21_第2回 氷上家訪問
ブックマーク登録していただいた方が3人も増えポイントが増えた喜びのあまり、踊り出して隣の部屋の住人に壁ドンされた大江の麦茶です。すばらしく筆が乗りましたので本日はもう1話更新させていただきます。
千鳥姫の話をした次の日、教室で昼飯を食べ終え食休みを取っていた俺は直哉に声を掛けられた。お願いがあるらしいのだが、部活関連の話だったので部室に移動して話を聞くことにした。部室に誰もいないことを確認して、直哉は天空の眼を使う。
「今から話すことは、誰にも聞かれたくないんだ。だから魔術を使った」
「気にすんなよ。それでどういうお願いなんだ?」
「確認させてほしい。ヒロが前にいた世界は何て呼ばれていた?」
いきなりの質問だが、このぐらいなら言っても支障はないだろう。
「ガイリディアだ」
「ありがとう。これですべて照合できた」
「俺は合格か?」
俺は皮肉気に直哉に言う。
「気を悪くするよね。本当にごめんなさい」
直哉は深く頭を下げる。
「悪い。言い過ぎた」
「ううん。お願いがあるって言ったのは僕の方なのに、不躾な質問だったからヒロが怒るのも当然だよ」
気まずい空気の中、俺は下を向いて黙り込んだ。
名取川家との交渉失敗でナーバスになっているのかも知れない。
慎重になる事は良いが、相手にあたってどうするんだ。
俺は話を続けるよう直哉を促した。
「お願いっていうのは僕の家に伝わっている魔術の事なんだ。僕の家は名取川家の女性を娶った流浪の魔術師が興したんだ。これが300年ほど前の話。そしてその魔術師が修めていた魔術が加賀谷流魔術という訳なんだけど、先の戦争等で失われたしまった内容が多いんだ」
なるほどね。あの世界の人間が俺みたいにこちらに転生したのか。
いや、賢者魔術師なら転移の可能性もあるな。転移の魔術に失敗でもしたのかもしれない。
転移に失敗した奴がどうなったのか誰にも分らなかったけど、他の世界に飛んでしまったなら理解できるな。直哉は話を続ける。
「ヒロは始祖様がいた世界に生きていたんだよね。しかもそこにいた始祖様と同じ賢者魔術師から知識の継承も受けている。その本場の知識を僕たちに貸して欲しいというのが今回のお願いなんだ」
「知識を貸すのは構わないが、問題が2つある。俺は賢者魔術を一切使えない。だから目で見ていた事と教えてもらった事しかわからない。その程度の知識であれば、ということがまず1点」
「たとえ一部であっても知っている限りで助けてもらえれば、僕達にとっては大変ありがたい話なんだ。特に始祖様はほとんどガイリディアについて記録を残していない。だからガイリディアの話を聞けるのは僕個人としてもワクワクしているんだ」
「わかった。では2つ目だがこっちの方が重要だ。俺は今、名取川家に後ろ盾になってもらっている。だから名取川家の意向に反することは出来ないし、嘘をつくことも避けたい。俺は加賀谷家と名取川家の関係を知らないが、もし反目しているのであれば名取川家につく事になる。それに手助けするとしても名取川家に承認を得る必要もある。それでもかまわないのか?」
直哉は初仕事の時、「賢者魔術」と言う魔術の名前すら、本家である名取川家に隠していると言っていた。
そういう仲が悪そうな2家の現状で、名取川家を後ろ盾にしている俺が、加賀谷家の手伝いをすることが許されるのかがわからない。
それにだ、手伝いの承認を得る際には、手伝う詳細を説明する必要もあるだろう。
直哉は非常に困ったようで顔をしかめた。
「加賀谷家と名取川家の仲は悪くはないよ。僕達は名取川の分家であるという意識もあるし、正月には皆で名取川家本邸に必ず挨拶に行くしね。ただ自家独自の魔術に関しては、本家分家の仲であろうと隠すということは、この業界ではひどく当たり前の事なんだ。だからどちらかと言うと、名取川の承認を得る際に「説明する」ということに対して、年寄り共がうるさく言うかもしれない」
「悪いがそこは直哉が解決してくれ。俺には何もできない」
「そうだね。ちょっと考えさせてもらえないかな。僕からお願いしている話なのに勝手なことばかり言ってるね。本当にごめんなさい」
「だからそれは気にすんなって。今後のテスト勉強の時に返してくれよ」
「そうだね、でもヒロもきちんとノートを取らないといけないよ。僕が貸すのも限界があるからね」
俺の軽口に、直哉も気がまぎれたのか同じ軽口で返してくる。
俺たちはそこで少し笑い合ってから、教室に戻った。以前直哉との間に流れていたぎくしゃくしている空気は薄れていることに俺は嬉しくなった。
週末の金曜日、部活が終わり副部長の告白玉砕を聞きながら帰るための準備をしていると、スマホを見ていた静菜さんから声が掛かった。
なんだか申し訳なさそうな顔をしている。どうしたのだろう?
「氷上君、今日あなたの家にお邪魔することは出来ないだろうか?」
「えっと、先日の件?」
「ああ、そうだ。姉さんから迎えに来たと連絡があったのだ」
来るじゃなくて来たのかよ。こっちの都合はお構いなしか。
「本当にすまない。最近姉さんは家でも君の事ばかり話しているし、もう我慢ができなくなったのだと思う」
「そういえば、先日の件はご両親には報告してるんだよな?」
「ああ、それについてもあなたに説明できればと思っているのだ。どうだろうか?」
「ああ、大丈夫だよ。以前に約束もしてたしな」
静菜さんは俺の言葉を聞いて、安心した様子で電話をかけ始めようした時、別の声が聞こえてきた。直哉だ。
「僕もご一緒させてもらえないかな?」
「え、いや。それはちょっと」
直哉の言葉に、静菜さんが口籠る。
「直哉、先日言っていた件の問題が解決したのか?」
「うん。すみれさんも来るんだよね?ちょうどいいと思って」
「そうか・・・。静菜さん、直哉も来ることを認めてほしい」
「重要な話なのだな?」
「ああ」
「わかった、姉さんに相談してみる」
「悪い、頼むよ」
静菜さんはすみれさんに電話をかけ何やら話していたが、OKマークを送ってきた。
「すみれさんへの説明は直哉に任せるぞ」
「うん、大丈夫。ちょっと問題もあったけど解決したから」
そりゃあ、昔からの慣習を変えるとなると問題の一つも出るだろう。
俺達は、すみれさんが待っている正門前に向けて歩き始めた。
正門前ではすみれさんが車の横で待っていた。
いつもの黒塗りのごつい車ではなく、黄色の軽自動車だ。
この自動車はすみれさん個人の物らしく、今回はこれで来たとのこと。
俺達を乗せた軽自動車は、俺の家に向かって走り始めた。
家は学園の近くなのですぐについた。開いているガレージに車を停めてもらい、家の中に入る。
まずは直哉とすみれさんの話を先に片づけてもらおう。
俺は自分の部屋ではなく、リビングに皆を招いて紅茶を用意していると直哉の声が聞こえ始めた。
「お久しぶりです、すみれさん。お正月以来でしたか?」
「うん、そうだね、お久しぶり直哉君。静菜ちゃんから聞いたけど何かお話があるんだって?」
「ええ、僕の家にとって、非常に重要なお話です」
直哉は一度言葉を切り、思い切るように言葉を続ける。
「加賀谷家は、氷上 博人殿に当家の魔術教導官に就任頂きたいと考えております。しかし名取川家が氷上殿の後ろ盾になっているとも聞き及んでおります。そこでぜひとも教導官就任を、お認めいただきたくお願いに参りました」
「えっ。氷上君って加賀谷流魔術も修めているの?」
「いいえ、残念ながら彼は加賀谷流魔術、彼がいたところでいう賢者魔術は使えないそうです。しかし彼には本場で学んだ知識があります。その知識を吸収したいのです」
「えーと、いきなりすぎてよくわかんないけど、氷上君はどう思っているの?」
「俺の考えや希望に意味はありません。名取川家の方針に従うだけです」
すみれさんは俺の言葉を聞くと、頬を膨らませて怒った。
「あのね、私達は形式上、氷上君の後ろ盾になっているけど、実質的には同盟、言ってみれば同格と考えているの。だからそんなこと言わないでちゃんと考えて!」
「後ろ盾する者とされる者が同格などありえません」
「私達との交渉に失敗したと思っているから、そういう風に慎重になってるのかな。でもね、現実を見るとそうなってしまうの。それにこれは名取川本家の総意。だから氷上君が決めていいんだよ。大体、後ろ盾にいちいち承認を取ろうとする人なんていないよ?」
すみれさんの話を聞いて、俺は念押しの必要があることを感じていた。前のように情報も確信もないのに手札を振り回して失敗するのはごめんだ。
「念のために確認させてください。名取川本家の総意とすみれさんはおっしゃいましたが、ご両親も同意いただいていると考えていいですか?」
「ええ、そうよ。それに私、名取川 すみれは氷上 博人君に対応するための全権限をご当主から移譲されています。だから君の事に関する事で行う私の判断は、名取川家本家の判断と同意です。これでいい?」
「わかりました。ありがとうございます。直哉、教導官就任だったか?受けるよ」
これですべての問題は解決されたはずだ。直哉にも親友として顔向けできる。すみれさんには頭が上がらないな。




