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26_考古部の部員達

2回目の更新です。書き溜めが尽きてきました。

 俺の家に泊まった翌日、すみれさんは肩を落としながら帰ることになった。

 自分が抱いている想いが本当に正しいのかどうか、自信がなくなればそれも当然か。

 静菜さんはすみれさんの肩を抱きながら一緒に帰っていった。彼女も俺に幻滅しただろう。


 俺は結局、彼女達が持つ俺自身への認識を問うことによって、彼女達との関係をぶち壊した。

 俺がもう少し賢ければ、彼女達の認識の誤解に乗じて、関係を進めることも出来たのかもしれない。

 あれだけ魅力的な美人を自分の恋人にできたのかもしれない。

 だが俺には自身のイメージの増大に耐えられるとは思えなかった。

 結局俺は肥大化していく虚像の自分が怖かったのだ。


 直哉は何も言わず彼女達と一緒に帰って行ったが、後から「例え当事者の認識が正しくないとしても、自分の判断で関係を壊したのはヒロだよ。」「責任はとるようにね」と言うLineが送られてきた。

 俺は何も返答することができなかった。



 学校に着くと、いつもと同じように静菜さんが微笑みながら話しかけてくる。

 他愛のない世間話だ。俺は少し動揺しながら、返答する。

 最近は普通に話せるようになっていたはずだった。

 好意を持たれているとは思わなかったが、戦友としての友誼はしっかり感じ取れたから。

 だが今は、俺とのつながりを維持するためだけに、話をしているのではないかとの懐疑心が消えない。

 自分の行ったことで、自分の心を縛っているのだから、俺は救いようのない馬鹿だ。





 それから夏休みまでの間、特に何もなく時間が過ぎていった。

 俺は部活に行ったり、直哉の家に魔術教導官として顔を出したり、自分の武装を作成することで日々を過ごしていた。

 静菜さんとは同じ時間を過ごす事が多くなり、彼女の為人を知ることができたのは嬉しかった。

 またそれと共に俺の心に巣くっていた懐疑心が少しづつ小さくなっていくのがわかった。


 すみれさんとはあの後、会うことや電話で話すこともなく鋼鉄や革など納入した物品や鍛冶場について、事務的なメールをやり取りしただけだった。

 本来、俺と彼女の関係はこれぐらいがちょうどいいのだ。

 彼女はとても魅力的な女性だから、男などいくらでも見繕うことができる。

 俺のような高校生に絡んでいる事も彼女にとって時間の無駄だったのだろう。


 俺は名取川家と加賀谷家に提出するための自分の装備の強化計画書を作りながら、そんなことを考えていた。




 Side:豊明 聡美


「お疲れさまでした~」


 1年生3人が部活を終え、帰って行く。

 私はそれに返答を返しながら、自身のPCで今月の活動報告書をまとめ始める。部長の仕事とは言え、毎月の報告書作成は気が滅入る作業だ。


 我が考古部も5人体制になり、組織も充実してきた。

 新人の氷上君も先日の救援任務では、第三課の課長代理を救うという大活躍してくれたおかげで、考古部の評価も上がった。

 第三課から礼状が送られてくるなんて前任の部長以来の事だ。

 少なくない予算をもらっている手前、何もなかったという報告書を上げることは私も顧問の可児先生もできるだけ避けたいので、書ける内容ができることは本当に助かる。


 私が報告書の文面を考えていると清彦が私の隣に座った。


「聡美、あまり根を詰めない方がいいよ。その書類も急ぎではないんだろう?」


「ありがとう。でもこの書類だけ仕上げてしまいたいから」


 清彦は学園の人気者だ。性格も明るく勉強もできる。

 運動神経もよく、他の運動部の助っ人という漫画のようなこともしている。

 見たこともないような美形でアイドル事務所や雑誌モデルなんかに勧誘されることもあったらしい。

 その上、市中心部の大寺院の跡継でもある。

 超名門である名取川家との縁談の話もあったらしい。


 でも清彦はいつも私に告白してくれる。

 そしてその思いはいつでも真剣だ。

 そのことは解っている。

 私も彼に対しては決して憎からず想っているのだ。


 だがもし彼の告白を受けて付き合うことになれば、私は彼に夢中になるだろう。

 もしそんな彼に捨てられてしまえば、私自身どうなるかわからない。

 自己紹介の時に冗談で言ったストーカーに、私がなってしまう。

 いやそれどころか本当に何をするかわからないのだ。

 だから私は彼を振り続ける。

 彼への思いをきちんと整理できるようになるまでは。





 Side:多治見 清彦


 いつものように彼女は考古部の活動報告書をまとめている。

 ぼくは彼女が見つめている画面に嫉妬心を抱きながら、彼女の隣に座る。


 以前友人に、なぜ彼女のような冴えない女に告白するのかと聞かれた事がある。

 その時から彼は友人ではなく顔見知りになってしまったが、質問にはいつものように答える。

「彼女より美しく優しい魅力的な女性はいないからだよ」と。


 だがこれは良い事なのだ。

 彼女の魅力はぼくだけが知っていればいい。

 他の人間に知る必要などないのだ。

 もし彼女が他の男に口説かれ惹かれてしまうような事があったら、ぼくは自分が何をするかわからない。


 そう、だから彼女はこのままでいい。

 彼女はぼくの告白を断り続けているが、それは他の男を彼女に寄り付かせない効果もある。

 ぼくは自分の外見の良さを理解しているし、そのぼくでさえ彼女が靡かないのであれば他の男は諦めるだろう。


 ただ問題は女子だ。

 一年の時のように、彼女に嫌がらせをする愚か者が現れないとも限らない。

 そうなれば前のように叩き潰せばいいのだが、そういった馬鹿者に対してのアンテナは高く張っておくべきだろう。


「終わったわ。帰りましょうか」


 彼女の優しい笑顔でぼくの思考は打ち切られる。

 今は彼女との時間を大切にするべきだ。

 ぼく達は肩を並べて考古部の部室を後にした。





 Side;加賀谷 直哉


「しかし栄光ある加賀谷本家に無関係の人間を出入りさせる事はやはり問題ですじゃ。そこを若、失礼。ご当主様はお分りになっていない。」


「なぜ、彼を招くことが問題なのですか?」


「わが加賀谷流魔術をよそ者に奪われるとは思われませんか?」


 いやらしく顔を歪めながら馬鹿なこと言う愚かな年寄りが一人。

 自分が持つ物より劣る物をわざわざ奪いにくる馬鹿がどこにいるのか。


「なるほど、ではご老体は彼が加賀谷流魔術を奪いに来たと言われるのか。先日お渡しした発動体無しでの魔術発動は彼から伝授されたものですよ?彼が持つ知識が我々を凌駕している証拠です。なのに我々の魔術を奪いに来たと?」


 僕がそういうと愚かな老害は悔し気に黙り込む。

 加賀谷一族の報告会の場だが、こういった愚かな年寄りを寄こす事しかできない家は、人材不足にも程があるだろう。

 もうそろそろいいか。こいつらの顔を見ること自体が苦痛だ。


「それとご老体、あなたの家はいつになれば指示している研究が終わるのですか?お願いしてもう30年だ。いつまでたっても研究完了の知らせがないのであれば、杖は不要と判断せざる負えなくなりますよ?」


 僕の言葉を聞くと一部の家の代表たちが立ち上がる。

 僕の言った事が相当気に障ったようだ。当たり前か。

 魔術を奪うと言っているに等しいのだから。

 発動体を作れるのは加賀谷本家だけだから奪おうと思えば本当に奪える。

 発動体を供給しなければいいのだから。

 ああ、ヒロのおかげで初歩的な魔術だけは使えるんだっけ。

 馬鹿な年寄りが汗をかきながら、僕に釈明を始める。


「研究が遅れている事は誠に申し訳なく思っておりますのじゃ。しかし始祖様の残された記述も少なく、研究は難航しております。出来ますれば追加の援助を頂ければと」


「いえ、もう結構。あなたの家にお願いしていた読解(リードランゲージ)については、加賀谷本家で研究が完了しています。他にもいくつかの家にお願いしている魔術で研究が終わっている物があります。そちらも今後、研究はしていただかなくて結構です」


 顎が外れたかのように口を開けている馬鹿者ども。

 ヒロの魔術教導官就任は本当に大当たりだった。

 失われていた魔術のいくつかを復活させることができたのだ。

 これにより加賀谷一族を纏める為のカードが大量に手に入った。


 この報告会はそのカードを使っての根回しが終わっており、加賀谷に寄生していた連中を処刑する場に変わっている。

 今まであれば、馬鹿親父に女をあてがって何とかしていたのだろうが、僕には通じない。


 僕達、加賀谷一族は寄生虫を抹殺し一つに纏まる必要がある。

 これから起こるであろう、ヒロを中心にしたこの地方の霊的組織改編を、加賀谷一族が生き残るために。そのためにこいつらには消えてもらう。


 今の自分の顔は真姫には見せたくないな。

 僕は報告会に参加している各家の代表の顔を見渡しながら、そんな事を考えていた。





 Side:名取川 静菜


 最近姉さんが大学に行っていないらしい。

 その事を聞いた私は、姉さんが受けたショックについて考えていた。


 姉さんは子供のころから神童と呼ばれ、学問や体術、そして退魔術もあっという間に習得していった。一を聞いて十を知るタイプだ。


 だから私は最近まで姉さんが苦手だった。

 いつも出来のいい姉と出来の悪い妹と言う比較をされてきたから。


 そんな私は高校入学と同時に、すべてを変える為メイクを憶えファッションも今風に変えた。

 お父様とお母様には散々怒られたが、私は辞めなかった。

 それが私にとっての反抗期だったのだと思う。

 そして私は洞窟で彼と出会った。

 彼は素晴らしい退魔術と癒しの力で私達を助けてくれた。

 だが彼に会ったときに私が抱いた印象は、敬意を払うべき戦士であって異性ではなかった。


 だから次の日に校舎裏で私自身の相談をした時、「舞姫のようだ」と彼から言われた事で、彼を一人の男性として認識したのだと思う。


 私はそれまで恋を知らずに生きてきた。

 だから自分の抱いている感情が解らなかった。

 しかし彼のすべてが気になり、いつでも彼を目で追いかけている自分に気が付いた時、これが恋なのだと自覚した。



 私は人と話すことが下手だ。

 それを自覚しているから話すのではなく人を視る様にしている。


 そして彼と知り合い、日々を一緒に過ごし彼を視ていると、彼が臆病であることに気が付いた。


 彼の前世は大寺院で僧侶をしていたようで、組織に寄り添ってないと不安になるようだ。

 だから名取川家の後ろ盾や、名取川から見捨てられないように行動する事にもこだわったのだと思う。

 そういった組織に見捨てられる例を見てきた彼は、自身がそうならないように立ち回ることに必死だったのだろう。


 そして人間関係に潔癖さを求める気質でもある。

 姉さんが見ている自分は魔法使いの自分で、本当の自分ではないと指摘したのだから。

 確かに姉さんは、自分の中の氷上博人像を作ってそれに恋をしていたのかもしれない。

 だがそれはこれから結んでいく関係の中で、修正することも出来ただろう。

 だが彼はその関係を欺瞞だとして壊してしまった。そういった潔癖な所が彼にはある。



 姉さんにとって彼から受けた指摘は自分が振られることに等しかった。

 姉さんはその時に、自分の中の氷上博人に失恋したのだ。

 今姉さんは自分の気持ちを整理しているのだろう。

 その結果はどうなるかわからないが姉さんの性格からあやふやの事にはならないと思う。




 私は彼が好きだ。

 確かに童話の魔法使いのような彼も格好良かったが、私が好きになったのは、校舎裏で照れながら私を褒めてくれた彼なのだ。

 だから私の想いは変わらない。

 彼は今、私が名取川家の人間として近づいていると考えているようだ。

 それならばそれでいい。

 私は口下手だから自分の好意をうまく口にできない。

 だからこれからも彼を視ながら、自分の気持ちを行動で伝えていこうと思う。



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