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35_アンフェアどころの話じゃない

本日は第一部完了までの3話を一気に更新します。

 もし今回の犯人が俺の考える通りだとすると、すみれさんは敵の正体に気が付いていない。いや気付けないだろう。俺は直哉が用意してくれた車の後部座席で直哉の屋敷での会話について思い出していた。



「前世の世界のモンスター?何かそう思う証拠があるのか?」

「前回の真鬼?だったっけ。あいつが着ていた白い鎧の事を覚えてるか?」

「ああ、あれは厄介な代物だった」

「あれは前世の世界の物だ。間違いない」

「なぜそうもはっきりと言える?」

「あの鎧には前の世界で敵対していた組織の紋章が入っていたからな。あれを見間違えることはないよ。鎧と言う物質がこちらに来ている以上、モンスターがこちらに来ていないとも言い切れないと思わないか?」


 俺の言葉に静菜さんは、考え込むように腕を組んで下を向いた。


「おそらく今回の敵は、ノーブルヴァンパイアだ。こいつはこちらに伝わっているヴァンパイアと特性や能力はほとんど同じだが、いくつかの魔法が使える所が違うかな。そしてこいつは十字架を恐れない」

「それは本当に吸血鬼なのか?!」

「ああ。でもそれほどおかしな事じゃあない。ノーブルヴァンパイアが恐れるのは聖印だ。そして俺の前世では十字架は聖印じゃない」


 例えば大地母神様の聖印は丸の中に三角が入った形だし、知恵神の聖印はひし形の中に丸が入った形をしている。だが十字を聖印にしていた神はいなかった。宮地教諭は十字架を首に吊るしていたらしいので、すみれさんは自然と調査対象から除外している可能性が高い。


「十字架の件はわかったよ。でもこちらの吸血鬼と特性や能力が同じなら、学院の生徒ではない女性が襲われたケースはどうなるの?僕の知識だと転移(テレポート)を使って誘拐するぐらいしか思いつかないんだけど。もしもそうなら、上位賢者魔法の使い手と戦闘と言うことになる。戦力が足りなすぎるよ」

「いや、確かにノーブルヴァンパイアは賢者魔法の使い手が多いけど、よくて中位までだな。上位魔法を使える個体は聞いたことがない。おそらくは部下に手伝わせたんだろう。こっち風に言うなら共犯者だな」

「共犯者・・・。敵は一人だけじゃないという事?」

「ああ、おそらくはワーウルフだろうな。あれなら超人的な身体能力があるし、ノーブルヴァンパイアに付き従っていることが多い。手口としては、まず現場のカメラが映らない所に移動する。移動方法はヴァンパイアを抱えて、上からジャンプしてきたんだろう。ワーウルフの身体能力なら2,3人を抱えても可能だ。そして犠牲者が来るのを待ち、ヴァンパイアの魅了の魔眼で対象を拘束し、帰りは同じようにジャンプして移動したんだろう」

「なぜそんな方法をとったのだろう?」

「さあな。だが一つ言えるのは、自分たちの正体がばれないように行動しているという事だ。ノーブルヴァンパイアは傲慢な性格で大雑把な奴が多い。貴族を名乗るぐらいだからな。そんな奴が自身の正体がばれることにそこまで注意を払うとは思えない。おそらくワーウルフの入地恵だろう」


 慢心してくれていれば罠にも簡単に引っかかるが、ワーウルフが側に付いている個体は厄介だ。昔逃がしてしまったノーブルヴァンパイアも頭の切れるワーウルフが傍にいた。


「直哉、悪いけど車を用意してもらえないか。すぐにでも水苑館学院へ向かいたい」

「わかったよ。家人にすぐに用意させる。ヒロは静菜さんと一緒にすぐ出られるように準備してて」


 今はまず、すみれさんに会う事だ。何もなければ笑い話で済むのだから。



 水苑館学院へ着いたのは1時間ほどしてからだった、そろそろ外は暗くなってきている。校門で止められたが、中等部に妹がいる直哉がうまく言い包めてくれた。駐車場で車から降りた俺達はまず職員室に向かった。





 Side:名取川 すみれ


 目を覚ますと床が見える。私は頭に響く鈍痛に苦しみながら身を起そうとして身動きが取れないことに気づいた。よく見ると縄で自分が縛られているのがわかった。


「目を覚ましたようじゃな。思ったより丈夫よの」


 女性と男性の会話が聞こえる。まだ頭がぼうっとしている。考えがまとまらない。


「伯爵夫人、この者への魅了をお願いいたします。先ほど申し上げましたが狩人側に行方不明者が出ると奴らを必死にさせてしまいます。すぐにこの者の身柄を元に戻す必要があると愚考いたします」

「わかっておるわ。しかし食事にしてはならぬと言うのはちと惜しいの。これほどの魔力に満ちた処女の血ぞ。どのようなワインよりも極上の味がするであろう」

「ご辛抱願います。われらの立場はまだ固まっておらず、また狩人共の情報も集めきれておりません。」

「わかっておるわ。まったく我慢ばかりよの。ここは面白き世界ではあるが、それだけは不満じゃ。はようなんとかいたせ」

「はは、承知いたしました」

「ならば魅了の魔眼を使うかの。準備せよ」


 男性に体を引き起こされて、私は女性と顔を向き合わせられる。この顔は見覚えがあるのだが頭痛の為か思い出せない。女性の瞳が赤く輝いているのが見える。私の意識が途絶えそうになった時、建物の扉が開いて男性がすごい勢いでこちらに飛び込んでくるのが見えた。





 Side:氷上 博人


 俺達が職員室に向かうと職員室にほとんど人は残っていなかった。

 扉の近くに座っている職員に宮地教諭について聞いてみる。


「すいません、宮地先生はどちらにおられますか?」

「宮地先生?うーん、ここにいないからおそらく礼拝堂にいると思うよ」

「礼拝堂ですか?」

「ええ、彼女はだいたい礼拝堂にいるのよ」


 俺は確認したかったことを聞いてみる。もし俺の想像が正しいのであれば、この教師は回答できないはずだ。


「宮地先生ってどの教科を担当されているんですか?」

「え、担当教科?」

「ええ、そうです」

「ええっと、宮地先生の担当は・・・なんだっけ?あれ、おかしいな。ど忘れかな?あれ?」

「ああ、わかりました。ありがとうございます。礼拝堂ってどこにありますか?」


 これはまずいな。すぐに礼拝堂に向かうべきだ。

 俺達は顔を合わせて一つ頷き合い、混乱しながらも教えてくれた礼拝堂の場所へと走り出した。



 礼拝堂に付くと明かりがついており中に誰かがいることがわかる。

 俺は突入時の作戦を二人に伝える。


「まず、直哉は扉に開錠(アンロック)をかけてくれ。俺は同時に突入するから、二人はバックアップを頼む。もし俺達の考えが間違っている場合は、その時は何とか誤魔化そう」

「OK、でもヒロ、武器はどうするんだい?」

「武器はこれを使う」


 俺は10cmほどの棒を握り魔力を込めると、棒は形状を変え短剣になった。


「これは変換杖という武器で、魔力を込めると思った通りの武器に形を変えてくれるんだ。ただし、複雑な物に変えることはできないけどな」


 例えばクロスボウは複雑すぎて変化できない。弓に変化させることは出来るが、矢は作られないので意味がない。だが俺は接近戦武器しか使わないのでちょうどいいのだ。それにこれだと警官に職質されても、棒の状態にしておけば問題ないからな。

 俺は変換杖をメイスに変化させながら体に影響が出ない範囲で力を開放し、礼拝堂の中に突っ込めるように構える。


「なるほどね。それじゃあ、いくよ」


 直哉は手を複雑に動かし、魔術に集中する。

 静菜さんも、護身用の短刀を構えて踏み込める準備をしている。


開錠(アンロック)


 直哉の力ある言葉が解放され礼拝堂の扉が開く。中に飛び込むと縛られているすみれさんの近くに男女が立っているのが見えた。俺の突撃は奇襲になったようで、奴らは棒立ちになっている。これはチャンスだ。まずは奴らをすみれさんから引き離すことが先決だ。人質にされてはまずい。俺は飛び込んだ勢いを殺さずに突撃を続け、メイスをすみれさんの前に立っている女に叩きつけようとする。すると女は大きく飛び上がり、礼拝堂の大きな十字架の上に立った。


「きさまっ!」


 すみれさんの後ろにいた男が人間離れした跳躍力で俺に飛び掛かってくる。


(はらえ)!」

光弾(マジックアロー)


 しかし、静菜さんと直哉の魔法で迎撃された男は女が立つ十字架の前に跳躍する。


「ふむ、無粋な闖入者よ。全くどこの世にもこのような輩がおるのじゃな。」

「はっ、すぐ排除いたします」

「まったく、あの地の底の売女の狂信者どもを思い出す。腹立たしい事じゃ」


 顔をしかめながら女は言う。あの女、魔術で姿を変えているな。【妖精の目】で女の元の姿が見える。あの姿といい、地の底の売女の狂信者という言葉といい、まさか・・・。


「てめえ、まさかエセ伯爵夫人か?」

「貴様っ!このお方に対してそのような無礼な物言い、許さんぞ!ばらばらに引きちぎって肥溜めにばらまいてくれる!」


 俺の言葉に男が激昂し俺に飛び掛かろうとするが、女がそれを止める。


「やめよ。なぜその男はその戯言を知っておる?この世界ではわたくしの事を知る物などいるはずがない」


 俺はその言葉に何も返さず、メイスを長剣に変える。こいつがあのエセ侯爵夫人なら戦棍術ではなく、断剣術で戦うべきだ。


「それは変換杖か?やはり貴様はガイリディア出か」


 その言葉にも俺は反応せず、開放している力の上限を上げる。こいつらを放置することは絶対できない。能力もそうだがそれ以上に精神性がヤバすぎる。よくあの派手好きな性格で今まで正体がバレなかったものだ。

 今ならまだ、エセ侯爵夫人も飼い犬も俺が誰だかわかっていない為か、油断している。今なら一撃で滅ぼすことも出来るだろう。俺は十字架の上に立つ女に向かって飛び上がり、まずは「月斬」で切りかかる。

 この女は常時自身に防壁(プロテクション)をかけている。この魔法は物理的なダメージを軽減する、透明のシールドを張る賢者魔術だ。まずはこれを立ち割る必要がある。戦棍術が衝撃を操ることが極意だとすると断剣術はすべてを絶ち割ることが極意。魔法を割る為「月斬」で切り付けると防壁(プロテクション)はあっさりと消える。

 女の顔が驚愕に歪むのが見える。そのまま返す剣で奴を切り捨てようとしたが、左から猛烈な一撃をもらい、俺は吹き飛び壁に激突した。



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