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42_不正

 藤井は本当についていない奴だ。

 またこんな事件に巻き込まれている。

 ある意味呪われていると言ってもいいかもしれない。

 もし解呪できるものなら解きたいが、おそらくこれは運命という奴なのだろう。

 だから俺は巻き込まれてしまった藤井を助けるだけだ。


 藤井のメッセージを聞いた俺は、浜川に電話して中島家の位置を教えてもらう。

 そして東京から鹿海市に大急ぎで戻った。


 まだ役所が主催しているパーティーが残っていたのですみれさん達は東京に残ると思ったのだが、俺と一緒に戻ってくれた。

 すみれさん曰く、無理に出席する必要のないパーティーだったらしい。


 野田さんは引き続き体調が悪かったらしく、顔色は青かったが俺達を東京駅で見送ってくれた。

 俺が早朝に無理を言ったのにもかかわらず、一番早い新幹線のチケットを用意してくれた。

 個人的な話にもかかわらず本当にありがたい話だ。


 新幹線から電車を乗り継いで鹿海駅に着くと、すみれさんが手配した名取川家が所有している退魔組織の人員が待っていた。

 彼らと合流して中島家へと向かう。

 中島家に着くと強力な幻術が家に掛けられていて、外から中が見えないようになっている。

 相当の使い手なのだろうが俺の【妖精の眼】には通用しない。

 門から庭に入り部屋の中を見ると俺と同い年ぐらいの男子と中学生ぐらいの女の子が抱き合っている。

 おそらく話にあった中島兄妹だろう。

 そして藤井が部屋の中心に立っていて誰もいない空間に向かって俺は生きていると叫んでいる。

 おそらく何らかの幻術に掛けられているに違いない。


 俺は自身の“眼”に力を入れて幻術を破壊すると、藤井は腰が抜けた様に座り込んだ。


「遅くなってすまん」


「いいや、助かったよ。本当に」


 藤井に傷がない事を確認して、俺は“眼”を使ってその部屋に掛けられている幻術をすべて破壊する。

 部屋の中は砕け散った幻術のかけらできらきらと輝いていたがすぐに消え去った。


 見ると部屋の隅にスーツ姿の中年男性が立っていた。

 呆然と口を開けて突っ立っているこいつがこの事件の犯人だろう。

 中年男性は自身が注目を集めていることに気が付いたのだろう、逃げようとして窓の近くに立っていた俺に向かって手に持った警棒を振りかざしながら突っ込んでくる。

 ほとんど素人の動きだったので、攻撃を捌き鳩尾に一撃を入れて気絶させる。


 しかし取り押さえてみたがどうしよう。

 おそらく幻術を使って悪さをしていたようだが、警察には通報できないし・・・。

 俺が男をひもで縛って転がした後、悩んでいると家に入って色々調べたり中島兄妹や藤井から話を聞いていたすみれさんがやってきた。

 静菜さんは関係組織の人達と事後対応について相談しているようだ。


「こいつ、ずいぶんと質の悪い悪戯をしていたみたいね。でも子供を脅かして喜んでいるタイプでもなさそうだし・・・。それにこの辺りでは見ない顔ね。こいつはおそらく「ハグレ」でしょう」


「ハグレ」?


「ハグレっていうのは、私達の業界から追放された者達のことなの。私達は付き合いを切るし、何かあったとしても誰も庇ってくれないわ」


 すみれさんは冷たい視線を男に向けながら、男に気付けを施して意識を戻す。


「なら何故こいつはこんな事を?」


「それはこいつに聞かないとね。大体私達がこういった犯罪行為を行う事は重罪になるって理解してるのよね?」


 すみれさんの言葉に男が少し体を震わせるが、無言を貫く。

 俺は少し考えていたがすみれさんに確認してみる。


「こういった「ハグレ」に依頼する人間がいるってことでしょうか?それって問題はないんでしょうか?」


「依頼することも依頼を受けてお仕事をすることも重罪よ。大体業界から追放される場合、能力を封印されるものなの。だから通常はそういった仕事を受けられないはずなの」


「でもこの男は能力を使っています」


「ええ、だから考えられる可能性は2つ。一つ目は何らかの理由で封印が成されずに追放されてしまった場合。でもそれはまずありえないわ。そう言った情報は中央省庁が把握している内容だから。もしも封印作業に漏れがあったら必ず対応班が派遣されるはず」


 すみれさんは俺の見つめながら続ける。


「二つ目は封印の解除方法または封印解除キーが漏洩している可能性。あんまり考えたくないけど」


「そんなことありえるんですか?」


「噂はあったのよ。でもそれはあくまで噂。そういう話だったんだけど。こうやって現実に見せられるとそうは言っていられないよね」


 俺達の話を聞いていた男が、薄く笑いながら話し出す。


「そう噂だ、そういう事にしておけ。お前らの手に負える案件じゃない」


「あら、それはどういう意味かしら?」


「わかっているんだろう?噂が真実だった場合、どこが絡んでいる話なのかという事を。お前らのような地方の組織がどうこうできる話じゃない」


「どこが絡んでいようが放っておける話じゃないんだけど?貴方達みたいなのが暴れれば一般に情報が漏れる可能性もあるわ」


 すみれさんの言葉を聞いて、男はため息をつきながら説得するように話を続ける。


「そこを放っておけと言っている。噂が真実の場合、封印解除キーをどこが漏らしているのかという話になる。それはイコール管理している組織になるのは解っているだろう?対立しない方がいい事は子供でも分かる話だ。私を捕らえただけでも十分な手柄だ。そこで満足しておけ」


 えらく俺達を心配しているような口振りだ。


「私がこんなことを言うのが不思議か?それはな、此方側はお前たちのような子供が首を突っ込んでいい世界じゃないってことだ。そういう世界は私達のような大人だけが知っていればいい」


「あんた、子供がいるのか?」


 俺のちょっとした疑問に男は少し顔を歪める。


「子供が“いた”」


「そうか・・・」


 男はそれ以上話すことはなく黙り込んだ。

 俺は男の見張りを名取川関係者の人に任せて静菜さんの所に向かった。



 静菜さんや中島兄妹、藤井の話を聞いた俺はすべての話を整理する。

 どうもあの男はただ怯えさせることだけを行っており、実害はなかったことがわかる。

 これらから考えられるのは、封印管理組織(おそらく関係省庁内の組織だろう)から横流しされた解除キーと引き換えに、横流しをした奴の依頼をこなしていた。

 その依頼がどういった物なのかはわからないが、中島妹に何らかの危害を与えろと言った依頼だったのだろう。


「ちょっと、本気で対処してもらわないと困るわね。いくら何でもやり過ぎよ」


 すみれさんは野田さんに電話で状況を説明しているようだ。

 この件は相当のルール違反を中央省庁の一部組織が中心になって行っているという事なので、利権がどうのと言ったレベルの話ではなく重大な問題らしい。

 なにせ行政組織であり退魔業界の管理組織が犯罪行為を行っているのだから。

 業界内にこんな話が広がれば、反発や組織に対する信用不安を呼ぶことになるのは間違いない。


 すみれさんの電話が終わったようだが、少し明るい顔をしている。


「宮内庁から調査と対応の為、専門部隊が派遣されるらしいわ。その部隊は省庁の圧力を無視できるから安心ね」


 省庁の圧力が無視できるってどんな組織なんだ?

 俺が疑問に思っていることが顔に出たのかすみれさんが説明するところによると、その組織は畏き辺り直轄とのこと。

 そりゃあ、圧力かけられないな。


 ふと視線をずらすと男が引き立てられていくのが見えた。

 俺がずっと見つめているのに気が付いたのだろう。静菜さんが近づいてきた。


「どうした?何かあの男で気になる事があるのか?」


「ああ、あいつはどうなるんだ?」


「そうだな、追放されたのにもかかわらず能力を使用して犯罪行為を働いたからな。相当期間幽閉されることになるだろう」


「幽閉?」


「ああ、私達術者は能力を使用して犯罪行為を働いた場合、普通の裁判で裁かれることはない。その代わり、特殊な場所に身柄を幽閉されるのだ。そうだな、身柄の封印と言えばいいか」


 封印されている期間も年齢を重ねることになるので、封印が解かれると同時に老衰で死ぬこともあるらしい。

 かなり厳しい罰のようだ。


 どのような依頼だったかはわからないが、子供たちに危害を加えるような真似をできるだけ避けていたあの男の事がどうしても嫌いになれなかった。



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