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46_夢の中の知らない自分

 Side:加賀谷 直哉


「どうしたの、真姫?」


 僕の話に反射的に相槌を打っていた彼女は、はっとした顔をして僕の顔を見てぎこちなく笑う。


 僕達は久しぶりに一緒に下校している。

 最近は僕も真姫も部活が忙しく、なかなか一緒に帰る事が出来なかったけど、今日は弓道部も考古部も偶々休みだったので久しぶりに一緒に帰宅しているのだ。

 いつも一緒に下校しているヒロも気を利かせたのか、静菜ちゃんと一緒に帰るからと言って僕達と別れた。


 でもここ最近の彼女は様子がおかしい。

 僕が話しかけても、彼女が別の事を考えていて上の空なのだ。


 いつものように明るく笑うことがめっきり少なくなり、何か考えごとをしているようにぼうっとしていることが多くなった。


「えっと、何の話だっけ?」


「来週のテストの話」


「え!もうテストなの?!」


 僕の言葉にびっくりしたような表情の彼女。


「そうだよ。あんまり成績が悪いと留年しちゃうよ。ウチの学校はその辺、厳しいんだから」


「ううう、なお君・・・。助けて・・・」


 嘘泣き顔をして幼かった頃の呼び方で僕に助けを求める真姫。


「まったく、しょうがないな・・・。でも本当にどうしたの?最近様子が変だよ?」


 彼女は嘘泣き顔から急に真剣な表情になり、下を向く。


「ねえ、おかしな夢を見る事ってない?」


「おかしな夢?」


「うん。夢の中の自分が私じゃないの。鏡や水面に映っている姿が別人なの。声も私じゃない。でもそれが何故か自分だって解るの」


 ずいぶんと変わった夢だが。変身願望の発露か何かだろうか?


「そういう夢は見たことはないなあ。僕は夢を見ない方だし、見たとしても目が覚めると内容をほとんど忘れてしまうから」


「そう・・・だよね。私も元々夢はあまり見なかった。でも最近毎日のように夢を見る様になって、そこで見る夢は姿や声が違う自分がいるの。そして・・・」


 彼女はそこで言葉を切る。


「そして?」


「あ。えっと、その。やっぱりいい。これは勘違いだと思うから」


 僕の言葉に彼女は顔を慌てた様だったが、誤魔化す様に言葉を続けた。


「それになんだか気になるの」


「気になる?」


「うん、何かは解らないんだけど何か大切なことを忘れているような。何かが違っているような・・・。うまく説明できないんだけど」


 彼女はうまく説明できないことがもどかしいのだろう、必死に考えているようだ。


「あまり考えすぎない方がいいよ。それにもう少し僕を頼ってくれると嬉しいかな」


 僕の言葉に彼女は顔を少し赤くした。


「うん、何かわかったら相談する。ありがと」


 そこからはいつもの真姫に戻ったようで、今度のテストの事や試験明けにどこに遊びに行くか等、いつものような会話を続けながら僕達は家路に着いた。





 Side:斎藤 実紀夫


 ここに来てもう3ヵ月になる。

 初日に借金返済までの期間を伝えられたが、俺の場合は6年と2ヶ月だと言われた。

 俺の5億の借金がたった6年と少しで完済されると言うのだ。

 諦めていた家族団欒を取り戻せるのだ!


 6年と言えば俺がここを出るときには、美穂は大学生を卒業する時期だろうか。

 大学卒業祝いを家族全員でできるかもしれない事は、俺のモチベーションになった。



 日々の仕事はおっさんの言った通り、本当にきつい。

 どこそこで怪我人が出たやら、死人が出たやら噂を聞くことは少なくない。

 だがそんなリスクは承知の上だし、日々の衣食住はきっちりと配給されているのでなんとか毎日の仕事をこなしている。

 生活環境だけで見ると、ホームレスの時の方が酷かったぐらいだ。



「ミキ、準備できたか。出来たら行くぞ。やっこさん、遅刻にはうるせえからな」


「ああ、大丈夫だ。行こうか」


 俺と一緒に仕事場に向かうのは同じチームのヤスだ。

 こいつはもうここに2年は居るらしく此処の事に詳しい。

 本名は知らないが、それはここでの習慣で自分の本名を名乗ることはなく、あだ名や名前の一部を名乗ることになっている。


 娑婆に帰った時に厄介事を起こさない様にする為と、労働者が娑婆の事を思い出して脱走しない様にするためらしい。



 俺達はチーム分けされていて、6人で1チームを組み仕事をしている。

 各チームには番号が割り振られており、俺達のチーム番号は32だ。

 チーム32のメンバーはこの3か月間で何人も入れ替わっており、俺とヤスがこのチームの最古参だ。

 メンバーの補充は迅速に行われるが、「補充=メンバーの死」であることが解ってしまうので来た当初は戸惑ったものだった。


 ここでは命の価値が非常に低い。

 それを痛感したのは、初仕事として割り当てられた坑道掘り作業に従事していた時、崩落に巻き込まれて同じチームの仲間が3人も生き埋めになった。

 救助の為に仕事が止まることはなく、少し場所を変え仕事は続行された。

 次の日にはメンバーが補充され、以降ここで3人の姿を見ることが無くなったことで、あの時に見た姿があいつらの最後だったことが解ってしまった。


 他には大怪我をした者や、ここから逃げ出そうとして捕まった者などもいた。

 そいつらは管理者達が連れて行ってしまうのでその後どうなったかはわからないが、借金取りに引き渡されているのか、それとも…。


 こういった具合に、外とは違って人権なんて御大層なものはここには無い。俺達は自身を守りながら仕事をこなしていくだけで精一杯だ。



 よく映画や漫画などで出てくる、俺達労働者をいじめる管理者や先輩などが出てくるが、ここではそういった事は全くない。


 毎日倒れる寸前まで酷使される俺達に後輩や仲間をいじめるような余裕はないし、管理者も俺達が仕事をこなしている事を称賛はしても妨害する事などない。


 ヤスが昔聞いた話だと、管理者には俺達に対する強い権限が与えられている反面、管理者個人に課されているノルマがあるらしく、それが守れない場合は罰則があるらしい。

 そして俺達の仕事は基本チームで行うので、チームワークを乱すような存在は悪だ。

 だから管理者側から俺達の仕事の効率を落とすような真似は絶対にしないし、仲間に危害を加えようとする存在やチームワークを乱す者は「移動」する事になる。

「移動」になった者を以後ここで見る事は無くなるので、そう言う事なのだろう。


 しかし俺達に対する仕事の割り当て権など強い権限を持つ神のような存在なのに、ノルマ付きの仕事だったなんて・・・。

 ノルマに追われている事は俺達とは変わらないとは、本当に世知辛い話しだ。


 仕事場に着くと、同じチームのメンバーが先に準備を始めていた。

 俺達は遅れたことを詫びながら準備作業に参加する。


 仕事内容は週ごとで変わり、それは週明けの朝に仕事場に掲示される。

 俺は先に来ていたチームメンバーのシライシに仕事について聞いてみる。

 こいつは自分の呼び名に、好きな競走馬の名前を付けるぐらいの競馬狂いが高じてここに来たらしい。


「仕事は何か知っているか?」


「今週は部屋作りだとさ」


「最悪だ・・・」


 俺は天井に顔を向け、ため息を吐く。

 この仕事は地下に掘られた坑道の指定された場所に、コンクリートもどきの材料で部屋を作るというものだ。

 コンクリートもどきとは部屋の壁などの作成に使っている材料なのだが、これは見たことがない粘度の強い水色の物体と土を混ぜ込んで作る。

 この作業は水色の物体の粘度が高くて土と混ざり難い為、かなりの重労働なのだ。


 また部屋の大きさや形も指定されており、その通りきっちりと作らないといけない。

 そしてこの仕事で一番きついのは、部屋を作り終わっても合格が出ないと、全部壊してからの作り直しになるのだ。

 合格、不合格の判定理由について説明は一切無い。


 この部屋作り作業は既定の数を完成させないと、ずうっとこの作業から抜けられないし、失敗が続くと能力不足と見做されて、おっさんの様にここから追い出されることになりかねない。

 坑道堀は命の危険がある仕事だが、こちらはここから放り出される危険のある仕事と言う訳だ。


 かなりのハズレ仕事と言えるが、割り当てられる仕事の内容に文句は言えない。

 俺達は準備を整えて、坑道に歩みを進める。


 美穂、父さんは頑張るからな。



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