常に驚いたらしく、騒いでいた連中も静かになった。
まだ騒ごうとする奴も一部いたが、顔を向けてやると皆おとなしくなった。
俺は兜の内側に張り付けていた通信符ですみれさんに連絡する。
「一応静かになりましたけど、これでいいですか?」
「うん、完璧だよ。刑事さんからも「ありがとう」って。でね、もう少しだけそこでにらみを利かせて欲しいって。いいかな?」
「はい、何かお手伝いできればって考えていたから大丈夫です」
「ごめんね。警察の応援も急いでこちらに向かっているそうだから、あともう少し頑張ってね」
「了解です」
俺はそのまま集められている連中の前に仁王立ちになり、全員を眺めながら時々手に持ったハルバートを振り回したりして威嚇を続ける。
そうしていると暴れようとする気力も無くなったらしく、皆一様に肩を落として座り込み始めた。
これで大丈夫かなと考えていたが、突然周囲から変な音が聞こえ始めた。
音と共に周囲の地面が揺れ始め、陥没して大きな穴がそこら中にでき始める。
集められた連中が恐怖の叫びをあげ、陥没した穴に飲み込まれる者もいる。
阿鼻叫喚の中、開いた穴から大量の蜂女が飛び出してきた。
空の色が黄色と黒に染まってしまった。
そう見えるほどのモンスターが次から次に穴から飛び出し、それが止まる様子もない。
空を覆うモンスター達は甲高い羽音を響かせて空中を舞っていたが、周囲に人間がいることに気が付くと一度高度を上げて一斉に周りの人間に向かって飛び掛かっていく。
その光景はまるで大型の蜂が狩りを行っているかのようだ。
すると一際巨大な穴が開き、4~5メートルほどの巨大な蜂女が出現する。女王蜂か!
「皆の者。ここは我らが地。我らが巣。この地を本拠にし、この世界に大きく根を張るのじゃ。その為には引いてはならぬ。ここにいるものすべてを餌とし、我らが巣の拡大の元とするのじゃ。なに人族相手のごまかしならばあの者共に任せればよい!」
女王の言葉に発奮したのか周囲の蜂の獰猛さが増していく。
このままでは被害が広がるばかりだけど、俺はこんなに多くの敵を一掃できる手札が無い。
だがこいつらの攻撃を俺に向けさせる手札がある。
フルプレートが間に合ってて本当に良かった。鎧なしで出来ることじゃないしな。
俺は右手に持つハルバートの柄の中央を握り構える。
そして自身の腹の中央にマナを集め、それを力に変換しながら声とともに吐き出す!
「UGAGUAAAAAAAAAAAAAAAAAA!」
その人族とは思えないような大声が周囲に響き渡ると、建物のガラス窓はすべて砕け散りきらきらと周囲に舞い散る。
そして声を聞いたモンスターはびくりと大きく体を震わせると俺の方に向き直り、一斉に飛び掛かってくる。
この技は敵の注意や攻撃をすべて自分に集めることができるもので、昔仕事で付き合いのあった騎士から伝授されたものだ。
使い方次第では自殺行為になる為、習得したがる者がおらず消え去る寸前だったらしい。
技の名前すらもわからなくなっており、伝授してくれた騎士も威嚇声とか大声とかを呼称にしていたぐらいだ。
だからだろうか、本来なら特定の騎士にしか伝えられないはずなのに俺に伝授されたのは。
当時の俺は殴り合いと神聖魔法しか手持ちがなく、自身の手札を増やすことに躍起になっていた。
そして今思い返してみると、昔の俺が一番使っていた技だったかもしれない。
突撃してくる蜂女を迎撃するために、ハルバートを指で回転させる。
回転させたハルバートが発する音が、周囲の蜂女の羽音より大きくなるほど回転数を上げて自身の体を中心に振り回し始めると俺の周囲にいる蜂女がばらばらになる。
長鉾術の刃盾という技で、これで時間を稼ぎながら敵の数を減らすのだ。
時間を稼げばすみれさん達が態勢を立て直して反撃を始めるだろう。
それまで持たせるのが今の俺の仕事だ。
少しの間俺は周囲の敵を薙ぎ払っていたが、自身へのダメージが大きくなっていることに気が付いた。
元々刃盾は攻城戦の際、盾を持つことを嫌った一部の騎士が自身の獲物を盾代わりにするために編み出した技だ。
あくまで城壁に着くまで降り注ぐ矢を防ぐことが出来れば良いというものなので、攻撃を防ぐ効果は盾程ないのだ。
蜂女は突撃以外にも尻から針を飛ばしてくるので思ったよりも被弾が多い。
鎧の兜も左半分が既に割れており、鎧の3割はすでに失われている。
しかし大きな傷はまだ受けていないのは鎧様様だ。
鎧がなければここまで粘れていない。
ただ通信符が兜を割られたときに破れてしまい、すみれさんと連絡が取れない。
八方塞がりの状況で何とか耐えていた俺だったが、近くの穴からフラフラと人影が出てくるのが見えた。
逃げ遅れた奴がいるのか?
そいつはおぼつかない足取りで頭を押さえながらこちらに近づいて来る。
くそっ!このままでは俺に向けられている攻撃に巻き込まれる可能性がある。
俺は大声で注意を促すが・・・。
あれは小笠原か?!なぜこんな所に?それに怪我でもしているのかえらく弱々しい姿・・・だ?
・・・いや、違う。あれは・・・耳長性悪の・・・。
「フラミアか?」
俺の言葉にフラミアらしくない弱々しかった瞳に光を取り戻すのが見えた。




