14_考古部
俺は爆音を響かせながら車を走らせる。最近後輩共が見つけたドライブインは山中の国道沿いにあって、周辺に民家もなく溜まり場にするのに絶好の場所だった。女を連れ込んだり、騒いだりするのにもってこいで、それに加えて兄貴から預かったブツの隠し場所としても使えることもあり非常に居心地がよく、最近は入り浸っていた。
だから兄貴からブツを配達する仕事の指示があり、あそこを出なくちゃならなくなったときは舌打ちをしたもんだ。だが俺はツイていたんだろう、渋々指示された場所にブツを配達しさっさと仕事を終わらせた。妨害もサツが絡んでくることもなかった楽な仕事だった。俺は仕事が終わったことを兄貴に報告したんだが、小遣いをたっぷりもらえた。もらった額からただの配達ではなくかなり重要な仕事だったようで、問題なく仕事を終わらせたことを褒めてもらった。兄貴から誉めてもらったなんて久しぶりだったなあ。しっかしあの場所を見つけてからなんとなく運が向いてきているようだ。
「かなりの金も入ったし、酒を買い込めた。今日は朝まで後輩共と宴会をやるかね」
俺は上機嫌に独り言を言いながら運転していたが、目的のドライブインが前に見えてきた。いつもは工業高校での後輩がどこからか持ってきた発電機を使って照明を付けているのに今は真っ暗だ。
「発電機がいかれちまったかね。今は金があるし新しく発電機を買っちまうのありだな」
俺は独り言を続けながら車をおり、ドライブインの中に入っていく。ドライブインの中は真っ暗でほとんど見えていない。
「おい!酒を買い込んできたから車から降ろしてくれ!」
俺は大声で後輩共を呼ぶも誰の返答もない。外には後輩共の車やバイクがあったのでここにいるはずなんだが。
「おい!誰もいねーのか?!」
俺は再び大声を出しながらほとんど見えていないドライブインの中を歩くが店内は静まっている。
あれ?誰もいないのか?俺がそう考えていると、グニャっとしたものを踏んだようだ。踏みつけたものをよく見てみるとそれは人の手だった。なんだ人の手か。
「え?人の手?」
俺は慌ててその場を飛びのく。そして床をじっと見つめると目が慣れてきたのか、床が真っ赤に染まっているのが見えた。
人間の体の一部らしいものも散乱している。周りの壁も血が飛び散って・・・。
「ひ、ひぃ!」
俺は腰から力が抜けてしまい、その場所に座り込んでしまう。
ズボンの尻からべちゃという音が聞こえるけど、なにがケツに付いたかなんて考えたくない!
俺がその場で震えながら座り込んでいると、ドライブインの奥にある元キッチンから誰かが出てくるのが見えた。
真っ暗な人影で誰だかわからないが、人影は頭にバンダナらしきものがひらひらしている。後輩の三谷だ!あいつは馬鹿なことばかりを言っているムードメーカーで、いつも長めのバンダナをトレードマークにしていた。
「おい、三谷。この場所は一体どうなっているんだ?」
俺の声が聞こえたのか、黒い人影がこちらに近づいて来る。おかしいぞ。いくら室内が暗いと言っても人影が近づいてきても三谷の姿が見えることはなく、人影は黒いままだ。人影が目の前に来た時、俺は自身の目を疑った。人影は人間の形をしているが真っ黒で顔も付いていない。肌はコールタールのように真っ黒で時折波立っている。頭についていたのも、バンダナではなく人の腕をつなげて巻いているのだ。そしてこいつは血まみれな刀を持っている!
「助けてくれ。お願いだ。誰にも言わないから。なんでもするから」
逃げたくても俺の足は言う事を聞いてくれない。出来ることは震える声で命乞いをすることだけなのだ。
「ほう、その方、なんでもすると申したか?拙者の言う事を何でも聞くのだな?」
黒い人影は、威厳のある声で俺に話しかける。時代劇の侍のような話し方だ。だが俺の何でもするという言葉に反応している。これはもしかすると助かるかもしれない!
「ああ、なんでもする!だから命だけは助けてくれ!」
「ふむ、なるほどな・・・。では」
侍は何かを考えていたようだが要求を思いついたようだ。これをこなして俺は生き残るんだ。最近の俺はツイているんだ!
「斬らせてくれ」
「へ?」
「お前を斬らせてくれ。一度でいい」
「そんな!斬られたら死んじまうよ!」
「なに、死なぬように少し斬るだけだ。命に別状はないようにな」
俺は必死に考える。少しだけ斬られるのであれば仕方がないのではないか?このままだとバッサリ殺られるのではないか?俺は必死で考えていたが、黒い人影が足で床を叩き始めるのが見えた。ヤバい!イラついているのか!?これは迷っている暇はない。
「わかった。斬ってくれ。でも命の別状はないように切ってくれるんだよな?」
「うむ、そうだ」
俺の言葉に足の動きを止め、機嫌よさげに黒い人影が答える。
「斬られるのは一回だけなんだよな?」
「そう言ったはずだ」
床を足で叩く仕草はしていないが侍は少しむっとしたようだ。これ以上はやばいな・・・。
「・・・わかった、やってくれ」
「うむ、では左腕を斬るぞ」
侍は嬉々とした声でそう宣告する。俺は左上を体の横に伸ばし体を硬くしてその時を待つ。高く叫ぶような声を上げ、刀を振り下ろし俺の左腕を斬りつける。左腕にやけどしたかのような熱と痛みを感じる。でも見てみると左腕はほんの少しだけ斬られただけだ。血は少し流れているがどう考えても軽症だ!俺は生き残ったぞ!
あれ?でもおかしいぞ?他の奴らはこいつに殺されたのか?でもこんな軽症で済ます奴に殺されるわけがない。俺が疑問に思っていると、右足に熱と痛みを感じた。痛い!
「そうこれだ。これが斬るという事だ。そうこれこそが俺が求め続けている・・・」
ぶつぶつ言いながら侍は刀を振り回し始める。そして俺の体の傷は増えていく。俺は自身の両手で刀を防ごうとするが、目の前でその腕を斬り落とされるのが見える。
侍は喜色を湛えた声で叫び始める。その叫びは何をいっているのかわからない。
痛みを感じなくなり意識が黒い闇に落ちていく中で侍の言う「またやってしまった」が俺の最後に聞いた声になった。
昨日の名取川家との交渉は非常に疲れた。
目が覚めた後も布団から出るまで20分もかかってしまった。
まだ疲れは抜けていないが、仕方がない。2度寝してしまう前に、顔を洗おう。
顔を洗うと少し目が覚めた。軽く朝食をとり早速登校する。
昨日の交渉が終わり、帰るため屋敷の中を玄関に向かって歩いている途中、今日から考古部で活動するよう秀雄さんから指示があった。
突然すぎる指示だったが後ろ盾のお願いであれば断ることなどできない。
入部届けを早速出さないといけないのか。ああ、いやだいやだ。行きたくない。
疲れも取れていないのでテンションも上がらん。
そんなことを考えていると教室に着いた。なんだろう?教室がざわついているようだ。何かあったのか?教室の中に入ると藤井と話をしている女子が俺に向かってくる。
「おはよう」
「あ、ああ、おはよう」
あれ、今日はメイクしてないんだ。制服もいつもの着崩した物じゃなく普通だね。名取川さん。
どうも今まで分厚いメイクをしていた女の子が、超美人に変身したためクラスメートが動揺していたのが、ざわつきの原因のようだ。
「昨日は遅くまでありがとう。家族もあなたに会えてよかったと喜んでいた」
「それはよかった」
「それで考古部の件なのだが、入部届けの用紙はここにある。名前を記入してもらえるだろうか?」
俺は入部届けを受け取る。ああ、これで平穏な日々とはおさらばか。
「後の手続きは私に任せてくれ。今日は放課後、部室に行き部長達に挨拶してもらおうと思う」
「わかった」
名取川さんは嬉しそうに微笑んでいる。俺は入部届けに名前を記入し彼女に返した。
彼女はそれを顧問に提出に行くのだろう、教室から出て行く。
「おはよう、考古部へようこそってところかな?」
直哉だ。こいつも考古部ってことは、アンデット共のことも知っていたということだろう。
「直哉。次の休み時間に話があるんだが時間をもらえるか?」
「いいよ。屋上でいいかな?」
「ああ、屋上でいい」
直哉が俺から離れるのと入れ替わりに、小笠原が俺に席に近づいて来る。
俺と直哉の雰囲気が、いつもと違うことに気が付いたのだろう、小笠原は不安そうな表情を浮かべている。
「どうしたの。いつもと空気が違うけど。直哉とケンカしちゃったの?」
「違えよ。そういうのじゃないんだ。気にすんな」
「まあ、それならいいんだけど」
小笠原は完全に納得してはいないが様子だが、俺と直哉がケンカした訳ではないとわかったのか自分の席に戻った。
だめだ、眠い。少しだけ寝よう。俺は机を枕に授業が始まるまで眠ることにした。
1時間目の授業が終わり、俺は屋上に向かう。
屋上にはすでに直哉が待っていた。フェンス越しに校庭を眺めている。
「悪い、待たせたか?」
「いいや、今来たところだよ。それで僕に聞きたいことがあるんじゃないの?」
「休み時間は短いからな。単刀直入に聞くぞ。お前もあいつらの相手をしてたってことか?」
「ああ、そうだよ。僕の家も名取川さんの所と似たようなものでね」
「そうか・・・」
「黙っていたことは悪いとは思ってるんだ」
「気にすんな。俺もお前にすべてを話している訳じゃない。大体こんなこと言われても普通は信じねえだろうし」
「そう、そうだね」
俺の言葉に少し安心したのか直哉は少し笑顔になる。
「ああ、そうだ。相談がある。今まで帰宅部だった俺が、いきなり部活を始めると小笠原が前みたいに怪しむかもしれない。何かいい手はないか?」
「真姫に問い詰められたら、僕が以前から勧誘していたって言えばいいよ。僕も話を合わせるから」
「それでいくか。サンキューな」
「気にしないで。なんたって部の先輩だから」
お道化た様に返す直哉だがやはりどこかぎくしゃくしているような雰囲気を感じる。俺は無言でフェンスの向こうに広がっている風景を眺めていると、授業開始前の予鈴が鳴る
俺達は無言で教室に向かう。予鈴に救われたような形だった。
授業終了のチャイムが鳴り、放課後になった。昼休みに睡眠をとったせいか疲労が少しは抜けたと思う。
今から考古部に行く予定だが、俺は考古部部員って直哉と名取川さん以外知らないんだよな。
名取川さんは、授業が終わるとすぐに教室を出て行ってしまった。部室に行ったのかな?
そんなことを考えていると、小笠原と直哉が俺の席にやってきた。
「博人、あんた考古部に入ったんだってね。ずっと帰宅部だったのに何かあったの?」
「今までもずっと直哉に誘われていたのさ。親友のために一肌脱いだってところだな」
「あまり部員がいないと廃部になっちゃうかもしれないしね。ヒロにはお願いしていたんだよ」
「ふーん、そうなんだ」
よし、うまく躱せたな。前みたいに問い詰められたら困る。
すると小笠原が俺の耳元に顔を近づけ、声を潜めながら俺に聞いてくる。
「あんたさ、名取川さんがイメチェンした理由って知ってる?すっごい綺麗になってびっくりしたんだけど」
「なんで俺に聞くんだよ」
「あんた、日曜にデートしたのって名取川さんなんでしょ?」
「だからデートじゃねーっての。ちょっとした話をしただけだって」
「またまた~、あんたとのデートの後でイメチェンとか。絶対何かあったっしょ?今日もずっとあんたのこと見てるし」
「彼女のはそういうのじゃねえんだ」
そうだ、彼女が見ているのは氷上 博人じゃない。
“昔”なんども感じた視線だからよくわかる。いや、これは解りたくはなかったな。
「あ、ごめん。こういうのって茶化しちゃ悪いよね」
俺が思ったより暗い顔していたのか、小笠原が焦ったように詫びてくる。
「いや、ほんとに美人にモテてるんだったら最高なんだけどな。うぅぅ」
「あはは、そこはモテる様に努力しないと。がんばれ、男子高校生」
「俺には頑張るとか努力とか、そんな高尚なことはできない・・・」
「そんなこと言ってるからモテないんじゃあないの?」
俺はわざとらしく嘆いて見せ軽口を叩くと小笠原も乗ってくる。
「ヒロ、そろそろ行こうか。真姫も部活に遅れちゃうよ?」
俺と小笠原が馬鹿なことを言い合っていると、直哉から声が掛かる。
「あ、やばい。遅刻だ!じゃあ、また明日ね」
時計を見て、小笠原が教室の外に向かって走っていく。
「さあ、僕らも行こうか。皆が待っているよ」
俺たちも考古部の部室に向かって歩き出した。
校庭の隅に立っている特殊棟に着いた。
ここは理科室や工作室など常用しない教室が集まっている建物だ。
考古部の部室はこの1階にあると直哉は言う。
直哉の後をついて行くと、1階の一番の奥の部屋の扉の前で止まった。
「ここが部室だよ。考古部がここを占有していいと、学校からはお墨付きをもらっているんだ。教師もここに入ってくることはないよ。暗黙の了解ってやつだね」
「それはすごいな。大体文化部で一部屋を占有することを認められている部活ってあるのか?」
「文化部では他にはないね。科学部なら化学準備室みたいに部室が割り当てられるけど大体どこかの部活と併用って事が多いからね。まあ、うちは特殊な物を預かることもあるから、占有できないと困るんだけど」
そりゃそうだ。呪いのアイテムを預かることもあるなら、関係者以外立ち入り禁止にしないとな。
「続きは部室に入って話そうよ。廊下では話せないこともあるからね」
そう言いながら、直哉は部室のドアを開く。
部屋は普通の教室と同じぐらいの大きさで、壁際にはキャビネットがずらりと並んでいる。
そして中にいるのは名取川さんと他に男女が1名ずつ。
男女は部屋の中央で見詰め合いながら立っている。
「聡美!ぼくの恋人になってくれ!」
「断るわ」
告白する男を間髪入れず女が振る。部室に入って一番に目にしたのが、告白玉砕の場とか、なんだこりゃ。




