アメリさん
一日の訓練が終わると部屋に帰って夕食。食事を持ってきたアメリさんに話しかけた。
「何あの訓練?ドレ様は私に何をさせたいの?」
「存じません」
「アメリさんもずっと立ちっぱなしで疲れない?ああ昼食の時は交代してたんだっけ?」
「ええ、少し休ませていただきました」
「アメリさんも大変だよね。私みたいな田舎娘の面倒を見るのって大変でしょう?」
「仕事ですから」
私が田舎娘で面倒を見るのが大変だってのは否定しないんだ。
「私さ、田舎から来たところだからモンスの普通の人が知ってる事も全然しらないんだよね。だから少し教えてほしいんだけど」
「何でしょう」
「ドレ様って公爵家の家宰だって話だけど、その家宰ってのが何なのか分からないんだよね」
「家宰は公爵様の下で公爵家の領内やお屋敷の事を取り仕切る役割です」
はあ、ドレ様って偉いんだ。
「アメリさんの仕事は何て言うの?」
「侍女です」
「アメリさんは侍女になって何年位になるの?」
「私は公爵家に仕えて6年になります」
あれ?アメリさんってドレ様が雇ってるんじゃなくて、公爵家に仕えてるの?ひょっとしてアメリさんって結構偉い?そう言えば召使いの2人にも指図してたよね。
「公爵様はどんな人?」
アメリさんは少し考えて言った。
「そうですね。公爵様は前公爵のお兄様のエリック様と比べて武勇に優れ勇ましい方かと。ミシェル様が継がれて以来3回戦をされ、いずれも勝ち戦だったと存じております」
公爵が戦上手なのは知ってる。だからモンスに来たんだし。
「エリック様はどうしたの?」
「エリック様は11年前に亡くなられたそうです」
「公爵家にはミシェル様以外にはどんな人がいるの?」
「ミシェル様のご両親の先々代公爵夫妻は既にお亡くなりになりました。お父様が亡くなられてエリック様が継がれたと聞いております。ミシェル様には奥様のイサベル様とお嬢様のマリア様がいらっしゃいます」
「エリック様には奥さんやお子さんはいなかったの?」
「……私はエリック様の頃の事は詳しくは存じません」
あんまり根掘り葉掘り聞いて返って妙な疑いを持たれても困るからこれ位にしておいた。アメリさんって私の監視役でもあるみたいなんだよね。
「今日の訓練の事なんだけど」
「何でしょう?」
「少しは淑女らしくなったかな?」
「その言葉遣いを直せばもっと淑女らしくなると存じます。お嬢様はジル先生と話す時だけ言葉遣いを改めれば良いとお考えでは?」
「それじゃ駄目?」
「普段庶民の言葉を話されたのでは、特別な時だけ言葉を直してもふとした拍子に素の言葉が出てしまうものでしょう。場合に合わせて言葉や立ち振る舞いを改めると言うより、淑女におなり下さいませ」
何だか難しい事を要求されてしまった。
「それではそのように致します。アメリさんありがとう」
「お嬢様のお役に立てて光栄に存じます」
アメリさんはそう言うとスカートを少し摘んでお辞儀をした。
次の日の朝クレマン先生の所に行くと、クレマン先生と一緒に男の人が待っていた。
「クレマン先生、ご機嫌よう。そちらの方は?」
クレマン先生は一瞬驚いた様に目を見開いたけど、咳払いをして言ったよ。
「今日は昨日の復習とダンスの練習です。彼はエミール・ルネ。エスコート役とダンスの相手をしてもらいます」
「初めまして、ルネ様。アンと申します」
「初めまして、お嬢様。エミール・ルネです。よろしくお願いします」
「では、まずあそこの席まで進んで挨拶をして下がってください」
「ルネ様、よろしくお願いします」
そう言って左手の肘を曲げた。ルネさんは私の腕を取ってエスコートしてくれる。昨日習った所作を順番に復習していくのをクレマン先生は満足げに見ていた。
「大変結構です、お嬢様」
昨日の復習が終わった所で手に何かの楽器を持った楽士らしい人が入ってきた。左手には瓢箪の様な形で弦がはってある本体を、右手には棒の様なものを持っていた。
クレマン先生の説明を聞いてから、音楽に合わせて踊る練習をしたよ。時々クレマン先生に注意されたけど、午前の訓練の終わりには初めてにしては良く出来たと褒めてもらえた。相手の動きに合わせて動くのは割と得意なんだ。義父さんと散々剣の練習をしたからね。
午後からのジル先生の訓練も中々上手く行ったと思う。淑女になったつもりで喋ると何故か上手く受け答えが出来た。不思議。アメリさんの言う通り、心持ちが大切なんだろうか?
でもこの仕事が終わったらお嬢様でも何でもない本来の自分に戻らなきゃいけないわけで、あまり淑女淑女しちゃうと後で困るかもしれないね。




