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3_遊びましょう

Side:藤井 一道




 女子2人組のもとに駆け寄ると、2人は泣きながら抱き合って震えている。




「なんでここに着いちゃうのよ!」




 女子2人組の声が部屋に響く。俺たちが着いたのは、崩れた社がある一番奥にあるはずの部屋だった。




「ここってさっきの部屋だよな?」


「壊れた社があるから多分・・・」


「俺たちもしかしてここから出られないのか?」




 このまま閉じ込められて、一生ここから出られないという最悪の想像が頭の中をよぎる。




「そうだ、警察!警察に通報すればいいんだ!助けてくれって!」


「今日はスマホ持ち込み禁止だったけど持ってきている奴はいるか?」


「あっ、そうか・・・」


 提案した浜川が悔しそうに顔を歪めた。俺は皆を見るが誰も持ってきていないようだ。



「時計持っている奴はいるか?今の時間が知りたいんだ。もし17:00を過ぎれば俺たちがチェックシートを提出していないことに先生が気付くかもしれない。そうなれば警察に連絡してくれるかもしれないし、この洞窟まで探しに来てくれるかもしれない。」



 “かもしれない”ばかりだが皆を落ち込ませない方が優先だ。そのための俺の言葉だったが皆の顔に希望の色が戻った。それは良かったのだが、公園内に時計が設置されていたこともあってか誰も時計を持ってきてはいなかった。




 俺が言った事はあくまで希望でしかない。 今できる限りのことをしようと俺たちは外に出るためにいろいろと試し始めた。


 洞窟を何度も行き来すればそのうち出口に着くのではないか?


 ゲームのように隠し通路があるのではないか?


 どれぐらい時間が経っただろうか、洞窟内を探索していた俺達だが慣れない作業と移動により俺を含め皆の疲労が溜まっているようだ。


「少し動きすぎた、休憩にしよう」


 俺の言葉に各々が部屋の中で休憩を取り始める。俺も床に座り込みながら皆を見回した。



 何も話さなくなり、壁際で三角座りをして膝に顔を埋めている女子2人組。


 床に座って口を開け、呆然と壁を見つめている寺崎。


 胡坐をかいて座り小声で何かを呟いている浜川。


 そして腕を組み、警戒しながら何かを待っている様子の名取川さんだった。




「名取川さん、休まなくて平気かい?」


「問題ない、このぐらいのことで疲れるようなやわな鍛え方はしていない。それよりも現状について気にならないか?」


「もちろん気になるさ。誰が、なぜ、どういう理由で行っていることなのか?俺達をどうしたいのか、全く分からない」


「今回の件は洞窟入口にオリエンテーリングのチェックポイントの旗が立てられていたことから、誰かが計画的に起こしている事は間違いない。しかし私たちをこの部屋に誘い込むことが目的だとしたら、それにどういう意味がある?目的が私たちのこの部屋への到着であれば、目的が適っているのに何も起こらない。何も出ない。何も感じない。どういうことなのだ?」


 名取川さんは最後の方には俺にというより自分に対して問いかけるように呟いている。

 するとその言葉に応える様に聞き覚えのない女の声が部屋に響いた。



「それはね。わらわのお友達になってもらうためなのよ」


「なんだ、この声?おい、いたずらはやめろよ!」


 浜川が周りの女子を怒鳴りつける。


顔を上げた女子2人組はなんのことかわからず、浜川を見つめ呆然としている。


「さぁ、お友達になりましょう。いっぱい遊びましょう。いっぱい笑って満たされましょう。そしていっしょにたっしましょう」


 女の声は止まらない。


 皆の顔に恐怖の色が張り付いている。


 名取川さんだけが一人表情を変えず周囲を警戒している。


 皆が恐怖に震えていると、寺崎は我慢の限界だったのか大きな声で叫んだ。




「あんた誰なんだよ!隠れてないで出てこいよ!」




 その言葉に反応したのか、祠があった場所にスッと人影が現れた。




「お願いは聞いてあげたわ。こんにちは。さぁ、お友達になりましょう?」




 涼やかな目元と赤い目、赤い唇が目を引く、俺たちより少し年が上に見える美しい女だった。


 装いは平安時代の着物みたいで、日本史の教科書からそのまま出てきたかのようだ。




「さぁ、一緒に遊びましょう?いっぱい遊んでいっぱい笑うの。そのあと皆でお月見をしましょう」




 女の声はまるで歌うかのようだ。




「あなたが私たちを閉じ込めているの?友達になるからここから出して!」


「友達になればいいのね?なるからお家に帰して!」




 もう限界だったのだろう。女子2人組は口々に女に訴えかける。




「あらあら、お友達になってくれるのね?一緒に遊んでくれるのね?」




 女は花のような笑顔を浮かべながら、念を押すように女子2人組に問いかける。




「俺も友達になるからここから出してくれ!」


「俺もだ!友達になる!」




 寺崎や浜川も友達になることを承諾し、外に出してくれるよう懇願している。


 名取川さんは状況を黙って見ている。どうするべきか迷っているようだ。




 俺も女と友達になるから外に出してくれと懇願するため声を出そうとしたが、頭の中でサイレンが大音量で鳴り始めたため頭を抱えた。


 俺が他者と話す時に、自分が話そうとする内容が相手にとっての地雷であったり、口に出すことで俺が多大な不利益を被る場合、口に出す前に頭の中でサイレンが鳴るのだ。


 ヒロがご神託の一種じゃないかと言っていたのを思い出す。


 しかしここまで大音量でサイレンが鳴ったのはヒロと出会ったあの事件以来だ。


 これは「友達になる」と言葉を絶対に口にしてはいけないということか?


 俺は女へ話しかけることを諦め、名取川さんと同じく状況を見守るしかなかった。






「あらあら、こんなにいっぱいお友達が増えるなんて嬉しいわ。さぁ、何をして遊びましょうか?」


「えーと、遊ぶにしてもここには何もないです。外に出て遊びませんか?」




 寺崎はよほど外に出たいのか外で遊ぶことを提案している。




「それじゃあ、お花見をしましょう。とってもきれいなお花を皆で見るの!」


「それはいいですね。すぐに外に出ましょう!」


「お外に出なくてもお花見はできるわ」


「でもここには花がありませんよ?外に出れば花はいっぱいあります」


「ううん、お花はここにあるでしょう?」




 そういって女は寺崎の胸に手をあてると、寺崎の胸から赤い花が噴き出すのが見えた。


 絶叫する寺崎の声が部屋に響く。


 違う。


 あれは花じゃない。


 血だ!血液が花の形に見えるよう寺崎の胸から噴き出しているのだ!




「ほうら、とっても綺麗なお花が咲いたわ。皆も一緒にお花見をしましょう?」




 女は自らにかかる血を気にもせず、陶酔した表情で寺崎から噴き出る赤い液体を見つめている。




「たかまがはらにかむづまります


 アマテラスオオミカミ


 さずけられし3しゅのみたから


 けんをもちいててきをうちたち


 かがみをみてはやまとのくにをみ


 まがたまをもちいてはけがれをうちはらわん


 はらいたまへきよめたまえ


 かしこみかしこみもうす」




 女子の声が聞こえる。この声は名取川さんか!




大祓(おおはらえ)!」




 名取川さんの胸元から打ち出された複数の光の玉が、寺崎の血で染まった女に当たり爆発するのが見えた。














 Side:名取川 静菜



 失敗した!


 神具が手元にない為に観察するしか方法がなかったとはいえ、和魂か荒魂の判断が遅れてしまった。


 和魂を荒魂に変えてしまう愚行を避けるためだがこれは大きな失敗だ。


 そのせいで寺崎君が犠牲になってしまった。


 あの出血量を癒す術を私は持っていない。助けることは難しいだろう。




 不幸中の幸いだが、あの女は不意打ちの「大祓」で祓うことができた。


 神具がない状態であれだけの出力が出せたのは、腹立たしいが両親のスパルタ教育のおかげだ。


 しかしこれで終わったとはとは限らない。


 この洞窟の入口前にあった旗や洞窟内の松明などから黒幕がいることは間違いないのだから、他に敵がいる可能性も十分にあるのだ。


 ここから早急に脱出する必要がある。




「みんな!早くここから出るぞ」


「寺崎はどうすんだよ!」


「あなたたちまで寺崎君のようになりたいのか?他に化け物がいないとは限らないのだぞ」


「でも洞窟から出られないじゃない!」


「あいつを倒したことでここを封じていた結界が切れたはずだ。おそらく出ることができる」




 私のその言葉で皆は走って部屋の出口に向かい始める。




「あらあら、お友達になれたのにもう行ってしまうの?」




 緊迫した空気に似合わない童女のように歌うような声。女の周りに丸く赤い鏡のようなものが、7つ浮いているのが見える。




「だめよ。お友達になったのだから、おねむになるまでわらわと遊んでね?」




 そこの男の子みたいにと、部屋の出口を塞ぐようにして立つ女は哂った。



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