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25_あなたが見ているのは本当に俺ですか?

本日は2話更新します。理由は2つあります。

一つ目は、今回更新分はいつもより文字数が少ない事。

二つ目は、主人公に行動に対し賛否両論があるかもしれないためです。

しかし彼らの関係を進めるために必要と思い執筆しました。なにとぞご寛恕の程、よろしくお願いします。

次回更新は本日11時を予定しています。

 すみれさんは俺の質問で何かを思い出したようだったが、説明を始める。


「あー、本家紋ね。家に伝わる家紋ってあるじゃない?」

「ああ、確か徳川家だったら三つ葉葵でしたっけ?」


 静菜さんが入れてくれたお茶を飲み、俺は某副将軍の時代劇を思い出しながら言う。


「うん、徳川家はそうだね。名取川家も家紋があるんだけど、うちは2つ持ってるの」

「ふたつですか?」

「一つは後ろ盾になった人が任務で必要になった時に貸し出す表向きの家紋。もう一つは私達本家の人間が実際に使用する家紋。こっちを本家紋って呼んでるの」

「はあ、そうなんですね」

「この本家紋が入った特定の品があるんだけど、それを持っている人は名取川家の人間ですよって証明になるの。この鹿海市内ならいろいろと出来るんだ」

「よくわからないんですが、身分証明書みたいなものですか?学生証みたいな。」

「うーん、身分証明書というのは間違いないかな。極端な例だけど、市内の銀行に行くじゃない?そこで本家紋入りの特定の品を見せたら、お金を借りることができるわ。」

「え、それだめでしょう?それに借りた奴が返さなかったらどうするんですか?」

「どうもしない。うちの家が返済するだけよ。そういう信用の証だから。それに大金は貸してもらえないだろうし」

「それを俺に渡すって言ってたんですか?」

「ええ、そうよ」

「断っちゃだめですか?」

「駄目よ、絶対ダメ。昨日も言ったでしょ。私達が返せるものを削らないでって」


 凄くいらない。無くしたらどうするんだよ。俺の家は普通の家でセキュリティだって知れている。

 すみれさんは俺が苦悩しているのを見ながら席を外す。

 見かねたのか静菜さんが俺に気を遣うように優しく語りかけてくる。


「氷上君、深く考えないでくれ。これは名取川家があなたの気持ちに応えようとした結果なのだ。だからそのまま受け取ってもらえればいい。」

「いやいや、それって銀行でお金を借りる際の担保になるってことだろう?重大すぎて高校生の俺には荷が重いよ。大体盗まれたり無くしたらどうするんだよ」

「もし盗まれたり無くしたりして悪用されたとしても、あなたが気に病む必要はない。すべて名取川家で処理するだけだ」


 彼女の眼はそういった対応が当然であると言うかのように迷いがない。駄目だ。価値観が違う。金銭感覚と言うべきか。今度は俺がレートの違いで悩むことになるなんて、皮肉にも程があるだろ。

 俺が悩んでいるとすみれさんが戻ってきた。手には箱を持っている。


「氷上 博人君。名取川家はこの本家紋をあなたに授けます。」


 すみれさんは箱に入っている黒っぽい櫛を取り出した。

 丸の中に葉っぱが一枚入っている絵が描いてある。あれが家紋か?

 いやいや、やっぱだめだ。俺に管理なんかできねーよ。どうしたもんか。

 俺が困惑している事がわかったのか、直哉が助け船を出してくれた。


「すみれさん、ヒロは本家紋を無くしたり盗まれたりすることを恐れています。ここはヒロが一旦受け取るが、品物自体は名取川家で管理してもらうというのはどうでしょう?」


 俺が無言で頭を上下に振りまくるのを見て、すみれさんはため息をつく。


「その辺が落としどころかな。でも博人君がここまで嫌がるとは思わなかったなあ」

「まあ、高校生が銀行でお金が借りることができる物品の管理をしろとか言われたら、そりゃあ引きますよ」

「だって借りられるって、そんな大金じゃないよ。1行100万ぐらいでしょうし。そりゃあ、いくつかの銀行を回ればまとまった額にはなるでしょうけど」

「高校生には大金もいいところですよ。普通はびびりますよ」

「うーん、能力は童話の魔法使いみたいなのに、感性は高校生かあ。なんだかなあ」


 なんとなく失望したかのようなすみれさんの言葉に、俺は口籠る。反射的に言いかけたことがあるが、これを言ってしまうと彼女達が俺に抱いている想いを破壊してしまうだろう。


 彼女たちが俺に好意を寄せてくれているのには気が付いている。

 だがそれは魔法使いの俺に想いを寄せてくれているのであって、一高校生である俺じゃない。

 おそらくこれからも俺の技術やスキルを見せるたびに、彼女らの中の魔法使いの氷上博人は大きくなっていくのだろう。それに俺は耐えられるのか?

 本当の俺はただの高校生だ。魔法使いの自分と本当の俺とのギャップに苦しみ続けるのではないか?

 そして今言わない事は、今後来るであろう破綻を後回しにしているだけじゃないのか?

 その破綻は時間が経ているほど酷くなるんじゃないのか?

 そんな考えが俺の頭の中でぐるぐると回り続ける。

 やはり彼女らの俺に対するイメージが小さい内に崩してしまおう。それは今しかない。


「強力な魔術師も人間だ。カードでいかさまをするかもしれないし、酒に酔ってそこらに吐き散らかすかもしれない。気に入らない通りすがりの子供を蹴飛ばすかもしれない。備わった品性と能力は比例しない。人とはそういうものだろう。だそうですよ」

「誰の言葉?」

「賢者魔術を俺に教えてくれた魔術師の言葉です。俺が知る限りで最高の魔術師でした」

「その魔術師殿の話を詳しく!」


 直哉が話に割り込んでくる。


「また今度な。すみれさん、結局、人間の技能と性質は同じではありませんよ」


 俺の言葉にすみれさんは考え込んでいる。


「うーん、わかったつもりではいたんだけどね。ああ、だから博人君は私達を・・・。そういう事かあ」


 すみれさんは悲しそうな顔で俺を見る。


「私達はちょっと頭を冷やす必要があるってことかな。でもさ、博人君。君は辛くないの?」


 静菜さんを見ながら、すみれさんは問い掛けてくる。


「つらいですよ。でもどういう結果が出るにしても、それを乗り越えないといけないでしょうから」

「そう・・・。君は強いんだね」


 俺は強くなんかない。ただ見惚れてしまったのだ。

 あの洞窟の奥の部屋で優雅に踊る舞姫に。

 俺にはあの時点で以降の選択肢をすべて失っていたのかもしれない。

 既に敗北している俺が望むのは、彼女の笑顔が見える場所にいたいという事だけだ。



題名修正しました

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