41_俺が死んだ?
Side:藤井 一道
俺は狼狽えようとする心を無理矢理落ち着けながら、ヒロが昔に言っていたことを思い出す。
このような状況になったらまずは深呼吸をして落ち着く事。
パニックは大敵。
できればその場所から迅速に離れる事。
そして他の人に助けを求めることが重要。
俺はスマホを取り出してヒロに電話をかける。
やはり繋がらないので留守電に緊急事態であることを告げ早急に助けが欲しいメッセージを残す。
その後、警察へ電話するためスマホの画面を見ると目を疑うような速度でバッテリー残量が減っていく。
俺は慌てて110番をするもバッテリー切れでスマホの電源が落ちた。
「くそっ、充電が切れちまった!中島、俺の代わりに警察に通報してくれ!」
「わかった・・・。えっ!?バッテリーがいきなり切れちまった!」
「家電だ。そっちから通報できる!」
俺の言葉に中島が据え付けの家電の受話器を握ったが、その瞬間受話器が赤い蛇に変化して中島を咬もうとする。
悲鳴を上げながら慌てて蛇を投げ捨てる中島。
投げ捨てられた元受話器の赤い蛇は家具の隙間に消えていった。
「なんなんだよ!?これ!?何がどうなってるんだ!?」
中島が状況の異常さに混乱している。
俺は中島の胸倉を掴んで顔を近づけながら、あえてゆっくりと低い声で話すことで中島を落ち着かせる。
「お前がヒスると妹さんは誰を頼ればいいんだ?落ち着け」
俺の言葉に中島が彩矢ちゃんを見る。
恐怖心が限界に来たのだろう、彩矢ちゃんは床に座り込んで幼児のように泣いている。
「お前は妹さんの傍にいてやってくれ。後、すまないが家を壊すことになるかもしれない。ここから出る為には必要なんだ。弁償はするから許してくれ」
「わかった。弁償なんて気にしないでやってくれ。妹も多分限界だ」
中島はそう言い、妹さんの傍に座り込み慰め始める。
かなり乱暴な方法だが仕方がない。
家を壊す承諾も得た俺は、広間にある椅子を手に取る。
「ガラスが飛び散るから気をつけろ!」
俺は中島兄妹に叫びながらガラスに浮かぶ男の顔めがけて椅子を投げつけるため振りかぶる。
すると男の目から強烈な光と共に放たれた稲妻が、刃物の形を取って俺の胸に突き刺さった。
「ぐっ・・・。うぐぐぐぐ・・・」
俺は椅子を取り落とし、その場に蹲るようにして倒れ込んだ。
痛い!声が出ないぐらいの痛みだ。
くそっ!身動きもできないぐらいの痛みだ。
「藤井!」「藤井先輩!」
中島兄妹が俺の名前を呼びこちらに向かっている姿が目の端に映るが、俺は返答を返すことも出来ず、そのまま意識を手放した。
Side:氷上 博人
気が付くと窓の外には明るくなっていて時計を見ると7時少し前だった。
とりあえずシャワーを浴びた俺は、昨日スマホを確認してなかったことに気が付いて慌ててスマホを手に取る。
あちゃあ、着信があったのか。
確認してみると昨日の夕方ぐらいの着信で藤井からだった。
留守電を再生するとすぐに電話が欲しいとのメッセージだった。Lineも同じ内容のメッセージが来ている。
留守電は続けて2件目のメッセージを再生する。それは藤井が非常に厄介な事件に巻き込まれていることを告げるメッセージだった。
俺は部屋を飛び出して名取川姉妹の部屋に走った。
Side:藤井 一道
目が覚めると見覚えのない天井が見えた。
そして中島兄妹が心配そうな顔で俺の顔を覗き込んでいる。
「今何時だ?」
「わからない。時計も壊れちまってる。でもかなり時間は経ったと思う。大丈夫か?」
中島の返答に問題ない事を返しながら体を起こすと気絶する前と同じ光景が広がっている。
ガラスサッシのガラスからは男の顔が生えていて変わらず物騒なセリフを吐いている。
テレビの前には黒いパーカーの男が立っているのが見える。
「ああ、大丈夫だ、ありがとう。何か変わったことはないか?」
「いや、特にはない。ただ一つ分かったことがある。俺達がこの家から出ようとしない限りは、何もされないって事だ」
中島の話だと家の中であれば特に妨害されることもなく、どの部屋に移動するのも自由のようだ。
ただ外に出ようとする行為がNGらしい。
俺は中島の言葉を聞いて考えを纏め最善の対応を方法がないかを考えるが全く思い浮かばない。
まず今までは妹さん以外には見えなかったモノが急に俺や中島も見えるようになった。
となると原因は俺かと思うが何か俺に対してにアクションがあるわけではなく、排除するわけでもない。
俺が攻撃されたのは、NGである家から出ようとする行為を行ったからだろう。
そう考えるとただただ家から出さないようにしている。
それが目的らしいのだが、そうなると今度は動機が全く分からない。
俺が必死に考えを纏めているとテレビの前にいた黒いパーカーの男が俺のすぐ隣に立っていた。
いきなりのアクションだがこれが現状打開の一因になるかもしれない。
「お前は・・・」
男が俺に話しかけてくる。
「なぜ生きている振りをしているのだ?」
何を言っているんだ?生きている振り?何のことだ?
「お前は胸に刃が突き刺さって死んだ。認められないのか?」
「何を言っている?俺はこの通り生きている。中島達だって俺が死んだなんて言ってない」
「それはお前が自分の認識を元に光景を作っているからだ。当然お前の都合の良いものに書き換えられる」
こいつは何を言っているんだ?俺が死んだ?そんな馬鹿な。何が目的だ?
「俺は生きている。間違いなく生きている!」
「お前は人間だろう?胸に刃物が突き刺さってなぜ無傷なのだ?なぜ生きていられるのか?」
俺は胸に手をあてるがそこには傷一つない。でもそれは・・・。
「ならば証明して見せろ。お前が生きていることを」
証明?証明と言っても自分が生きている事なんてどう証明しろって言うんだ?
「お前は自身が生きていることを証明できない」
男の声が俺をあざ笑うかのような調子に変わっていく。
「だが俺はお前が死んでいることを証明できる」
えっ?今なんて・・・。
「これが現実世界の光景だ」
男の言葉と共に、目の前に広間の光景が広がる。
そこには胸から大量の血を流し生気の失った目で力なく倒れている俺がいて、中島兄妹が泣きながら俺の名前を呼びながら体をゆすっている・・・。
「そんな・・・」
「これが現実だ。お前は今、死の寸前の妄想の中にいるのだ」
男はそう言って、歪んだ顔で哂う。
「うそだ、これはうそだ!おれはしんだりしていない!」
「その通り。お前は死んでなんかいない。こんなものは嘘だ」
俺が信頼する親友の力強い声と共に、目の前にある不吉な光景はガラスのように砕け散った。




