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39_すみれ先生の業界講座

 Side:名取川 静菜


「ヒロ君、遅いね。寝坊かなあ?」


 私は姉さんの声に相槌を打ちながら、滞在しているホテルのエレベーターの方を見る。


 私達は東京にあるホテルの喫茶店で博人さんを待っている。


 今回魔封石の作成方法を国に譲渡したことに対する感謝として、文部科学省と宮内庁、関連省庁から表彰状の授与式を行いたいと連絡があったのだ。


 博人さんは最初、絶対に辞退すると言い徹底抗戦の構えを崩さなかった。

 しかし今後も省庁とのやり取りはあることだし、辞退することは相手の面子を潰すことになるので悪手であることを説明した。

 彼も大寺院に努めていたから、不用意に相手の面子を潰すことはよくないことであることは解っていたのだろう。

 最後には渋々納得してくれた。


 しかし実際に授与式を目前にして行きたくないという感情が膨れ上がり、だらだらと準備していると見える。

 そういう子供のような所も可愛く感じてしまう。

 これがあばたも靨というものなのだろうか?



 おそらく博人さんはまだ降りてこないだろう。

 時間もあるだろうから今回の授与についての疑問を姉さんに確認しよう。

 今回の件は姉さんがすべて調整していたのだから裏側も知っているはずだ。



「姉さん、今回の授与についてなんですが、“こちら側”の貢献でも賞されることがあるとは思いませんでした。こういった事はよくある事なのですか?」


「うん?今回は特例中の特例だよ。普通では考えられないよ」


「そうなのですか?やはり権益が非常に大きいからでしょうか?」


「うーん、それもあるんだけどね」


 姉さんはエレベーターに視線をやりながら小声で説明を始める。


「私達の業界の問題が2つあるの。私達(退魔師)の業界が持っているお金が国家から目を付けられるほど増えてしまっていることが一つ。そして私達の仕事の収入に対して税がかからないことが2つ」


 ウェイトレスが注文を配膳し、去っていく後姿を見ながら姉さんは話を続ける。


「まず私達が持っているお金が増えている件だけど、静菜ちゃんも知っての通り私達のような専門職にお仕事を依頼する場合、成功報酬とはいえ依頼料は高額だよね。で私達って仕事の性質上、自分の身にいつ何が起こるかわからない。だから万が一に備えてお金を貯める傾向にあるんだ」


 姉さんは紅茶に砂糖とミルクを入れ、カップをかき混ぜている。


「そうは言っても昔はそこまで大きな額じゃなかったから影響はなかったの。業界人も少ないのもあって総額となると知れていたしね。だからかな、2つ目の問題である依頼料に対する免税という特権を与えちゃったんだね」


 少しあきれたような様子で話を続ける姉さん。


「理由は色々とあったみたいだけど、私達の業界が当時の政府に貸していた借りが大きくなり過ぎていたらしいし、さっき言ったように課税対象額もそれほどの金額じゃなかったこともあって話が通っちゃった。あくまで依頼料のみに対する免税だっていうのも理由の一つかな」


 今の話はおそらく開戦直前から戦後直後の間にあったことだろう。

 混乱期でないと税金免除の許可が出るなんてありえない。


「でもその後のバブル経済がやってきた。その時に不動産に関連した仕事が飛躍的に増えたの。それまで放置されていた“いわくつきの土地”も商品価値がでたからね。そうなると依頼料の単価も今までの何倍にもなっちゃった。当時は本当にすごかったみたい」


 バブル時期の不動産関係の仕事と言えばさぞや高額の謝礼がでたことだろう。

 噂で知っているだけの私でも容易に想像できる。


「それが原因で私達に流れこんできたお金が肥大化してしまった。昔とは比較にならない金額にね。 でも私達ってお家の為にいつお金が必要になるかわからないから、収入が増えても無駄遣いする人ってあまりいないのよ。まれに派手に使う人もいたみたいだけど、そういった人も少人数だったこともあって焼け石に水だったみたい。結果としてそのお金が国から目を付けられるレベルまで増えちゃったのよ」


 このお金の件で省庁(特に旧大蔵省系統の財務省と金融庁)の役人に嫌味を言われたらしい。

 姉さんは「私に言われても困るんだけどね」と苦笑している。


「お金自体は循環させないと経済に寄与しないし、免税された収入が肥大化されてため込まれているなんて悪目立ちもするから良い事はないのはわかってる。でも私達は溜まったお金をなかなか使わない。なら所得税以外の税金で回収するしかないってなるんだけど・・・」


 姉さんはため息をつきながら続ける。


「私達はお金を使わないから他の税金もかけづらい。お金を持っているだけだとそのお金自体には税金がかからないからね。固定資産税とかもあるけど私達にすればそこまでの額じゃない。だってバブルが弾けてお仕事は減ったけど、なくなったわけじゃないから。お仕事が出来る人員が増えたわけでもない。修行もとても厳しいし本当に命がけの仕事なので簡単に人員は増えない。だからお仕事の単価も簡単に下がらない」


 なるほど退魔で使用する道具は自身で用意できるものばかりだから出費はほぼない。

 その上、依頼料は高いままであれば貯金は増える一方という訳か・・・。

 でもそれならば免税自体が無茶な話なのだから新しく税金を設定すればいいのではないか?

 私の疑問に姉さんは苦笑いを浮かべる。


「その話もあったんだけどね。結局立ち消えになっちゃった。原因として色々あるみたいだけどやっぱり既得権益化しているものをなくすって言うのは凄く難しいってことだね」


 確かに今まである物は当然のもので、無くすと言われると「奪われた!」と感じ、必死に抵抗してしまうのが人間の性だろう。


「さすがにバブル時期の単価は異常だったから、依頼料に関しては国から制限がかかったけどね。でも私達の業界もそれをあっさり受け入れた。そういった問題意識は共有できていたと思うし当時の相場は本当に狂っていたからね」


 私もうわさ話でしか聞いたことがないが当時は本当にお金の感覚がおかしかったらしい。以前父さんが当時の話をしたことがあったが、そのときに浮かべた父さんの表情は忘れられないものだった。


「でもお金も力の一つだから、お家大事の私達からするとどうしても無駄遣いは避けようって意識が抜けないのも確か。最近税制が改定されて相続税が上がったけど、これって私達を標的にした改定だって噂があるの。そうだよね。大きく回収しようと思ったらもう相続の時ぐらいしかないんだもん。相続は私達でも必ずある事だからね」


 姉さんは一息をいれるように紅茶を口に含んだ。


「でも増税は国民の不満を煽ることになるし、そんな簡単に打てる手でもない。大体特定の業種から徴収するためにその他にも影響を与える増税なんて本来決して許される事じゃない。それにこれ以上、税率を上げるのも難しい」


 姉さんはちらりとエレベーターの方を見る。彼はまだ降りてきていない。


「そんな八方ふさがりの中、私達の業界からお金を回収できそうな商品の製造方法を提供してくれる家が現れた。しかもその商品は私達であれば必ず欲しくなる物の上、消耗品だからね、使ったら補充の必要があるから売れなくなることはまず考えられない。これを使えば塩漬けになっているお金を継続して回収できるはず。だから政府や関連省庁からすると今回の話は希望の星ってわけなの」


 あ、希望の星って実際に言われたセリフだよと姉さんは言う。


「なるほど、だから今回は特例であると・・・」


「うん、でも今回の件は表には一切出ないよ。官報にも出ない。本当に内内の話だね」


「しかし前例主義と言われる省庁がよくこんな例外をみとめたものですね?」


 姉さんは声をより小さくして私の耳元にささやくように話し始める。


「どうも畏き辺りから直々にお話があったらしいの。お金の話もあるけど今回の商品は業界人の怪我や死人を減らす効果があるのは間違いない。怪我人や死人が多いことが私達の業界の問題だったしね。私達の総元締めとして御宸憂されていたようだよ。だからか今回のお話も政府や監督官庁の文科省というよりも畏き辺りと財務省と金融庁が中心になって動いているみたい」


 なるほど、そういった背景があったとは・・・。

 私が姉さんの話を反芻していたのだが、今回の授与式は畏き辺りも注目している重要な式だと気付いた。

 そのような式に遅刻するのは非常に良くないと思うのだが・・・。


「姉さん、さすがに遅すぎる様に思えるので博人さんの部屋に行きましょう」


「うーん、そうだね。ちょっと少し時間も押してきているから、ちょっと部屋に行ってみようか」


 私達は喫茶店を出てエレベーターに向かって歩き始めた。



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