43_似た者同士
今回の更新はここまでになります。また時間を作って更新していきたいと考えておりますが何分時間がない状態が続いております。細かい修正は続けていきますが、基本気長にお待ちいただければ幸いです。
あれから一月が立った。
あの事件については、すみれさんが後処理をすることになったので、俺達はいつもの日常に戻った。
そんな俺と静菜さんは一緒に帰宅するため下足場を歩いていると、すみれさんから電話があった。
事件の捜査が終わったので概要を説明したいらしい。
前回行っていた藤井達への記憶の消去もなく、色々とイレギュラーな対応だったので気になる事が多かったのでできれば後日の説明が欲しいとお願いしていたのだ。
俺達は校門前に止まっている黒い高級車の前で待つすみれさんのもとに向かった。
俺達が車に乗り込むと運転席に座っていたのは吉野さんだった。
ご無沙汰していた挨拶を交わして座席に座ると車はゆっくりと走り出す。
すみれさんは自分のカバンから書類を取り出しながら話し始めた。
「じゃあ、先日の件の結果を報告するね。今回の事件の発端は封印キーを管理していた部署の管理者が暴走した事が原因だったの」
どうもこいつは小さい女の子しか興味のないロリコンだったらしく、中島の妹さんをどこかのサイン会で見て一目惚れしたらしい。
実家がそれなりの名家だったこともあって、すぐに事務所に圧力をかけてモノにしようとしたけど、妹さんが所属した事務所はその辺に厳しく相手にされなかったらしい。
「そこでそいつが考えたのは、本人から自分を頼らせようとしたの。実際には封印解除キーを都合のいい能力をもつハグレに渡して自分の手先にする。そしてその能力で散々彼女を脅かしてから自分が彼女を助けることで自分に目を向けさせようとしたわけね」
なるほど。しかしずいぶん迂遠な方法だな。
それに子供を怯えさせるように指示したのが、あの子供好きの男だと言うのはずいぶんと皮肉な話だ。
「で、あの幻術使いだけど、よほどこの仕事が嫌だったようね。本当はもっと酷い命令が出ていたのだけど、本人がわざと失敗したり指示内容を間違った振りをしたりで誤魔化していたみたい。出てる指示が中島くんに障害が残るような重傷を負わせるとか、両親のどちらかを事故に見せかけて殺すとかかなり凶悪な指示だったから抵抗があったんでしょうね。でも封印解除キーを貰った恩義があったから、逆らう事だけは出来なかったみたいね」
すみれさんはまるでその書類が真犯人の管理者自身であるかのように非常に冷たい目で書類を見ている。
「結局、あの男の証言もあって管理者は有罪。しかも表じゃなくて裏で裁かれるから、外に出てきたときには老人になっているでしょうね。文科省から嘆願書が出るかと思ったけど結局出なかったわ。畏き辺りが激怒してるって噂が流れていたから切り捨てられたんでしょうね」
なるほど、真犯人への罰は下ったってことか。
「それと封印解除キーについてだけど、管理部署を変更する話もあったけど、これから定期的に他省庁の監査を入れることを条件に立ち消えになったわ。確かに仕事を他の省庁に持っていかれるなんて面子丸つぶれの処置より、監査を受け入れた方がましと考えたんでしょうね。でもそれだけ自分たちの評価が危険な状態だってわかったみたいだから、これからは多分大丈夫じゃないかな」
マジで頼むぜ、真面目に仕事してくれ。
魔封石の件もあるからこっちが心配になるようなことは止めて欲しいんだが。
「それとあの男なんだけど・・・。どうする?」
「どうするって・・・。どういう意味です?」
「ずいぶんとヒロ君が気にしていたみたいだからね。ちょっと交渉しておいたんだ。もしヒロ君が望むなら彼の身柄をこちらで引き取ることも出来るよ」
マジか!っていうか良いのか?俺が相当驚いているのに気が付いたのだろう、すみれさんは軽く微笑む。
「今回は裏で裁く内容だからね。今のヒロ君ならこの程度の融通は効くんだよ?それだけの貢献はしているからね」
「そうですか・・・。でも俺はあの男についてほとんど知りません。それを知ってから決めたいと思います」
「うんうん、そうだね。あの男についてなんだけど・・・」
そういってすみれさんは書類をめくりながら話を続ける。
あの男は以前、東京のかなり大きな退魔組織の一員だったらしい。
戦闘技術や退魔技法は全くダメだったが、幻術の腕前は超一流だったためモンスターハント時の人払いや情報隠ぺいに活躍していた。
特に人が多い東京ではそう言った仕事のオファーは途切れることはなく、確実に仕事をこなす彼は組織内でもかなり信頼されていたらしい。
だがそんな男の運命が変わってしまう事件が起きた。
男の妻と娘が通り魔の被害にあってしまったのだ。
二人共即死だったらしい。
犯人はすぐに捕まったが、犯人に罰が下ることはなかった。
なぜなら犯人は薬物中毒だったため、責任能力なしということで無罪判決が下ってしまったのだ。
結局犯人は警察病院に送られて罰が与えられることはなかった。
男は納得ができなかった。
彼の妻と娘が受けた恐怖もすべてなかったことになったのだ。
どうしてもそれが許せなかった男は、自身の能力で罰を下すことに決めた。
実際彼の能力は強力で、表の組織であれば警察だろうがなんだろうが騙せない存在はない。
あっさり犯人を外に誘導し、徹底的に恐怖を与えた上で射殺した。
そしてその足で自身の組織に自首したのだ。
組織は相当に混乱したらしい。
だが能力を利用しての殺人という重罪だったため、身柄を拘束した上で監督官庁に報告。
処分を待つという真っ当な対応になった。
彼自身は後はどうなろうとも構わないと思っていたようだ。
結果として封印刑50年が下された。
本来はもっと重い罪が下るのだが、事件の背景について情状が酌量された結果だった。
そうやって彼は50年先まで封印されるはずだった。
すみれさんの話を聞いた俺は、あの男が自分と重なっているように感じられて仕方がなかった。
前世の俺には弟分がいた。
俺が冒険者仲間と暴れまわっていた頃、神殿に礼拝に来た人族の新人冒険者だった。
大地母神様の神官であり、それなりに名前の売れていた俺を尊敬していたらしく、よく俺の所に遊びに来た。
同じ神の信徒で冒険者仲間ということもあり、打ち解けるのに時間はかからなかった。
そんなあいつは冒険者としても着実に地力をつけていき、時には俺達と共闘することもあった。
あいつが結婚して子供が生まれた時も、俺が名付け親になったこともあった。
そんな間柄だったからか一緒に住もうと誘われていたが俺は断っていた。
神殿の仕事を理由にしていたと思う。
俺はその当時、仲間達に古龍討伐パーティーに誘われていた。
しかし大司教様から、もしも同行すれば神殿から追放するという強硬な反対もあって断っていた。
とにかく当時の俺は大地母神殿から出ていくのが怖くて仕方がなかった。
追い出された神官の末路をいやというほど見ていたので、絶対にああはなりたくなかった。
そんな時だった。
弟分が死んだと聞かされたのは。
奥さんも子供もすべて殺された。
あいつが住んでいた都市を古龍が襲い、皆滅ぼされたのだ。
その知らせを聞いた俺は仲間を追って、古龍が住む山に向かっていた。
俺はその時にやっと気が付いたのだ。
弟分達は俺の家族だったのだと。
そして一緒に住むことを断ったことを後悔した。
もし一緒に住んでいれば、少なくとも一緒に死ぬことも出来たはずなのだから。
俺は自分の臆病さによって家族と一緒に戦う事も死ぬことも出来なかった。
結局俺にできたことは、俺から家族を奪った代償を奴の命で贖わせたことだけだった。
リグレス、儂はどうすればよいのじゃろうな。
Side:名取川 すみれ
私の前に立つ男は、本来改めて封印が成されるはずの人物だった。
しかしヒロ君が身柄を引き取りたいと申し出て、名取川で雇うことになった。
腕前に関して疑問はないが、一度重犯罪を犯している危険な男である。
なぜヒロ君が彼を引き取ると言ったのかはわからない。
ただ一つだけわかることはその時のヒロ君がとても悲しい目をしていたことだけ。
「よく私を引き取ろうと思いましたね?私はてっきり再封印されるものだと思っていましたが」
「その方がよかった?」
「どちらでもいいですね。私にとってはどうでもいい事です」
彼にとって家族を失った後の人生は無いも同然なのかもしれない。
彼の言葉を聞いてヒロ君が彼を見つめる。
「ならば生きて何かを成すべきだ」
「ほう、それは何故です?」
男はあざけるような口調で聞き返すがヒロ君は真剣な口調で返す。
「生きる者は死した時、先に逝った家族や仲間に自身が成した事を報告する義務がある」
ヒロ君の言葉を聞いて男は真剣な表情になり、何かを考えていたがヒロ君に問いかける。
「二つ質問をさせてください」
ヒロ君は頷いた。
「一つ目ですが、あなたは見た通りの年齢ではありませんね?返答はYesかNoで結構です」
「Yes」
「二つ目」
男はヒロ君の目を覗き込むようにして言葉を続ける。
「もし私が再び自身の能力を使って犯罪を犯したとしたらどうしますか?」
「その時は・・・」
ヒロ君が話し始めると急激に部屋の気温が下がっていくように感じる。
「儂がお主を殺す」
彼の言葉を聞いて満足したのだろう、頷いて彼は一つ礼をした。
「満足できる回答を頂けました。あなたの下で働かせていただきます」
「あんたの事を何て呼べばいい?」
「そうですね。田中とお呼びください」
「すみれさん。あれ?すみれさん?」
返事をしない私を彼は心配そうに見ている。
「あ、ごめんなさい。で、なんだっけ?」
「田中の事はすみれさんの下についてもらおうと思います。俺は学生ですし、そう言った人使いの経験もほとんど無いので」
「うん、わかったよ。よろしくね」
「よろしくお願いします」
私達が挨拶を交わしたのを見て、ヒロ君は席から立ち上がった。
「今日は両親が帰ってきているので、俺は帰りますね。なにかあったら連絡をください」
「えー、ご両親にご挨拶したいんだけどなあ。一緒に行っちゃダメ?」
私の言葉にヒロ君は顔を赤くして慌てて部屋から出ていった。
その後ろ姿を見送っていた田中は私に質問をする。
「一つよろしいですか?」
「なに?」
「彼は何者ですか?」
「あなたにも説明したでしょう?名取川本家を継ぐあなたの主人よ」
「わかりました。言い直しましょう。私も今まで第一線で働いてきたという自負もあります。その上でお聞きします。"あれ"はいったい何なのですか?」
私はその言葉に返答できなかった。彼が先程見せた殺気はそれほどの物だったから。




