11_君はいったい何者だ?
俺の言葉にすみれさんが動揺した様子で問いかけてくる。
「え、自分が言っている意味わかっているのかな?君は今、修行もしていない術力がまったくない人間でも術が使えるようになるって言っているんだよ?冗談だよね?」
「いいえ、言葉通り誰でも使えます」
名取川家の皆さんが俺の前に置いた魔封石に集まり、石を見たり指先で転がしたりしている。
「この3つにはそれぞれ、聖武具、聖盾、解呪の魔法を封じました」
「聖盾とはあの洞窟で使用した術か!この石を使えばあの結界術が使えるようになるのか?」
名取川さんが興奮したかのように言う。
「はい、そうです。しかしこれは使い捨てです。一度使用すればただの石に戻ります」
「結界術の事は娘から聞いている。規格外の術であったと。たとえ一度だけであっても、修行を修めていない者が使用できるとは素晴らしい。それで他の石にはどういった術が入っているのだろうか?」
魔法付与の初歩なんだが、思ったより食いつきがいいな。
こっちのアイテムは修行しなきゃ使えないみたいだし。
”前”の世界ではたとえ魔法の修業をしていない者でも、ベテラン冒険者であれば魔封石の5つ6つは常備していることは常識だった。
あちらでは作るのに大した手間もなかったので、新人冒険者が小遣い稼ぎに作っていたぐらいだし。その分、値段も威力もお察しだったが。
「聖武具の魔法は、指定した武器に聖なるオーラを付与する魔法です。これを掛ければ時間制限はありますが、通常の武器が通用しないアンデットやデーモンにもダメージを与えることができるようになります」
「清められた神具でなくても、悪霊を払えるのか・・・」
「また解呪は対象にかけられている呪いを解除することができます。ただ聖盾もそうなのですが、この魔封石は精度があまりよくないので威力はそれほど出ません。お守り替わりですね」
俺は魔封石の説明をすると、すみれさんが俺に提案してくる。
「ねぇ、氷上君。あなたのことを疑うわけではないけど、ちょっとこの魔封石を試してみたいの。いいかな?」
試すといっても、ここにレイスでもいるのだろうか?
「父さん、前にこっちに押し付けられたお面あったじゃない。この石を試してみたらどうかな?」
「あれをか?なかなかの難物だとは思うが。氷上君、この石を使っても構わないだろうか?」
うーん、俺の話聞いていたのだろうか?
一番ましな石を用意したけど、これは精度がそんなに良くないんだよなあ。
もし解呪できなかったら俺の話を信じてもらえなくなるんじゃないか?
だがここで引いてしまっては信頼を得ることができないだろう。
品はもう一つあるし、ここは賭けに出るべきだ。
「構いません。使っていただいて結構です」
俺がそう言うと、すみれさんが面を持ってくると言い残して席を外した。
俺はその間、秀雄さんや菊子さんから学校でのことをいろいろと聞かれていたが、15分ほどしてすみれさんが戻ってきた。
手には木の箱を持っていて、その中にさっき話していたお面とやらが入っているようだ。
箱の中を開けると能面が一枚入っている。女の顔をしている面だ。
「このお面は、曲見(しゃくみ)という種類のお面なんだけど、これを被った人はすぐに死んじゃうって言われてるんだ」
「そうでしょうね」
【妖精の眼】で見るとこの面に宿っているのは、あのレイスが寺崎達に掛けていた死を呼ぶ呪いと同じものだとわかる。こんなもん一般人が被れば近いうちに死んでしまうだろう。
「これで君の魔封石の効果を試してみるね。どうやればいいかな?」
「石を握りながら対象を見つめ、集中しながらコマンドワードを唱えてください」
「コマンドワードって?」
「この石に入っている魔法を起動させるためのキーワードですね。今回の石には魔法の名前をコマンドワードに設定しています。だから解呪ですね」
すみれさんは俺が言った通り、石を握り対象のお面を見ながらコマンドワードを唱える。
「解呪」
すみれさんのコマンドワードに反応して魔封石から魔法が行使される。
面の表面に淡い光が集中すると、耐えきれなくなったかのように面はまっぷたつに割れた。
嫌な雰囲気が消えていく。博打に勝てたようだ。あー、良かった。
名取川家の皆さんはお面を見て、解呪できたことを確認しているようだ。
これで少しは信用されたかな?そう思っていると、すみれさんが俺に向かって抱き着いてきた。
「すごい、すごいよ!あの呪いのお面を簡単に祓い清めてしまうなんて、とんでもないよ!」
俺の胸に柔らかい大きなものが2つあたっていて、ふよんふよんしている。
その上すごくいい匂いがしてくる。
俺にとっては呪いの面などどうとでもなるが、この攻撃には対応手段がわからない。
結果、俺は抱き着かれたまま固まっている。
「しかも修行もいらず術力がなくても使えるなんて。これは私達の業界の革命だよ!」
非常に喜んで興奮しているのはわかるのですが、ハナシテクダサイ。コノママデハ・・・。
そうやって固まっていると、名取川さんが俺からすみれさんを引き離してくれた。
「姉さん!氷上君が困っているじゃないですか!離れてください!」
「えー、氷上君も大きいおっぱいを堪能できたからいいよね?」
「そういう問題ではありません!」
「えー、大丈夫だよ。取ったりしないから」
「ねえさん・・・。本当にいい加減にしてください・・・」
名取川さんが自身の眼から光を消してすみれさんにつめよると、まずいと思ったのか妹に平謝りをしている。
すみれさんから解放された俺は説明を続ける。
「今回は良い条件がそろったので解呪できたのだと思います。先ほども言いましたが、俺が作った魔封石は決して質のいいものではありませんでした。しかしあの面に宿っていた死を呼ぶ呪いは俺の専門だったこともあり、封じた魔法の効果が増したと思われます」
「なるほど。だが質が良くないもので、あれだけの効果があるというのならそれは十分な効力を発揮したと言えるね」
「ありがとうございます。それでは2つ目のアイテムを説明します」
「ああ、そういえば2つあると言っていたね。いろいろありすぎて忘れていたよ」
秀雄さんは苦笑している。
「次は、月光糸になります」
俺はリュックから糸巻きを取り出した。
糸巻きには白く艶のあるシルクのような糸が巻き付けてある。
この糸は菊子さんの興味を引いたようで、俺に聞いてくる。
「月光糸・・・ですか。これはどういった物なのかしら?」
「これは名前の通り月の光を糸に変換したものなのですが、広い用途で利用できます」
月光糸は決められた時間に月の光を糸繰りすることで作ることができる魔法の素材だ。
外見や肌触りは絹の糸そっくりだが、糸の強度は月光糸の方が高い。
またこの糸自体に魔法や、呪い、病への抵抗力を底上げさせる効果を持っている為、自分の装備に糸を縫い込むことは中級冒険者の間ではよく行われていた。
貴族であれば布状(月光布という)にした服を4,5着持つのが普通で、裕福な商人であれば1着ぐらい持っていても不思議ではなかった。
また武器の柄に巻き付けることで武器に魔力を通し威力を増幅させることもできる、かなり応用範囲の広い素材と言える。
俺は糸繰りが多少できるので、交渉の道具として持ってきたのだ。
月光糸の効果を説明すると、秀雄さんはうめくような声を上げた。
「それはまた・・・。なんというかすごいものだな。先ほどの石もそうだが君が作ったのかね」
「はい、俺が作りました」
秀雄さんの質問に対し俺は正直に返す。
後ろ盾になってもらう人に嘘をつくことは危険なことだ。
もし嘘がばれたら信用を失い、俺自身が切り捨てられる可能性もある。
すべて話しておく必要もないが、ある程度は話をしておく方がいいだろう。
「君ほどの若さであれほど完成度の高い神具を作り出す。その上、大悪霊を封じ、強力な癒しの手と死の淵にあった者を引き戻す術まで修めて居る。君は一体何者なのだ?」
秀雄さんは鋭い目を俺に向け、そう言った。




