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32_殺人事件?

 Side:名取川 すみれ


「ふーん。吸血鬼が出た、ねえ」


 私は、友人の知佳の声に興味なさげに応える。


「そうなのよ。昨日、久々に母校に行ったら後輩たちが怖がっちゃっててるし、一緒に話してた先生たちも困ってるって」

「警察はどう言ってるの?死人も出てるんでしょう?」

「警察も調べてくれているけどお手上げみたい。すみれちゃんはオカルト研だよね、だから何かわからないかと思って」

「一概に吸血鬼って言われてもねえ。確かに私はオカ研だけど、何でも知ってるわけじゃないよ」


 知佳の少し低い声を聞きながら、彼女が話した怪事件の内容を整理する。


 まず彼女が通っていた水苑館女学院は、お隣の市である飯田市にある有名な女子高だ。キリスト教系の学校で校則も非常に厳しい超お嬢様学校。今時「ごきげんよう」と挨拶する子も珍しくないというのだから相当なものだろう。その反動なのか今の彼女の服装やメイクは非常に派手で、露出度も高いものになっているのだが。


 水苑館女学院に通う学生は独立心を養うという理由で、周辺のマンション等を学院が借り切ってそこに生徒を住まわせているらしい。寮の代わりのようだ。だから学校周辺は学院の城下町のようになっている。

 事件はそんな場所で起きていて、3ヵ月ほど前から学院の生徒や付近に住む住民の間で不審死が広がっているというのだ。その死因は失血死。被害件数もかなり増えており、吸血鬼が出たのではないかという噂が学院周辺に広がっているらしい。


「でもすみれちゃんは1年の時、テニスサークルの事件を解決したよね?だから今回もすみれちゃんに調べてもらえないかと思って。ダメかな?」

「そうねえ」


 私は考え込む。私が入学当初、テニスサークルで起きた事件を解決したことがある。彼女はそれを知っていたので、今回私に話を持ってきたのだろう。だけど別に私が調査する義理や義務はない。

 しかし博人君と会う決心がつかず直君にせっつかれている現状、私には気分転換の必要があるんじゃないだろうか?そうだ、この事件を調査することを区切りにしよう。この調査が終わったら私は彼に会いに行くのだ。


「いいわ、調査してあげる。でも学院内までは調査できないよ。水苑館OGでもないし」

「それは大丈夫。私、生徒会長をしていたから顔が効くの。先生には連絡しておくから」


 この娘が生徒会長って、そういうイメージが全然わかないんだけど。

 まあ、吸血鬼のような大物が動いているなら、中央からの連絡もあるだろうし。何かの間違いだと思うけど、調査することで彼女の気が晴れるならいいかな。

 私はこれからの調査計画を考えながら、次の講義の準備を始めた。





 私は早速、翌日から動き始めることにした。学校関係者に話を聞くのであれば平日に動く必要があるだろう。

 私は登校する他の生徒と一緒に水苑館学院を訪れた。職員室に赴いて扉の近くにいた教師に、アポを取っている教師を呼んでもらう。奥のソファーに座っていた女性がこちらに歩いてくる。知佳に聞いていた宮地という女性教師だろう。この教師はこの学院に努めて長いし信用が置けるとは知佳の言葉だ。

 30代後半ぐらいの女性で分厚い眼鏡をかけ黒髪を三つ編みにしていて、真っ黒で重厚そうな修道服に身を包んでいる。暑くはないのだろうか?

 胸元には銀色の十字架が鈍く光っているが、全体的に受ける印象は地味な堅物だ。

 私は礼拝堂に案内される。礼拝堂の中はかなり広く、話によると生徒が朝のミサで使用するのでそれなりのスペースが必要と言う事だった。


「話は倉持さんから聞き及んでおります。お若いながらこういった問題の専門家だとか」

「あはは、まあ、そうですね」


 あの子、私の事をどういう風に紹介してるのよ。


「さっそくですが今回の件でお聞きしたいことが幾つかあるのですが、よろしいでしょうか?」

「はい、何でもお聞きください」


 私も事前に調査をしたのだが、既に死者は5人も出ている。学院の生徒が4人で残りの1人は学院周辺の居住者だった。共通しているのは、すべて女性であること。それと被害にあった場所と発見された場所が違うと思われる事。これは遺体が発見された場所周辺に血痕や争った跡がない事から、警察はそう考えているみたい。それ以外は目撃者もなし。どの場所で被害にあっているのかもわかっていないそうだ。


「まず今回の件について、吸血鬼の仕業であるという噂が流れているそうですね。これについてどう思われますか?」

「吸血鬼など、空想の生き物でしょう?学生はそういった話題を好むようですが」


 宮地先生はそう言いながら胸の十字架を握りしめる。自身では信じていないと言っているが怯えているのかもしれない。


「なるほど。次ですが今回の件で、学園の生徒さんが被害を受けられていますが、被害者の方に共通点はありませんか?」

「被害にあった子達は学年もクラスの別ですし、特に共通点と言われましても・・・」

「そうですか。わかりました。校内を調査させていただくこともあるかと思いますが、よろしくお願いします」

「はい、その場合にはお声掛けください。私が同行いたします」

「お手数をお掛けしたくないので。一人で大丈夫ですよ」

「いえ、校内を関係者以外の方に自由に行動されるのは困ります。その際は予め必ずお声掛けください。いつでもご一緒いたしますので。お願いします」

「わかりました。では早速ですが校内を調査したいのでお付き合いいただけますか。」

「はい、今日は既に授業はありませんので。それではご一緒しますね」


 私のお願いに宮地先生は席を立つ。まあ、仕方ないか。ここってお嬢様学校だしね。でもできれば先生がいない所での話が聞きたかったんだけどなあ。それは知佳に頼んで後輩を紹介してもらえばいいか。私はとりあえず校内を1周することにした。




 うーん、一周したけど特に何もなかったなあ。校内を回る時、術検知もやってたんだけど特に引っかからなかったしね。私は術検知にあんまり得意じゃないから、念入りに隠蔽されてたらどうしようもないんだけど。


 私は宮地教諭にお礼を言い学院を辞した。次は警察だね。知り合いの刑事に電話で少し話は聞いた時、見てもらいたいものがあるって言ってたし。私は愛車に乗り県警に向かった。






 県警に着いて知り合いの刑事に電話をすると、3Fの鑑識課に来て欲しいと言われた。

 鑑識課に呼ばれるのは初めてだけど、とりあえず向かうと扉の前で禁煙グッズを咥えた知り合いの刑事が立っていた。


「こんにちは、熱田さん。タバコはやめられましたか?」

「ああ、もう12時間も禁煙してる」

「それは禁煙とは言わないでしょうに。また留美ちゃんに怒られますよ?」

「ああ、今回はこのままやめられそうなんだ。期待していてくれ」


 熱田さんは、うちの大学のテニスサークルの事件を調査している時に知り合った刑事さんだ。彼は裏の事件に関係したばっかりに、それ専門にされてしまったらしい。本来なら警部補と言えば書類仕事がメインになるはずなのに外回りばかりしている。本人はこっちの方が性に合っていると言ってるけど。


「それで私に見せたいものって何ですか?」

「ああ、監視カメラの映像なんだがな。どうなってるのか俺にはさっぱりわからん。専門家に見て貰った方と良いと思ってな。さあ、中に入ってくれ」


 中に入ると白衣を着た初老の男性がディスプレイを見ている。


「ムロさん、悪いがさっきの映像をもう一度見せてくれねえか?彼女に見せたいんだ」

「彼女が専門家ってやつなのか?ずいぶん若いな」


 そう言いながら男性はディスプレイの前に椅子を用意してくれる。私はそこに座りながら画面を見つめる。

 ディスプレイの映像は左右で分割されていて、同じ場所を違う方向から映したもののように見える


「この映像は4人目の被害者の姿が最後に映したものだ。場所は3丁目の住宅街の道なんだが、左右の映像は同じ道を違う角度で映している。それじゃ再生するぞ」


 映像の再生が始めると分割された左の画面にスーツ姿の女性が歩いてくるのが映っている。そしてそのまま画面を右に向かって横切って消える。だが彼女の姿が画面に再び映ることはなかった。


「この左右の画面は同じ道を映していると言ったな。この左右のカメラには死角があるんだが、映っていない箇所は1mもないんだ。だが彼女にはその死角の場所で何かがあったようなんだ」

「この道は住宅に挟まれていますよね?挟んでいる住宅の庭から、何かされた可能性はないんですか?」

「この映像を見ると、道を挟んでいる家には、これが撮影されている時間に両方とも人がいる。家の明かりがついているだろう?念のため、当時の状況を聞き込みしたが、特に騒ぎはなかったそうだ」

「じゃあ、このカメラが映っていない1m未満の隙間で誘拐され連れ去られたと?」

「カメラの映像を見るとそうなるな」


 私は部屋の温度が下がったように感じた。



拙作を読んで頂きありがとうございます。

私事で恐縮ですが、仕事の環境の変化に伴い執筆時間が取れなくなり今後の更新が難しい状況です。

その為本作品は今回の事件で一旦、第一部完結という形を取らせていただきます。

また時間が取れる様になれば第二部を開始したいと思いますが、何時になるかは解らない状況です。

ただできれば短編や中編を更新していきたいとは、考えております。

第一部完まであと5,6話ほどですが、最後までお付き合いいただければ幸いです。

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