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9_両親にはいつ会ってくれるの?

 悪夢のような現実を知ってしまったオリエンテーリングの次の日、授業が終わったので家に帰ろうと下駄箱に向かった。

 思っていたよりも疲労していたので、さっさと帰りたい。

 しかし下駄箱に着くと女子高生魔術師改め名取川 静菜さんが待っていた。


「氷上君。少し話があるのだ。時間をもらえないだろうか?」

「・・・かまわない」


 仕方がない。美人の呼び出しを断るなど俺の人生にあってはならない。

 名取川さんは場所を変えたいと言うのでついて行くと、校舎裏の人気のない場所に連れてこられた。

 もう夕方だが空は晴れていて、夕焼け雲がとてもきれいだ。


 え、シチュエーション的には告白されてしまいそうなんですけど。

 もしかして俺が告られるの?

 そうなったら即、OK!よろしくお願いします!なんだが、そうしたら俺に彼女ができるの?

 やったー!しかもめちゃくちゃ美人だぞ!


 ・・・などと非モテの素人は考えるかもしれないが、彼女いない歴500年のプロの俺は知っている。

 こういう場合、他の誰かにラブレターを渡してほしいという伝書鳩的なお仕事の依頼だということを!


 これはいったん上げて落とすという非常に殺傷力が高いトラップで、切り替えの早いことが自慢の俺でさえ、だれが身近な人間に1時間ぐらい慰めてもらわないと復活できないほどだ。

 ノーライフキングのメンタルアタックよりダメージでかいってどういうことだよ。


 俺はつらい過去を思い出してはいたが、そういう内容ではないだろうと思いなおしてもいた。

 おそらくは昨日言っていた名取川さんのご両親と会う件だろうな。


「時間をくれてありがとう。早速だが私の両親に会ってもらう日取りを決めたいのだ」


 やっぱりそうか。そうだよな、俺が告られるとかそんな都合のいい話はないよな。

 でも夢ぐらい見てもいいじゃない!


「あなたの都合はつきそうだろうか?」


 名取川さんがおそるおそる聞いてくる。

 さて真面目に考えると魔力に全く余裕のない今は論外だ。

 最低でも魔力が半分はないと万が一に備えられない。

 うーん。5日ほどあれば、失った魔力も8割は回復できる。

 そう考えると5日後はちょうど日曜日だ。

 名取川さんのご両親も仕事が休みだろうから、迷惑がかかることもないだろう。


「今週の日曜日はどうだ?」


 無意味に名取川さんのご両親を待たせ過ぎ、俺に対する印象を悪くすることは情報を得る上でデメリットにしかならない。

 そう考えると今週の日曜は良い時期だと思う。

 彼女は俺の言葉を聞くと、ほっとしたような表情を見せた。


「わかった、日曜日だな。両親はあなたに都合を合わせると言っていたので大丈夫だ。ではお昼の2時に隆央堂駅の改札前で待ち合わせではどうだろうか?」

「わかった」

「えっと、その、待ち合せ場所と時間を決めているけどすれ違いが起きるかもしれない。よ、よければ番号を交換しないか?」


 うむ、女の子の番号はそれだけで価値がある。それが美人のものとなると超高級品だ。

 電話番号とLineのIDを交換する。


 名取川さんは交換が終わった後も、体をもじもじさせながら俺を見ている。

 え、もしかして俺、マジで告られるの?

 地獄から天国コースですか?大地母神様ありがとうございます!


 彼女が思い切ったように俺に問いかける。

「実は私のメイクが全く似合っていないと藤井君に指摘されたのだ。あ、あなたの目から見てどう思うだろうか?」


 はい、終了。

 また藤井か、イケメン死すべし。

 くそぅ、これも殺傷力高いな。

 事前に心構えしてなかったら、直哉のところに泣きつきに行っているところだぞ。


 正直放っておいてもいいのだが、藤井の言う通り名取川さんのメイクは全く似合っていない。

 素顔の方が絶対に綺麗だよ。マジで。


「君があの部屋で戦っている姿はまるで舞姫のようだった。その舞姫に今の君の化粧は似合わない」


 俺は正直な感想を言う。参考程度になればいいだろう。

 クラスメートに綺麗な女の子が増えるのは、俺の目の保養的にメリットもあるしな。

 藤井には彼女がいるけど頑張ってくれ。(邪笑)


「そ、そうか。舞姫か・・・」


 名取川さんが照れたように微笑むその顔には夕焼けがあたり赤くなっている。

 少し気障だっただろうか。

 “昔”冒険を共にした舞姫と呼ばれた女魔術師と似た戦闘スタイルだったので、思わず口から出てしまった。


「他に話がないなら、帰るぞ」

「ああ、ではまた日曜日に」

 彼女から嬉しそうな顔を向けられた俺はなぜか気恥ずかしくなり、この場を離れることにした。





 特に何事もなく、日曜日になった。

 待ち合わせに遅れないように早めに家を出ることにしよう。

 隆央堂駅に向かいながら今後のことを考えていた。


 俺はこの世界が平和で安全な世界だと思って生きてきた。

 戦争や病気などは“前”からあったが、少なくともこの世界でアンデットが徘徊しているなど思ってもいなかった。


 だが俺はこの世界の真実の一部を知ってしまったし、俺の存在もこの世界の組織の人間に知られてしまっている。

 アンデットの存在を知りながら放置したり、藤井達を見捨てるということは”昔”も今も許せることではないので、あの時の自分の判断に後悔はない。もし見捨てていれば俺は一生後悔しただろう。


 だが今日の話し合いの結果次第で、俺の将来が大きく変わってしまう可能性は十分にある。

 お願いですから、どうかMADな研究所に送られることだけはありませんように。





 駅に着くと名取川さんがすでに待っていた。

「すまない。待たせた」

「いや、私も今来たところだ」


 今日の彼女はナチュラルメイクで、着ている丈の長い白のワンピースもよく似合っている。

 彼女の容姿だといつものギャル風より、こういう清楚系が似合う。

 彼女は自分の服を指先でいじりながら、こちらを見ている。


「今日の化粧と服装は君にとてもよく似合っている」

「そ、そうか、ありがとう・・・」


 俺が感想をいうと彼女は顔を赤らめながら嬉しそうに微笑んだ。

 こういう気の利いたことを言えるのは、小笠原から受けた特訓の賜物だろう。


 同じ日曜に直哉と小笠原から遊びに誘われてしまい、うまく断ったつもりだったが俺の回答が怪しいものだったらしく、問い詰められてしまった。

 追及に耐えられず今日の情報交換のことを吐いてしまったのだが、事情を詳しく言えないということもあり、小笠原は俺がデートするのだと勘違いしたようで「デートの作法」とやらを俺に教え込んだ。

 仕方なく付き合ったのだが、美人が嬉しそうに微笑む姿は非常に眼福なので、作法とやらを特訓した価値はあったのだろう。


「では、そろそろ行こうか。ホームはこちら側だ」




 名取川さん曰く、彼女の家はここから5駅先だそうだ。

 とりあえず電車に乗り目的の駅で降りると、運転手付きのでかい黒塗りの車がお出迎えしていた。

 彼女の家は最寄りの駅から距離があるため車で移動しているそうだ。

 だがこんな派手な登場をされると交渉の前に、俺に圧力をかけているのかと誤解しそうになる。

 高校生のガキ相手にそんな大人気ないことはしないと思いたいな。


 車で15分ほど走ると、丘の上に大きな和風建築の家屋が建っているのが見えた。

 あれが名取川さんの実家らしい。マジでお嬢様だったんだな。


 大きな門を通って家の前に車が止まると、玄関前に30代ぐらいの女性が立っていた。

 俺たちが車から降りると、名取川さんが女性に声を掛ける。


「吉野、話していた氷上君よ。お父様達とお話しがある予定なのだけれど、どこに居られるのかしら」

「遠いところまでご足労いただき誠にありがとうございます。ご当主様は、月琴の間でお待ちです」

「月琴の間ね。わかったわ」


 名取川さんが、「こちらです」と俺を案内するように歩き出す。


「お嬢様、お客様のご案内でしたら私が」

「いいえ、彼はとても大事なお客様なの。私がご案内するわ」


 女性は少し驚いたようだが、軽くお辞儀をして家の中に入っていった。

 俺は名取川さんの案内を受け、家の中を進みながら今から始まるであろう交渉について考える。


 俺は名取川さんの両親から情報提供を受けることになったが、このままでは多くの情報、特に重要な情報をもらうことを期待はできないと考えている。

 自分の娘の手助けをしたとはいえ、よくわからない力を使う怪しい奴に多くの情報や重要なことを教えてくれるなんてありえない。

 しかし今の俺としてはできる限りの情報が欲しいところだ。

 そこでこちらからも交渉で使えるカードを2つ用意した。

 両方とも精度が"昔"に比べて悪かったり、大量に作れないと微妙だったりするので効果は期待できないかもしれないが、完全に手札がない状態は避けたかった。


 交渉の経験自体は、あるにはあるのだが俺の中では思い出したくない黒歴史になっている。

 神殿外組織との交渉が"昔"の俺の業務に追加された事があったのだが、あの当時はマジで胃が溶けてなくなるかと思った。

 あの仕事が原因で"昔"の俺の寿命が縮まったことは間違いないだろう。



 庭の庭園を眺めながら歩いていると玄関にいた吉野さんが座敷の前で立っていた。あそこが月琴の間とやらか。名取川さんは部屋の中に声を掛ける。


「静菜です。ただいま戻りました。お客様もお連れしています」

「入りなさい」


 部屋の中から渋い男性の声が聞こえる。

 俺たちが部屋の中に入ると、中には50代ぐらいの男と30代ぐらいの女が俺たちを待っていた。



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