28_鬼退治①
Side:萩原 巌
探索は順調に進み、ここが3つ目の洞窟だ。今までも黒鬼達が何匹か出たが、この班の戦力であっさり殲滅できた。霊探偵とやらは働いてはいないが邪魔にもならないので放置している。スワさんからは目を離さないようにと言われているが、今のところ問題はなさそうだ。
しかしこの黒鬼の数からいって真鬼が発現しているのは間違いないだろう。そしてここは一番広い洞窟なので、おそらくここに真鬼がいるのだろう。洞窟の岩肌は荒く内部は入り組んではいるが、道幅や高さも十分あり巨大な鬼が移動できるようになっている。まずはどこにいるかを発見し援軍を得てから殲滅だな。作戦を思い出しながら道を進むと、少し大きめの部屋に出た。地図を見るとここは突き当りのようだ。
警戒しながら部屋を探索していると、部屋の中に大きな鈍く輝く白い塊が転がっている。確認のため同じ班の術者が塊に触れると、それは立ち上がって腕を振り回し術者を打ち払う。術者は壁面まで飛ばされ激突し、うめき声をあげている。まずい、真鬼だ!
「幹子!洞窟から出て援軍を呼んでくれ!このままでは全滅する!」
「しかし!」
「急げ!時間がない!」
「はいっ!」
幹子が部屋の出口に向かって走り出す。
さて少しの間、注意をこちらに向ける必要がある。俺は装填済みのボウガンを取り出し、奴に照準を合わせる。
俺は奴の注意を自分に向けるよう術者から離れながら、ボウガンを打ち出す。しかし白い輝きに阻まれて矢が刺さらない。あれは鎧だ。しかも西洋の騎士が着ているような鎧。いつもぼろ布を纏っている程度の真鬼があんなものを着ているんだ?
鎧の理由は解らなかったがとりあえず時間は稼げた。術者たちの詠唱が終わり、力ある言葉に反応して術が解放される。真鬼が爆発に包まれて見えなくなったが、あれだけの攻撃を食らえばたとえ真鬼とは言え、ただでは済まない。
そう思った矢先、煙の向こうから白い塊がこちらに突っ込んでくる。そしていつの間にか持っていた巨大な金棒を振り回し始める。
術者の一人が金棒にあたったようで吹き飛ばされるのが見える。俺は注意をまた自分に引き付けようとボウガンを構えると、霊探偵とやらが大声で悲鳴を上げながら部屋から出ていくのが見えた。
真鬼は残った俺達を逃がさないようにする為か、出口に立ち塞がり黒鬼の召還を始める。
最悪だ。閉じ込められてしまった。このままでは黒鬼に数で押し潰されてしまう。俺は班のメンバーを一か所に集めて自身の能力を使う。今は援軍が来るまでの時間を稼ぐべきだ。幹子は無事に外に出られただろうか?
Side:諏訪ノ森 湊
「現在、洞窟内部で真鬼と交戦中!至急増援をお願いします!」
洞窟の中から走り出てきた幹子の声を聴いた私は、すぐに待機中の術師に声を掛ける。
「後詰のメンバーはすぐに準備、3分後に洞窟内に突入。指揮はウチが取る。幹子、道案内よろしくな!」
「はいっ」
「あと中の状況の説明をよろしく」
ウチは幹子から状況の説明を受ける。その中で気になったのは、真鬼が身にまとっていたという白い輝きだ。真鬼が鎧?ぼろ布を纏っているのがせいぜいで全裸の個体も多いのに。何かがいつもと違う。これは注意が必要だ。洞窟の中に入る前、班員に重ねて注意を促す必要があるだろう。
「準備ができました」
後詰班で一番のベテランがそう報告してくる。ウチはそれを聞いて洞窟に突入するよう指示を出した。
「あの真鬼には攻撃術式が効きません。おそらくは身にまとっている白い鎧が原因だと思われます」
班員の術師から、報告が上がる。ウチらは今洞窟の突き当り手前で立ち往生している。ゲンさんがいるはずの部屋の前に、黒鬼を大量に引き連れた真鬼が立ち塞がっていて、前に進めないのだ。
洞窟内は広くはあるが、今回の山狩り部隊をすべて投入できるほどは広くない。真鬼に接近戦を仕掛けるのは無謀なため、術式や弓矢等による遠距離攻撃を仕掛けているが交替しながらの連続攻撃も効果が薄い。真鬼には術も弓矢も効かず、配下の黒鬼の数は減らしてはいるが、減った同数を召喚されている為、このままだとこちらの術力や矢が尽きてしまう。
幹子は中の様子が見えないことが不安なようだ。
「スワさん!ゲンさんは無事なんでしょうか?」
「ゲンさんの隠形術ならかなりの間、粘れるやろうけど・・・」
ゲンさんの隠形術はかなり特殊で大きく動かない限り、自身と数人なら長時間隠れることができる。ゲンさんは昔警官だったがこの能力を見込まれて、第三課に来たという経緯がある。だがすでにかなりの時間が経過している。あと2,3時間程度は持つかもしれないが・・・。その後は数に押しつぶされるしかなくなってしまう。
「ウチは一旦ここから出て救援依頼を出してくる。幹子、指揮お願いできるか?」
「え、救援依頼ってどこに?」
「考古部や。もうあそこしかない」
「でも考古部に依頼するとスワさんの立場が・・・」
「もうそういう事を言うてられる場合やない。今は最大戦力をあいつにぶつけるしかないんや。ここは頼んだで」
「了解です、指揮を引き継ぎます!」
ウチは洞窟の出口に向かって走り出した。
Side:氷上 博人
夏休みは最高だ。週に何回か部活に顔を出していればよく、それ以外は直哉の家に遊びに行くか、家で惰眠をむさぼっていればいい。面倒なこともあの廃レストランの一軒からは起きていない。俺はその日もだらだらと過ごそうとテレビの電源を入れた時、スマホが震えていることに気が付いた。見ると部長からである。
「氷上君、すぐに部室に来て。緊急の要件なの」
「はい、わかりました・・・」
だらだらとした一日が奪われたことに、俺は気が付いてしまっていた。
俺が部室に着くと、静菜さん以外は揃っていた。
「かなりの緊急事態。すぐに準備して。準備が終わったら駐車場に来て」
その言葉を聞き、俺は部室に置いていたお手製のメイスと盾が入っている剣道の防具袋を持って駐車場に急ぐ。駐車場には前にも乗った黒のワンボックスが待機しており、それに飛び乗ると、車は走り出す。
「静菜さんは乗っていませんがいいんですか?」
「彼女は先に現場に向かっている。向こうで合流だね」
副部長が爽やかに返してくる。
運転手の甲斐先生から状況の説明があった。また第三課案件か。まあ第一担当部署である考古部が学生の部活だから、あの人たちが問題の矢面に立つのは仕方ないよな。しかし術が効かないってのは厄介だな。殴り倒すしかないんじゃないのか?
車で1時間ほど走ると現場に着いた。先に到着していた静菜さんが手を振っている。
「名取川、状況はどうだ?」
「よくありません。まずは現場までご案内します。諏訪ノ森さん達もそこにいます」
俺達は松明を持つ静菜さんに先導されて、洞窟に入る。20分ほど歩くと洞窟の先の方で爆発音が聞こえる。何らかの術だろう。洞窟の奥の方で諏訪ノ森さんが指揮をしているのが見える。
「諏訪ノ森さん、考古部到着しました」
「静菜ちゃん、ありがとうな。皆もいきなり呼び出して、ほんまごめんな」
諏訪ノ森さんは笑顔でそう詫びてくる。だが顔に浮かんだ焦りと疲弊は隠せていない。
俺達が彼女から説明を受けた状況は、その昔モンスターにダンジョンの奥に閉じ込められた騎士を助ける依頼を受けた時とよく似ていた。まあ、その騎士は助けに行った時にはすでに死んでいたのだが。
今回はそうならないようにしないとな。俺がそんなことを思い出していると、隣では諏訪ノ森さんと部長等が救出計画を立てている。
「このままやとゲンさんの隠形術も切れてまう。でもあの真鬼がどうしても倒せんのや」
「術が効かないとのことでしたが?」
「そうや、遠距離術式や、弓矢やボウガンで攻撃しとるけどすべてあの鎧で防がれてまう」
「それはやっかいですね」
「もうウチらでは打つ手がないねん・・・」
俺が洞窟の入口を陣取っている3メートル弱のでかい人型を見る。なるほどマジックアーマーか。おそらく魔術抵抗が付与されているのだろう。全く厄介だ。
俺はあの鎧を何度も見たので構造も頭の中に残っているのでわかったが、あれは元の鎧に真鬼が手を加えて自らが着ることができる様にしたのだろう。一部荒縄で鉄板を繋げている箇所が見える。なんとも雑な仕事だ。
しかしなんというか、あちらの物品までこちらに流れ着いているとは。何度もやり合った邪教団のシンボルが胸に掘られている鎧を見て俺は嘆息した。
諏訪ノ森さん達が作戦について話し合っているのを聞きながら、俺もあいつを打ち倒す方法について考えた。シンプルな方法がいいだろう。幸い装備も最低限は整っているし。
「あのー、作戦を思いついたんですが・・・」
「どんな作戦なんや?聞かせて?」
諏訪ノ森さんが憔悴した顔を俺に向けた。




