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24_直哉の選択

 俺は今の直哉を見ていられない。顔には疲労の色が濃く出ている。

 それはそうだろう。当主に就任したばかりの高校一年生が、自身の家の未来がかかったきつい判断を連続で行っているのだ。

 手助けをしてやりたいが俺は自分も可愛い。

 名取川家に反するような横やりを入れる事は出来ない。

 親友を助けることもできない自分が情けなくなり、目の前がぼやけ始める。


「あー!もう!そんな顔しないで!」


 すみれさんは叫びながら、近くにあった紙に何を書きつけて手のひらを押し付ける。


「これでいいでしょ!いい加減に信用しなさい!」


 紙を直哉に押し付けたすみれさんは顔を真っ赤にしている。

 静菜さんは俺にハンカチを差し出してくれる。俺は泣いていたようだ。


 差し出された紙をぼんやりとみていた直哉は、皮肉気に口を開く。


「こういう場合は、上下関係をしっかり定める意味で引っ張る所でしょうに。」


「わかってるけど、仕方がないの!大体直哉君は名取川家、いいえ、()()と敵対するつもりがあるの?」


「御冗談を。証文も書きましたし、それに家の規模が違いすぎます。それなのに今の()()()()()に喧嘩を売る?一家心中する気はありません」


「でしょう!だったら黙って受け取りなさい!」


 直哉は何かを悟ったようにうなづいた。


「ああ、これが金の延べ棒で殴られるってことなんですかね。貴重な体験でした」


「そうよ、名取川家もさんざん殴られたんだから。加賀谷家も同じ体験をするべきよ」


 直哉とすみれさんは疲れた顔で笑い合っている。静菜さんも俺の隣で微笑んでいる。

 これでうまく話が付いたんだろう。

 直哉とすみれさんの耳元に顔を持っていきあいながら何か小声で話しているようだ。



「あなたたちの上下関係も決まっているという事ですか?」


「ええ、本人に自覚が全くないんだけどね。だから困りものなのよ」





 俺は直哉に魔封石の作成方法を教えている。


「なるほど、シンプルだけど理に適っている。なぜ今まで思いつかなかったのか・・・」


「直哉、俺は賢者魔術を修めているお前に、この作成方法を教えたかったんだ。ガイリディアでは魔封石に入れる魔法は賢者魔術が多かったからな」


「そうなの?」


「ああ、賢者魔術は状況を変えることや便利な魔術が多い。だから冒険者が持っていく魔封石と言えば、賢者魔術が定番だった」


「へえ、どういった魔術が多かったの?」


「そうだな、特に多かったのは灯り(ライト)蜘蛛の巣(ウェブ)読解(リードランゲージ)が多かったな。値は張るが鑑定(アイデンティファイ)魔術抵抗(カウンターマジック)敵感知(エネミーサーチ)なんかも人気があった」


「なるほど、確かに状況を変える魔術や便利な魔術が多いね」


「なあ、直哉。この情報で自分の立場を強化できるか?」


 俺の言葉を聞くと、直哉は驚いたように俺の顔を見つめる。


「お前の話だと今の当主の座は、穏便に移譲されたものじゃないだろ?ならその当主の座は不安定なんじゃないか?少しでも手助けしたいんだよ」


「あ、あはは、心配かけちゃったみたいだね。でも発動体無しでの魔術を起動させる技術だけでお釣りがくるさ。僕達の常識を覆す知識を持つ、魔術教導官を招いた実績が僕にはあるからね。でも心配してくれてありがとう」


「お前になにかあったら小笠原も悲しむ。もうちょっと慎重になって欲しい」


「そうだね、真姫を悲しませるのは僕も本意じゃない。気を付けるよ」


 ふと見ると静菜さんは優しい表情で俺達を見つめていた。

 俺は気恥ずかしくなって視線を逸らす。


 すみれさんは何かをメモ帳に書きなぐりながら、直哉に確認する。


「「冒険者」っと。それで直哉君、名取川家の考えは理解してもらったと思ってるけど、それでいい?」


「ええ、ここまでして頂いて惚けるつもりもありません。今後は名取川家と足並みをそろえて動きますよ。報告会を開いてもいいかもしれませんね。」


「そうね、詳細はまた後日ね。だから今日はお仕事のお話はおしまい。もう遅い時間だしね」


 おお、もう12時回ってるじゃねーか。


「直哉、今日は遅いし泊って行けよ。」


「そうだね、じゃあ、お邪魔させてもらおうかな。家に電話するね」


 直哉は家に電話を始める。すみれさんと静菜さんがソファーから立ち上がった。


「ねえ、博人君。お風呂を先にいただくね?」


「できれば姉さんの次にお風呂を頂きたいのだがいいだろうか?」


「風呂、入っていくんですか?」


「えー、女の子にお風呂入らずに寝ろっていうのは、ちょっと酷くない?」


「自宅で風呂に入ってくださいよ」


「お風呂に入るためだけに自宅に帰れとは、氷上君も酷い事を言う」


「あのー、もしかして俺の家に泊まろうとしてませんか?」


「「うん(うむ)」」


「いや、だから駄目ですって。前にも言いましたよね?」


「大丈夫!着替えとかは全部車に積んであるから」


「そういう問題じゃないです」


 直哉は電話が終わったようで、隣で俺達の話を聞いていたが笑いながら言う。


「まあまあ、ヒロ。こんな遅い時間に女性に帰れって言うのもどうかと思うよ。今日は僕も一緒なんだからさ、大丈夫だよ。もしヒロがご両親に怒られるというなら、僕がちゃんと説明するからさ」


「うーん、じゃあもしも時は本当に頼むぜ、直哉」


「ああ、もちろんさ」


「すみれさん、静菜さん、今日は泊まっていただいて結構です。寝るのはこの俺の部屋で寝てください。布団は持ってきますので。直哉、俺達はリビングな。布団出すから。」


「ほんと、やった!じゃあ、私達、着替え取ってくるから」


 名取川姉妹は車に向かって走り出した。車なんだから夜遅くてもあまり関係がないような気がするが、今日ぐらいはまあいいか。俺はそんなことを思いながら布団を取りに向かった。



「直哉君、ナイスフォロー!ありがとうね」


「ああ、本当に助かった。氷上君はそういったところは潔癖だからな」


「いえいえ、こういうフォローを存分にさせてもらいますよ」


「静菜ちゃん、こうやって既成事実を少しずつ重ねていくことが重要だからね」


「はい、姉さん」


「僕としても自分が仕えている相手が、親友と言うのは非常に良い環境ですから。それに名取川の藩屏である加賀谷にとっては当たり前のことですし」


「またまた、そんなこと言っちゃって」


「「「あはははははは」」」



 俺が布団をもって自分の部屋に戻ると3人が悪い顔で笑っていた。何だ、この状況。




 俺の目が覚めたのは8時を少し過ぎた頃だった。

 昨日は遅い時間まで、皆と話していたので寝たのは2時を過ぎていたと思う。

 台所から良い匂いが漂ってくる。

 見てみると名取川姉妹が朝食の準備をしてくれているようだ。


「おはよう。氷上君」


「お、おはよう。」


「朝ご飯の用意をしているので、もう少しだけ待っていてほしい」


 持参したのだろうエプロンを付けて、卵焼きを焼いている静菜さんに目を取られていると、色違いの同じエプロンをしたすみれさんからも声が掛かる。


「博人君、おはよう!」


「おはようございます」


「朝はパンじゃなくてご飯でよかったんだよね?」


「はい、朝はご飯派です」


「じゃあ、早く顔を洗ってらっしゃいな。もうご飯もできるからね~」


 俺はすみれさんに促されて、洗面所に向かう。

 俺は顔を洗いながら、久しぶりの一人じゃない朝の食事に浮かれる様に鼻歌を歌った。


 身だしなみを整え、台所に戻ると朝ごはんができており、3人が待っていた。

 俺は急いで席に着いて、「いただきます」の唱和を合図に食べ始めると俺の口から自然と感想が零れ落ちる。。


「美味い」


「そうか!それはよかった。」


「お味噌汁は私が作ったんだよ」


「味噌汁も美味いです。お二人は料理上手なんですね」


 俺が褒めると二人は頬を赤く染めて照れているようだ。

 俺は美人が照れているという最高の光景を見ながら、美味い食事を続けるという贅沢な食事を味わう。


「なあ、直哉もそう思うよな?」


「ああ、凄く美味しいね。お二人はいいお嫁さんになると思わないか、ヒロ?」


「ああ、そう思うよ、結婚できる男は幸せ者だな」



 俺はうまい朝飯を堪能し、4杯もお替りしてしまった。普段は自分で作るのが億劫なので米だけ炊いてあとは冷凍食品ばかりなので、最低限の食事しかしていなかった。

 だからこんなに朝飯を食べるのなんて久しぶりだ。

 俺の食欲に姉妹はかなり驚いたようだ。

 俺は食器の後片付けをしようと思ったのだが、俺と直哉は名取川姉妹に台所から追い出されてしまった。泊めてもらったお礼と言われてしまい、すべて任せるしかなかった。


 仕方なく直人と二人でぼんやりテレビを眺めてると、名取川姉妹が後片付けを終えたらしくエプロンを外しながらリビングに入ってきた。


「すみれさん、静菜さん、質問があるんですけどいいですか?」


「うん、なにかな?」


「ほんかもんってなんですか?先日も少し話に出てきたと思うんですが」


 俺は疑問に思っていたことを口に出した。


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