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51_小笠原 真姫の冒険①

 Side:小笠原 真姫


 最近、父さんの様子がおかしい。

 同じ時間に帰って来て私達と一緒に夕ご飯を食べ、野球観戦しながらビールを飲んでそのまま寝てしまって母さんの叱られるのがいつもの光景だった。


 でもこのところはずっと帰りが遅く、私達が寝静まった頃に帰宅している。

 休日出勤だって今までほとんどなかったのに、土日もずっと出勤していて家にいない。


 もしかして仕事だと言って浮気しているんじゃないかと思って母さんに話してみたら「あの人は浮気なんてできないわよ。お母さんは愛されているからね」笑いながらのろけられてしまった。


 でも中年太りでふっくらとしていた体形がやせ細り始めたのを見て、やはりおかしいと思い母さんに改めて相談したけど「お父さんは重要なお仕事を任されていて頑張っている所なの。お父さんを見守ってあげて」と言われた。


 確かに重要な仕事を任されているのかもしれないが、ここ最近の父さんのやせ具合は異常だと思う。

 そうなると父さんの会社で何が起きているのかがすごく気になってきた。


 一月前のまでの私だったら例え気になっていても何もできなかった。

 でも変な夢を見る様になってから精霊さんの助けを借りることが出来るようになった今の私なら何かできるかも知れない。


 元々は夢の中の自分が使っていた魔法を今の自分も使えたりするかもという子供染みた好奇心が切っ掛けだった。

「そんなのできる訳ないよねえ」などと言いつつ夢の中の言葉を呟いてみると、本当に魔法が使えてしまった。

 初めは凄く興奮したけどよく考えてみると、使える魔法が一つだけだったし、その使い道も人を驚かせるぐらいしか思い付かない。


 がっかりしていたが、今の父さんがどんな仕事をしているのかが気になっていた私は自身の魔法を使って父さんの会社を調査することに決めた 。

 私は父さんの事を心配している。

 何も自分の魔法の使い道があったから喜んでいる訳じゃあないのだ。本当に。



 週末の土曜日になり、父さんは仕事に出かけるのを玄関で見送った後、私も友人と遊びに行くと告げて家を出た。


 父さんの会社の場所は知っているので、少し時間をずらして会社の前に着くように移動する。

 会社の前に着くと、ビルの裏側の人気のが少ない場所に入り、精霊さんにお願いする。


「精霊さん、精霊さん。貴方のマントを貸してちょうだい。貴方のマントで私を包んで」


 私の言葉が終わると、ビルにはめ込まれたガラス窓に映った私の姿が見る見るうちに薄くなって、その内消えて見えなくなる。

 私が使えるたった一つの魔法。姿隠しの魔法。私の姿を消し、音も消してしまう。でも声は聞こえるようだから喋らない様に気を付けないと。


 私は自分の姿が見えなくなったのを確認してから父さんの会社のビルに入る。

 父さんの会社は7階にあるのでエレベーターに乗ろうボタンを押そうとしたけど、誰もいないはずなのに勝手にエレベーターが動くなんて、とってもホラーな光景になってしまう。

 他の人が乗るエレベーターに便乗することも考えたけど、私の魔法は見えなくなっても触れることは出来るので、この狭いエレベーター内で何かの拍子に私に触れられてしまうと、透明な何かのせいでエレベーターに乗っている人はパニックを起こしてしまうだろう。

 仕方がない。階段で7階まで登ろう・・・。


 ああ、運動不足だなあ。最近は部活もサボり気味だったから体がなまってる。

 そう言えば体重計も最近乗っていないし、お腹にも余分なのが付いていたような・・・

 いやいや、今は父さんの事を調査しないと。

 私は自分の事をとりあえずは横に置いておいて、父さんの会社に入る人に合わせて、会社内部に侵入することにした。




 父さんの会社の横にビルの暗がりで魔法を解く。

 父さんはまだ会社に残っているが私は会社から出て、考えを纏めることにしたのだ。

 まず会社には今日が土曜日に関わらず10人ほどの男の人が出勤していて、皆一様に顔色が悪くとても疲れているように見えた。

 私は人にぶつからない様に気を付けながら会社の中を観察したり、話を盗み聞きしていた。

 難しい話も多くあったのでいまいち分からないこともあったけれど、皆の話している内容を纏めると大体の所が解った。


 父さんは経理という会社のお金を管理している部署の課長をしている。

 今までは特に問題なく仕事をこなしていたけれど、営業部の人が大きな仕事を取って来る為に、取引先の会社の偉い人にバックマージン(賄賂の事らしい)を約束してしまい、そのお金を出す様に経理課長の父さんに依頼(ほとんど命令だったらしい)してきたらしい。


 でも用意するように言われた金額が大金でかつ表沙汰にできないから銀行から借りる事も出来ない。

 なんとか会社が持っている資産などを売り払ってお金を用意しているらしい。


 今日出勤している人達はみんな父さんの部下らしいけど営業の人への愚痴を皆こぼしている。

 そんな部下の人達を父さんは「これも会社の為。ひいては俺達の生活の為だから」と一人一人宥めている。


 どうも賄賂を要求している人は私でも知っている一流企業の部長さんらしい。

 名前も確認できたので、調べたいことは全部分かったけれどどうしよう。

 何だか話が大きくなっていて高校生の自分では何かが出来そうにない。

 こんな時はいつも直哉に相談しているんだけど・・・。


 直哉のお父さんが病気で倒れてしまったので、お父さんの仕事を直哉が代行していて、とても忙しくしていた。

 そんな直哉に私の家族の事で手を煩わせるのはとても心苦しい。


 よし、まずは情報を集めよう。

 直哉は相談に来た私にいつも言っている言葉がある。

 それは問題を解決するには情報を多く集めることが重要だと。

 精度は悪くてもいい。とりあえず量をかき集めるのだと。

 何かを推測するにも判断するにも情報がないと何もできないから。


 そうなるとまずは賄賂を要求している人を調べないと。

 何故賄賂を欲しがっているのか、父さんの部下の人が言うようにどうして常識外の金額が必要なのか?


 調べなきゃいけないことは多いけど、今の私には魔法がある。

 父さんを助けるために頑張ろう。




 それからの私は毎日のように賄賂を要求している梨田という部長さんの後を付け回した。

 梨田さんの会社内の評判も集めてみたけど、いつもニコニコしている人で部下の人からもとても信頼されている。

 それに難しいお仕事もこなしてしまう、とても優秀な人というものだった。

 おかしな所はまるで無い、TVドラマに出てくるエリートサラリーマンみたい。


 でも後を付けていて気が付いたのだけど毎日通っている店がある。

 “少年期“というレンタルビデオショップ?(看板に書いてある)だった。

 梨田さんはここに入って夜遅くまで出てこない。


 本当なら店の中を見てみたいんだけど店の入り口が狭い上に、店に入る人も非常に少ないので、他の人と一緒に入るタイミングがなかなか無い。

 それにこの調査を始めてから、帰宅時間が遅くなる事が多くなった。

 そのせいか母さんが帰りが遅くなった言い訳を怪しみ始めているのもあって、時間をかけて調査する事も難しい。

 部活で遅くなったとか友人にアリバイ作りを協力してもらうにも限度があるし。

 どうしよう・・・。


 うーん、仕方がない!

 ちょっと大胆だけど梨田さんの後ろギリギリにくっつくようにして一緒に店に入ろう。

 女は度胸って母さんも言ってたしね。


 その日も梨田さんはスキップを踏むような歩き方で店の中に入っていく。

 魔法で姿を消した私はすかさずそのすぐ後ろをついて行き、一緒にお店の中に入ることに成功した。


 ほっとした私は店内を見回してみると、そこはまるで小さな旅館の受付のようになっていて、奥に続く通路には扉が並んでいる。

 梨田さんは、受付に座っているお爺さんに会員証らしきものを見せている。

 無表情なお爺さんから部屋番号を告げられた梨田さんは足早に店の奥に向かう。


 私も遅れないように一緒について行き梨田さんが入った部屋に一緒に入った。

 部屋に入った梨田さんは、用意されていたジャージのような服装に着替えて(着替えは除いてないからね!)、部屋の中央にあるかなり大きい椅子に座る。

 椅子の隣には病院にあるような点滴の設備が付いている。


 少しして部屋の中に女の人が入って来て梨田さんの左腕に点滴の針を刺す。そして右腕に持ってきていた注射器で何かを注射している。

 それが終わると女の人は部屋から出ていった。


 一体何なのだろう?私はそれを考えていたのだが・・・。

 それからの事は思い出したくない。

 父さんと同い年ぐらいの男の人がぼんやりとした表情で「ママ、ママ」と甘えるような声で呟いていたり、あの・・・その・・・、先程点滴をセットしていた女の人にシモの世話をされているシーンなど思い出したくないのだ。


 ただここで行われていることはとても異常で、注射されていたのは麻薬じゃないのかと思った。

 注射器からの連想で証拠なんてないんだけど。


 でももしそれが正しいのなら、ここは麻薬を楽しむためのお店ということになる。

 そうなると梨田さんはお仕事が終わった後、いつもこの店に来て麻薬を楽しんでいた事になる。

 でも麻薬ってとっても高かったはず。その支払いの為に賄賂が必要だった?


 私は梨田さんの世話に来た女の人が退室するのに合わせて部屋から出る。

 賄賂の原因は多分分かったけど、どうしよう。

 私は店の外に出る為のタイミングを店の入り口で図りながら考える。


 麻薬をやっていることをネタに賄賂の要求を取り消すよう脅迫する?

 でも証拠がないと開き直られちゃうとどうしようもない。

 先程の光景を動画で撮る事ができればいいんだけど、魔法を使っている間はスマホの電源が落ちてしまう。


 うーん、うーん。

 あ、そうだ!麻薬がどこで作られているかを調べて、警察に通報するのはどうだろう?

 麻薬が無くなれば賄賂の要求を梨田さんが取り消すかもしれない!


 よし!今度は麻薬がどこで作られているかを調べよう。

 でもどうやって・・・?


 麻薬はこのお店で使われるんだから、ここに持ってくる人がいるはず。

 その人の後を付ければ作っている場所が解る・・・!


 うん、これでいこう!

 今度の土曜日から店の周囲で張り込みだ!

 うーん、刑事ドラマみたいでドキドキする。

 そんなことを考えながらお店から無事に脱出できた私は家路に着いた。



 土曜日になって早速お店に向かったのだが、そんな私の思惑を見透かしたかのようにお店は無くなっていた。

 ネオンの消えた看板だけが残っており、入り口には「閉店しました」という張り紙だけが残っていた。




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