1_教室にて
むかしむかし、若く美しいお姫様がおりました。
お姫様はとても優しく、そして皆に愛されていました
ある時、近くの山に住む悪い鬼がお姫様の噂を聞きつけました。
鬼は噂に聞く美しいお姫様が欲しくなり、お姫様を攫ってしまいました。
お姫様の両親は嘆き悲しみ、鬼を討伐しお姫様を助けることができればお姫様を嫁にしていいとお触れを出しました。
お触れを聞いて勇敢な若者が何人も鬼退治に出かけましたが、誰も帰って来ませんでした。
しばらくして徳の高い都のお坊様がこの地を訪れ、霊験あらたかな御経で悪い鬼を退治しました。
お坊様はお姫様を探したのですが、鬼に食べられてしまったのかその姿はどこにもありませんでした。お坊様がお姫様の冥福を祈っていると鳥が一斉に飛び立ちました。それはまるでお姫様を天に送るかのような光景でした。このお姫様の名前は、千鳥姫(ちどりひめ)と伝わっています。
晴れ渡った晴天の中、気分良く登校した俺が教室に着いたのは、朝の8時を少し回ったところだった。
昨日は遅くまで映画を見ていたのであまり眠れていない。その上隣家の犬が朝からうるさかったので今日は早くに目が覚めてしまった。
授業までまだ時間がある。あくびをしながらもうひと眠りしようとかと寝る準備をしていると、苦笑含みの声をかけられた。
「おいおいヒロ、学校に来て1番にやることが寝ることなのか?」
こいつは藤井 一道(ふじい かずみち)。
サッカー部のイケメンの時点で俺とかかわりあいになる要素がないのだが同じ中学の誼もあるのか、俺のような人間にも声をかけてくれる優しい奴だ。また俺の“昔”を知る数少ない貴重な友人でもある。
「氷上はよく寝る健康優良児だな」
そう言って笑うのは藤井と同じサッカー部の浜川だ。
「まぁこいつの食う量を見ると健康優良児には違いない」
浜川の発言に乗っかるのは、こいつもサッカー部の寺崎だ。
この3人はサッカー部1年のイケメントリオとして有名で、いつも一緒にいる。
俺は一時期、イケナイ関係なのではないかと勘繰ったことがあるぐらいに仲がいい。
藤井だけならともかくリア充イケメントリオのご登場というのは、俺にとってつらい状況だ。
「昨日寝たのが遅くてな。その上いつもより早くに目が覚めちまった。足りない睡眠の補充が必要なのだ」
あぁ、眠気のせいでテンションが上がらん。やはり追加の睡眠が必要だな。
「せっかく早く登校したのに寝てしまうのか?誰かに話しかけるなりすればいいのに」
藤井からありがたくも尊い提案がでてくるが、そのようなスキルはリア充だけが持っているものであり俺のような口下手陰キャは持っていないし、今後も取得できないだろう。
「気が向いたらな」
俺は言葉少なにそう言って机の上に覆いかぶさり眠り始めた。
その日最後の授業が終わり、終礼が始まった。担任教師の声が教室に響く。
「よーし、来週のオリエンテーリングの班を決めるぞ!5、6人のグループを組め!」
友人の少ない俺は、さてどうしたものかと考えていると藤井が声を掛けてきた。
「ヒロ、グループは決まったのか?」
「いいや、まだ決めてないな。」
「それなら俺と一緒のグループに入らないか?」
藤井の背後には、イケメントリオの2人とギャル3人がいる。
あのようなリア充オーラ漂う所で1日を過ごすということは、俺のような陰キャには非常につらいものになるだろう。
ありがたいお誘いではあるが、ここは断りの一手だ。
「もう6人いるだろう。俺が入ると人数オーバーするじゃないか。」
「1人ぐらい多くても大丈夫だよ。気にすることはないさ。」
いや、俺が気にする。というかこのリア充オーラは俺にとって毒と同じだ。
ひきつった笑いを顔に浮かべながら1日を過ごす光景が容易に想像できる。
「悪いな。組もうと思っているやつらがいるのでそちらに入る予定だ。」
「そっか、それは残念。もしそちらがだめだったら声を掛けてくれよな。」
爽やかな空気を残しながら藤井は俺から離れていく。
なぜ俺のような人間にここまで優しくしてくれるのかがいまいちわからないのだが、非常に良い奴なのは間違いないし、孤立気味の俺を心配してくれているのは伝わってくる。
だからこそ関係をなくすような事はしたくないのだが、あのリア充空間は俺には荷が重すぎるのだ。
藤井には先約があると言ってしまった手前、数少ない友人に声を掛けグループに入れてもらう必要が出てきた俺は、その数少ない当てを探すため辺りを見回した。
「よう直哉。グループは決まったか?」
俺が声を掛けたのは、俺の数少ない友人である加賀谷 直哉(かがや なおや)だった。
「いや、まだだよ。真姫と今その話をしていたところなのだ。」
直哉は俺の読書仲間だ。入学直後に俺が読みたいと思っていた稀少なオカルト本を読んでおり、内容を知りたかった俺が思い切って話しかけたのが友人になるきっかけだった。
俺はオカルト本専門なのだが、直哉は活字であればそれこそ何でもいいという活字中毒だ。
そのせいなのか中間試験の成績で学年TOP3に入っていたぐらい頭がいい。
てっきり図書部に入ると思っていたのだが、何が心の琴線に触れたのかはわからんが考古部という活動内容不明の部活に所属している。
顔も整っているのだが、非常に童顔で中学生に間違われることも多く、ひどい時には小学生に間違われたとぼやいていた。
そういった外見だからか先輩のお姉様方には年の離れた後輩のように見えるらしく、猫可愛がりされている場面を何度か見たことがある。
そういう光景を見ると俺の心の中の非モテが「藁人形一本いっとくか?」と誘惑してくるのだが、性格は非常に温厚で他人に優しい。非常に気持ちのいい奴なのだ。だからオカルト本に付録で付いてきた藁人形は自宅の机の引き出しの中で眠ったままである。
「あんた、藤井に声掛けられてなかったっけ。断ったの?」
そう聞いてきたのが、小笠原 真姫(おがさわら まひめ)だ。
長身の美人で高校一年生らしからぬ、めりはりのあるスタイルをしている。
小笠原は直哉の幼馴染で、勝気ではあるがさっぱりした性格をしており一年生であるのにもかかわらず弓道部のエースということもあってか非常にモテる。
頻繁に告られているのを見かけるが、すべて断っておりいつも直哉の隣に居たがっている。
そういったこともあり直哉に対する感情はバレバレなのだが、2人は正式に付き合っているという訳ではないようだ。
彼女は女性を苦手とする俺が気楽に会話できる数少ない相手だ。
何故気軽に話せるのかは自分でもわからないが、男友達のように話せるので助かる。
しかしこの2人の間に俺が入ると直哉は小笠原より俺と話しをしたがる傾向があるので、2人の仲を応援する俺としてはなるべくこのグループに入るのは避けたかったが今回は仕方がない。
小笠原、許してくれ。
「あのリア充空間で1日を過ごす事は俺には無理だ。どうか助けると思ってお前達のグループに入れてくれないか?」
俺がそう頭を下げると、直哉と小笠原は顔を見合わせて笑った。
「確かに藤井君のグループだと、ヒロには居心地悪いだろうね。」
「あんたのような目つきの悪い非モテ口下手陰キャにはつらいかもねぇ。優しく美しいお姉さんであるあたしがグループに入ることを許可してあげよう。ほらほら感謝するように。」
「ボロカスに言ってくれるじゃねーか。パンチ効きすぎだぞ。それに美しいはともかく、優しい?」
「何?なんか文句でもあんの?」
冷たい声で小笠原が詰め寄ってくる。
美人にすごまれると迫力が凄くてビビってしまうのでごめんなさい。許してください。
「いえ、なにもございません、美しく優しいお姉様。ご許可いただきありがとうございます。」
「うむ、よろしい。でもあんたちょっとストレートすぎるでしょう。美しいはともかくって私が綺麗だって認めているじゃん。私に惚れた?」
小笠原がニヤニヤと笑いながら俺にすり寄ってくる。
「いや、惚れてないから。」
「反応はやっ。」
「けど小笠原が美人なのは事実だぞ?」
「はぁ、その言葉を直君が言ってくれたら・・・。」
直哉に聞こえないように小笠原がぶつぶつとつぶやき、俺はそれを聞いて肩をすくめる。
そんな俺たちのじゃれあいを見ながら、直哉が微笑んでいる。
それがいつもの俺たちだった。
直哉と小笠原の関係は友達以上恋人未満のようだ。
小笠原曰く中学からこの関係のままで、なかなか前に進めないと愚痴っていた。
直哉も小笠原のことを憎からず思っているのは傍から見てわかるのだが、なぜ関係が進まないのかはよくわからん。
まぁ小笠原の性格上このままということはないだろうし、俺は2人の仲を応援するだけなのだが。
グループ作りの時間が終わり、結局俺たち3人以外には弓道部の女子1名と読書部の男子1名が加わり5人体制になった。
グループのリーダーは直哉、副リーダーに小笠原となり雑用係に俺が任命されてしまった。
グループ内で出たゴミの回収と本番で使用する資料を受け取ったりする程度の仕事量なのでつらい仕事という訳ではない。
俺は雑用係を受け入れた。




