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襲撃

「襲撃です」


 馬車に並走していた警護の騎兵が大きな声を上げた。


「どこ?」


 出来るだけ大きな声を張り上げる。


「後方から槍騎兵が来ます。お止め下さい、危険です」


 制止を無視して馬車の前側の扉を開け身を乗り出して後方を見たが、森が深く敵らしい姿は見えない。


「この森を抜けた所で、帝国側が待ってるはずです」


「止めるな、突っ切れ」


 警護は御者に声を掛けた。馬車は速度を上げたが、後続の馬車は荷物が重いせいか速度が上がらず遅れ始める。


 迎撃しなきゃ。客室に戻って扉を閉めると準備を始めた。


「箱を引き出すのを手伝って」


「危険です。お止め下さい」


「出すのよ」


 一緒に席の下から武器の入った箱を引き出して、銃を取り出す。高価な服が汚れそうだけど仕方がない。大切な報酬であるアクセサリーだけは戦闘中になくさないよう外して宝石箱にいれる。


「私、馬車の上に登るから銃を渡して」


 そういうと火薬と弾が入ったポーチについた紐に手を通して、両開きの扉の一方を開けて、上側の桟を掴んで体を引き上げると、反対側の窓に足を掛けて上がり、馬車の上に登った。


「銃を渡して。早く」


 扉から差し上げられた銃を引き上げると馬車から転げ落ちないように上半身だけ起こして準備を始めた。


 火薬、弾を込め、火口にも火薬を詰める。


「ランプを」


 客室から目いっぱい差し出されたランプを掴むと、火を火縄に移した。


 後方を見ると後続の馬車を追い越して手に槍を持った騎兵が追いかけてくるのが見える。後方の警護はやられたみたい。


 準備が済むと馬車の屋根に寝そべって銃を構えて一発目を発射。一騎が落馬するのが見えた。直ぐ次の準備を始めるけど弾込めが終わる前に追いつかれそう。


 急に明るくなったと思ったら森を抜けたみたい。体をひねって前を見ると右手に黒っぽい塊が見えた。よく見ると長槍パイクを持った兵が一杯いる。


「味方です」


 並走していた警護が歓喜の声を上げた。後ろを見ると騎兵が左右に分かれて、間を後続の馬車が1台抜けて来た。どうも襲撃者は私の乗った馬車に追いつくため、荷馬車は追い越しただけで攻撃しなかったみたい。


 帝国側が予想よりはるかに多かったのであきらめたのか、襲撃者は森に引き返して行った。


 馬車が停止すると、向こうの集団から背の高い人と太った人の二人が向かって来た。


「マリー姫は無事か?」


 背の高い人が大声で言った。この様子を見られたら不味い。


 私はこっそり馬車の屋根から反対側に降りようとしたんだけど、扉の窓に足を掛けた所で警護か誰かが返事をしてしまった。


「無事です」


 多分その人は馬車の窓越しにスカートを履いた下半身が見えて面食らったと思う。


『何だあ?』


 何か素っ頓狂な声が聞こえた。私は馬車を飛び降りたよ。うーん、どうしたら良いんだろう?


 アメリさんが馬車から降りてきて私の姿を見て目を丸くしてた。馬を降りた2人が馬車を回ってやってくると、これまた目を丸くした。


「この方が?」


「マリー様です」


 背の高い方の人の問いにアメリさんが平然と答えた。


『これはこれは。馬車の上に登って銃で応戦したのか?噂と違いアンジュの姫はよほどお転婆と見える』


 太った方の人が野太い声で何か言った。何を言ってるのか帝国語は全然分からない。


「アメリ、この方は何言ってるの?」


「マリー様、お転婆だと言われてますよ」


 マリー様の名誉を傷つけてしまった私は穴に入りたい気分になった。


『マリー様の身支度を整えたいのですが』


 アメリさんは帝国語で何か言って私の手を取って馬車に引き込こむと、馬車の窓を布でふさいで中で新しい服と着替えさせてくれた。脱いだ服を見ると前面が酷く汚れていて、かぎ裂きがあちこちにある。そりゃ屋根に登って寝そべればそうなるよね。


 身支度を終えて馬車からでて、改めて帝国側の二人に挨拶した。


「マリーです、よろしくお願いします」


『マリー様です。よろしくとの事です』


 アメリさんが帝国語に直してくれるみたい。


「ファルツ伯のランベルトです。マリー様にお会いできて光栄です。彼はコンツ男爵、歩兵隊は彼が率いている傭兵団です」


「傭兵団……ですか?」


「本来は別の目的で集められたのですが、襲撃の可能性が察知出来たので急遽一時的にこちらで雇う事になりました」


「コンツ男爵様。ありがとうございました。とても助かりました」


『コンツ男爵様、マリー様がありがとうとの事です』


『何ってことは無い。実際には戦闘しなかったし、今日の費用は皇帝陛下が持つそうだから大丈夫だ』


「皇帝陛下から今日の費用を出してもらうとの事です」


「そうですか」


『それよりこれは姫様の銃か?』


『それはたまたま馬車に置いてあったものですよ』


『そうか。公爵家の令嬢が使うにしては質素で使い込まれてると思ったよ』


 ランベルト様は何か怪訝な顔をされていたけど、何が引っ掛かったのやら。そもそも会話が全然わからない。私が見ているのに気づくとランベルト様は今後の事を説明された。


「これからはこちらの騎兵50名が警護に付きます。傭兵団は彼らの目的地に向かいます」


 私はこれまで警護してくれた騎兵の生き残りに向かった。


「これまで大変ありがとうございました。それでは行ってまいります」


 そういうと深々と頭を下げた。


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