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30_ヒロの怒りと直哉の馬鹿退治

 スーツを着た50代ぐらいの傲慢そうなおっさんが、インビジリティを使っていた軽薄そうな男を引き連れて諏訪ノ森さんの前に立っている。


「我々としてはだね、こういった事態は困るのだよ。もともと今回は考古部の皆さんには、お休みいただくようにと通達しておいたはずだ。それを現場のミスで考古部の方々にご足労頂くことになっている。これは責任者である君の失態だ。この責任はどうやってとるのかね?」


 いやらしく笑いながら嬲るように難詰するおっさん。後ろでは媚びるような顔で男が笑っている。


「確かに考古部には今回の作戦からは外れてもらっていました。またその考古部に救援を依頼せざる負えない状況になったのは私のミスです。しかし人命が掛かっている状況を打破できるのは、考古部しかいないという私の判断に間違いはないと考えます」


 諏訪ノ森さんは相手の眼を見てはっきりと言い返す。


「学生よりも技術が下であると認める専門家とは。情けないとは思わんのかね?しかもだね君、探索を得意とする彼を戦闘に巻き込むとは君の部下は一体何を考えているのかね?まったく、どういった教育をしているのか」

「私もいきなりの指示で困ってしまいましたが、第三課の課長代理のお言葉では・・・」


 洞窟の部屋の中にいた人に聞いたけど、あのインビジリティの軽薄野郎は自分で志願したんじゃねーか。しかも戦闘も任せろって言っていたらしいし。

 くそっ、先生や部長達はまだ討伐作業を行っているようで、近くに姿が見当たらない。


「今回の件での君の責任は重大すぎる。進退について考えるべきではないかな?私としても市長に正式に抗議をさせてもらうよ」


 なんだこれは?考古部に依頼したことが罪だと?そして全部の責任が諏訪ノ森さんに押し付けられるというのか?

 こんなバカな話はない。まただ。また現場を知らない馬鹿共の愚かな行動により、最前線に立ち、身を削って戦う者が排除されるのだ。そして()()()()()()()()()()()()()()()()()()?冗談じゃない!

 俺は車を降り、おっさんたちに叫ぶ。


「あんた、何言ってんだ?ふざけんじゃねえ!」

「氷上君・・・」

「ヒ、ヒロ。落ち着いて。いったいどうしたの?」


 俺と一緒に車を降りていた直哉の声を背中に受け、そちらを振り向くと直哉は後退った。今の俺の顔はおそらく怒りのあまり歪んでいるのだろう。俺はおっさんに向き直り、怒りのままに言葉を続ける。


「てめえのような奴が前線を崩して死人を生むんだよ!現場も知らない、敵も知らない、何も知らない奴が賢し気に口だけ出しやがる。だからと言って自ら戦う訳でもねえ。戦う者を援助をするわけでもねえ。ただただ不平不満をぶつけるしかできないクソ野郎だ!最前線で戦っている者の邪魔しかできないのなら失せろよ!」

「き、君、無礼ではないかね!大体名乗りもせず、いったい何様なんだ!」


 俺が言葉を続けようとすると直哉に肩を強く引かれた。俺が振り返ると直哉が言う。


「ヒロ。ここは僕に任せて」


 俺は直哉の顔を睨みつけるが直哉の笑顔は変わらない。

 肩を落とし、直哉に任せることにした。





 Side:加賀谷 直哉


 しかし驚いた。ヒロがここまで怒り狂う姿を初めて見たから。子供の頃から鍛えられてきた自負のある僕でも、彼の怒りの顔に恐怖心を抱いてしまうほどだった。

 だがヒロのセリフから考えると彼は“昔”、こういった状況で大切な何かを失ってしまったのかもしれない。


 しかしこういった政治家相手に感情任せに相手をしてもこちらが不利になる。

 ここは僕が引き受けるべき場面なのだろう。にこやかに笑いながら男に話しかける。


「どうも、お久しぶりです。西村議員」

「やあ、これはこれは、加賀谷の若ではないですか!ご無沙汰しております」

「こちらこそご無沙汰しております。友人が失礼なこと言い、申し訳ありませんでした」

「若のご友人でしたか、ははは、若者の正義感が暴走してしまったのでしょう。私は気にしておりませんがね」


 なるほど、さっきのヒロの事は貸し1つだぞ、ということか。相も変わらず愚かで鈍感で強欲な男だ。

 この男は自分が現在、後援会を主催している名取川から捨てられそうになっていることに気が付いていないし、情報を集めることも出来ていない。自分ことでさえ何もわかっていないのだから当然、僕が当主に就任したことも知らない。だから僕の事を今でも“若”と呼ぶのだ。

 この男の父親は傑物で、名取川の後ろ盾を得て国会議員にもなったが息子はこの程度だ。3年前に父親が病死したのが悔やまれる。


「あははは、ありがとうございます。それでですね、先程からのお話で気になることがありまして。」

「ほほう、それはどういった事ですかな?」

「市議会の皆様から考古部に対しお休みを頂けるとか?」

「ええ、考古部の皆さんはこの市の宝です。われわれの誠意とお考えいただきたいのです」

「なるほど、市議会議員の皆様のご厚意と考えてよろしいのでしょうか?」

「まあ、一部の市議の中には考古部の重要さをわかっていない者もおりますが、私と行動を共にする大勢の人間の気持ちとお考え頂きたいですな」


 なるほど、考古部に休みを送ることで恩を売っているつもりなんだ、この馬鹿者は。

 そしてこの手柄は自分の指名した者のみに送られると。そしてそれは自分の胸先三寸であると。それを餌に自身の派閥を拡大する気かな?

 でも前提が間違っているんだよね。考古部を知っている人間ならこんなのには絶対乗らないのに。

 まあ、いい。こいつを叩きすぎて市議会全体に影響が出て、結果としてこちらに被害が出ても馬鹿々々しい。

 それにヒロもこいつが痛い目を見れば留飲を下げてくれるだろう。もしどうしても我慢がならない、派閥ごと潰せというならその時にすみれさんと相談すればいいかな。


「なるほど、でも疑問が残るんですよね」

「疑問ですかな?」

「ええ、いつから市議会は、この市の第一担当部署である考古部の情報優先権に干渉することが許されるようになったのでしょうか?」

「え?」

「だってそうでしょう?今回の件は顧問の可児先生や部長も知りませんでした。これは我々の情報優先権の重大な侵害です。それに本来であれば矢面に立つべき我々を休みと言う形で意図的に現場から外すとおっしゃる。これはこの市の第一担当部署である考古部に対し、現場から外すという命令権を鹿海市議会は所有しているとお考えだということになります。当然、本来命令権を所持している文部科学省や宮内庁も同意の上と考えてよろしいですね?」

「いえ、我々は決してそのようなことは・・・」


 男は焦ったように言い訳を始める。自分の言っていることがどれだけ危険なことなのかわかっていなかったのだ。本当に愚かだ。


「西村さん、焦ることはありませんよ。こんなガキ、ちょっと脅かせばすぐに黙りますので」


 そう言いながら馬鹿な男の後ろで立っていた軽薄そうな男が僕の胸倉を掴む。

 馬鹿な男には馬鹿な部下しか付かないのだろう。適当にあやしてやろうと思ったけど、ヒロがあっさりと男を取り押さえる。無手格闘術も修めているなんて、さすがヒロだ。本人は以前の俺は真面目だったと言っていたが、案外本当かも知れない。


「ずいぶんと乱暴な部下をお持ちの様で。()()()()()()()()()()()()()()()と、疑問に思ってしまいますよ。」


 僕の言葉に顔を真っ赤にする馬鹿な男。


「は、ははは。これは手厳しい。でも加賀谷家としても名取川家と対立するおつもりも無いでしょう?・・・いい加減子供の駄々に付き合う気はないんだ。細かいことをグチグチと。これ以上私を侮辱するのなら、お前のお父様に報告することになるぞ。いいのか?!」


 この男は救いようがないな。愚かで鈍感で強欲な上、下種だったのだから。

 彼女達も戻ってきたし、さっさと現実を見せてやるとしよう。


「構いません。でも父と会うことは難しいと思いますよ。別館から出ることはないので」


 加賀谷本家の別館とは、幽閉先を意味している。あの馬鹿親父は放っておくと何人兄弟姉妹を増やすか、わかったもんじゃないからね。


「な、貴様当主を幽閉したのか?!」


 馬鹿は本当に理解が遅い。


「今の加賀谷家当主は僕です。あなたは自家に来ている挨拶状もまともに見ていないのですね?」


 僕は当主のメダルを胸元から見せながら言う。


「なんという事を!こんなことを名取川家が認めると思っているのか?!」

「逆になぜ認めないと思うのですか?」

「馬鹿々々しい。貴様のようなひよっこに、加賀谷一族を任せるとでも思っているのか?名取川の御屋形様には、私から報告しておく。厳しい沙汰が下るだろう。震えて待つがいい」

「なるほど、ですが伯父さんがどう考えているのかという事であれば、ここで聞けばいいでしょう。名取川さん、伯父さんはどう言っていたの?」

「お父様は「大変目出度い事だ。これからの加賀谷家に非常に期待が持てる」と言っていた」


 僕の問いかけに、静菜ちゃんが回答する。

 僕が「静菜ちゃん」と呼ぶとヒロの眼が少し怖くなるから、ヒロの前では「名取川さん」呼びにしている。思っていたよりヒロって嫉妬深いんだよね。


 静菜ちゃんが戻ってきたことに気が付いていなかった馬鹿な男は震え狼狽えるばかりだ。


「第一、分家の継承内容に本家は口を出さないということは暗黙の了解の内だろう?そこの男性が何を言っているのかわからないな」


 名前すら自身の後ろ盾の娘に覚えられていないということが、この男の能力を現しているのだろう。



 静菜ちゃんの言葉が止めとなり、馬鹿な男は軽薄な男を連れて肩を落として帰って行った。自分のこれからの未来がよくわかったのだろう。

 僕は一息つくと、ヒロが後ろから抱き着いてきた。


「直哉、ありがとう。俺じゃあ、文句を言うだけで諏訪ノ森さんは救えなかった。本当にありがとう」

「気にしないで。親友だろ?僕達」

「ああ、そうだ。親友だ」


 泣き笑いのヒロに抱き着かれている僕を見て、静菜ちゃんの機嫌が見る見るうちに悪くなっていく。

 やめてね。僕にそんな趣味はないよ。だから僕に嫉妬しないで。



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