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47_真面目過ぎた男達

 Side:斎藤 実紀夫


「なあ、不味くないか?」


「なにがだよ」


「わかってんだろう?このままじゃあ借金取りに売られちまうかもしれないって」


 ヤスの言葉に俺は黙り込む。

 確かに今の俺達チームの評価は急降下しているはずだ。

 ここ2週間、部屋作り作業に従事しているが、一度も合格を貰うことができずずっと作り直している。


 管理者は気にすることはない、よくある事だと言っているが、その言葉を何時までも信じて良い訳ではないだろう。


「でもどうするんだよ。まさか逃げる気か?」


「いいや、その気はないよ。だけどこのままじゃあ、ジリ貧だぜ。だからさ、合否の判断をしている現場を覗いて見ないか?」


「今から作業場に行く気か?見つかったらただじゃ済まないぞ」


「そんな事は解ってる。でも合否判定の現場で話している内容がわかれば部屋作りの回答が解るかも知れないんだ」


 ヤスの提案は部屋の合否を判断している人物を確認、かつ話している内容から原因を探ってみようというものだった。

 確かに情報が全くないまま部屋作りを続けても、良い結果は出ないのかもしれない。

 ただ夜間に労働者が各自の部屋から外に出ることは重大なルール違反であり、そのつもりは無くても脱走として処理すると初めに説明されている。

 それを考えるとリスキーなヤスの提案には乗ることは出来ない。


「ヤス、落ち着いてくれ。まだ管理者は俺達を責めるような言動をしていない。猶予はあるんだ。でも脱走まがいの行動をして見つかったら言い訳の余地もなくアウトだ。監視も甘いものじゃないしな。だから今は仕事に集中しよう。うん、そうだな・・・。監視体制だけ確認していくことにしないか?監視カメラの場所とかさ。ヤバい雰囲気になってから行動しても遅くないはずだ」


 少しの間考えていたヤスだが、俺の言葉に頭が冷えたのか頷きはじめる。


「ちょっと焦っていたかもしれない。だがヤバいと思ったら早めに行動した方がいいぜ。それほど時間があるようには思えないからな」


 ヤスは顔色を悪くして俺に言う。

 借金取りに身柄を引き渡されることを相当恐れているようだ。

 だが今の俺達には出来ることを全力でやるしかないと思う。


 俺達は明日の仕事に備える為に早めに寝る事にする。

 そう、まだ大丈夫のはずだ。

 余計な事は考えずに目の前の仕事に集中しよう。





「不味いぞ、シライシが管理者から仕事の内容について詰められたらしい」


「落ち着けよ。奴は最近ミスが多かったからな。詰められた理由もそれだろう」


「何を呑気なことを言ってるんだ。もうかなりの期間、不合格が続いているんだぞ。」


 そう、あれから一月が過ぎたにもかかわらず、合格が出なかった。俺達に対してまだまだ大丈夫だと言う管理者の表情も、曇りがちな事にも気が付いていた。


「状況が良くないのはわかってるよ。だけどまだ大丈夫だよ。もしも本当にヤバいのなら、毎日のように管理者から詰められると言ったのはお前じゃないか」


 ヤスは苛ついたように歩き廻りながら声を荒げる。


「ああ!ああ!確かにそうは言ったよ。だけどな、俺は絶対に引き渡されたくないんだ!引き渡されるぐらいなら死んだ方がマシだ!」


 ヤスが言うには、組の金に手をつけてしまい逃げ回っていたのだが、捕まりそうになったのでここに逃げ込んだらしい。


「組の金に手をつけたら、見せしめとしてまともな死に方もさせてもらえない。俺はあんな風に死にたくない!どうせ死ぬなら人間として死にたいんだ!」


 ヤスの言葉通りだと相当酷い事になる様だ。


 俺としては引き渡される事自体は構わないが、ここから追い出されるのは非常に困る。

 まだまだ借金は残っているのだ。


「・・・監視カメラの確認は終わってるよな?」


 俺の言葉にヤスは力強く頷いた。


「ああ、外は監視カメラだらけだけど、建物の中は比較的数が少ない。作業場にはカメラが無いことも確認済だ」


 俺達は顔を合わせて頷き合い、作業場に向かう準備を始めた。




 作業場に向かう坑道は電灯がつけっぱなしになっていて、持ってきた懐中電灯を使う必要は無かった。

 俺達は昼間に自分たちが作った部屋の近くにある自然の洞窟に身を隠す。

 坑道を掘っている時にこの洞窟とつながったのだが、危険な為立ち入りは禁止となり資材置き場になっている。

 電灯も設置されていないから、身を隠すにはちょうどいい場所だ。


 部屋の合否については毎日発表されているので、必ず夜の間に合否判定の場が開かれるはずだ。

 俺達は無言で部屋作りの為に用意されている材料の袋が詰まれている場所の影に隠れ、ただその時を待った。


 2時間ほど暗闇の中で待っていると、坑道の入口の方から人の声がこちらに近づいてきた。

 5,6人の集団のようで管理者の声が混じっているのが聞こえる。

 おそらくこれから合否判定の場が開かれるのだろう。


 俺達は緊張しながら必死に聞き耳を立てる。

 ここで得られる情報で今の苦境を脱するのだ。


「こちらになります。本日こそはご要望にお応えできるはずです」


「そうカ。巣の規模も大きくなったノデ、焦る必要はなイとあのお方から言イ付カっている。今後はスワケの為ニも、数デはなく高品質ナものが欲シい。良きモノであることを期待すル」


 管理者と話している声のイントネーションが少し変わっている。外国人か?

 だがこちらに向かってきた姿を見て、俺達は体を硬直させた。


「なんだあれは・・・」


「・・・蜂女?」


 部屋の中に入ってきたのは、ヤスが言ったようにまるで蜂の特徴を持つ人間の女のように見えた。

 黄色と黒のストライプの肌が強い警戒色のように見える。


 俺達の驚愕をよそに、奴らは昼に俺達が作った部屋の評価を始める。

 蜂女は部屋の壁の感触やにおいなどを確認していたが、出来栄えに満足したようだ。


「フむ。確かに今まデで一番いい。今回ハこれでヨイ。だが今後はモっとよいものを希望する。スワケはお主らにとっても必要でアロウ?」


「はい!現状、我々の商品は需要に対して供給が全く足りておりません。その為にも“すわけ”にご協力できればと考えております。それにこれを作った者達は真面目で仕事熱心な者達ですので、今後もご要望にお応えできるものと確信しております」


 なんだか変な心境だ。

 仕事を褒められるのは嬉しいが、相手が化け物とくれば素直に喜べない。

 ヤスの顔を見ると複雑そうな顔をしていた。


 だがそんなヤスの後ろにいきなり人影が現れ、ヤスの肩を掴む。

 ヤスは驚いて暴れる様に振り払おうとするが、相手の力が強いらしく顔を歪めながら膝をついた。

 俺はそれを見て後退るが、同じように肩を掴まれる。掴んだ相手を見るとそれは目の前にいた化け物と同じ蜂女だった。


 蜂女は甲高い悲鳴のような声を上げると、部屋の評価をしていた蜂女が管理者を連れてこちらにやって来た。

 管理者は俺達の顔を見ると困ったような顔になった。


「ミキさんとヤスさんですか・・・。困ったことをしてくれましたね。夜間の外出は重大なルール違反であることは伝えていたはずです」


「…あんたがシライシを詰めたから、もう余裕はないと思ったんだよ。合格するためにどんな話をしているか聞きたかったんだ」


 管理者の言葉に俺が答える。


「最近のシライシさんはミスが頻発していました。だから注意したのですよ。それにチームの他の人には問題はないと言っていたはずですよ。貴方方は真面目に仕事をしていることは知っていましたから」


 管理者は憐れむような表情で俺達を見ながら話す。

 その言葉を聞いて、ヤスは暴れようとするがいきなり動きを止める。

 蜂女に何かされたようだ。


「ミキさんは暴れないでくださいね。乱暴なことはしたくないんです」


「俺達をどうするつもりだ?」


「わかっているのでしょう?貴方達は絶対に知ってはいけないことを知ってしまったのですよ。そうなれば、ねえ」


 管理者は心底つらそうな表情を浮かべ溜息を吐いた。


「貴方方は塵共の中でも珍しく真面目でしたから、今後に期待していたのですがね。しかし真面目過ぎるのもまた問題になるとは・・・。人を使う事は難しいですね」


 ヤバい、殺される。

 俺は逃げようとするが、化け物に肩を掴まれている為逃げられない。


「本当に困ったことをしてくれる。私の査定が下るじゃないですか」


 お前の査定など知った事か!

 俺は右手に持っていた懐中電灯をつけて俺の肩を掴んでいた蜂女に向ける。

 化け物はいきなりの強烈な光に驚いたのか、俺の肩から手を離したので化け物を突き倒す。そして近くに積んであった材料の袋を目の前にいた管理者と蜂女に投げつけてから、洞窟の奥に向かって駆け出す。


 後ろを振り返ると化け物たちがこちらに向かってくるのが見える。

 俺は懐中電灯を片手に持ち、何故か持ったままだった材料を腕に抱えて暗い洞窟の中を走り続けるが、ふっと目の前の光景が真っ暗になる。

 俺は洞窟にある割れ目から落ちたようだ。

 両手に握っていた物を反射的に抱きしめて、俺は落ちていく。

 俺が最後に思った事は、美穂の卒業を一緒に祝ってやれなかったことだった。





「今日のニュースです。三原川で男性の遺体が見つかりました。遺体の身元は住所不定無職の斎藤 実紀夫さん、43歳と分かりました。警察は死因を調査中とのことです。発見したのは近くの中学生で・・・」




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