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訓練

 次の日に部屋で朝食を済ませて向かったドレ様の部屋に待っていたのは、やせて背が高く甲高い声で喋る神経質そうなおばさんだった。


「私はロザリー・クレマン。礼儀作法の教師です。お嬢さん」


「礼儀作法?!」


「別室を用意させたのでレッスンはそちらで。アメリ、案内してくれ」


「かしこまりました、ドレ様」


 アメリさん、クレマン先生、私の順で並んで移動した先は凄く広い部屋だった。赤いカーペットがL字型にひいてあって、奥に立派な椅子がおいてある。


「まず角の所まで真っすぐ歩いて下さい。でもその前に」


 クレマン先生は私の後ろに回ると頭の後ろを手で掴んで引っ張り上げた。


「背筋を伸ばして真っすぐ立つ。全てはそれからです」


 ちょっとムッとした。この人、言葉は丁寧だけどやる事はきつい。仕事だと思いなおして、赤い絨毯の上を言われた通りL字の角の所まで歩いた。


「速すぎます。ゆっくり、優雅に歩いて下さい。真っすぐ前を見て、僅かに微笑んで。手と足が同時に出てますよ。落ち着いて」


 微笑めって言うけど、自分がどんな顔してるか分からないし。


「無理に笑おうとすると下品、失礼、優雅ではありません。自然な感じで」


 何十回か歩いてようやく合格したと思ったら次が待っていたよ。


「アメリさん、少し手伝ってください。お嬢さんの左でエスコート役をして下さい」


 『エスコート』って何?


 アメリさんが私の左側について私の左腕の内側に腕を入れて肘を曲げる。私も肘を曲げ、微笑んでっと。先生が頷いたのでアメリさんと一緒にL字を曲がって奥の椅子の所までゆっくり歩いた。これは割合と簡単に出来た。


「椅子の前に来たら座ってる方に挨拶します。こうスカートを持って、左足に重心を乗せて、右足を伸ばして膝を少し曲げて。頭を下げすぎないように。足を戻して。前を見たまま斜め後ろに下がってください」


 ああ、あの椅子には偉い人が座るわけね。こんなに近くまで来られたら危なくない?二歩で届くよ。


 先生の仕草を真似てみた。人の動作を真似るのは結構得意かも。そう言えば義父おやじさんにもいろんな型をこうして教えてもらったな。


「では入口まで戻って、最初から通してやって下さい」


 赤いカーペットの上をアメリさんと並んで腕を組んで歩いた。椅子の前でアメリさんが腕を外して、私はスカートを摘まんで少し上げ、さっきの先生のポーズを真似る。


「結構です。今度はここまで来て椅子に座ります。入口まで戻って」


 あれ??奥の席に座るんだ。


 また入口まで戻ってやり直し。アメリさんに『エスコート』されて椅子の前まで歩いた。



「椅子の前まで来たら、回って反対側を向いて。もっとゆっくり、優雅に。椅子の方に向いたところからやり直して」


 優雅ってのはよく分からないけど、ゆっくり動けばいいわけね。


「そう。正面を向いたらスカートを少し摘まんで椅子にゆっくり腰を下ろして。そうです」 


 午前中はずっとこんな調子で、似たような動作を何回も何回も何回もやらされたよ。


 「次は食事のマナーです」


 アメリさんに案内されて別室に移動した。部屋の中にテーブルがあって、真ん中に料理が置かれてる。そういえばお腹すいた。


 テーブルの両側に椅子が置いてあって後ろに昨日の召使が一人ずついた。先生が片側の椅子の所に行くと召使が椅子を引いてくれる。


 先生の真似をして私も反対側の椅子の所に座った。目の前に取り皿と左右に『ナイフ』と二股になった奴がある。もう食べて良いかな?


 ナイフは小さくて軽いし、刃がギザギザで切れ味が悪るそうだった。


 先生が説明してから見本をやってくれるんだけど、一口食べるのにもああだ、こうだと言われて大変だった。


 食事の作法でクレマン先生とは一旦終了。アメリさんに連れられて別の部屋へ行くと今度は中年の男の先生が待っていた。


「初めまして、お嬢様。アンドレ・ジルと申します。ドミニク・ドレ様からお嬢様の言葉遣いを貴族のご令嬢にふさわしいものに直すよう仰せつかっております」


「私はアンだよ」


「お嬢様、初対面の者にはまず『初めまして』と挨拶をお願いします。名乗られる場合は愛称でなく、正式に姓と名前を名乗られるのがよろしいかと存じます。ではもう一度お願いいたします。」


「初めまして?アネット・ロンだよ」


「私の申す通りに繰り返して頂けますか?『初めまして。アネット・ロンと申します』」


「初めまして。アネット・ロンと申します」


「ご機嫌いかがですか?」


「良いよ」


「そう言う時は『とても良いです、ありがとう』とおっしゃって下さい」


「とても良いです、ありがとう」


「では椅子におかけ下さい」


「ありがとうございます」


「私の言う通りに言ってみてください。『狩りが上手な猟師は、猟犬なしで狩る術を心得ている』」


「狩りが上手な猟師は、猟犬なしで狩る術を心得ている」


「次は『猟犬なしで狩る術を心得ている猟師は、一人で狩るだろう』」


「次は猟犬なしで狩る術を心得ている猟師は、一人で狩るだろう」


「『大公夫人の靴下は乾いてるか?はい、超乾いてます!』」


「大公夫人の靴下は乾いてるか?はい、超乾いてます!」


「『ポールの毛の玉から めんどりはきっちり毛抜きする』」


「ポールの毛の玉から めんどりはきっちり毛抜きする」


「驚きました」


「驚きました」


 ジル先生が手を振ったので、繰り返す必要が無いものまで繰り返して間抜けをさらしてしまったのに気が付いたよ。


「お嬢様の発音は明確で美しいので、丁寧な言い方さえ身に付けられれば問題ないかと存じます」


「ありがとうございます」


 それからジル先生に色々な状況を挙げて言い方を直された。


「今日はここまでにします。明日また」


「今日はありがとうございました。明日もよろしくお願いします」


二股になった奴:フォークの事。当時はフォークは貴族階級では使われ始めていた。

ジル先生に言わされる文:フランス語の早口言葉

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