27_懐かしい夢と夏休み
Side:○○○○
曲がりくねった洞窟の先には広場のような空間が広がっている。
わしは、兜のバイザーを下ろし両の手に持っているアダマンタイト製の斧と盾を構え直す。
パーティーの仲間も各々、警戒のレベルを引き上げた様で、各自で周辺を警戒しているのがわかる。
わしらが部屋の中央あたりまで来たとき、唐突に天井が光り出した。
転移紋だ。床ではなく天井に書いてあるとは!
天井からわしたちに向かって白い塊が落ちてくる。
わしらは急いで白い塊から距離を取ると、白い塊はわしの4倍ほどの人型を形どり、巨大な斧を振り回し始めた。
グレーターミノタウロスだ。まさか上位種の魔獣とは。
しかも着込んでいる白い鎧はマジックアーマーだろう。厄介なことこの上ない。
「雷撃鎖!」
グレーターミノタウロスの体に輝く鎖が巻き付く。〇○○の賢者魔術だ。飲んだくれの若作りが仕事をしよったわ!
「ウィンドストーム!」
高音の美しい声が響くと、グレーターミノタウロスを空気の刃が切り刻み始める。
耳長性悪の精霊魔法だ。
2つの魔法に苦しんでいたグレーターミノタウロスは斧を構え直し、大きく吠える。
すると白い鎧が光り出し、巻き付いていた輝く鎖と風の嵐が消し飛んだ。
魔法を抵抗されたのだろう。こやつには魔法は効きにくいという事か。
それであればわしらの出番だ。両手剣を握りなおした仲間の騎士と一つ頷き合うと、わしらはグレーターミノタウロスに突撃した。
俺はベッドの上で目が覚める。懐かしい夢をみた。昔の夢なんて最近は見ることはなかったのに。
神殿にこもっているより、仲間たちと冒険をしている方が楽しかった時期の夢だ。
昔の俺の宝物のような思い出だった。
俺はしばらく夢の余韻に浸っていたが、ベッドから起き上がり頭を一つ振る。
さあ、今日から夏休みだ!
Side:諏訪ノ森 湊
「これは酷い。しかし野犬の可能性はないな。熊の可能性は・・・。」
ゲンさんの声が聞こえる。
カメラのフラッシュが炊かれ警官が行き来している中、担当刑事と話を終えたウチは大きな岩の周囲に散乱している、肉のついている骨を見ながら考える。
半分に割れた頭蓋骨など、乱雑に食いちぎったと思われる遺骨の状況は、大型動物が食い荒らしたと言ってもいいかもしれない。
「どうやろなあ、ウチはこっち側やと思うんやけど」
ウチの言葉にゲンさんは諦めた様にため息をつく。
「確かに熊の目撃情報は最近ありませんでしたから、その可能性が高いでしょうね。だとすると不味いです。最近のこの山での失踪件数は増えています。全員が餌食になったとは思いませんが、危険な相手なのは間違いないでしょう。山を封鎖できますかね?」
「うーん、とりあえず熊が出たことにして封鎖しよ。でも封鎖いうても限界があるし、入ろうとする人間はダメ言うても入ってくる。早急に専門家集めて山狩りするしかないかあ。予算足りるんかいな」
今後作らなければいけない書類の数にげんなりとしていると、あまり聞きたくない音が聞こえる。
さっきから木の陰で同僚の幹子が吐いているのだ。
新人にはちょっとショックな光景だったかもしれない。
「そうですね、ではいったん戻りますか。幹子、そろそろ戻るぞ。大丈夫か?」
「あ゛い゛い゛い~。だい゛じょぶでず~」
「あちゃー、若い女の子がしてええ顔ちゃうで。ほら、ハンカチ」
彼女は手に持ったペットボトルから水を口に含みうがいをしてから、ハンカチを受け取った。
「ああいうグロいのはいつまでたっても慣れなくて。すいません」
「そのうち慣れるよ。俺も警官だった頃は何度も吐いたもんさ。慣れだよ、慣れ」
「うー、それだったらいいんですけど」
現場の刑事と少し話してから帰ることを伝える。車に乗り込み走り始めると、ゲンさんが報告する。
「スワさん、警察には山の封鎖を行ってもらうよう依頼しました。専門部隊に依頼するとのことです」
「マルカイやね、了解」
「ただこれから夏休みが始まるので山に入ろうとする若いのが増えるだろうとも。」
「そやね、なんとか早期に解決せんと。ゲンさん、ありがとう。ああ、あと山狩りを手伝ってもらうメンバーのリストアップもよろしく」
ゲンさんはウチの言葉に顔をしかめている。
「スワさん、考古部にも声を掛けるんですか?」
「そりゃあ、この市の第一担当部署には声掛けなあかんやろ」
「いや、でも彼らは学生ですし。今回は特に危険だと思われますから・・・」
ゲンさんは自分の子供と、考古部のメンバーを重ね合わせているのかもしれない。
「確かにあの子らは学生やけど、実力はこの地方でも飛び抜けているんやで。そんな子らをリストに入れん訳にもいかんやろ?」
「そういえば考古部って前に黒鬼の調査の時に助けに来てくれた子達ですよね。そんなに腕が立つんですか?」
「ああ、幹子は隣の県出身やったな。あの子らはこの市内でも名門中の名門の出や。いわゆるエリートやな。」
そう、彼らはエリートなのだ。
名門の家で幼い頃から術を叩き込まれてきた、エリート。自分のような促成栽培とは違う。
「へー、凄いんですね。前の時には事件が片付いたらすぐに帰っちゃったから、ちゃんと挨拶もしてないんですよね~。どんな子達なんですか?」
「そやな、これからも一緒に仕事することが多いやろうし、簡単に説明するで。メモ取りや」
新人がメモ帳を準備するのを眺めながら、ウチは山狩りの計画を考えていた。
あれから数日が過ぎ、山狩りの日が来た。
ウチは周りで忙しそうに働いている職員を眺めながら今までに判明している情報を改めて整理する。
山の周辺で警備していたマルカイ(警察の怪異専門部隊。主に警備担当)から黒鬼の姿を確認したとの報告が上がっている。
山を下りそうな気配はないが、姿を現している黒鬼の数が日を経つごとに増えているとのことだった。
この状況で考えられるのはおそらく真鬼が発現しているのだろう。
真鬼は黒鬼の親分ともいえる存在で、独自の術で黒鬼を召還することができる。
真鬼自体も非常に強力で、俗に言う鬼のモデルとなったとも言われている怪異だ。
自ら数を増やし、本体自体も強力となればやはり早急な対応が必要だ。
山狩りの前にウチ達は設楽山の中腹に簡易的に通信基地を作る。
怪異の特性として周辺の機械類を故障させる能力を持っている。
特に電話に類するものは大半が使用不能になる。
そのためでケータイやスマホが常時、使えなくなるので通信符を使用する必要があるのだ。
通信符はあくまで1対1でしか通信できないので通信を統括する基地を作っておく必要がある。
そして妖怪はおそらく自然の洞窟内に潜んでいるのだろう。
基本鬼達は太陽光を嫌う。
そのため、光を避ける為洞窟などに潜むことが多い。
だがこのあたりの山々にある洞窟の構造はすべてデータベース化している。
そのため今回の作戦は、まず山裾を封鎖し各洞窟の調査を行う。
黒鬼は発見次第、殲滅。真鬼は発見したら偵察にとどめ、本部に連絡。後詰と合流後、対象を殲滅する。
後は洞窟の外に出ている妖怪も包囲しながら残さず排除する。
それで今回の作戦は完了だ。
しかし今回の作戦立案では、人選に横ヤリが入ったためかなりイライラさせられることが多かった。
まず考古部に対し参加依頼を出せなかった事が大きい。
彼らは探索、治癒、戦闘のすべてを高レベルで行えるので、ぜひとも参加してもらいたかったが、上層部の現場への無理解から依頼できなかったのだ。
その代わりに来たのが、口だけは達者な軽薄な霊探偵とやらだ。
以前、依頼をしたことがあるのだが、上を接待するばかりで仕事もせず、報告書もいい加減な物を提出する輩なのだ。
こんな者を押し付ける上層部には本当に腹が立つ。
軽薄な霊探偵が周りに嘘っぽい武勇伝を語っているのとイライラしながら聞いていると、幹子から基地の設営が完了したとの報告が入る。
ウチは、マイクを握り参加者へ説明を始める。
参加してもらった人員は、こういった作戦の経験者が多く、特に質問もなく説明が終わった。
役割分担を行い、作戦開始を号令しようとすると霊探偵が嫌味な口調で要求してきた
「私は極めて強力で有用な霊能力を有しています。またこういった探索作業において非常に有用なスキルも習得しています。戦闘も皆さんに引けを取ることはないと思っております。ぜひ洞窟探索班に入れていただきたいのですが」
こいつは死にたいのだろうか?
大体の実力はその体捌きでわかるがこいつのそれは素人の物だ。
こんな奴を洞窟班に入れてしまうと、足を引っ張る可能性が高い。
私が反論しようとすると霊探偵は持っていた紙を私に突き出した。
「市会議員の西村先生にも、私の実力は認められておりましてね」
見ると市会議員の紹介状だ。
この探偵は優秀云々と書いてある。
正直だからどうしたと言いたい所だが、もし洞窟班に入れないと政治家経由の圧力がかかる可能性がある。
宮仕えの辛さだが仕方がない。
「わかりました。萩原の班に入っていただきます。ただし今後の行動の指揮は萩原が取りますし。身の安全も保障できません。よろしいですね?」
「ええ、もちろん。皆さんの危機は私が救って見せますよ」
阿呆に付ける薬はないが、勝手な行動をされて班が全滅でもされたら困る。
ここはゲンさんに任せるしかないだろう。
ひと悶着はあったが、班決めも終わり洞窟への探索作業が始まった。
拙作をご覧いただきありがとうございます。
誠に勝手ながら、できましたらご評価、またはご感想を頂ければ幸いです。
私は本作が初めて書く小説で、皆様に楽しんで頂けているのかがわからない為、本作の方向性が正しい方向なのかわからなくなりつつあります。
本当に勝手なお願いなのですが、なにとぞよろしくお願い申し上げます。




