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13_名取川家の困惑

 Side:名取川 すみれ


「彼はもう家に着いた頃かな?」


 父さんの声で、我に返る。

 今日はあまりにも刺激的なことが多かったので、まだ思考がふわふわしていて現実感がない。

 だめだ、ぼうっとしているとお夕飯が冷めてしまう。

 私はお箸を持ち直していると、静菜ちゃんが父さんに返答している。


「ええ、彼の家は隆央堂学園から近いのでもう着いた頃かとおもいます」

「あらあら、氷上君の自宅を知っているなんて、静菜ちゃんはもうお家に招いてもらうような仲なのかしら」

「違います!今日電車の中でお話した時に、教えてもらったのです」


 母さんが静菜ちゃんをからかっている。

 まあ、氷上君に対する態度を見ると、静菜ちゃんがどういう感情を持っているかなんてすぐにわかるけど。


 高校に入学してからの静菜ちゃんは、いつも似合わないメイクをして着る物も派手な物ばかり。父さん達にもひどく反抗してた。

 それが今日はナチュラルメイクに昔着ていたシンプルな服でお出迎えだし、父さん達に反抗する様子もなかった。

 自分の事よく見せたいっていう、わかりやすい反応だったよね。


「静菜。私はお前を信じている。だから節度をもったお付き合いをだな・・・」

「はいはい、静菜ちゃんと氷上君の件はまた後で。まずは彼の残してくれた神具と帰り際に言っていた提案についてよく考えなきゃいけないんじゃないかな」


 あーもう、お父さんはデリカシーがないんだよね。静菜ちゃんが怒って、また反抗期に入っても知らないよ。

 まずは話を静菜ちゃんから逸らすために、彼が帰り際に残した提案を話題に挙げる。


「ああ、そうだね。彼の提案は我々にとって非常にありがたいのだが、どうしてそこまで名取川家に尽くしてくれるのかが全く分からない。裏があるのではないかと疑ってしまう。どうしたものか・・・」


 父さんは顔をしかめて考えこんでいる。


 彼こと氷上 博人君。名取川家が後ろ盾になることを認めたフリーの術師。そして彼は前世持ち。前世持ちは他にも知っているけど、異世界で生きてましたって人は彼が初めてだ。

 異世界で神官をしてたって言ってたけど、戦人としての力量も凄そうだ。襖の裏で気配を絶って隠れていた私をあっさり看破したし。それにあれほど立ち居振る舞いに隙が無い人って初めて見た。


 そんな彼は帰りの車に乗る時、名取川家が自身の後ろ盾になってくれるお礼として、三か月ごとに魔封石を大体15個前後、月光糸を60mほどを納めると言ってくれたのだ。


 霊的組織が実力と素行を認めたフリーの術師の後ろ盾になるなんてよく聞く話だし、名取川家でも何回か後ろ盾になったこともある。

 大体は期間を決めてその間こちらの支配下に入ってもらい、期間が過ぎれば残るか去るかの2択と言う場合が多い。

 でも自分自身と能力以外でリターンを用意した人なんていなかったし、聞いたこともない。


 そして彼の場合は本人の実力は相当なもので、その上別に用意されたリターンも聞いたこともないような凄い物。そりゃあ、こちらも警戒する。


 初めは名取川家を乗っ取りに来たのかとも思った。

 うまいことを言って取り入ってくる人間はいくらでもいるから。

 しかし名取川家は地元では名家であるけど、この市以外ではそこまで影響力を持っている訳じゃあない。あのアイテムを作れるのであれば、それだけでコネを得ることも簡単だろうし、そこがクリアできれば国家中枢に食い込むことすら難しい話ではないと思う。あのアイテムはそれぐらい破格の物なのだ。


 例えば政治家や大企業のトップなど人から恨みを買いやすい人々は、呪いを除去できる解呪(リムーブカース)の魔法石は垂涎の的だろう。また病気や呪いなどに抵抗力がある糸ならばどれだけ高くても買いあさるだろう。なによりも本来、神具を使うために必要である修行が不要なのだ。物があればいい。


「あなた、あの提案を受けてしまっては名取川家と氷上君の関係は健全とは言えなくなるわ。せめて後ろ盾になる以外で用意できるものを考えないと・・・」


 母さんは少し焦っているみたい。提案を受けた場合、追加で何か重要なものを要求されるのではないかと怯えているのかも知れない。


 もし私の両親に野心があれば、これらのアイテムを使ってこの県の霊的組織を支配することもできる。

 霊的組織は国営組織が中心になって運営されている。予算の問題もあり政治家の影響力は決して低くはない。

 そこで国会議員などの政治家を魔封石で懐柔し、この県の霊的組織は名取川家の指揮下に入るように指示させればいいのだ。

 他の中央の政治家や役人も、魔封石や月光糸があれば簡単に懐柔できるだろう。

 その後の事を考えないのであれば容易に達成できる。


 だが両親はそんな野心とは無縁な人達だ。私もそんな面倒なことには興味はない。

 今の私の興味はすべて氷上 博人君に向けられている。

 彼が大悪霊の動きを封じたという術が見たい。傷をいやした術が見たい。死にかけていたクラスメートを死の淵から帰還させた奇跡が見たい。

 彼が作っている神具の作成過程が見たい。

 月の光をどうやって糸に紡ぐのか興味は尽きない。


 結婚すれば見せてもらえるかな?それなら結婚もありかも。

 私は自身の容姿には自信があるし、結婚しても家事全般はすでに叩き込まれているから幸せな家庭を築く自身もある。


 確かに彼は美男子ではない。しかし目つきが悪いこと以外、風貌が醜いわけではない。普通の男の子だ。それに自分の友人を助けるために大悪霊すら相手にすることを厭わない勇気がある。今日の交渉時の堂々とした態度や立ち居振る舞いからみて、頼りがいもある。結婚相手としては十分合格だろう。

 もしかして結婚相手としてはかなりの良物件?歳が4つ下?問題ないよね。


 あー、なんだか思考がすごい変な方向に行ってるなあ。

 大体氷上君は静菜ちゃんの思い人だしね。姉妹で男を取り合うとか私の趣味じゃない。


「最悪の場合、彼の後ろ盾になる件は辞退する事も考えないといけないな。こちらから用意できるものが思いつかない」

「一度後ろ盾になることを約束しておいて、こちらの都合で一方的に反故にするのは、彼に対してあまりにも不義理です!」


 父さんの言葉に静菜ちゃんが噛みつくように言い返す。

 確かに後ろ盾の件を反故にするのは悪手だよね。

 下手をすると彼を怒らせてしまい、敵に回ってしまうかもしれない。


「確かに静菜の言う通りだ。できれば約束の反故はしたくはない。しかし・・・」

「もし名取川として提供できるものがないというのであれば、私が彼に嫁ぎます!私が彼にかいがいしく尽くせば!」


 静菜ちゃんの眼は真剣そのものだね。いきなり結婚とか氷上君、引いちゃうと思うんだけど。

 あ、父さんが動揺してお箸を落としちゃった。

 可愛がっている娘が、自分達が不甲斐ないから嫁に行くことで釣り合いを取るって言ってるんだからそりゃショックだ。

 はあ、とりあえず事態を収拾しないと。


「静菜ちゃんの事はとりあえず横に置こうよ。重大すぎる内容だしね。それよりも氷上君にうちの家紋を預けるっていうのはどうかな。この市内であれば便利に使えるだろうし」

「なるほど、家紋か。確かに今まで後ろ盾になった術師に貸し出したこともあったな」

「あれは仕事の時だけ貸し出した仮の家紋。でも今回は私たちと同じ家紋を貸し出すの」

「「丸に一つ柏」をか。確かにあの神具と釣り合うかは別にして、こちらの誠意を見せることはできるか」


 父さん的には妙手だと思っているみたい。でも問題は母さんなんだよね。

 名取川に婿入りしてきた父さんは家紋とかあんまり拘りはないみたいだけど、母さんは幼い頃から名取川の跡取りとして育てられてきたから結構拘るのよね。


「確かにこちらから誠意をみせないとね。すみれ、いい提案だと思うわ」


 あれ?あっさりとOKがでちゃった。あ、母さんの手が震えてる。

 静菜ちゃんの嫁ぐ発言は母さんの信念まで曲げる効果があるとは。


「では名取川本家として、氷上 博人の提案を受け入れ後ろ盾になることを決定する。また彼には名取川家の本家紋「丸に一つ柏」を使用することを許す。以上」


 名取川家当主として父さんが決定した内容を家族に告げる。

 これで彼は私達の家族のような存在になった。


 さて彼の加入で隆央堂学園考古部は面白くなりそうだ。

 最近大学に行ってもつまらないし、頻繁に考古部に顔を出すことにしよう。

 これでも考古部OGだし。

 彼を中心に考古部がどうなるのか、楽しくなりそう。

 まるで幼い頃の遠足の前日のようにワクワクしている。

 今日は眠れないかもしれない。



拙作を読んで頂いてありがとうございます。

私はこの度、初めてポイントというものを頂きました。

誰も読んでないんじゃないかと思いながら更新していたのですが、読んで頂いている方がいるとわかり、踊り出しそうになるほどの喜びと共に今後の更新の励みとなりました。

いつも読んで頂いている方々と評価いただいた方に厚く御礼申し上げます。

今後も拙作をよろしくお願い致します。

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