謁見
2週間はあっという間に過ぎた。今日は約束の日。
不合格だと言われても今日までの給金は貰わなきゃ。それと私の銃を返してもらわないと。不合格だったとしてもアンジュ公の所で傭兵になるのは無理だよね。モンスから出てどっか別の所で傭兵になるか、ほかの仕事を探すか。どっちにしても厄介事になる前にさっさと移動した方が良いでしょ。場合によってはこの屋敷から出してもらえない事もあり得るし。この服装での立ち回りは難しそう。あー緊張してきた。
アメリさんについてドレ様の所へ向かいながら、そんな事を考えてた。
アメリさんがドアをノックして来訪を告げる。
「ドレ様、お嬢様をお連れしました」
「入っていただけ」
アメリさんがドアを開けて、部屋の中に入った。
「ドレ様、ご機嫌よう」
スカートの端を摘んでお辞儀をして、顔を上げてドレ様の様子を伺う。
「今日はこれから公爵様の館に向かいます」
「公爵様の館にですか?」
「公爵様が訓練の成果を判断されます」
なんですって?!
「私と一緒に馬車に乗っていただきます」
ドレ様とアメリさんと一緒に屋敷の正面まで移動すると、既に準備されてた馬車に乗った。アメリさんの方を見ると何と言うこともないような顔付きをしてる。何となく騙された気分。ドレ様は家宰だしアメリさんは公爵家で6年も侍女をやってるそう。私一人が場違いな気がする。それも顔に仮面付けてるし、不審人物だ。
馬車が着いたのは大きな広場に立ってる巨大な建物の前だった。中央に高い尖塔があり、3階位まで窓がある。ドレ様を先頭に中に入ってどんどん奥に入っていく。階段を3階まで上がって奥の部屋の前まで来た。扉の前に立っている警護の人にドレ様が取り次ぎを頼んだ。
「例のご令嬢を連れてきたと公爵様に」
「お伝えします」
警備の一人がそう言って中に入ると直ぐ戻ってきた。
「入って下さい」
中に入るとドレ様の部屋の3倍ぐらいの結構広い部屋で、奥の大きくりっぱな椅子に40歳位のがっしりした感じで顎髭を蓄えた男性が椅子の肘掛に片肘をついて座っていた。周りには立派な服を着た男性が3人椅子を囲んで立っていた。
「お前達、暫く席を外してくれ」
椅子の男性にそう言われて周りにいた3人は部屋から出て行った。
「この娘でございます、閣下。アンジュ公爵閣下だ。ご挨拶するように」
「公爵閣下には御拝謁を賜り恐悦至極に存じます。アネット・ロンと申します」
「仮面を取るように」
公爵様にそう言われて仮面を外した。
公爵様は姿勢を正して目を見開いた様に見えた。握った右手の拳が少し震えてる様な気がする。
「閣下、まるでマリー様に生写しではありませんか?」
「ああ」
公爵様は表情を引き締めて、大きな声で問うた。
「アネット、其方はこれまでどの様に生きてきたのだ?」
「私は……私は孤児です。養父は傭兵でした。養父母の家には他に義理の妹と弟がいます。養父は流行り病で亡くなりました。私は養母とは折り合いが悪く弟妹を養うのが精一杯だと言われ家を出て行く事に。養父は私に傭兵に必要な技能を教えてくれてたので傭兵になろうとモンスに来たのです。ところが街に入った所で捕まってドレ様の所へ連れて行かれ……」
そこまで言いかけるとドレ様に遮られた。
「公爵閣下の御命令に基づきマリー様に似た娘を探す様市内警備の者達に伝えていたのです。私の屋敷に丁重に招待して、了解の上淑女として振る舞える様最低限の教育を行ないました。その間の給与も約束しています」
「そうか、分かった」
公爵様は少し考えてるようで、私達三人は黙って待った。
「アネット、其方に頼みたい事がある。知っての通り我が公爵家と王家は対立している。だから当家としては帝国の皇帝家とよしみを結びたいのだ。しかし周囲の領家と対立しているのに、公爵である私が領地を空けるわけにはいかない。そこで我が娘マリーを皇帝の宮廷に使者として派遣して盟約する手筈を整えた。ところがマリーは病に伏せってしまい帝国に向かう事が出来ない」
公爵様は私に分かるようにゆっくりと、一つ言うごとに指を一本立てながら説明した。それから少し間を置いて言った。
「其方にはマリーの代わりに『マリーとして』帝国に向かって欲しいのだ」
「恐れながら公爵閣下に質問があります」
「申してみよ」
「これは仕事の依頼でしょうか?それとも領民へのご命令でしょうか?私はドレ様には週間2グルデンの約束で雇用されたのですが、まだ給金をいただいておりません。私は家も職も無い流浪の身で、給金がなければ野垂れ死ぬしかないのです」
公爵様はドレ様の方を一瞬見て、それから真剣な顔で答えた。
「勿論ただでとは言わない。そうだな。出発するまでの全ての費用は当然公爵家が持つ。その上で公爵令嬢に相応しい衣装や装身具その他を用意する。出発した時点で全て其方の物だ。宝石のついた装身具は持ち運び易いし、売れば安いものでも一つ最低100グルデンは下るまい」
「ありがとうございます」
心から。
「それから一つ質問をしてもよろしいでしょうか?」
「いいぞ」
「ご息女のマリー様は私と良く似ているとの事。身に余る光栄とは存じますが、どの様な方なのですか?」
「そちらの壁にマリーの肖像画が掛かっている」
公爵様は私の背中側、公爵様の椅子の正面の壁を指差した。見ると青いドレスを着た若い女性の肖像画が飾ってある。鏡に写った自分を見てるような不思議な感じがした。顔について言えば、青い瞳は私のと違うがそれ以外は差異を見つけられない。勿論衣装も背景も知らないものだし、肖像画を描かれた記憶もないが。
「皆様が似ていると仰られる理由がよく分かりました」
自分の声が虚ろに響いた。




