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2_オリエンテーリング

 オリエンテーリング大会当日、俺はいつもの制服ではなくジャージで集合場所である嵐川公園に向かった。

 嵐川公園は小さな山の上にある嵐川神社を中心に作られた公園で、他にも遊具やため池を利用した釣り堀、テニスコートなどが設置されている。また神社に付属している公園のためか、社も公園内に多く点在している。


 集合場所に着くとジャージ姿の同級生達が集まって来ていて、少し外れたところで俺たちのグループがいるのが見えた。俺が一番遅かったようでほかのメンバーは全員来ているようだ。


 さて本日のオリエンテーリング大会の内容なのだが、

 ・公園に設置されているチェックポイントを探し、そこで出される課題を解いてチェックシートにクリア印をもらう。チェックポイントには旗が立ててあるので目印にするように。

 ・チェックポイントを回り、クリア印を全部集めて大会本部に提出すれば終了。

 ・制限時間は17:00まで。

 ・すべてのチェックポイントが回れなかった場合は、終了時点のチェックシートを提出し終了とする。

 ・スマホ、携帯の持ち込みは禁止とする。

 という、公園内を走り回って探せと言わんばかりの内容でかなりハードなものだ。

 妨害はないということなのでそこだけは救われているのだろうか。


 俺は大会本部から大会当日に配布された資料を皆に配り、前日にもらっていた資料とあわせて見ながら言う。


「おいおい、チェックポイントが20か所とか何の冗談だ。今日中に終わるのか、これ?

 その上スマホ持ち込み禁止ときた。くそっ、これがなければ情報共有できてすぐに終わったのに」


 これは難易度ハードではなくベリーハードだな。嵐川公園はかなり大きな公園だ。その大きい公園の中から7時間程度で20か所のチェックポイントを全部探し、その上で課題をクリアしろというのは、かなりの無茶だろう。


「これは全部クリアしろって言うことじゃなくて、適当にやってだめなら行事終了時間の17:00まで遊んでろって事じゃないの?」

「いや、さすがにそれはないんじゃないかな。どこまで集中して行動できるかを見ているのかも」


 資料を振りまわしながらいら立ったように吐き捨てる小笠原とそれを宥める様に直哉が返している。


「とりあえず全クリアを目指そうぜ。この行事の結果も成績に反映されるらしいからな」


 どうやってこの行事から成績を決めているのかはわからない。しかし判断基準がわからないため、結果次第でいきなり赤点判定されて補習という可能性もないとは言えない。やるしかないのだ。


 俺たちは大まかに移動目標を決め、なぜ高偏差値の進学校でこんな行事があるのか議論を交わしながら公園内部に向けて出発した。








 Side:?????

 わらわは暗い部屋の中にいる。

 部屋から出ることができないことがわかっていながら周辺を見渡す。

 なんども部屋から出ようとするも部屋の扉は丈夫で壊れる様子がない。


 なぜわらわはここに一人なのか?なぜ他に人がいないのか?

 わらわは人の温かみが懐かしい。

 わらわはいつも人々の中にいて、皆と遊んでいた。

 遊んでいるときは皆の歓声が聞こえ、いつも楽しかった。

 そして遊びの結果はいつもわらわを満たし、達することができた。

 しかしここにはそれがない。皆がいない。

 静かで寒く寂しい。


 外の様子を見聞きする術を身に着けてからは、外を学ぶという新しい娯楽もあったので多少の無聊も慰められたが、やはり人の温かみが伴わないと寒々しく感じるものだ。


 変わらない時間がまだ続くのかと震えながらため息をついていると、部屋の扉が開き始め光が差し込んでくるのが見えた。


 あの光は外の光なのか?皆に合うことができるのか?

 またあの楽しい時間が始まるのかと思うとわらわは・・・。





 Side:藤井 一道

「かず君ってさぁ、なんであんなキモイ陰キャのこと気にしてんのぉ?」

「そうだよねぇ、かず君はサッカー部期待の新人なんだから釣り合ってないっていうかぁ。比較するの間違ってる?」

「ウケるぅ」


 チェックポイントをいくつかクリアし、順調にオリエンテーリングは進んでいる。次のポイントを探している最中、同じグループの女子2人組が俺に話しかけてきた。


「もしかして陰キャって氷上のことかな?」

「えっと、そんな名前だったっけ?」

「なんかぁ、そんなのだったぁ」

「ウケる。名前も覚えてないとか」

「あんたもおぼえてないじゃん」

「だってあいつキモイし」


 女子2人組がするヒロの評価が聞こえる。湧き上がるいら立ちを表に出さないよう返答するのは努力が必要だった。


「口数は多くないが良い奴なんだ。俺は何度も助けられていてね」

「ふーん、そうなんだぁ、名取川さんはあいつのこと知ってる?」

「いや、彼と話しをしたことはない。だからよくわからない」


 遠くを眺めてチェックポイント探しをしていた3人目の女子である名取川さんが短く答える。


 名取川さんはグループ作りの際、女子2人組が連れてきた子だ。彼女は表現が難しいのだが少し変わっている。


 ほとんど話をしたことがないので性格はよくわからないが、こういったイベントでも手を抜かずにチェックポイントを探しているところを見ると、真面目な性格なのだろう。


 普段は化粧をごってりと塗りギャル風のメイクをしているのだが、今日はひどく汗をかくことがわかっていたのだろう、メイクはしていないようだ。いつも着ている制服は今時のギャルのように着崩していて、スカートもかなり短いものを穿いている。このように彼女の普段の服装やメイクは雑誌で見るような派手な今風の女子高生そのものだ。


 ノーメイクの今日の方がいつもの厚化粧より圧倒的に綺麗なのはどういうことなのだろうか?普段のメイクの意味が全くわからない。そして素顔の彼女は大きな黒い瞳に非常に整った顔立ちで、ストレートな黒髪を腰まで伸ばしている。体形はスマートなモデルのようで、すらっと伸びた長い脚が特徴的だ。その姿は可愛いというより美しいという言葉が似合う。


 そう彼女の素顔はいつものメイクやファッションと全く合っていないのだ。話したのも今日が初めてだが基本、物静かで非常に硬い喋り方をする。それに加えて彼女自身のすべての所作が非常に上品だ。そう日頃の彼女は着物がよく似合いそうな上品で美しい女性が、今風のメイクやギャルファッションに身を包んで行動しているといえば近いのではないだろうか?ずれているというか違和感がすごいというか・・・。


 そのためなのかクラスでも浮いている存在だ。いつも一人でいるイメージがあった。そんな浮いた存在にも声を掛けるような女子2人組だったのでいい子達だと思っていたのだが、浮いている子をグループに入れてあげる私たち優しい!アピールだったようだ。


 そんなことを考えているとグループメンバーの浜川がチェックポイントを見つけたと声をあげているのが聞こえた。


「さぁ、見つかったようだから行こうか」


 俺は女子3人に声を掛け、浜川がいると思われる方へ歩き出した。





「おいおい、本当にここなのか?」


 俺は神社が建っている小さな山の裾野にある洞窟を指さしながら聞いた。


「入口にチェックポイントを表す旗があるぜ。それに明かりはついているよ。」

「今時松明ってなんだよ。火事とか大丈夫なのか?」

「大丈夫だって、多分せんせーがいるんでしょ?それより早く入ろうよ。遊園地のアトラクションみたいでなんかドキドキするぅ。」


 女子2人組が大きな声で騒ぎながら洞窟に入っていく。引き止めることができなかった俺たちは彼女達を追い、洞窟に入るしかなかった。



 5分ほど入り組んだ一本道の洞窟を歩いていると一番奥にたどり着いた。

 奥には教室2つ分ぐらいの大きさの部屋があり、壁には途中の洞窟と同じく松明が設置されていて視界に問題はない。

 そして部屋の中央には崩れかけの小さな社が建っていた。


「なに、この汚いの。」

「せんせーもいないねぇ。ここじゃないんだぁ。」


 女子2人が不満げに声を漏らす。

 浜川と寺崎、名取川さんは課題の紙などが落ちていないかを探しているようだが、特に何もなさそうだ。


 俺はこの部屋について考えていた。ここはどう見ても自然の洞窟でありわざわざ学校がオリエンテーリングのために用意した場所ではない。入口にはチェックポイントを表す旗があり、壁に松明を並べてまるで奥に誘導するかのようだが中には誰もいないし、普通ならチェックポイントに設置されているであろう机や椅子が一つもない。どう考えてもおかしな場所だ。


 他の皆も状況の不気味さを理解したのかここはヤバいのではないか?と口々に言いだしたと同時に、中央にある社が埃を舞い上げながら崩れ落ちた。小さな悲鳴が上がり、皆の表情が怯え一色に染まる。


「すぐに出よう。ここは何かおかしい。」

 俺の声に反応して、皆はすぐに出口へと歩き出した。





「この道ってこんなに長かったっけ?」

 寺崎が確認するかのように声を上げる。


 たしかにもう10分は歩いているような気がする。それなのに外の光も見えず洞窟は続いている。まるで俺たちを洞窟の外に出すことを拒否しているかのようだ。


「迷ったってことはないよね?」

「来た時はずっと1本道だったじゃん。」

「そうだよね、脇道なんてなかったもんね。」


 女子2人組が恐怖をごまかすかのように確認しあっている。


「とりあえず進むしかない。洞窟の中ということで体感時間が狂っているかもしれないからな。」


 俺は皆を落ち着かせるように順番に顔を見る。今はパニックを避けるのが重要だ。あれ?名取川さんの様子がおかしい。恐怖しているのかと思ったがそうではなく、困惑しているようだった。


「名取川さん。どうかしたの?」


「いや、その、なんというか・・・。こういう場合によくあるそれらしい匂いというか空気というか・・・。説明は難しいのだが、この現状に違和感があるのだ。」


「違和感・・・。」

 彼女の言っている意味がよくわからない。恐怖や不気味さではなく違和感?何のことだ?


「すまない。うまく説明できない、忘れてくれ。」

 とそう彼女が返したときに、一番前を進んでいた女子2人組の恐怖にかられた声が洞窟に響き渡った。


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