10_彼を紹介します
俺は座敷の中に入り案内された場所に座ると、隣に名取川さんも腰を下ろした。
吉野さんが俺たちにお茶とお茶菓子を配膳すると部屋から出ていく。
名取川さんは奥に座っている男性に俺のことを紹介した。
「お父様、彼が氷上 博人君です」
「そうか。はじめまして、氷上君。静菜の父の名取川 秀雄(なとりがわ ひでお)です」
そういって俺に視線を投げかけてくるのは50代ぐらいの巌のような雰囲気の男性だ。
非常に渋い風貌をしていて俺に向ける鋭い眼は、俺のすべてを見通そうとしているかのように見える。またその風貌に似合わず、親しみやすい柔らかい声をしている。
”昔”、戦場を共にした騎士団長を俺は思い出していた。
「静菜の母の菊子(きくこ)と申します。わざわざこんな遠い所まで足を運んでもらってごめんなさいね?」
男性の隣にいた30代前半ぐらいの上品な着物美人から声がかかる。
すぐに思ったのが(エロいな。この人)である。
和風の美人で顔立ちは親子だけあって名取川さんと似ているが、妖艶な雰囲気を漂わせている。右目の下の泣き黒子は彼女の妖艶さをより増しているようだ。
こんなエロイ美人を嫁にできるなんていいなぁ。
俺の年齢守備範囲からはほんの少し外れているが、ここまでのエロ美人だったら全く問題にならない。
クラスメートのお母さんを口説くとかどこのエロ本の話なんだよという突っ込みは無しでお願いします。
「はじめまして、静菜さんのクラスメートの氷上と申します。本日はお時間をいただきありがとうございます」
俺は”昔”を思い出しながら挨拶する。
やはり口下手の俺では交渉はつらい。話し方を”昔”から持ってくる。
「いいや、君は娘の命の恩人だからね。本来であれば私が君のもとに出向くべきだった。しかし“あれら”の情報を無関係な人物に知られる可能性は排除したい。そこで情報の機密性を担保できるこの屋敷に君を招待するしかなかった。
礼を失したこと、許してほしい」
そう言って秀雄さんが頭を下げる。
「いいえ、ご懸念はもっともだと思います。お顔を上げてください」
「ありがとう。では早速説明に入りたいが構わないかな?」
「その前に確認させて下さい。この屋敷にいる人間は、全員“あれら”の情報を得ても良いということでよろしいですか?」
俺は座敷のとある方向の襖を見ながら言った。
人の気配があるし、あの襖の向こうにいるのも関係者なんだよね?
「あ、ああ。そう言えば紹介を忘れていたね。すみれ、入りなさい」
少し驚いたように、俺が見ていた襖に向かって秀雄さんが声を掛ける。
襖が開いた向こうには大学生ぐらいの女性が座っていた。
「失礼いたしました。静菜の姉のすみれと申します」
そう言いながら一礼してから部屋の中に入ってきた名取川さんのお姉さんは、俺の隣に腰を下ろす。
え、なんだか近いんですけど。
この女性も、名取川家の人間だからなのか美人である。
名取川さんは凛とした和風タイプの美人だが、この人は陽性の美人タイプとでも言うべきか。
こちらを見てにこにこと笑う笑顔は非常に魅力的ではある。
その瞳の奥に警戒するかのような光がなければの話だが。
まあ、これは仕方がないだろう。怪しい奴が自分の自宅に乗り込んできたら警戒の一つもする。
俺は少し座る位置をずらしながら彼女に挨拶を返し、視線を秀雄さんに戻した。
「それでは説明を始めようと思う。長い話になってしまうがそこはご容赦願いたい」
そこから1時間ほど、秀雄さんの話は続いた。
話の内容をまとめると、
・表ではオカルト扱いされている幽霊や妖怪等は実在している。
・そういった存在を封じる組織は昔からあり、今は国が中心となって運営している。
・国営組織以外にも在野の組織がいくつかあり、その中の一つが名取川家。
・名取川家はそう言った存在を封じてきた家系で、今は国営の組織と連携して動くことが多い。
・また一部の組織間で仲が悪いこともあり、その調整を任せられることもある。
ということらしい。
くそったれ。アンデットだけかと思ったらモンスターまでいやがるのかよ。
心の中で誰にと言う訳でもない罵倒を吐きながら、提供された情報を整頓し今後について考えた。
まず思っているより対応する組織がしっかりと作られているようで、これはいい事だ。
連絡先さえ分かっていれば、俺がわざわざ事件に首を突っ込む必要なんてどこにもない。
だが組織がしっかりしているということは組織間の連絡も綿密に行っている可能性もまた高い。
俺の情報がすでに組織間で広がっている可能性はあるだろう。
俺の存在が知られてしまっている現状で、後ろ盾もなく一人でいることは危険だな。
どうも組織間の抗争もあるっぽいし。
後ろ盾が欲しいなと俺は思った。
一人でできることなどたかが知れているし、この世界で俺はただの男子高校生でしかない。
もしモンスターどもが力ではなく権力(ちから)で攻撃してきたら、俺は抵抗もできないだろう。
そうなると名取川家は後ろ盾にもってこいではないだろうか。
娘を手助けしただけで大量の情報を提供してくれたように、俺に悪いイメージは持っていないし借りは返そうとする誠実さもある。
それに歴史ある地元の名士であれば人脈もあるだろうし、それなりの権力(ちから)もあるだろう。
だがそこで問題になるのが、俺には後ろ盾になってもらう代わりに提供できるものがないということだ。
自分自身を提供したところで兵隊ひとりに大した価値はないだろうし、警戒もされている現状では難しい。
うーん、情報提供を求めるために持ってきたカードだが、あれを試してみるか。
駄目だったら、その時は別の手を考えよう。当たって砕けろだ。
俺は情報の提供について秀雄さんに礼を言う。
「いろいろと教えていただきありがとうございます」
「君の要望に応えられたかな?」
「はい、十分に。ここまで教えていただけるとは思っていませんでした」
「十分な情報が欲しいと聞いていたのでね。満足してもらえたなら良かった」
「それでいきなりで申し訳ないのですが、俺の保護をお願いできないでしょうか?」
こういう場合、”昔”の経験上、言葉を濁すのではなくストレートに言った方がいい。
「保護?誰かに狙われているのかね?」
「いいえ、今の所はまだ。しかし俺は裏の世界を知ってしまいましたし、ちょっとした能力も備わっています。そうするとそういった組織から勧誘があるかもしれません。勧誘であればいいですが強制力を伴う可能性もあります。俺はただの高校生です。そういう状況になると抵抗もできないまま取り込まれるしかないでしょう。そのような状況を避ける為に、頼れる後ろ盾が欲しいというのが俺のお願いの理由です」
名取川さんは、秀雄さんの顔を見ながら俺をフォローするように、しきりに頷くように首を上下させている。
サンキュー、名取川さん!愛してる!
秀雄さんは顔をしかめながら言った。
「確かに勧誘と言うには少々乱暴なやり方をするところもあるが・・・」
「もし後ろ盾になってもらえるのであれば、俺からも提供できるものがあります。本日は2種類持ってきました」
名取川さんのフォローが生きている内に攻めるべきだな。
俺は持ってきていたリュックから、物を取り出した。
まずはこっちだ。俺は石を3つ取り出す。
隣に座っていたすみれさんが興味津々といった様子で質問してくる。
「石かな?」
「はい、石です。魔封石と言います、この石には俺の魔法を封じ込めています」
「へー、術を?」
「はい、この石を握ってコマンドワードを唱えれば魔法が発動します」
「ふーん、それって誰でも使えるようになるの?」
すみれさんがいたずらっぽい笑顔で挑発するように問いかけてくる。
「はい、魔力を持たない人間でも使用できます」
俺がそう言うと座敷の中にいる全員の顔色が変わった。




