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36_静菜&直哉 vs ワーウルフ

 壁に激突した俺に獣人が爪を振るおうと突っ込んでくる。俺は慌てて体勢を立て直して剣を横薙ぎにして迎え撃つと、奴は素早く後退し、女の傍に戻る。くそっ、一撃ですべてを決めようとするのは考えが甘すぎたか。


「氷上君!大丈夫か?」

「ああ、大丈夫だ。


 静菜さんの声に俺が答える。静菜さんと直哉はすみれさんの近くに移動し、奴らをけん制するように陣取っている。

 俺も自身に癒しをかけながら彼らのもとに移動し、長剣を構え直す。



「伯爵夫人、お気をつけ下さい。あの者かなりの使い手です。戦棍術どころか断剣術まで使うとは」

「ふむ、なかなかの兵よの。まてよ、わたくしに対するあの戯言と言い、多流派の戦闘術を使いこなす腕と売女の神官魔法といい、まさか・・・」

「伯爵夫人?」

「貴様、もしやガイドラか!ほほほ、あのチビ樽が人族になったか、ほほほほほ」


 くそっ、バレたか。


「貴様がいるのであれば、わたくしも仮の姿でいる意味はないのう」


 ノーブルヴァンパイアが笑いながら右手を振ると、その姿が変わる。やはり変身(ポリモルフ)の魔術か。変わった姿は俺のよく見知っている金髪紅眼の美しい女だ。


「まさか人族になった貴様に会うことになろうとは。しかし全く面白き縁よな。貴様に追われた私が、全く違う世界でまた顔を合わせるのだから。そういえば貴様はわたくしを取り逃がしたとして、神殿で冷や飯を食わされたのであろ?あれを聞いて少しは留飲が下がったものよ」


 高い声で女は哂う。


「しかし神殿も俗物しかおらぬな。龍殺しを冷遇するなど、他の人族でもなかなか聞かぬ」

「俺は龍殺しじゃない」

「ふむ、確かに勲しを歌われておったのは、お主以外の6名だったの。だが歌われておった者全員が、お主がいなければ古龍殺しはならなかったと申したそうではないか?」


 くそったれ、くだらない事ばかり知ってやがる。俺の刺すような視線が心地よかったのか、また哂い声をあげる。だが今はチャンスだ。奴は俺を嬲ることに快感を覚えている。今なら出し抜けるかもしれない。俺は隠れてハンドサインを直哉に送る。頼む、通じてくれ。


「ほほほ。なぜわたくしが知っているかわからぬか?わたくしは伯爵夫人として社交界に出ておったのだぞ?貴族があの程度の事でわたくしとの縁を切ると思うか?」


 確かにこの女の美貌と財産に目が眩んでいた奴は多かった。ヴァンパイアとわかっても縁を残していた貴族も多かっただろう。そこから情報を集めたのか。


「しかし、嫉妬とは恐ろしきもの。神殿の大司教じきじきにお主の功績を否定したのだから。まあ仕方あるまいか。古龍殺しを成した者を大司教に就けぬ事などありえん。そうなれば自身の地位が危うくなる。そうなれば例え聖職者であろうとも悪魔にも嘘つきにもなるか?ほほほほほほほ」


 俺が悔しそうに歯を食いしばる様が楽しいと見え、女の笑い声は哄笑に変わりつつある。

 そろそろ頃合いか。直哉へハンドサインでGOサインと出すと同時に変換杖をハルバートに変えワーウルフへ突っ込むと奴が俺を迎え撃つように構える。


「こいっ!あの時の借りを今返してやろう!」

「ここで殺す。あの時は取り逃がしたが、ここで必ず殺す!」


 俺は、振りかぶったハルバートを力任せにワーウルフに打ち込むが、紙一重で避けた奴は俺に切り込んでくる。俺は防ぎきれずいくつかの切り傷をもらう。


「くっ!」

「どうした?まだ始まったばかりだぞ!」


 俺は攻撃をもらいながら少しずつ後退する。傷は増えていくが、何とか深い傷は受けていない。そして奴の攻撃が激しくなり俺の出血が増えると女の顔に喜色の色が増していく。そのことにワーウルフは気が付いたのだろう。殺すというより嬲るような攻撃に変わっていく。主人が喜ぶように戦うとはずいぶんと余裕だな。だがこれはワーウルフも油断しているという事だ。であればもう少し時間を稼げるだろう。今の間に静菜さんと直哉の作業が終わることを祈りながら、ワーウルフとの攻防を続ける。


「ヒロ、もう大丈夫だ」

大祓(おおはらえ)!」


 直哉と声と静菜さんの力ある言葉と共に、9つの光がワーウルフに迫る。奴は慌てた様に体をひねりよけようとするが、俺は奴が体をひねろうとした方向にハルバートを打ち込み逃げ場所をなくす。ワーウルフは、それに驚いたようで体を硬直させてしまい、結局静菜さんの術が命中し爆発する。


「ぐああああ!」


 奴の絶叫が礼拝堂に響く。爆発の煙が治まると左半身を血まみれにし、煙を上げているワーウルフが身悶えしながら立っている。


 俺がハンドサインで頼んでいたのはすみれさんの救出だ。今の彼女は縛っていた縄から解放され直哉と静菜さんの傍の椅子に座っている。まだ目がぼんやりとしているから薬を盛られていたのかもしれない。だがとりあえず人質には気にしなくてもよくなった。

 よし、これで後顧の憂いはない。明日以降の事は考えず、こいつらはここで殺す!


 俺は能力開放を自身が壊れない限界まで行い、ワーウルフに突進しながらハルバートを振り下ろす。しかし頭を割る寸前で奴の体が吹き飛びハルバートを躱される。女がいつの間にか近くに降り立ち、ワーウルフを蹴り飛ばしたのだ。


「ずいぶん乱暴なやり方だな。お前の部下でいるのは大変だな」

「ほほほ、命を失うよりかはましであろ?それに無能であっても召使はこれしか残っておらぬ。少しは大事に使ってやろうとも」

「伯爵夫人、申し訳ございません」

「構わぬとは言わぬ。そこの人族二人の相手を貴様がせよ。できれば女は生かして捕らえよ」

「ははっ、必ずや!」


 ワーウルフはボロボロの体で静菜さんと直哉に向き直る。

 静菜さんと直哉も短刀と発動体の指輪をはめた手を構える。

 女は特に構えることはなく自然体で立っている。

 俺は変換杖を長剣に変え、構える。

 ここに俺達とヴァンパイア達との変則的なタッグマッチが始まった。





 Side:名取川 静菜


 重傷を負っているとは思えないスピードだ。氷上君はよくこれの相手を出来ていたものだ。私も直哉君も体術は仕込まれてきたが、重傷を負わないように避ける事で精一杯で反撃になかなか出ることができない。それどころかこちらの傷が増える一方だ。しかし奴も先ほど食らわせた術がかなり効いているようで休み休みの攻撃になっている。

 氷上君の状況も決して良くはないようだ。ここは賭けに出るしかない。


「直哉君、このままでは磨り潰されてしまうだろう。それを回避する為の作戦を考えた」

「状況がよくないのは解っているけど、どうするの?」

「今は接近戦を仕掛け、一撃で勝負を決めるしかない。そのためにだな・・・」


 私の伝えた策を聞いた直哉君は、顔を強張らせて反論しようとする。


「そんな方法は・・・!」

「静かに。今はこれしかない。もしこのまま戦い私達が倒れてしまうと氷上君は2対1、いいやそれどころか私達が人質にされてしまうだろう。そうなれば氷上君がどうするか、直哉君は解っているだろう?」


 彼は少しだけ考えていたが、状況が悪い事を理解していたのだろう。すぐに承諾の返答を返してきた。


「かなり無茶な作戦だから、先に防御術式をかけるね。後、無理だと思ったらすぐに実行をキャンセルすること。これは約束して」

「わかった。防御術式を頼む」

「それじゃあ、かけるね。防壁(プロテクション)


 私は休憩の終わった獣人と向かい合う。私のすぐ後ろで直哉君が控えてすぐにフォローできる体制を取る。

 獣人は苦しげな声を押し殺しながら構える。


「貴様たちのような年若い人族がここまでの腕を持つとはな。誉めてやろう。だが俺もご主人様の期待に応えなければならない。だからここで死んでくれ」

「それは聞けんな。退魔の巫女としても、一人の乙女としても」

「そうか、仕方がない。始めるか」


 私達は同時に構えを取る。奴は腰を少し落とし、自身の両手を胸の前に構える。私も短刀を胸の前に構え、突撃する。奴も私に向かって大きく跳躍して、私の首に手を伸ばす。私はその攻撃を自身の体を深く沈めることで回避し、目の前にある奴の腹に短刀を刺す。しかし奴の体毛は硬く刃がほとんど入らない。


「直哉君!」

念動(テレキネシス)!」


 直哉君の「念動(テレキネシス)」で私自身を砲弾の様にして奴にぶつける。奴は抵抗も出来ず、礼拝堂の壁に向かって私を一緒に飛んでいき、壁に激突する。私は飛んでいる最中に唱えていた術を、深く刺さった短刀の刃を介し獣人の腹に打ち込む。


(はらえ)!」


 私の力ある言葉が発すると同時に、奴の腹が目の前で消し飛んだ。



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