12_学生にやらせることじゃねーだろ!
普通は聞かれるよな。年齢と能力が合致していないんだから、怪しいことこの上ない。
俺は秀雄さんの質問を聞いてすぐにそう思った。
だがこれから俺を信じてもらい、名取川家に俺の後ろ盾になってもらわなければならない。
さあ、これからが本番だ。気合を入れなおそう。
うーん、だがまてよ。名取川家にそこまでこだわる必要があるか?
でも他にコネもないしなあ。
それにだ、さっきの呪いのお面はよそから押し付けられたとすみれさんは言っていた。
と言うことはよそからは押し付けても問題ないと判断されるぐらい、名取川家は力をもっているということだ。
もし力もなく弱いものに押し付けているのと言うのであれば、もっと前に名取川家は消えているだろう。呪いのアイテムはそんなに甘いものじゃない。
それに組織間の調整も任せられることがあると言っていた。弱者が強者の利害関係の調整なんてできるはずもない。
そして強者が権力を持つということは不思議でも何でもない。
力を持っているということは相手を単純に押しつぶすことができる。また従わない相手は、危機に陥った時に見捨てるという方法で穏便に粛清することだってできるからな。
それにだ、娘の手助けをしたということに恩義も少しは感じてくれているだろう。多分・・・。
力と権力を持ち俺とも面識があることから考えると、名取川家は良い後ろ盾だと思える。
俺はそう考えると結局、転生の事と自分の前世は何をしていたのかを説明することにした。
うまく信用を得ることができるように説明しないと。ああ、これもまた博打になるかな。
俺は名取川家の皆さんの顔を見回しながら説明を始めた。
「俺には前世の記憶があります。俺はこの世界とは全く違う世界で生きていました。前の世界はこちらでいう中世ファンタジー小説に出てくる世界と似ています」
有名なファンタジー3部作映画の名前を出しながら、すみれさんはうなずいている。
「そうですね。少し違いますが、人がいてエルフがいてドワーフがいる。小人族もいましたよ。そしてドラゴンやモンスター、邪悪なもの達もいる。そんな世界でした。そこで俺は大地母神様の神官として生き、そして死んだはずでした」
俺の話を名取川家の皆さんは真剣に聞いてくれている。
とりあえず頭のおかしい奴の戯言とは思われていないようだ。
「しかし俺は10歳の時に前世の記憶と経験をすべて思い出しました。原因はわかりません。俺は自分が狂ってしまったのではないかと思いましたが、記憶にあった神官魔法を使えることがわかり、すべて現実にあったことだと理解しました」
「話の途中でごめんなさいね。神官魔法と言うのはあなたが使っていたという結界術や癒しの術のことかしら」
難しい顔をした菊子さんから問いかけがある。
「そうです。神々に信仰を捧げ、認められた者が使用できる魔法です。なぜかこの世界でも大地母神様と俺の「つながり」が切れていないので、ここでも魔法を使うことができます。ああ、先ほどの魔封石や月光糸も前世で作っていたものをこちらで再現した物です」
秀雄さんも納得したようにうなずきながら言った。
「なるほど、君の能力は前世から引き継いだものということなのだね」
「はい。能力のすべてを以前のように使えるわけではないですが。また今でも大地母神様との「つながり」が切れていない理由は俺にもわかりません。ただ自身の能力を有効に生かせるのであれば、使うことを忌避するつもりはありません」
うん?これはいけそうかな。
「そうか、よくわかったよ。君の力は我々にとって福音だ。ぜひとも力を貸してほしい。後ろ盾の件も承知した」
「そうね、ここまでの技能と能力を持っているのだから、こちらからお願いしたいぐらいだわ」
秀雄さんと菊子さんの夫婦は嬉しそうに笑いあっている。
よっしゃ!こんな簡単に後ろ盾になってもらえるなんて。
これは名取川さんのフォローと俺の日頃の行いが良いからだな!
あとは見捨てられないようにアイテムを納入していけばいいか。
「それでだね、氷上君には早速協力してほしいことがある」
「はい、それはもちろん。どういった内容でしょうか?」
「君は今部活に所属していないと聞いているのだが、とある部に入部してもらいたい」
「とある部?」
「考古部は知っているかな?」
直哉が所属している部活だ。あのよくわからない部に所属する?どういう意味だ?
「はい、友人が入部していますので」
「ああ、そうだ。多賀谷家の直哉君がいるね。うちの静菜もそうだ。あの部に入って欲しい」
「入ることには特に問題ありません。しかしなぜあの部に所属しなければいけないのでしょうか?」
「ああ、あの部はね、このあたりの退魔を行っているのだ」
秀雄さん曰く、このあたりのモンスター担当部署に俺たちが通っている隆央堂学園の考古部が指定されているらしい。
だから問題が発生すると隆央堂学園の考古部が対応することになっていて、情報や予算も優先して与えられているとか。
それを決めた奴は馬鹿なのか?何で学生にそんな仕事を押し付けてるんだよ。
大体、授業中に事件が起きても即応できないだろうに。
俺が思ったことをオブラートに包んで秀雄さんに確認すると、ため息をつきながら教えてくれた。
「以前、このあたりを中心にした大規模霊的事件があってね。それを解決したのが考古部だった。事件が起きた当時は終戦直後ということもあってか、他の公的な退魔組織は機能していなかったらしい。だから若いけど人員がそろっていた考古部が代わりに解決したということなのだが・・・。厄介なのはそこからで、その功績が認められ隆央堂学園考古部はこのあたりの霊的事件の第1担当部署になってしまった。そしてそれはいつしか慣例になっていてね。今でも続いている」
「しかし考古部の人間は学生です。先ほども言いましたが事態に即応できません」
「その通りだよ。大体の場合、市役所の林野部第3課が対応している。この部署はこの市の霊的事件の第2担当部署だ」
さっさとそちらを第1担当部署にして、学生任せはやめませんか?
マジでメリットないんですけど。
「確かに君の言う通り、今の状態は決して効率的ではない。しかし今後改善していく予定だ。それに現状この市で退魔を行うのであれば、考古部がもっとも環境が良いだろう。幸いなことに君は隆央堂学園に通っていることもあるし、考古部にぜひ入ってもらいたい」
え、俺はアンデット退治なんかやる気ありませんよ。担当部署があるなら丸投げ一択でしょ。
アイテム納入業者として飼ってもらえればそれでいいです。
と言いたいところだが言えない。
善意で出していると思われるこの提案を断ってしまうと、名取川家の機嫌を損ねてしまう可能性がある。
そうなると後ろ盾の件をキャンセルされかねない。
何とか断る方法を考えないと。
俺は腕を組みどうやって断るかを考えていると、隣から声が掛かった。名取川さんだ。
「どうだろう。あなたの親友の直哉君もいるし、その、私もいる。先輩たちもいい人達だ。考古部に入ることを考えてはもらえないだろうか?」
彼女はすがるようにして俺に考古部に入るよう勧誘してくる。
不安な表情を浮かべ、またあの捨てられた子犬のような眼をしている。
なぜだろう、彼女が不安そうにしているのは耐えられない。
「わかりました。考古部に入ります。よろしくお願いします」
「そうか、それはよかった!考古部へようこそ、氷上君!」
名取川さんが満面の笑みで俺を見る。
そのうれしそうな笑顔をなぜか俺は直視できなかった。
時間も夕方に近くなったので、帰ることにした。
名取川家の皆さんからは、夕食を共にするようお誘いもあったのだが久しぶりの交渉は思ったより俺の体力や精神を削っていたようだ。早く帰って眠りたい。
俺はお誘いを丁重に断り、家に帰ることにした。




