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18_一日はまだ終わらない

今日の更新2回目

 俺たちが学校に着いたのは8時30分を過ぎた頃だった。車の中で少しだけ寝たけど疲れは取れない。さっさと家に帰ろう。


 俺は挨拶をして帰ろうとした時、電話をしていた名取川さんがこちらにやってくる。嫌な予感がするんですけど。


「氷上君。疲れている所、申し訳ない。私の姉なのだが氷上君に話があるそうなのだ。用事があるらしい」


 すみれさんが何の用事だろう?スマホを受け取り電話に出る。


「もしもし、氷上です」

「あー、すみれです。いきなりごめんね。ちょっとお願いしたいことがあるんだ。会えないかな?」

「え、今日ですか?」

「うん、できれば今日会いたいの」


 マジか。さすがに疲れたんだが。しかしすみれさんの声は緊張している。

 逼迫した状況のようだ。


「わかりました。どこに向かえばいいですか?」

「今学園にいるんだよね。迎えに行くから正門前で待ってて」





 俺は正門前で名取川さんと一緒にすみれさんを待っていた。


「名取川さん、すみれさんが言っていた重要な話って何か聞いてる?」

「いいや、私も聞いていない。もしかするとあれの話か?」

「あれ?」


 俺たちが話をしていると、昨日も乗った黒塗りのごつい車が目の前で止まった。

 後部座席のドアが開き、中にはすみれさんが笑顔で座っている。

 俺たちも後部座席に乗ると、車はスムーズに走り始めた。


 車内は相変わらず豪華な装飾がされている広い空間になっていて、俺は名取川姉妹と面する座席に座っている。


「今日はお仕事だったみたいだね。お疲れ様」

「ええ、入部初日からだったのでびっくりしました」

「多分疲れているだろうから、できればこの話も後日にしたかったんだけど、ちょっと重要過ぎて後回しにできないんだ。ごめんね?」

「いいえ、気にしないでください。それで重要なお話とは何でしょうか?」

「率直に言うね。氷上君が魔封石と月光糸が作れるということを伏せてもらいたいの。それとアイテムの存在自体も隠せる範囲で隠して欲しい」

「それは構いませんが、聞きたいことがあります」

「うん、何でも聞いて」

「アイテム自体やそれを作れることを隠す理由です。なぜでしょうか?」

「うーん、はっきり言うと、君の作るアイテムは規格外の物なんだ。宝物と言ってもいいほど」

「宝物ですか」

「うん。こちらの神具や法具、カトリックで使用する聖具とかがあるけど、扱うには専門的な修業が必要なの。素質の問題もあるけど、修行は絶対必要。人は術力を修行によって得るからね。だからそれが前提になるの。でも君の作った魔封石は誰でも使えるんだよね。月光糸にいたっては縫い込むだけいいというお手軽具合。本当に規格外なんだ」

「そうですか」


 マジかよ。魔封石とか月光糸で規格外?やべえ、作ろうと思ってる“あれ”とかはどういう扱いになるんだろう。

 いや、まてよ。これは下手すると光の届かない穴倉にぶち込まれて、死ぬまでアイテム作りを強制されるルートじゃねーだろうな?


「うん、だから君が名取川家にアイテムを納入してくれるって言ってくれたじゃない?あれってこちらからすると、すごく怖かったんだ。何を要求されるんだろうって。名取川家は今あなたを恐れていると言っていいかもしれない。だから本家紋を許すってことで、話は纏めたつもりだったけど、それでさえ君のアイテムとは釣り合ってないんだ。そのこともあってあなたの後ろだけになる件も破棄することも検討されてたの。」

「姉さん!それを言ってはいけません!お父様からお叱りを受けることになります!」

「いいの、静菜ちゃん。私はね、名取川家は氷上君に対して誠意を示し、すべてを話さないといけないって思ってる。名取川家側だけが黙っていたら、私達だけが肥え太って彼は何の利益も得ることもない。そんな不健全な関係は不幸な結果しか生まないよ」

「確かにそうですが・・・。わかりました。私もお叱りを受けます」

「ごめんね。巻き込んじゃって。でも私が廃嫡・放逐されても今、氷上君と話している場に静菜ちゃんが立ち会っていることが重要なの。名取川家の人間はちゃんと氷上君にすべてを話しているっていう私達の誠意の証として。わかってくれるよね?」

「姉さん・・・」


 二人は目を潤ませながら抱き合っている。え、何なのこれ?何が起きているの?さっきも諏訪ノ森さんとの話に出てたけど「ほんかもん」って何?

 いやいや、ちょっとまて、これは真剣に考える必要があるぞ。

 俺と名取川家の間で決定的な価値観のずれがある。今の話からそれは間違いない事だ。

 言ってみれば、このずれはアイテムに対して俺の考えるレートと、名取川家が考えているレートが違うということだ。

 ちょっとまずいな。俺自身は便利な品程度の認識なのだ。

 すみれさん達が喜んでいたのも、面白そうなおもちゃが手に入ったからだと思っていた。

 しかしそうではないようだ。彼らにとっては重要な切り札になりえるものだったのだ。


 このずれは俺が正直に、すべてを吐いて俺と名取川家が一種の共犯関係になること以外で、埋めることは難しいだろうな。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()を伝えることにより、俺たちが一蓮托生になるようにしなければならない。だけど、彼女たちに嫌われるかもしれないな。


 それとも名取川家との一切の縁を切るか?

 それはだめだ。それができるならあの時交渉なんてしていない。

 後ろ盾もなく一人ぼっちでは、本当に人生が詰んでしまう可能性がある。


 名家の名取川家ではなく、この二人を信じるか。名家は権威もあるがしがらみも多い。そうだ、だから家ではなく人を信じることにしよう。



 人を信じる?言い訳だな。今更彼女と縁を切るなど俺にできるはずもないのだから。


「すみれさん、静菜さん。お話があります」


 俺は、静かに話し始めた。



「まず先日お渡ししたアイテムは、俺にとって価値があるものではありません。

 “前の世界”と比べると作りづらい物ではありますが、素材自体も植木鉢と石に石灰と土なので簡単にそろいます。それに・・・」

「ちょっとまって!そんな重要なことを私たちに言っちゃだめだよ!」

「いいえ、構いません。聞いてください。俺にとってはあのアイテムより、あなた方名取川家との信頼関係を維持する方が、比較にならないぐらい重要なのです」

「どうして?あの神具があれば、誰とだって関係を築けるよ。田舎名家の名取川である必要なんてないじゃない!」

「確かに名取川家より力のある名家や名門があるのかもしれません。でも名取川家は俺に誠意を持って対応してくれました。俺にとって力はそれほど重要ではなく、信用できるかどうかが重要なんです」


 これも言い訳だな。俺は自分が彼女と離れたくないから、それに無理に理由をつけているだけだ。


「でも、だって、それは・・・」

 すみれさんは困惑している。口からは意味の通らないことだけが言葉だけが出てくる。


「氷上君、信じていいのだな?いや信じさせてほしい」


 名取川さんが俺の目を見つめる。

 とても凛々しい光を宿した美しい眼だ。俺にはこの眼を裏切ることなんてできない。


「信じてくれ。戦友」

「ああ、そうだった。私達は戦友だったな」


 俺たちは見つめ合いながら笑い合った。


「なんだか二人がいい雰囲気過ぎて話しかけづらいんだけど。お姉ちゃんをハブらないでほしいなあ」

「あ、いや、決してそういうわけではなくて。そう、信頼関係を確認していたのです」

「ふーん、信頼関係の確認ねえ」


 拗ねるようにして、すみれさんが静菜さんを見ている。

 静菜さんが居心地悪そうに体をもじもじさせているのがとても可愛らしい。

 おっと、静菜さんを眺めている場合じゃない。俺は信用を得るために次の手を打つ。


「お二人とも俺の家に来てもらえませんか。見せたい物があるんです」





 俺たちを乗せた車が、家の前に止まった。よくある郊外型の1戸建てが俺の自宅だ。

 すみれさんは運転手の吉野さんに、また連絡するからその時に迎えに来るよう言い、車を返した。

 静菜さんは俺の家を眺めていたが、家の中が真っ暗なことが気になったようだ。


「氷上君。ご家族はお出かけされているのか?」

「俺は一人っ子で、両親は長期出張でアメリカに行ってる。今は俺以外、誰もいないんだ」

「そうだったのか、すまない」

「別に謝る事じゃないよ。一人だとのんびりできるし」


 俺は自分の部屋に二人を案内する。

 とりあえずアイテムの作成方法と作成現場を見せよう。

 強固な信頼を得るためにこちらは裸になるのだ。

 それでだめなら・・・、どうしようか?


「ここが俺の部屋です。アイテムもここで作っています」

「ここが・・・」


 二人は興味深そうに部屋を見渡している。


「素材自体は普通にある物なので、特に変わった物は置いてません」

「うーん、そうじゃなくて、親戚以外の男の子の部屋って初めて入るんだよね」


 すみれさんはモテそうなのに、男慣れしてないんだな。これだけ美人なら男なんて選び放題だろうに。


「ああ、そういう事ですか・・・。飲み物を持ってきます。適当なところに座っててください」


 お気遣いなくの声を背中に受けながら、俺は台所で紅茶を用意する。

 万が一、部屋を漁られてもエロ本は違う部屋に隠してあるから大丈夫だよな。

 PCには起動時にパスをかけてるし。よし、OK。


 俺は用意した紅茶を運びながら部屋に戻ると、二人は部屋の窓際に並べている植木鉢を見つめているのが見えた。



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