17_決着と初仕事の終わり
本日は3話投稿します。
俺は体への負担を避ける為、“昔”の俺から引き継いだ身体能力を抑えて生活している。
普段の生活に超人的な力など必要ないし、なにより“昔”の身体能力を今の俺が使うと反動で体がぶっ壊れるからだ。
力を解放した結果として極悪な筋肉痛はいつもの事。おまけに骨にもダメージが来る。良くて亀裂骨折を複数個所、悪いと完全骨折だ。本当にひどい時には内臓にまでダメージを負うこともある。
回復魔法で癒せばいいじゃないかと思うだろうが、この筋肉痛は癒すことができない。
また体が受けるダメージや折れ方がひどい場合も多く、大量の魔力を使って癒すことになる。
そして回復も無限にできる訳でもなく、ある一定以上回復すると効力が激減するのだ。そうなるとどれだけ魔力を注いでもかすり傷を癒すぐらいしかできなくなる。
だが今の俺のままだとこいつに負ける。それは”昔”、戦士としても訓練を重ねてきた俺にはわかってしまう。
仕方がない。明日から筋肉痛地獄確定だが、殺されるよりましだ。
俺は上半分だけ残っていた盾を投げ捨て、木の棒を構え直す。
するとのっぺらぼう侍の口のあたりが開き、落ち着いた声で語り掛けてくる。
「刀を持つ侍に体当たりを仕掛けるとはその勇気、まずはお見事と言わせてもらう。しかし一つ忠言したい。そのようなやわな板切れでは、身を守ること適うまい。豆腐のような板ではなく、もっと硬くしっかりした物を使われよ」
全く持ってその通りだ。次からは硬度の高い盾を用意するべきだろう。
ネット通販で売ってないかな?
侍は言葉を続けるのだが、口調が急に懇願するかのようなものに変わる。
「忠言はここまで。・・・切らせてくれ。いいだろ?痛みは感じないように切るから。俺に切らせてくれよ。ちょっとだけでいいんだ。なぁ、いいだろ。ケチなこと言わずに。もう我慢ができないんだ」
イカれてやがる。その上ふざけた奴だ。こんな奴が本当にちょっとで済ませる訳がない。
やるしかないな。俺は抑えていた身体能力の封印を一部開放する。ああ、本当に嫌だ。明日からが憂鬱だ。
侍は我慢ができなくなったようで刀を振りかぶり、袈裟懸けに切り付けてくる。奴の刀が振り下ろされるより早く、侍の側面を取るように移動しながら奴の頭の上下に連撃を打ち込む。
「俺からも忠言するよ。あんた切ることに集中しすぎて、自身の剣が避けられ懐に入られたら後の対応がなっちゃいない。だからこうやって懐に潜り込まれると、何もできなくなる。」
奴は俺が自らの横に移動する動きが見えなかったのだろう、ふらついた頭を振りながら慌てた様に刀を俺に向かって横薙ぎする。だが俺は刀が振りぬかれるより速く奴の斜め後ろに移動し、今後はさっきの連撃より速い速度で4発、顔の前後に打ち込むと、俺の右手からボキッっという音が聞こえる。こりゃあ、折れたな。
俺が痛みで木の棒を取り落とすと同時に、侍は力尽きたかのようにその場に崩れ落ちる。
体が崩壊を始めているので死んだのだろう。
「潜り込まれた後の修行も積むべきだったな」
俺の言葉が終わるころには、のっぺらぼう侍の姿は無くなっていた。
「大丈夫ですか?怪我はありませんか?」
俺は倒れている女性に声を掛けた。
女性は俺の顔をぽかんと見つめていたが、俺の言葉の意味が分かったのか真剣な表情を取り戻した。
「あ、ああ、大丈夫やで。怪我は特にない。ちゅうか、あんたの方が酷い怪我やん!しずちゃんに言うて、はよう癒してもらい」
「いえ、癒しは自分で出来ますので」
俺は自分を癒しを掛け、骨折や切り傷を癒す。せっかく回復した魔力がまた減っていく。今後は魔力管理が重要になるな。無駄遣いは厳禁だ。
俺は回復が終わったので木の棒を持ち直し、周りを見渡していると、さっきの女性から声が掛かった。
「あんた、癒しの術も使えるんかいな。なんちゅう便利な。ああ、ごめんな、名乗りもせんと。私は第三課の課長補佐やっとる諏訪ノ森 湊(すわのもり みなと)や。よろしゅうな」
「はじめまして、隆央堂学園考古部の氷上 博人です。よろしくお願いします」
大阪弁のお姉さんは第三課の偉い人でした。ショートカットで猫のような眼が印象的な美人だ。この人多分まだ20代だよな。そんな歳で課長補佐とかスゲーな、などと俺が考えていると諏訪ノ森さんが俺にすり寄ってくる。
「なあ、氷上君。考古部辞めて第三課においでーな?今なら、美人のお姉さんが付いてくるで」
諏訪ノ森さんにぴったりと抱き着かれてしまった俺は、体を硬直させて動けなくなる。
「同い年の女の子やったら、Hなこともさせてくれへんやろ。お姉さんやったらいくらでもしてええんやで?責任さえ取ってくれたら(ボソッ)」
まて、小声で聞こえた内容が恐ろしいんだけど。美人のお姉さんとのHは非常に魅力的だけど、この年で責任をとるとか重すぎるだろ。
俺がジトっとした目で見るとお姉さんは焦ったようだった。
「いやー、まあ、お給料とかも十分考慮するし、な?どうやろ、考えてくれへんかな?」
一際でかい爆発音が鳴り響いた後、爆発の余波を背後に名取川さんがこちらに歩いてくるのが見える。なんだろう、変なオーラが背後に見えるような・・・。
「諏訪ノ森さん、氷上君は考古部の部員ですよ?」
凍えるような冷たい声で名取川さんが諏訪ノ森さんに詰め寄ると諏訪ノ森さんは焦ったように名取川さんに言い訳を始めた。
「いや、そうは言うてもまだ入ったばっかりやったら、待遇のええほうに移るちゅうのも選択の一つやろ?それにこれは勧誘のやり方の一つやで」
「体で誘惑するのは勧誘と言えるのですか?少しは恥じらいと言うものをですね・・・」
「えー、そうは言うても高校生の男の子やったら女の子の体に興味津々やろうし、それを大人のお姉さんが教えてあげるっちゅうのもありやろ?決めるのは氷上君やで?」
諏訪ノ森さんはいたずらっぽく笑う。それを見て名取川さんが睨みながら唸っていたが、何かを思いついたようで勝ち誇るような表情を見せた。
「氷上君は考古部から所属を変えたりしません。彼は名取川の家紋を持つものなのですから、当然のことです」
「あー、はいはい、いつもの貸し出し紋やろ」
「いいえ、「丸に一つ柏」です」
その言葉を聞いた諏訪ノ森さんは非常に驚いたようで声を荒げる。
「はあ?自分、何言うてるかわかっとるか?名取川の本家紋を全く関係のない人間に渡すわけないやろ!」
「いいえ、昨夜の事ですが、お父様が私たちの前で正式に決定しました。通達はまだですが間違いありません」
「そんな、あほな・・・。まさかあんたらそういう仲なんか?」
諏訪ノ森さんは驚きのあまり座り込んでぶつぶつ呟いている。え、「ほんかもん」って何?何が起こってるの?
俺を置き去りにして話を進めないで。マジで不安になるから。
ま、まあ、今はのんきに話している場合ではない。状況はどうなっているのか確認しないと。
「名取川さん、戦況はどうなってる?」
「ああ、建物の中の対象はすべて殲滅した。直哉君が外のAチームのフォローに向かってくれている」
「じゃあ、俺たちも行かないとな。諏訪ノ森さん、それでは失礼します」
呆然としている諏訪ノ森さんに、別れの挨拶をして俺は建物の外に向かう。名取川さんが勝ち誇った顔で俺の後を付いてくる。マジで何なんだ。
俺たちが外に出ると、副部長がちょうど魔術の炎でのっぺらぼうを2体焼き尽くしていた所だった。
副部長は俺たちが出てきたのにすぐに気が付いたようだ。
「やあ、中はもう終わったようだね」
「はい、掃討は完了しています。外ももう終わりですか?」
「うん、多分これで終わり。そうだよね、加賀谷君?」
直哉は難しい顔をして下を向いていたが、すぐに顔を上げた。
「ええ、今の2体で外も掃討が終わりました。でもなんだかこれって救援じゃなくて、排除になっちゃいましたね」
「結果的に第三課の救援になっているから問題ない」
直哉が苦笑しながらそう言うと、部長は無表情に答える。
「でも、今回は皆怪我もなくてよかったよ。敵性体の数が数だから、それなりに覚悟もしていたんだけどね」
「怪我がないのは私達が良いチームだという証拠かもしれない。これからもこの状態を維持したい」
祝福が仕事をしたのかな?こういう風に効果が見えにくい所も、この魔法に人気がなかった原因の一つだしな。
俺たちが状況を報告し合っていると、可児先生が建物の中から出てきた。
「さあ、これで任務は完了した。後の事は第三課で対処するそうだ。私達は撤収するとしよう。車を取ってくるからここで待っているように」
先生が車を取りに向かい、部員は撤収の準備を始める。
そうだ、部長に謝っておかないといけない。壊しても良いとは言われいてもマジでこわしちまったからな、盾。
「部長、少しいいですか?」
「構わない。何?」
「ちょっと待ってくれ」
いきなり副部長が口を挟んできた。
「氷上君、君は戦闘後の高揚感に任せて、聡美を口説こうとしていたんじゃないか?」
「え?違います。盾の事で・・・」
「ほら見ろ!やっぱりそうだ。聡美が可愛すぎるからこういった男が出てくるんだ。聡美、こういう事がないように、僕達恋人同士になるべきなんだ。付き合ってくれ!」
「No」
え、何この人。また告ってるよ。それでまた玉砕してる。それより俺の話をちゃんと聞けよ。なんだよ、俺が部長に告るって。この人とは数時間前にあったばかりだぞ。
俺は盾を壊してしまった事を部長に詫びたのだが、言った通り第三課が勝手に置いていった物だから全く問題ないと言われた。弁償もしなくていいようだ。ラッキー。
俺達が雑談をしていると、黒のワンボックスがレストラン前に止まったので、俺たちは車に乗り込む。
もう8時だ。昨日は疲れたし今日も疲れた。さっさと家に帰ってゆっくりしたい。
明日からの筋肉痛地獄を考えないようにしながら、俺は眼を閉じた。




