52_小笠原 真姫の冒険②
Side:小笠原 真姫
掴んだと思った糸が切れてしまった。
お店の前で暫く呆然としていた私だけど、すぐにこの場所から離れた。
考え過ぎかもしれないけど、麻薬密売組織が見張っているかもしれない。
もしかしたら私が侵入したのがバレていたのだろうか?
もしそうならその場で私を捕まえるはず。
色々と考えるけど原因がわからない。
う〜、頭が煮詰まりそう。
よし!切り替えて行こう。
糸が切れてしまったことは仕方がないし、また梨田さんから糸を探るしかない。
梨田さんはあのお店にハマっていたから、ここが閉まっても新しいお店に必ず行くはず。
その梨田さんを付けて新しい店へ案内してもらおう。
次の週の月曜日、私は会社から出てくる梨田さんを待っていた。
するといつもの様にスキップを踏むように見慣れた姿が会社のビルから出てくる。
私は見失わない様に距離を空けて、梨田さんの後を付いていく。
初めの頃は私に尾行なんてできるのか疑問だったけど実際にやってみるとあまり難しくなかった。
梨田さんも縁もゆかりも面識もない女子高生が、自分の事を付け回しているなんて思いもしないって事が簡単な理由なんだけどね。
帰宅するサラリーマン達の合間を抜けながら梨田さんを付けているが、やっぱり少年期にはには向かわずに、市内の中心に向かって歩いていて、飯田市駅近くのとても高そうなホテルに入っていく。
あれ?もしかしてこのホテルで別のお仕事があったのだろうか?
私は姿隠しの魔法をかけてホテルに入り梨田さんを探すと、ちょうど来ていたエレベーターに乗り込むのが見えた。
私は慌ててエレベーターに近づき中を見ると梨田さんだけが乗っていたので私も一緒に乗り込むことにする。
エレベーターは他の階に止まる事もなく13階に着き、梨田さんがそこで降りたので私も一緒に降りる。
エレベーターを降りた正面に受付があり、入り口に「リラクゼーションサロン IIDA」と大きな文字で書かれている。
梨田さんは受付に以前少年期で使っていたものと似ているカードを受付に提示している。
まさか・・・。ここってあのお店の別店舗なの?!
驚きのあまり呆然としていた私だったが、梨田さんは受付を済ませてもう部屋に向かってしまったらしく、姿が見えない。
まあ、いいか。新しいお店の場所はこれでわかったのだから。
でも驚いたなあ。ここって一流のホテルなのに麻薬の密売をしているなんて。
ばれたらとんでもないことになりそう・・・。
おっと、それよりも麻薬がどこから来ているのか調べないと。
少しの間受付を見張っていると受付の奥にドアがあり、そこから頻繁に男の人が出てきて受付の人と何か話をしている。
あの部屋が怪しそう。
部屋への頻繁な出入りに紛れて奥の部屋に入ることは、難しい事じゃなかった。
その部屋の中はとても散らかっていて、そこら中に書類とビールの空き缶が散乱していた。
その中央に椅子が二脚あってホストっぽい男の人が二人、ビールを呷りながら書類を捲っている。(ややこしいからホストAとホストBと勝手に命名!)
壁に貼られている書類にはスケジュールが書いてあり、麻薬がいつ来るかとか書かれてあるけど、肝心な“どこから来るのか”が書かれていない。
それが知りたいんだけど・・・。
私は落ちている書類を盗み見ていると、受付の方から男の人の大声が聞こえてきた。
「麻薬取締部だ!ここで違法薬物の使用・売買が行われているとの通報があったので取り締まりを行う!このフロアは既に封鎖したのでおとなしくするように!」
その声を聞いて部屋の中の男達は慌てた様に立ち上がった。
「ヤバい。マトリのガサ入れだ!」
「ど、どうするよ?」
「仕方ねえ。俺が捕まって時間を稼ぐからお前はここから逃げろ。クスリとやばい書類を忘れるなよ!」
「で、でもここは封鎖されているって言ってるぞ。逃げきれねえよ」
ホストBが気弱そうに言い返すけど、ホストAはそれを聞いて顔を真っ赤にした。
「馬鹿野郎!ここを改装した時に脱出用通路を作ってあるって言われただろうが!もしかして渡された図面見てねえのか?!」
「すまねえ。後でもいいかと思って・・・」
「もういい!お前が捕まれ。俺が逃げる。いいな、余計な事ゲロすんじゃねえぞ」
「わ、わかってるよ・・・」
本当に大丈夫なのか?という疑わしげな表情だったけど、外からドアを叩き始めている音を聞いて急いで着替え始める。
「車の鍵を寄こせ。そっちじゃねえ!地下駐車場の軽トラの方だ」
「えっと。への32-31の方でいいか?」
「どっちでもいい!早く寄こせ!」
作業着に着替え終わったホストAが壁にかかっている鏡をずらすと、そこには空洞があり奥に続く通路があるようだ。
鍵を受け取ったホストAはカバンを抱えてその中に入ると鏡が元の位置に戻り隠し通路を塞いでしまった。
困った。これでは一緒について行けないじゃない。どうしよう・・・。
うーん、車のナンバープレートはわかっているから駐車場に急いで向かえば間に合うかも。
軽トラなら荷台に隠れることも出来るはず。
私がそう考えていると部屋のドアが乱暴に開けられて、ごつい体格の男の人がなだれ込んで来た。
グッドタイミング!私はその混乱に紛れて部屋から脱出した。
このフロアが封鎖されているの本当らしく、通路には刑事さんらしき人が忙しそうに行き来している。
私は下に向かう人に紛れてエレベーターから地下駐車場に向かい、軽トラを探すとすぐに見つかった。
ナンバープレートも間違いない。
運転席には誰もいなかったので荷台の開いている場所に座り込む。
荷台に直に座っているとお尻が冷えるなあと思っていると、ホストAが現れて助手席にカバンを置くとすぐに車を走らせる。
季節はもう秋で空気も冷え始めている中、走っている軽トラの荷台に座っているのはとてもつらい。
もっとあったかい格好で来ればよかったと後悔していると、車がコンビニの駐車場に止まる。
車から出てきたホストAは、タバコを吸いながら携帯で言い争いをしている。
ホストAは、警察の尾行は無いとは言えないので姿を隠したいと言っているようだが、電話先の相手はすぐに来るように言われているようだ。
結局男の人は電話先の指示に従う事を告げて電話を切った。
俺がブツを持ち逃げするとでも思ってるのか?とぼやきながら乱暴にタバコを踏み消して運転席に戻る。
ああ、また寒い中の我慢しなきゃいけないのね。
山道を走る車の荷台で私は小さくクシャミをした。
30分ほど山道を登っていると、立ち並んでいる木々が開けて建物が立ち並ぶ場所に出た。
建物は運動場のような広場を中心に立っており、周囲にはフェンスが立っている。
少し走るとフェンスが途切れて大きな門がある場所についた。
門の横には大きな文字で「扶桑工業 飯田市保養所」と書かれている。
車は門の前に立つ警備員のやたら厳重なチェックを受けた後、敷地内を少し走ってとある建物の前の駐車場で止まった。
そこには女の人が待っていて、車から降ろしたカバンを受け取るとホストAと一緒に建物の中に入っていく。
私も一緒に入ろうとしたが、入り口にカードキーが付いていて、一緒に入っても問題がないかわからなかった。
麻薬がここからきているのはほぼ間違いないと思う。
そしておそらくだが、ここで作っているんじゃないだろうか?
このままここを調査したかったけど、夕暮れの色が濃くなっているので一旦帰ることにする。
さすがにこんな大きな施設は一日で調べられないし、 消えてしまう事は無いと思う。
そう、時間をかけて調べた方がいい。
最近帰りが遅い事が多いので母さんから怪しまれているので、今日はもう帰った方がいいと思う。
私はそっと門から出て、門が見えなくなるまで山道を下ってから魔法を解いた。
やっぱり魔法を解かないとスマホが使えないのは非常に不便だと思う。
何とかならないかと思いながら、地図アプリで現在地を確認してみると上永山の少し奥まった所だった。
アプリにマーク機能で印をつけておいていつでもここ来ることができる様にしておく。
それから帰り道を検索して一気に憂鬱になる。
近くのバス停まで歩いて1時間って・・・。
結局帰宅が遅くなった私は、両親から叱られることになった。
それから私は少しづつ敷地を調査していった。
建物に入ることを避けていたので、それ以外の個所を調査していたのだけど、敷地の地上部分はそれほど広くないので調査はすぐに終わった。
しかしここの怪しい箇所は地上ではなく地下にあったのだ。
きっかけは駐車場の一部が地下にあった事だった。
地上にいくらでも空きがあるのにわざわざ地下に駐車場を作ってあることをおかしく感じた私は、地下駐車場を調査した。
そうすると地下駐車場が、奥にある洞窟とつながっていることを発見した。
私の名推理だとこの奥で麻薬が作られているに違いない!
私は洞窟を発見した次の土曜日に、万全の準備をした上で洞窟の探索を行うことに決めた。
待ちに待っていた土曜日が来て、私は早速自転車に乗って上永山の施設に向かった。
ただ最近頭痛がすることが多くなり、頭の中に靄がかかったような感じがすることが増えた。
痛みは強くないので今はほっといてはいるけど、この事件が解決したらお医者さんに行こう。
私は魔法で姿を消して、早速施設に侵入する。
そして目星をつけていた地下駐車場から洞窟の奥に向かって歩き出した。
洞窟の中は、工事現場で使われているような電灯が壁に並んでいて、灯りには困ることがなかった。
道の途中に分かれ道はあったけど、とりあえず適当に進んでみた。
時々洞窟の途中で作業服を着た人たちとすれ違う事があったけど、特に見つかる事もなく奥に進めた。
しばらく歩いていると「通行止め。この先進むべからず」という注意書きがある個所に行き当たった。
少し躊躇したが奥の方まで電灯が壁にかかっているので注意書きを無視して先に進む。
15分ほど歩くと、洞窟の奥から大勢のなにかがこちらにやってくる音が聞こえた。
私はとっさに横穴がある場所まで戻りそこに身を潜める。
すると本道を大量の黄色と黒の何かが地上に向かって通り過ぎていく。
目を凝らしてみるとそれは黄色と黒で彩られた化け物だった。
まるで蜂と人間が合体しているような異形の存在。
私はそれを見ていたが、だんだん頭痛が酷くなっていき、頭の靄も強くなる一方。
頭痛と靄が強まると同時に、私はあれを知っているのではないか?という思いが強くなる。
あれはもしかして〇〇〇〇〇〇〇〇なのではないか?
いや、でもあれは私の知るあれとは姿が違う。それは間違いない。
あれ?私は何を考えているの?
目の前の化け物の列は途切れることなく地上に向かっている。
私はその場所を離れる為、急いで横穴から地上を目指して歩き出した。
30分ほど歩いただろうか?自分の感覚だけでふらふらと地上を目指していたのだが洞窟の先が明るくなっているのに気が付いた。
太陽だ!
私は痛む頭を押さえながら、洞窟の出口に向かってよろよろと走り出した。
洞窟を出た所は施設内で広場になっている所だったがそこは修羅場になっていた。
フルプレートの板金鎧を纏った男が両手持ちの巨大なハルバートを縦横無尽に振り回し自身に寄ってきている化け物を蹴散らしている。
ああ、あれは長鉾術の刃盾だ。あいつが長鉾術を使うなんて珍しい事もあるものね。
あいつ?私はあいつの事を知っているの?
頭痛がガンガンしていて、靄が頭の全てを覆っている。
そんな頭を押さえながらフラフラとあいつに近づく私。
「おい!危ないから近づくんじゃ・・・。って小笠原?!いや・・・、もしかして“フラミア”か?」
あいつのその言葉を聞いた私の頭から頭痛が消え、靄が晴れると同時に昔の記憶がどっと押し寄せてきた。




