38_後ろに立つ男
ご無沙汰しております。大江の麦茶です。1エピソード分を作成できましたので更新します。1日に1話で今週の土曜日までの更新となります。また以前投稿した分も一部改稿いたしましたのでよろしければ読み直して頂ければ幸いです。
Side:藤井 一道
「なあ藤井、ちょっと相談に乗ってもらえないか?」
放課後を告げるチャイムが響く中、部活に行く準備をしていた俺に話しかけてきたのは隣のクラスの中島だった。
特に親密という訳でもなく、クラス合同授業で少し話をする程度なんだが・・・。
「悪い。これから部活なんだ。明日でもいいか?」
「そうか・・・。なら部活が終わるまで待ってる」
俺の言葉にそう返す中島。かなり焦っているようだ。
「急ぎの相談なのか?それなら今からでもいいぜ。部活は休めばいいからな」
「すまない。そうしてもらえれば助かる。もうどうすればいいのかわからないんだ」
俺の言葉に中島は疲労の色の濃い顔を俯けている。
俺は寺崎に今日の練習を休むことを顧問に伝えてもらうよう頼んだ。
中島の相談は軽いものではないのだろう。
俺達は人が近寄らない部室棟の屋上に向かうことにした。
「で、相談したい事ってなんだ?」
部室棟の屋上はやはり誰もいなかった。
俺は適当な段差に腰かけて中島に問いかける。
中島もすぐそばに腰を下ろしてゆっくり話し始めた。
相談の内容は中島の妹の事だった。
妹さんは小学生の頃から読モをしていて結構な人気があったそうだ。
そんな人気のある妹さんに芸能事務所からスカウトがずっとあったのも自然な事だった。
だが本人がまだ幼い事もあり両親は反対したため、その話は一旦流れた。
しかし本人の強い希望があり、また今年中学生になったので学校に真面目に通う事を条件に、芸能事務所に所属する許可が出た。
妹さんはすぐにスカウトのあった事務所に連絡した所、事務所側も諦めていなかったらしくすぐに契約の運びとなったらしい。
家族でとった写真を見せてもらったが確かにかなり綺麗な子だ。
その上大人びていて中学1年生には見えない。
「おめでとう。でも特に問題があるようには聞こえないんだが?」
「ああ、所属した事務所も大手ってわけじゃなかったけどまともな所だったし、両親も納得してた。彩矢も小さなころからアイドルになりたがっていたから、凄く喜んでいたんだ」
順風満帆に見える妹さんだったが、一月前ぐらいから妹さんの様子がおかしくなったらしい。
「一人になることに極端に怯えるようになった。そして食事も満足に取らなくなり、誰か傍にいないと眠れないと言い始めた」
妹さんの体調は一気に悪くなっていったが中島にはどうすることも出来なかった。
「俺の家は両親が共働きだし、出張で家を空けることが多いんだ。俺も学校が終わった後はバイトがあってな・・・。バイトから帰る時間も遅いから、なかなか一緒にいる時間が作れない。彩矢の所属している事務所に相談したんだが、新人に専属マネージャーを付けてもらうことも無理だそうだ。そうなるとどうしても彩矢が一人でいる時間が多くなってしまうんだ」
中島の家はお爺さんが借金を残して亡くなってしまい、その返済のため両親が必死になって働いていてなかなか家を空けていることが多いそうだ。
中島のバイトも家に入れる分と自身の進学費用を稼ぐためだと教えてくれた。
「なるほど。でもどうして一人になる事を怖がっているんだろうな?妹さんは何て言っているんだ?」
「男が見えるらしいんだ」
妹さん曰く、自身の周りに男が見えるとのこと。
その人物でわかることは黒のパーカーを着てフードをかぶっていている。
顔はいつも俯いていて見えないが自分を見ていることは感覚でわかるらしい。
その人物は妹さんにしか見えず、話す声も妹さんにしか聞こえない。
そして妹さんの周りから見知った人間がいなくなると少しずつ近づいてきて、最後はすぐ後ろに居てじっと妹さんをじっと見つめがら、ぶつぶつと何かを呟いているというのだ。
「正直に言うと彩矢が中学生になって事務所に所属し芸能活動を始めたタイミングだったからな。プレッシャーのせいで精神的に不安定になったのかと思ってたんだ。でも飯を食わなくなって凄く痩せ始めるし、目の下も隈で真っ黒になるぐらい眠れていないようだし。それに・・・」
「それに?」
「俺にも見えたんだ。ほんの少しだけど。彩矢が言ってた黒色のパーカーでフードを被った男が妹のすぐ後ろに立っているのが」
すぐに見えなくなったけどなと中島は言ったが、俺は背中に走る冷たいものを感じていた。
妹さんにしか見えていないのであれば、精神的な病を疑った所だが中島にも見えたというのであればその可能性も低くなる。
“昔”の経験からとっさに口から「妹さんは呪われているんじゃないか」という言葉が出かけるが頭に響くサイレンがそれを押しとどめる。
だめだ、だめだ。不用意な発言は禁物だ。
俺の言葉に中島が混乱した挙句、暴走されても困る。
怪しげな霊能力者なんかに引っかかったりすると最悪だ。
“昔”の事件のことを思い出して俺は少し落ち込んだが、中島の話は続く。
「最近になって、妹の様子が本当にひどくなって見てられなくなってきたんだ。学校を休ませようにも本人は家に一人いるのは嫌だって抵抗するから仕方なく学校に行かせているけど、学校でも頻繁に倒れていたらしい。病院に行くことも嫌がるし。無理やり行かせたこともあったけど栄養失調と極度の睡眠不足としか診断されず、入院を勧められるけど絶対に嫌だって。彩矢が言うには病院に行くと見える男の数が増えるらしい。そして自分の周りを男たちが取り囲むんだそうだ」
中島は妹の事を思い出したのかつらそうな表情を浮かべる。
「だから最近はバイトを休んで彩矢と一緒にいることにしたんだが、昨日急に錯乱し始めた。何とか落ち着かせて話を聞いたんだが、男が呟いている内容が聞こえるようになったと。内容は殺人や拷問の方法など物騒なことばかりだったらしい。もう妹は完全に怯え切っちまって。俺もどうすればいいのか・・・」
妹さんの状況はかなり悪くなっているのは間違いない。
このままだと悪化する一方なのは医療の素人の俺でも解る。
だが原因が精神的な物だろうとそれとも“昔のアレ”のようなものにしろ、俺にはどうしようもないんだが。
「な、なるほど。それは確かにまずい状況だな。で相談ってどういった内容なんだ?」
「こういったオカルトっぽい事件を2年前に藤井が解決したって聞いたんだ。そこでなんとか力を貸してもらえないかと思って・・・」
え、中2の時・・・?
あっ!ヒロが解決した“アレ“か!
”アレ”は俺も巻き込まれてどうしようもなくなった時に、ヒロが全部解決してくれたんだ。
解決した現場に立ち会っていた俺は、後始末を任されて処理したんだけど、それを俺が解決したって勘違いしてる奴がいるんだな。誰だ?
「おい、それを誰から聞いたんだ?」
「あ、ああ。浜川だ。浜川とは小学生の時、よく遊んでいたから相談したんだ」
は・ま・か・わ~。
あのやろー、当時の俺がボロボロになっていたのをあいつも見てただろうに!
そんな俺が“アレ”をなんとかできたとでも思ったのか!?
しかしどうしたものか。
後始末を依頼された時もヒロが解決したことは誰にも言うなと口止めされている。
ヒロは目立つことを嫌うし、俺がヒロの事を紹介するのは約束を破ることと同じだ。
俺が悩んでいる間に中島の携帯に着信があった。
中島は電話口で相手を慰めていたが「すぐに戻るから」といって電話を切った。
「妹さんからか?」
「ああ。藤井、すまないが今から俺の家に来てくれないか?」
妹さんの状況がまた悪化したようだ。
俺に何ができるかは疑問だが中島の様子から断ることは躊躇われた。
俺は中島の申し出に一つ頷き、中島の家に向かった。
15分ほど歩くと中島の家に着いた。
家は2階建ての普通の一軒家だった。
俺は中島に続いて家に入っていくと、奥から妹さんらしき女の子が走り寄ってきて中島に抱き着く。
よほど恐怖を感じているのだろう、体は震えている。
妹さんは酷く痩せ細っており、目の下は真っ黒になっていて眼もどんよりとしている。
「ただいま、彩矢。大丈夫か?」
「あいつがいるの。ずっと私を見てる。もういやだよう、お兄ちゃん・・・」
「兄ちゃんが帰ってきたからもう大丈夫だ」
中島は妹を慰めていたが、妹さんが俺を怯えた目で見たので俺を紹介する。
「彩矢。以前に話していた藤井だ。今回の件で、お前の事を相談するために来てもらったんだ」
中島の紹介を聞いても俺を怯えた目で見続けている。
体調が悪化していることもあるが、恐怖しすぎたせいで何を信じていいのかもわからなくなっているのだろう
彼女の姿を確認した俺が思ったことは、非常に危険な状況だということだ。
だから様子見することは却下だ。
これ以上は彼女の体も精神も持たなくなる可能性が高い。
彼女の様子だとずっと「男」は見えているらしい。
そして妹さんだけではなく中島も見えたってことは、勘違いじゃない可能性が高い。
“アレ”の事件の時はどう対処すればいいのかわからないまま時間が過ぎて、結果的に手遅れとなり犠牲者まで出てしまった。
そんな俺が手伝えるとすれば、解決できる人間を紹介するぐらいだ。
俺は高校生の割に顔が効く方だとは思うがそれでも本物の超能力者はヒロ以外知らない。
だからヒロに頼るしかないのだがヒロは目立ったりすることを嫌う。
確かにあんな超能力を持っていることが公になれば、どんな災難が近づいて来るかわからないからだろう。
俺は少しの間悩んでいたが、俺からヒロに相談する形をとることにした。
そうすればヒロの名前は解らないままにできるはずだ。
ヒロにはまた迷惑をかけてしまうが、罪もない女の子が苦しんでいるなら正義感の強いヒロが放置するはずがない。
「中島。今聞いた話だと妹さんの具合の悪い原因が精神的な物なのか、オカルト的な物なのかはわからない。しかしどちらにしろ状況がよくないことは解った。でも俺はそう言った事件のプロじゃないから解決はできない。」
俺の言葉に中島は事件を解決したのが俺じゃないことに驚いたようだ。
そして顔に落胆した表情を浮かべる。
「だけど代わりに解決できそうな人を知っている。お前は浜川から俺が事件を解決したと聞いたかもしれないが、本当に解決したのはその人だ。だからその人に相談しようと思うんだが人嫌いでな。表に出たり目立ったりすることをことさら嫌うんだ。だから俺から話を通したいと思う。それでいいか?」
中島はほんの少し考えていたが、すぐに真剣な表情で俺を見る。
「ああ、わかった。もう俺じゃどうしていいのかもわからないんだ。なんでもする!だから頼む!妹を助けてくれ!」
中島の言葉に俺は頷きながら、追加で質問を行っていく。
前の事件の際、ヒロから質問攻めを受けたことから些細な情報でも解決に必要なことは解っている。
当時ヒロから受けた質問を思い出しながら質問を続ける。
妹さんの状況から考えてヒロへの連絡を早急に行う必要があるな。
ヒロへの説明内容を頭の中で整頓していた俺は、大事なことを忘れていたことを思い出して顔を青くした。
ヒロは今、学校に来ていないんだった。どうしよう・・・。




