4_昔の俺
俺は動揺していた。
オリエンテーリングで公園中を走り回り、チェックポイントもなんとか半分はクリアできた。
昼頃になり腹も減ったところで昼食を済ませ、体力回復がてらに昼寝をした。
そこまではいい。
昼寝から目を覚ますと周りの人間から白いオーラが立ち上っているのが見える。
犬や猫など生きているもの達の小さな白いオーラも確認できる。
この見え方は非常に懐かしく俺の郷愁を誘うものではあったが、同時に動揺も招くものだった。
【妖精の瞳】
"昔"の俺が持っていた瞳。
長命種ではない、普通の人間である今の俺に持つことは出来ないはずの瞳。
現世だけではなく、幽世にあるものまで見えてしまう瞳。
幻想や幻影などを見破ってしまう瞳。
それがどうして今の俺の目に宿っている?
なぜだ。今までなかったものがどうして俺に宿ったんだ?
特別なことなど何もしていない。
原因は何だ?
まさか俺が"昔"そうだった長命種に変わってしまったのか?
俺の動揺した様子を見て、直哉と小笠原が大丈夫か?と声を掛けてくる。
問題ないと軽く手を振り、小笠原から手鏡を借りて自身の外見を確認する。
ふう、手鏡を見ると俺の外見は変わっていないようだ。
わかりやすい変化がないことを確認できたので動揺はかなり収まった。
長命種なんてものが現代日本で生きているなんてばれたら、えらいことになる。
人族の何倍も生きることができる人型生命体など研究所経由、ホルマリン漬け保存コースに乗るのは間違いないだろう。
そうなると俺が望んでいる平凡幸せコースから遠く離れることになる。
動揺が収まった俺は礼を言って小笠原に手鏡を返して、昼からのオリエンテーリングについて皆と話し合いを始めた。
なんなんだよ、これは!なぜこんなものがこの世界にあるんだよ!
チェックポイントを探して皆から少し離れて行動していた俺は、神社の山裾にある真っ黒なオーラを放つ洞窟の入口の前で絶望していた。
このオーラの浸食具合から見て、中にはレイス級のアンデットが潜んでいることは間違いない。
「ふざけんな!なんでこの世界にアンデットモンスターがいるんだよ!」
俺は頭を抱えながら吐き捨てる。
しかし頭を抱えようとも愚痴ろうとも、目の前にある洞窟から漏れ出るアンデットのオーラは消えてくれない。
俺の目に【妖精の瞳】が宿ったことで、見えていなかったものが見えるようになったことが原因で“それ”はどこにでもあったのだろうか?
「もう死人やデーモンの相手は勘弁してくれよ。俺はしっかりあんたに仕えたはずだぜ。こういう仕事は十分にしただろう?大地母神様」
俺は半泣きになりながら、つぶやく。
俺が"昔"にやっていたお仕事はアンデットたちを輪廻の輪に送り、デーモンどもを故郷に投げ返すことだった。
しかし俺がこの仕事に慣れることはなかった。
デーモンどもはまだいい。あいつらはただ強いだけで搦手にはめっぽう弱かった。
だが中位以上のアンデットは生前の妄執を抱えている。
あいつらは自らが滅ぶ時、そういった生前の妄執を交えた呪いの言葉を、送る者である俺たちに浴びせかけるのだ。
そして俺はそれを“すべて”覚えてしまっていた。
あれらの経験が"昔"の俺の人生に大きな影響を与えたことは間違いない。
他の神官は仕事として割り切っていたようだが、俺は自身にぶつけられた妄執を忘れることができなかった事もあり、結局最後まで割り切ることはできなかった。
それが長く大地母神様に仕えていながら、大して出世することもなかった理由だろう。
泣き言を言っても仕方がない。俺は気分を切り替えて現状について考える。
やはり最優先でレイス討伐を行う必要があるな。
レイスとは中級のアンデットだ。薄く透けた半実体で魔力が込められた武器か魔法じゃないと傷がつけられない。中級程度の魔法も扱うことができるなかなか強力な死霊だ。
また中級以上のアンデットは自身の能力で、人族の死体から下級のアンデットを作ることができた。だからアンデットが原因で村が滅ぶ話などざらにあったし、酷い時には小さな都市すら犠牲になることもあった。
その上あいつらは悪知恵も働くし、生者に対して憎しみを抱いている。
あいつらにとって、生者は良くておもちゃ。悪いと餌なのだ。
ところでこの世界でもアンデットがいるのであれば、それを処理する組織が必ずあるはずだ。
アンデットは存在しているだけで満足することはなく、生者に害をなそうとする。
また増殖する速度も早いためアンデットが存在しているのであれば、その処理をする組織が必ず必要なのだ。
できればこの仕事もその組織に譲りたいのだが、どこに連絡すればいいのかわからないし、ネットで検索しても出てこないだろう。
だからと言ってこのまま放置することもできない。
それは被害が拡大する最悪の一手だから。結局の所、俺が討伐するしかない。
今の俺でも中級アンデットであれば問題ないのが幸いなところだ。
このレイスが、この世界で最初で最後のアンデットでありますよう。俺はそんな無茶なことを大地母神様に祈りながらお仕事モードに入る。
洞窟を観察してみるとご丁寧にオリエンテーリングのチェックポイントの旗が立ててある。
どう考えてもオリエンテーリング参加者である同級生がターゲットだ。
その上、明かりに困らないようご丁寧にも松明完備ときた。
えらく芸の細かいモンスターだなあって、何でうちの学校の行事をモンスターが知ってるんだよ。
これは誰かが裏でアンデットを利用しているパターンだな。
だけどこういったように人族がアンデットを利用するって、大体が悲惨なことになるんだよなあ。
でもああいうやつらってなぜか知らんがネクロマンサーでもないのに、不思議とアンデットを完全にコントロールできると思ってるんだよなあ。
ほとんどの場合、逆に利用されアンデットの餌になっちまうことが大半なのに。
まあいい。とりあえず今は裏を考えても仕方がない。まずはレイスを討伐しよう。
さっと入ってパッと滅ぼして、洞窟清めてほかのメンバーと合流。
これでいこう。
俺は振り回すのに手ごろな木の棒を拾い、憂鬱な気分のまま松明で照らされた洞窟の奥へと進んでいった。




