19_俺は昔○○○○だったので
今日の更新はこれで終了です。また私の都合で申し訳ありませんが今後更新時間は変動すると思います。ご了承ください。
すみれさんは目を輝かせながら植木鉢を見ていたが、俺が戻ったことに気が付いたようだ。
「ねえ、もしかしてこの植木鉢で魔封石を作っているの?」
「そうです。まだ作り始めたばかりですけど」
俺はお茶を机の上に並べながら答える。
「ふーん、本当に植木鉢で作れるんだ」
すみれさんは、興味深そうに植木鉢を指先でつついている。名取川さんも、すみれさんの横で植木鉢を眺めている。
さて共犯関係を築くための説明を始めるか。
「すみれさんと名取川さんのお二人に、俺の家に来ていただいたのは今問題になっているアイテムについて、詳細に説明する必要があると考えたためです」
「静菜だ」
「え?」
「静菜。なぜ姉さんだけ名前で呼んで、私は呼んでくれないのだ?それにさっきは名前で呼んでくれたじゃないか」
名取川さんは、「私怒っています」と言う風に頬を膨らませて俺を睨んでいる。
確かにさっきは名前で呼んだような気がする。あれ、なんでだろう。今はめちゃ気恥ずかしいぞ。
「確かにそうだね。静菜ちゃんだけ仲間外れはよくないなあ。博人君?」
「そ、そうだぞ、仲間外れは良くないことだ。ひ、ひろ、氷上君」
「静菜ちゃん、そこで引いちゃうんだ・・・」
彼女たちの掛け合いを聞きながら、心を落ち着けて言葉を絞り出す。
「ごほん、えー、では。し、静菜さん」
自分の顔が真っ赤になっているだろうことがわかる。めちゃくちゃ恥ずかしいぞ。
「ま、まあ、いいだろう。それと学校でも静菜と呼ぶように。名取川さんと呼んだら泣くからな」
「い、いや、それはさすがに・・・」
「だめだ。仲間外れは良くないことだ。そうだな?」
「ハ、ハイ。静菜さん」
「うむ、それでよし」
静菜さんは花開いたような満面の笑みを向けてくる。俺はその顔に見惚れてしまった。
おっと、気を取りなおして。彼女も機嫌を直してくれたようだし説明を続けないとな。
「初めに誤解を解いておきます。まず魔封石と月光糸ですが、方法さえ知っていれば誰でも作れます」
「え、君にしか作れないんじゃないの?!」
「いいえ、そんなことはありません。術者であれば誰でも作れるでしょう。魔力操作ができればいいので」
「魔力操作?」
「魔法や魔術などを行使する際、術者周辺や身体に流れる神力や魔力などの事です」
「ああ、”気”のことか。我々、神道系術者は気と呼んでいる」
「であれば気の操作を行えるのであれば作れるようになります。前世の世界では新人術者が小遣い稼ぎに作っていたぐらいなので」
「そんなお手軽に・・・」
俺の説明にすみれさんは頭を抱えている。だがこの説明は必要なのだ。
俺の価値観ではその程度の物なのだということを、明確にわかってもらう必要があるから。
さて次は作成方法だな。
「作成方法を説明します。まず植木鉢に・・・」
「だからちょっと待って!作り方なんて教えてもらっても、返せるものがないんだってば!」
「なにも返してもらう必要はありません。俺が今この情報を提供している理由は、俺を切り捨てないでくれとお願いするためなのですから」
「切り捨てる?!そんなことはしない!」
「確かに意味もなく切り捨てるようなことはしないでしょう。しかし俺が持ち込んだアイテムが想像以上に重大な物だと考えると、面倒に巻き込まれたくないという判断が出てきても当たり前でしょう。長年続く名家という者は一時の繁栄よりも“続く”ことが重要と考えるものでしょうし」
俺の言葉にすみれさんは考え込むように俯いていて、静菜さんは緊張で強張った顔で俺を見ている。
「だからこそアイテムの作成方法を提供したいんです。作成方法を共有していれば名取川家も当事者になりますから、俺を切り捨てて逃げることは出来なくなりますよね?」
俺は悪い顔をして、二人に微笑みかける。嫌われてもいいんだ。繋がりさえ切れなければ。
「当事者になれば俺と名取川家は一蓮托生です。あのアイテムの存在が不用意に表沙汰になりそうになっても、名取川家が隠蔽に積極的に協力してくれるでしょう。俺も切り捨てられる恐怖から解放されます。いかがですか?あなた方にも十分なメリットはあると思いますが?俺を介する必要なくアイテムを手に入れられますし、腐る物でもないので必要な時に切り札として使えばいい。けっして悪い取引ではないと思いますが?」
俺の言葉に、すみれさんは顔を上げて俺を睨む。嫌われただろうな。お前らの事なんて信用しないと言ってるわけだし。
だが高校生のガキである俺に対して名取川家が恐怖しているという現状、後ろ盾のキャンセルと言う最悪の事態だけは避けないといけない。
人生が詰みかねないという意味もあるし、俺個人の感情的にもイヤだ。
「博人君、名取川家嫡子を舐めないで。あなたがなぜそんな事を言っているかなんて私にはわかってるのよ。そんな挑発に乗って感情任せに判断したりしない。でもね、一度後ろ盾になると決めたことを反故にするようなことはもっとしない。絶対にさせない」
俺に挑みかかるかのようにすみれさんは言った。そして表情を緩めて、ため息をつきながら言葉を続ける。
「わかったわ、アイテムの作成法の提供をお受けます。これは名取川家があなたの後ろ盾になることへの真の対価なのね?」
「はい、そうです。お願いします」
「はあ、本当にわかってるのかな?何度も言うけど君のアイテムの作成方法があれば、もっと大きな組織を後ろ盾にもできるし、良い待遇でその組織に招かれることだって十分可能なんだよ?」
「信用できなければすべて同じことです。俺は信用していますから」
静菜さんを見ながら俺は言う。
「あー、なんか羨ましいかも。まあ、今は良いや。それじゃあアイテムの作り方、教えてくれるかな?」
「はい、まず植木鉢に土を入れまして・・・」
俺は魔封石の作り方を教えていく。
「うんうん、ちょっと手間がかかるけどそこまで難しくないんだね。効果と比較してやっぱり破格だなあ。でもこれって自分が使える術を魔封石に封じるんだよね?じゃあ私達には解呪の魔封石は作れないってこと?」
「確かにそうですね。今の所は俺だけかもしれません。俺以外にも、前世の世界の神官がこちらに来ているのであれば、話は別になりますが」
「その神官魔法って、私使えないのかな?」
「どうでしょうか?まず大地母神様に信仰を捧げ、それまで信仰していた神は捨ててもらう必要があるでしょうね。そうしても神官魔法に目覚めるとは限りませんが」
「うーん、駄目か~。そんなに都合よくはいかないかあ」
すみれさんは残念そうにぼやきながら紅茶を飲む。
しょうがないよね。前世でもそのあたりは大地母神様次第だったわけだし。
おっと、そろそろいい時間だな、月光糸作りと行きますか
「良い時間帯になりましたので、月光糸を作るところをお見せします」
「え、見せてくれるの?!これすごく興味があったの!月の光を糸にするなんてロマンティックだし!」
「それでは始めますね」
俺は部屋の電気を消しカーテンを開け、空のボビンを用意して糸を繰る準備をする。丁度いい具合に今日は晴れている。
部屋の中に差し込む月光に指を添えて指先に集中する。すると白い絹のような糸が指先から現れる。それをもう片方の手でボビンに巻き付けていく。
俺はその作業を30分ほど続けていたが、二人は俺から目を外さず、黙ったまま作業をずっと見つめていた。
「ふう、今日はこれぐらいで終了ですね」
疲労があるので集中できない。30分持ったのは、二人の子供のようでいて真剣な眼差しに応えたかったというのが大きい。
「とても綺麗だった。まるで童話に出てくる魔法のようで本当に幻想的な光景だった」
「これヤバいわね。ずっと見ていられる。綺麗すぎて言葉もないわ」
二人は恍惚とした表情で口々に感想を言い合う。ずいぶんとお気に召して頂いたようだ。
「これも作り方を教えてもらえるの?」
「ええ、もちろん。ただ見ての通り、魔封石と比べると習得難易度の桁が違います。相当な修練を積む必要があることはご承知おきください」
「おそらく術力を介して月の光に干渉しているのよね?それは確かに難しそうだわ」
「前世でこの技術を習得するまでに100年掛かりました。俺は不器用でしたし他の仕事もあったので。でも器用な人ならもっと短い期間で習得できるでしょう」
「「100年?!」」
「え、ええ。でもさっきも言った通り、俺は不器用だったこともあり時間が掛かりました。俺が知る限りの最短完全習得記録は3年ですし、平均でも20年ほどですね」
「いや、そういう事ではなく100年も習得に時間が掛かれば、その時にはおじいさんになっているだろう?寿命の問題もある。趣味で習得していたのか?」
ああ、そうか。俺、一番重要なことを今まで伝えてなかったんだ。
「いや、そういう訳じゃないんだ。俺の前世は人間じゃなくて、ドワーフっていう長生きな種族だったんだよ」
「ドワーフ!あの洞窟に住み、鍛冶を行う勇敢な戦士の種族?!」
「まあ、そうですね。俺は大地母神様の神殿に住まわせてもらっていたので、穴倉生活はしたことがありませんが」
「そうか、ドワーフってすっごい長生きだって言われてるもんね。だから100年の修業も問題ないんだ・・・。ねえ、言いづらいことかもしれないけど、前世はいくつまで生きたの?」
「500歳を過ぎた頃だった思います。確か520歳ぐらいだったような」
「「520歳!」」
俺の言葉に驚いたようだが、今の俺はぴちぴちの16歳だからね?
「もっと早くそれを教えてよ!もう!あ、あとね、それとね」
「すいません。もう時間が時間なのでまた次の機会にお願いできませんか?」
もう12時前だ。今日は夕方の戦闘もあったし、もう風呂入って休みたい。
「あー、もうこんな時間か~。あ、そうだ!泊って行ってもいい?私も帰るの億劫だし。明日の朝も話ができるだろうし」
「だめです、姉さん!未婚の男性の家に泊まるなど、ふしだらです!」
「いいじゃん、静菜ちゃんも一緒に泊めてもらおうよ」
「え、それであれば・・・」
「いやいや、駄目ですからね。おとなしく帰ってください」
「えー、美人姉妹に帰れって、男としてどうなの?もしかして男の方が・・・」
「違います。未婚女性を家に泊めるなんてできませんよ。そういう信用があるからこそ、一人暮らしすることを親から認められているんですから」
「あー、つまんない。じゃあ、また今度時間作ろうね。絶対だからね?」
すみれさんは、俺にそう言うと、スマホを取り出し吉野さんに迎えに来るよう連絡を取っている。
俺はお茶を飲みながらぼんやりしていると、静菜さんがこちらを見ている。
「氷上君、私もあなたのお話が聞きたい。姉さんと一緒に来てもいいだろうか?」
「ああ、もちろんだ。歓迎するよ」
「そうか。ありがとう」
彼女の笑顔を見ながらお茶を飲んでいると、表に車が到着したようだった。
俺は二人を見送った後、力尽きた様にベッドに倒れこんだ。風呂はもういいや。




