エピローグ
馬車に乗ったまま市門を通って、御者の隣に乗った案内人の指示に従って、その建物に向かいました。
この街を訪れるのは2回目。でも職人達の工房が並ぶというこの辺りに来たことはございません。
通りはそれほど広くはありませんが、街には活気があるように感じられます。
以前ここを訪れた時からたった2年のうちにいろんな事がすっかり変わってしまいましたが、彼女はあの時から変っているでしょうか?
変わったと言えばランベルト様の甲冑姿には驚かされました。狩りに行かれる姿は以前お見掛けした事がありましたが、あのような雄々しい姿は思いもよらなかったものですから。
そう言えば、いきなり私の家に現れた御主人様も美少年かと思うような出立でしたね。全くよく似たご夫婦だこと。
ランベルト様がモンスに来られた日の翌日急遽行われた結婚式では、御主人様とお二人ともまるで作り物のような美しさでした。
式自体は未遂に終わった皇帝陛下の宮殿でのものと比べれば簡素なものでしたが、お二人を祝福する庶民の数と言ったら、それはもう大変なものでしたよ。
私、ちょっぴりドキドキしてたんですけどね。御主人様がまた誓いを拒否するのではないかと。
だってそうじゃありませんか、ヨハン様の時と、離宮からと、御主人様は2回も逃げ出しているのですから。
でも考えてみれば、そのおかげでミシェル様がお亡くなりになった時、直ぐ御主人様がモンスにお戻りになれたわけですから、神様の思し召しは我々には計り知れないものですね。
ご結婚式の後、ランベルト様は直ぐに軍の集積地に向かわれ、御主人様はお見送りに行かれたのですが、そこにはコンツ男爵の傭兵団もいたそうです。
色々な縁が御主人様と公爵家を守ってくれたのですね。
そんな事を思い出していたら馬車が止まりました。
『ここから先は馬車では無理です』
上から案内人が声をかけます。
『ではここから徒歩で参ります』
そう言って馬車から降りると案内人と警護二人と共に脇道に入りました。
同じような3階建ての建物が並んでいる所に来るとその一軒の一階の扉を案内人がノックします。
『ナタリー、いるか?』
『今行きます』
奥の方から声が聞こえて暫くすると扉が開きました。
ナタリー、あんまり変わっていませんね。
『こんなに大人数でなんです……アメリ様、どうして』
『とりあえず中に入れてもらえませんか?』
『あ、すいません』
案内人と警護を外に残して私一人中に入りました。
思った以上に狭い家ですね、ここは。こんな所に御主人様が隠れ住んでおられたのですか。
『今日はアネット様の名代としてまいりました。アネット様とランベルト様の事はご存じですね』
『アネット様が公爵家をお継ぎになり、ランベルト様とご結婚されたと承知しております』
『それでアネット様はナタリーの献身に報いたいとおっしゃられて、私をご名代とされたのです』
『私はランベルト様の配下ですし、給金はいただいておりますが』
『アネット様をあなたに託した日、私が言った事を覚えていますか?』
『ええ』
『あなたがもし心からアネット様の為を思ってお仕えすれば、アネット様はあなたを認められるでしょう。私はそう言いました。アネット様はあなたの献身を認めて、あなたに報いたいとの事です』
『はい』
『アネット様は、ここケルンにおけるアネット様の資産全てをもってあなたに報いたいとの御意向です』
『そんな事』
『不足ですか?』
『アメリ様、アネット様のご名代に失礼とは存じますが、一言苦言を呈してもよろしいでしょうか?』
『どうぞ』
『アネット様は庶民の中でお育ちになり、ここで1年近くお過ごしになり、ご自分で仕事をされていたにもかかわらず、いまだにお金の価値を理解されてません。良きご領主とおなりになるためには、庶民がどれほど苦労して生活しているかを忘れていただいては困ります。これほどのものを簡単に人に与えるものではありません』
『あなたの言う事は分かります。分かりますが、私もここまで来てアネット様の命を果たさずに帰るわけにはまいりません』
『ではアネット様のご名代として、私とヤンの二人でアネット様が戻られるまで家主代理としてここを守る事をお許し願えませんでしょうか?』
『ヤンさんと二人でですか?』
『ヤンと二人で、です』
あ、そういう事。
『分かりました。ではあなたとヤンさんの二人でこの地におけるアネット様の資産を守っていただきます』
『私どもはいつでもアネット・ロン様がお戻りいただけるようここを守りますとお伝え願えますか』
『分かりました。その通りお伝えします。それと、これはアネット様の名代ではなく、私個人からですが』
『なんでしょう』
『ヤンさんとあなた、お二人のお幸せを願ってます』
ニセ公女と皇帝陛下の三男坊 完




