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34_すみれさんの危機

 Side:名取川 すみれ


 事件の調査は難航している。この地域の担当部署にも顔をだしたが、新しい情報はほとんどないようだ。手詰まりになりつつあることを自覚しながら、私はまた水苑館学院に来ていた。やはり犠牲者の8割がここの生徒であることが非常に気になるから。確かにこの町は学院の城下町だがあまりにも偏り過ぎている。今回は教室の中も見たいので、放課後に学院を訪れた。いつも通り宮地先生に会うため職員室に向う。



「こんにちは、宮地先生。今日も学院内を確認したいんです。ご一緒頂けませんか?」


 彼女はいつも座っているソファーから立ち上がりながら微笑む。


「こんにちは、ええ、わかりました。ご一緒いたします」


 彼女は私と共に職員室をでる。


「さてどちらを調査されますか?」

「そうですね、まずは被害にあった生徒が所属していた教室を確認したいですね」

「今は放課後なので、少数の生徒が残っているかもしれませんが、それでよければ」

「はい、お願いします」


 私達は順次教室を回る。術検知は使うが反応はない。やはり学院内には何もないのかな?

 うーん、私の勘が外れてるかなあ?


 学院内で確認していない箇所はほとんど残っていない。後はその個所を確認して何もなかったら学院ではなく別個所を調査しよう。


 私は、残っている運動場外れの用具入れと体育館横の礼拝堂、運動部部活棟を確認することにした。

 用具入れと礼拝堂を確認したが、術検知に反応もなく部活棟に向かう。その途中で校務員の桜井さんの姿を見つけた。相も変わらず凄いファッションだ。


「ごめんなさい、ちょっと彼に用事があるので先に行ってもらえませんか?すぐに追いつきますので」

「ええ、構いません。では、先に行きますね」


 私は部活棟に向かいながら、ふと宮地先生を見ると彼女は赤い顔をしながら桜井校務員と話をしている。あの二人ってそういう関係なんだ。知らなかった。あとで宮地先生に聞いてみよう。昔は興味がなかった他人の恋バナが最近は非常に気になるようになったんだよね。よし後学の為にも、さっさと調査を終わらせよう。



 結局、部活棟も外れだった。どこにも術検知は引っかからなかった。うーん、やっぱりこの学院には何もないんだ。無駄足だったかあ。いや何もない事が確認できたんだ。そう思うことにしよう。あー、疲れた。


 すぐに合流した宮地先生が休憩がてら礼拝堂に誘われた。お茶を出してもらえるようだ。

 疲れたし、ちょっと休憩をしよう。恋バナ、いやいや後学の為に話を聞くためにも。

 礼拝堂で椅子に座り休憩していると、紅茶を出してもらえた。フォションの良い葉が手に入ったとの事。彼女はおいしそうに飲み始め、私も喉を潤す。


「そういえば、宮地先生と桜井さんはどういうご関係なんですか?」


 宮地先生は紅茶を噴き出し、胸元の十字架をいじりながら私を怖い顔で睨んだ。


「関係とはどういう意味?」

「あ、いや、さっき桜井さんとお話ししてた時に先生のお顔が真っ赤だったので、親密なお付き合いをされているのかなと」


 その言葉を聞いて、宮地先生は顔を緩ませて笑った。


「ああ、そういう意味だったのね。そうねえ、確かに非常に親密な関係と言えるわね。この国の言葉では主従と言えばいいかしら?」

「しゅじゅう?」


 あれ、何だかしたがうまく回らない。頭もぼうっとしている。私の顔を見ている宮地先生の笑顔が歪んで見える。

 椅子に座っているのが精一杯の私だったが、いきなり礼拝堂の扉が開き桜井さんが入ってくるのが見える。彼は宮地先生に、何かを話している。


「伯爵夫人!狩人共を刺激しないよう、少しの間我慢頂くようお願い申し上げたではありませんか!」

「なぜわたくしが我慢などせねばならぬ?貴様はいつから主人に命令できるようになったのじゃ?」


 彼女たちの口論を聞きながら私は意識を失った。





 Side:名取川 静菜


「と言う事で今、姉さんは飯田市で調査をしているのだ。今日も学院内で調査を行うと言っていた。その調査が終わったら時間ができると言っていたのでもう少し待って欲しい」

「うん、それは良いんだけど、それをヒロの前で言うの?」


 氷上君の前で言えばもう姉さんは逃げられないだろう。いい加減にしないと本当に氷上君に愛想を尽かされるかもしれないからな。本当に姉さんは氷上君が絡むと優柔不断になってしまう。


 今日は直哉君の家に、私と直哉君と氷上君が偶然集まっている。氷上君は魔術教導官として来ていたそうで、私は直哉君に借りていた本を返しに来ていたのだ。ちなみに氷上君が来る日と重なってしまったのは偶然なのだ。本当だぞ?


「まあ、いいけど。でも予め言っておくけど僕はすみれさんの恨みを買う気はないからね?」

「もし姉さんに恨み言を言われたら、私のせいにして構わない」

「それも抵抗があるんだけど。まあ、何とかするしかないか。そうそう、ヒロ。新しく作ったアイテムがあるんだろう?どんなのを作ったのさ。」


 何か考え事をしていた氷上君が、声を掛けられた事に驚いたように顔を上げる。


「うん?ああ、新しいアイテムね。まあ、常備できる武器さ。俺の武装は目立ちすぎるから」


 確かに、重量感のあるメイスと盾は嵩張るし非常に目立つ。先日の真鬼退治の時も耳目を集めていた。

 そういった後、また氷上君は下を向いて考え込んでしまった。


「そういえば月光糸は広める対象になっているのか?」

「うーん、あれは習得難度が非常に高いからね。資格制にしようかって話も出ているぐらいだし。でもその前にヒロから誰かへの伝授が成功することの方が先だね。すでに何人か名取川分家から人を派遣しての伝授作業は始まってるけど、長いスパンで考える必要があると思うよ」

「外に漏れたりしないのか?」

「口が堅い家を選んでいるからね。大丈夫だと思うよ。彼らにとっても飯の種が増えるのだから、わざわざ自分が損をするようなことはしないだろう。本家を裏切った時の報復も酷い事になるしね」


 なるほど。話は少しずつでも進んではいるのだな。ならば姉さんも関係を進める努力をするべきだ。そんなことを私と直哉君は話していたが、夕暮れの赤い光が部室に差し込んできた。そろそろ帰ろうと思ったとき、氷上君が顔を上げた。


「静菜さん、確認してもいいか?すみれさんが話していた宮地先生の事だけど、いつもすみれさんに同行してるんだよね?」

「ああ、そう聞いている」


 姉さんと会話した内容はすべて覚えている。氷上君に説明する時に必要になると思ったからだが。


「それっておかしくないか?普通の教師が、いきなりその日の予定の全部を開けられる物なの?自分の受け持ちの授業はどうしたんだろう?」

「その日はたまたま開いてたんじゃないの?」


 直哉君が横から回答する。


「すみれさんは何度か水苑館学院に通ってる。それに全て宮地先生が同行しているんだぞ?私は担当科目がありませんって言ってないか?これ」

「保険医や校内カウンセラーなら担当授業はないから時間を空けられるのではないか?」

「いや、それは別の人が担当している業務だ。確か保険医は成人しても校則守ってる人でカウンセラーは、ロリコンって言ってなかったっけ?」


 私の回答に氷上君が反論してくる。


「それにだ、すみれさんが生徒から聞いた情報だと、その教師は悩みがある生徒につきっきりになって相談に乗っている事もあったと言ってる。やっぱり担当教科はどうしてたんだ?」


 確かにそういわれるとおかしいのか?


「ヒロ、いったい何を気にしているんだ?」


 直哉君が氷上君に質問を投げかける。


「正直に言って疑問なんだよ。その宮地って人は本当に水苑館学院の教師なのか?」

「それってどういうこと?」

「話を聞く限りだと、その教諭は担当教科も担任も持っていない。このご時世で仕事をしない教諭を雇っていられるほど余裕のある学校なんてあるのか?あの学校は私立だろ?私立の学校経営は苦しいってよく聞くんだが」

「それはまあ、確かに・・・」


 彼の疑問は続く。


「疑問はまだある。生徒から聴取した情報では、生活指導の教諭がここ何年間で、数人の退学者を出しているって話だったよな?特に気になったのが、半年前に5分門限に遅れただけで退学になった生徒なんだが、その話が出たときに生徒想いの宮地教諭は抵抗しなかったのか?」


 彼の問いに私は答えることができない。彼は話を続ける。


「普通そんな無茶は通るもんじゃない。たとえ生活指導の教諭が傍若無人に振舞っていても、別の教師からも反論が出ているのであれば、それを利用して学院の上層部も穏便に話を持っていこうとするもんじゃないのか?生徒がお嬢様で親が有力者の場合であれば、特にそうだろ?

 だが結果的に生徒は退学になっている。まるで半年前には宮地教諭はおらず、そういった抵抗がなかったかのように。」


 いいや、姉さんの友人が宮地教諭は学院に努めて長いと証言している。もし氷上君の危惧が正しいなら、彼女はそのとき何をしていたんだ?


「と言う事は・・・」

「静菜さん、すみれさんに連絡取れないか?いやな予感がするんだ」


 私はすぐに姉さんに電話するが、留守電になってしまう。


「ちょっとまずいな。静菜さん、直哉。恥をかくかもしれないが付き合ってもらえないか?」

「水苑館学院へ行くんだな」

「ああ、何もなければ笑い話ですむ。でももし俺の危惧が正しければ、すみれさんが危ない」

「危惧?」

「俺は前世の世界のモンスターが、こっちに来ているかもしれないと考えてる」


 彼はそう言って顔をしかめた。



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