ケルンへ
『分け前は1グルデンづつだ。いいな』
フンメルさんが金貨を一人一枚づつ配っていったよ。
『それで、アン。お前さん、これからどうするんだ?もし良ければ、俺たちとこの仕事を続けないか?』
『ほんと、見かけと中身が違いすぎるよな。あんたのお蔭で助かったわ。そんなにきれいな面して、馬車の上から盗賊どもをバンバン狙い撃ちにしてくれなきゃ、俺たちここまで無事にこれなかった』
『ナイフ投げが役に立たないとか言って悪かったな。あの腕見たらあんたに余計なチョッカイだそうと思う命知らずはいない。確かに大した護身術だ。で、どうだ?』
『ごめんなさいね。ケルンに行かなきゃならないの』
『そうか。また縁が有ったら俺たちと一緒に仕事してくれよ、きっとだぜ』
『そうね。また縁があったらね』
そう言うと私は一緒に警護をした仲間に背を向けて宿屋の食堂から部屋に戻った。昨日着いたフランクフルトから今朝出発する。一日たりとも余計な時間は過ごせない。隊商の警護隊に紛れて移動してここまで来たとはいえ、いつ追っ手が来ないとは限らないから。皇帝の都から離れれば離れるほど追跡は難しくなるはず。
隊商の警護が泊る宿は城門の外にあるから、馬を買ってからそのまま中に入らずに城壁の外の道をケルンに向かう街道まで移動したよ。
街道を通る旅人の中には剣で武装した人も多いけど、銃で武装している人はまずいない。モンスでもそうだったけど城内に銃で武装して入る事は出来ないし、長剣も駄目。これらの重装備は領主なり、帝国自由都市なら市参事会が認めた警備兵などに限られる。だからケルンに着いたら城外に宿をとって、武装を宿に置いて城内に入るつもり。
モンスか。
結局モンスの街中の事なんか何も知らない。ずっと館に籠って替え玉の訓練を受けてたから。みんなどうしてるかな?
あの時アメリさんを離宮に置き去りにしてしまった。アメリさんはあんなに私に尽くしてくれたのに。でも私には選択肢が無かった。
ランベルトはアメリさんを保護してくれただろうか?アメリさんが酷い目にあってたら私なんて謝ったら良いんだろう?
いえ、彼女を拷問した所で私の行方が分かるはずない。私を捕まえた後の事を考えたらアメリさんには乱暴しないはず。
ランベルトは……ランベルトの事を思うと今も胸が痛い。でも私には他の選択肢は無い。私が皇帝に捕まれば、どんな風に利用されるか分からない。アメリさんの事を考えても逃げるしかない。
ふと、行き交う旅人が私を見てみんな目をむいている事に気が付いた。
そう言えば、私は今警護隊の時と同じ格好をして馬に乗っている。兜をかぶり胸当て銃を持って馬に乗ってると、どう見ても騎兵。いえ、馬に乗って銃を当てられる騎兵なんていないと思う。街道をこんな格好で一人で移動するなんて目立って仕方がない。
ああ、はずかしい。それに危険。
速足で掛けさせると、ますます不味い事に気が付いた。これじゃ戦場から戦闘の結果を急報する伝令だよ。
仕方がないので、恥ずかしさに耐えながら常歩でゆっくり進む。疲れちゃった?ごめんね。
やっぱりケルンに行く隊商を探して警備役になるべきだったのかな?焦りすぎたよ。
追っ手が来るとしたら絶対馬だし、私を生きて捕まえないといけないんだから、いきなり銃撃したり、弓で射かけたりしない。襲撃される前に馬を疲れさせたら絶対駄目。
逆に盗賊はどうかな?荷物も持ってなくて銃で武装した騎兵っぽいのを襲撃するかな?あり得ない。儲からない上に危険。
ケルンまでもう数日の所まで来た時、宿の食堂で隊商の商人らしい人達がしてた嫌な噂が耳に入った。
『なんと偽物だったんだと、そのお姫様。それもマリー姫の肖像画にそっくりだったそうな』
『ヨハン様は激怒したんだろ。王国と戦争になるのか?』
『親戚なのに王家とも犬猿の仲らしいぜ、アンジュ公爵ってのは』
『なのに皇帝陛下に恥かかせたのか?』
『何、陛下はあの通り盆暗だけど、ヨハン様はカンカンで、公爵に決闘状送るらしい』
『ホントかよ。戦争になるならこっちも売れそうなの買っときゃなきゃな。良い儲け話ありがとな』
私は耳をふさぎたくなった。私のせいじゃない。私のせいじゃない。政略結婚のための替え玉だって知ってたら絶対断ってた。
あーでも、公爵、いえミシェル様は本物の公爵令嬢を送りだしたんだから、断った私のせいなの?
でもだからと言って決闘?いえ戦争?私のせいで?
夢なら今直ぐ醒めてよ!




