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33_不可能犯罪?

 Side:名取川 すみれ


 私は映し出される映像を見直しながら、熱田さんに顔を向ける。


「念のため確認します。1m未満のスペースで誘拐する方法や前例がありますか?」

「無理だな。そんな前例は聞いたことがない。少しでも抵抗されたらカメラに映りこむ距離だし、もし抵抗されず無力化できてもその後、どう動いてもカメラに映るよ」


 ならば結論は一つだ。これはこちら側の事件であるという事。


「ありがとうございます。状況は解りました」

「じゃあ、ちょっと外で話すか、ムロさん、その映像はいつものように頼む」

「わかっとる。貴様には幼い娘もおるんじゃ。気をつけろよ」

「ああ、わかっている。ありがとう」


 熱田さんと別の部屋に移動した私達は、さっき見た映像について話し合う。


「あれはこっち側の事件ですね」

「やはりそうか」

「初めは神隠しの変形とも思ったんですが・・・」

「神隠しなあ。だがあれは被害者が後で戻ってくるんじゃなかったのか?」

「ええ、そういう場合もありますが、そのまま帰ってこないパターンも多いです。でも死体になって帰ってくるのはあまり聞きませんね」

「そういう場合、何が原因は何なんだ?」

「うーん、いろいろですね。本人の不注意による事故や何らかの事情による失踪もあるでしょうし。でもこっち側の場合はその名の通り神様だったりします。主に山の神様ですね。山の神様に無礼を働いたり、山の中で掟に背く行動を取ったりした場合、隠されてしまうことがあります。言ってみればお仕置きですね。だからお仕置きが終われば、返される場合が多いです。また地方によっては天狗の仕業という所もあります。その場合は天狗隠しと言ったりするそうです」

「なるほどな。死体で帰ってくる今回は特殊と言う事か」

「調べれば同じケースがないとは言えないでしょうけど、私はあまり聞いたことがないです。第一そういったケースが続けばそこは忌地になるはずで、学校の建設や住宅街として分譲が許可されるとは思えません」

「そうだなあ、神隠しの線は薄いか」

「そうですね。そうなると誘拐している方法が気になりますね。私は友人から吸血鬼騒ぎが起こっていると聞いていましたけど、どうやら違うようです」


 私の疑問に熱田さんは不思議に思ったようだ。首を傾げている。


「どうしてそう思う?」

「先ほど見た女性は被害にあった場所と違う所で発見されていますが、吸血鬼にそういった能力はないです」

「でも映画だと蝙蝠や霧に姿を変えて女をさらっていたぞ?」

「確かに奴らは蝙蝠や霧にも姿を変えることができますが、姿が変わってしまうと他の人間を移動させることができません。また吸血鬼は怪力ではありますが、そこまで人間離れしている訳ではありませんよ。あいつらの力では、力づくで移動させることもあの状況では難しいでしょう」

「なるほどな。と言う事は別にホシがいるってことか・・・。それで君はどうする?」


 熱田さんの質問に、私は少し考える。


「現状を実家に報告ですね。あとはこの辺りの担当部署が対応します」

「これで君の役目は終わりかな?」

「いえ、私も調査を続行しますよ?このあたりの部署も人員が足りていませんから」

「どこもかしこも人手が足りていないか」

「ええ、全く。世知辛い事ですね」


 さて次は学院内の情報を集めないとね。私は知佳に後輩を紹介してもらうため、スマホを取り出した。



 私は駅前の喫茶店で、コーヒーを飲んでいる。知佳に紹介してもらった彼女の後輩を待っているのだ。知佳に連絡すると後輩はすぐに紹介してもらえたので、喫茶店まで来てもらうようお願いした。

 学園内について忌憚のない意見を集めるには、他に関係者がいない状況で直接聞くのがもっとも良い方法なんだよね。知佳には情報通の子を3人ほど紹介してもらった。またその子達はばらばらの時間に来てもらうようにした。そうすれば集めた情報のクロスチェックもできるし。


 それから少しして1番目の少女が店に入ってきた。彼女は店の中を見回していたが、手を上げている私に気が付いたのかこちらにやってきた。


「こんにちは~。名取川さんですか?」

「ええ、はじめまして。今日はごめんね、いきなり来てもらっちゃって。どうしてもお話を聞きたくて」

「はい、全然大丈夫です。知佳先輩の紹介ですから。私、知佳先輩に凄くお世話になったんですよ」

「へえ~、そうなんだ」


 彼女曰く、自分の門限破りを何回か目をつぶってもらったとか。お嬢様学校だけあって、門限が厳しく決められていてかなりうるさいらしい。


「私は知佳の依頼で噂になってる吸血鬼騒動を調べてるんだ。そこであなたの話を聞きたいんだけどいいかな?」

「ええ、でも私もそこまで詳しいわけじゃないですけど」

「うーん、どっちかというと学内の事を聞きたくて。まず吸血鬼の噂なんだけど、いつぐらいから流行り始めたのかな?」

「うーん、1ヵ月ぐらい前からだと思います」


 1か月前か。マスコミが事件について報じ始めた頃だからおかしくはないね。


「最近、学内で何か変わった事とかない?」

「うーん、変わった事と言うか、うちの学校はもともと変な先生が多いから」

「変な先生?」

「はい、うちってなぜか教師や職員に変なのが多いんです。例えば自身は保険医なのに学校の校則を守ってる学院OGの加藤とか、私達を見る目が完全にエロ親父のカウンセラーの正辻。こいつは違う学校で生徒に手を出してクビになったって噂があるんです。

 あとホント最悪なのがほんの少しでも校則を破ると、その生徒を退学にしたがる古典の荒井とか。こいつは学院に努めて長いらしくて生活指導の役職についてるんですけど、傍若無人なんですよ。半年ほど前に5分だけ門限に間に合わなかった生徒を退学にしたこともあります。似たようなことでここ2年の間に5人も退学させてますから」


 それは凄い。水苑館はお嬢様学校だけあって、親も有力者の場合が多いはずなんだけど。よく首にならないなあ。


「他の教師も似たようなのばっかりだから、ウチの教師を尊敬している生徒なんていません。宮地先生は別ですけど」


 宮地先生か。あの地味で融通が利かなさそうな先生に人気があるとは、ちょっと意外。


「宮地先生にはお会いしたことがあるわ。非常に真面目そうな先生よね」

「ええ、宮地先生は真面目です。それになにより私達が困っている時は、一日中悩みを聞いてくれたりするんです。だから生徒の間では凄く人気がありますよ。悩みがある生徒はよく先生の所に入り浸っていますけど、先生は一人ひとりにちゃんと対応もしてくれます。あと生徒の処遇で荒木とよく対立しています。生徒は皆、宮地先生を応援していますけど」


 ほほう、思っていたより高い評価が帰ってきて、ちょっとびっくり。イメージ違うなあ。


「そんなにいい先生なんだ」

「ええ、そうなんで・・・。あっ、あの人って」


 彼女は窓の外を歩いている陰気そうな男を見て驚いている。


「あの人、桜井さんっていうんですけど、ウチの学校の校務員さんなんです。いつも他の教師にいじめられてる可哀そうな人なんです。庇うのは宮地先生だけですし。」

「へえ、でもえらく驚いてたけど、どうして?」

「あの人を学院の外で見たの初めてなんです。いつも用務員室か校内にいるので。」


 男性はこの暑いのにスーツの上着を羽織り、下はジーパンと言う非常に変な格好で歩いている。本当に変わった人間の多い学校のようだ。

 私は世間話を交えながらもう少しだけ話して彼女と別れた。ちょっと話過ぎたせいですぐに次の子が来るだろう。私はコーヒーに口を付けた。





「で結局はその後に来た子達も持ってる情報は同じだったんだけどね」


 私と静菜ちゃんは実家の静菜ちゃんの部屋で話をしている。

 父さんへの報告は終わったのだけど、帰り際に静菜ちゃんから話があると呼び止められてしまったのだ。


「それから何回か学院に通ってみたけど、今の所は収穫無しなんだよね」

「なるほど、そうでしたか。しかし吸血鬼とはかなり危険な相手ではありませんか?」

「だから吸血鬼じゃないよ。多分別の妖怪だね。どういう妖怪かはわからないけど」

「隠れ蓑を使った天狗か、それとも特殊な迷い家か?どちらにしろ危険ではないですか?ここは現地の担当に任せるべきでしょう?」

「うーん、首を突っ込んじゃったからねえ。それにマスコミも騒ぎ始めてるし、早急な解決が必要なんだよ。手は多い方がいいでしょう?」

「それはそうですが・・・。それよりも姉さん、いつ氷上君に会うつもりなんですか?」

「え゛?」

「直哉君からも、何時になったら話があるのかと質問があったのですが?」


 あー、ちょっとまずいかな・・・。


「うん、この件が片付いたら、会おうと思ってたの。ほんとだよ?」


 ああ、静菜ちゃんの目が、とても疑わしいものを見る目に変わっちゃった。


「はあ、姉さん、このまま氷上君に会わないままだと、本当に彼との繋がりが切れてしまいますよ」

「うん、わかってる」


 それは解っているのだ。それだけは、彼に会えなくなるのは絶対に嫌。

 だが会うことができない。私はいつからこんなに弱くなったのだろうか?



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