あとがき 「ニセ公女」のモデルについて
ヨーロッパの歴史をご存知の方なら「ニセ公女」のアンジュ公爵家が実際にはヴァロア=ブルゴーニュ家をモデルにしている事をお分かりかと思います。作中の「マリー様」のモデルは「最後の騎士」と言われた皇帝マキシミリアン1世の最初の妻マリー・ド・ブルゴーニュで、ランベルトのモデルはマキシミリアン1世その人です。(マキシミリアン1世はフリードリヒ3世の長男で三男坊ではありませんが。)
1473年9月30日にフリードリヒ3世がマリー・ド・ブルゴーニュとマキシミリアン1世との婚姻の件でブルゴーニュ公シャルル(突進公)とトーリアで会見し、ブルゴーニュ公の歓待を受けた挙句、11月24日に随行員を捨ててマキシミリアンと宰相ら6人だけで脱出すると言う歴史上の事件があります。
「ニセ公女」の第一章はこの事件を元に男女を入れ替えたものです。
フリードリヒ3世が脱出したのは、マキシミリアンとマリーとの婚約と引き換えに突進公のローマ王への推挙を要求されたからです。フリードリヒ3世らの逐電劇は徳川家康の伊賀越えの様ですね。
突進公は後に和解して、マキシミリアンとマリーとの婚約だけが認められる事になります。突進公はマキシミリアンの事は気に入っていたようです。
(作中と同様突進公にはマリーしか子が無かったためマリーの夫が実質的に後継者になります。)
その後突進公はスイス傭兵に連敗して、ロレーヌ公とのナンシーの戦いで死亡。国王ルイ11世にブルゴーニュ公爵領を接収、残ったフランドル地方も反乱が起き、マリーは皇太子のシャルルと結婚するよう貴族や大商人に迫られ、事実上幽閉されます。そこでマリーはマキシミリアンに手紙を書いて、マキシミリアンは軍を率いて救出に来て、到着の翌日に結婚するわけです。この辺は第三章のモデルです。
と言うわけで、「ニセ公女」は完全に歴史に沿っている訳ではありませんが、仮想戦記程度ではあるかなとは思います。
参考文献
政治史
堀越孝一 ブルゴーニュ家 講談社現代新書 ISBN978-4061493148
菊池良生 神聖ローマ帝国 講談社現代新書 ISBN 978-4061496736
佐藤賢一 カペー朝 講談社現代新書 ISBN 978-4062880053
佐藤賢一 ヴァロア朝 講談社現代新書 ISBN 978-4062882811
江村洋 ハプスブルグ家 講談社 ISBN 978-4061490178
文化史
ホイジンガー著 中世の秋(上) 堀越孝一訳 中公文庫 ISBN 978-4122003729
ホイジンガー著 中世の秋(下) 堀越孝一訳 中公文庫 ISBN 978-4122003828
傭兵関連
菊池良生 傭兵の二千年史 講談社現代新書 ISBN 978-4061495876
ラインハルト バウマン著 ドイツ傭兵の文化史 菊池良生訳 新評論 ISBN 978-4794805768
帝国郵便
「ニセ公女」ではランベルトの組織が帝国郵便の元になったと言う設定。
神聖ローマ帝国の帝国郵便はヨーロッパで初のリレー方式の近代郵便でブリュッセル(作中はモンス)ーインスブルック(作中は帝都)間を5日で伝達出来ました。
商業利用も可能であった他、旅行業も行い郵便局が宿屋を兼ねてました。(宿駅)
菊池良生 ハプスブルグ帝国の情報メディア革命 集英社新書 ISBN 978-4087204254
ヴォルフガング・ベーリンガー著 高木洋子訳 トゥルン・ウント・タクシス その郵便と企業の歴史 三元社 ISBN 978-4883033560
帝国自由都市
作中登場するアウクスブルク、ケルンは帝国自由都市。実質的には市参事会が統治する自治都市。
神聖ローマ帝国の帝国議会の都市部会は各帝国自由都市の代表により構成されてました。
シュモラー著 瀬原義生訳 ドイツ中世都市の成立とツンフト闘争 社会科学ゼミナール 未来社
渋谷 聡 帝国都市と帝国裁判所--18世紀帝国最高法院におけるケルン上層市民間の裁判 社会文化論集:島根大学法学部紀要 2011 1-10P
高津 秀之 ドイツ近世都市ケルンの共和主義 : ヘルマン・ヴァインスベルクの回想録にみる参事会と市民の政治的対話 早稲田大学 2012




