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転居

「もう一週間もこの狭い部屋から一歩も出られません。一体いつまで閉じこもっていればいいのですか?」


「アネットさん、ここからモンスまでは片道2週間ですよ、往復の移動だけで1カ月かかります。その上公爵家に気づかれぬように調査するのにも時間が掛かります。最低2カ月は見なくては」


「モンスでの訓練に1カ月半、ここまでの移動に2週間。その上後更に2カ月も部屋から一歩も出ずに生活しろと言うのですか?」


「まだあなたの処遇は決まってません。それまではあまり人目につくような行動は慎んで下さい」


「ランベルト様はどちらの結果になろうとも私と一緒になりたいとおっしゃったと思っておりましたのに、調査結果が重要ですか?夫は妻を守るものだと思っておりましたのに、ランベルト様は妻は狭い部屋に閉じ込めるものだと思っておられるのですか?(わたくし、ランベルト様との事を考え直すべきなのかしら?」


「困りましたね。そうですね、少し離れた森の中に皇帝家で狩猟などに使っている離宮があります。そこなら周りは森なので余計な目を気にしないで済みますし、敷地の中であれば多少のお転婆なら大丈夫でしょう」


 ランベルトさんの言う多少のお転婆ってどれ位のものなんだろう?義父おやじさんに教えて貰った『護身術』って実戦でどれ位有効なのか、正直実戦の経験がないから分からないんだよね。この前の襲撃の時は一発撃っただけだし。


「狩猟用の離宮ですか?」


「狩猟期にはまだ少し早くまだ使ってないので、準備に数日必要ですが。お転婆さんは狩りは興味は?」


「そうですね。弓なら多少は覚えがあります」


「乗馬はどうですか?女性で乗馬をされる方は少ないですが、お転婆さんなら」


「そのお転婆と言うのは止めて頂けないですか?護身術と言って下さい」


「護身術ですか」


「私は義父ちちから護身術を仕込まれてますのよ。殿方のおイタに対処するために」


 そうだ。義父さんは『護身術』と言っていた。どう考えても傭兵の戦闘術なのに何で『護身術』なんて言い方してたんだろう?


「それは手ごわいですね。話を元に戻しますが、乗馬はどうですか?」


「私は馬に乗ったことはありません。ご存じのように馬車ならありますが」


「乗馬には興味がありますか?」


「勿論」


 逃亡するためには馬に乗れた方が絶対良いからね。


 でもよく考えるとランベルトさんがお相手ならもう逃亡する必要なんか無いんじゃないかな?私を公爵家を乗っ取るための道具としてだけしか見なかったり、ヨハン様のように女性を乱暴に扱ったりする人との結婚を強制されるなら逃げ出すけど。


 確かにランベルトさんも皇帝家の一員だけど、継承権がない非嫡出子だし、皇帝家の繁栄の事だけ考えるんじゃなくてしっかり自分の利益を確保すると思うんだよね。ランベルトさんなら。


 もしランベルトさんがアンジュ公爵家の後継者になるなら、自分に継承権のない皇帝家の繁栄より、ちゃんと公爵家と領民の利益を確保しようとするのでは?公爵様もしっかり者が後継者になるなら満足じゃないかな。だってマリー様を皇帝家に嫁がせるってそう言う事じゃん。


 もし公爵様がランベルトさんの事を気に入らないならいつでも替え玉の件を暴露すれ良いわけで、実は公爵家の方が優位に立ってるのかも。その為にも何らかの方法でローマの件の事を知らせるべきね。


 それに私自身の事にしても……ランベルトさんは良いお相手だと思うのよ。多分アメリさんに次いで私の事が分かってるし、私に強制できる立場なのに無理な要求はしないし。そりゃ結婚してからどうなるかは分からないけど、気に入らなければいつでも逃げられる。


 それに、それによ、もしこの仕事の話が無かったら軍の集結地に行って傭兵になってたんだよ。私の戦闘技術がどれ位通用するか、そもそも女性が傭兵として採用されるかなんて分からない。生死を掛けて泥にまみれて戦って、負けたら死ぬか、やられちゃうかも。仕事がなければ野垂れ死にするか、野盗になるか、それとも女を売るしかなかったんだよ。


 それと比べればこんな所でも天国じゃん。着飾って、美味しいものを食べて。そりゃ今は部屋に閉じ込められてるけど、いつまでもってわけじゃない。交渉すれば待遇も改善されるんだよ。


「では離宮に移ったら乗馬をお教えしましょう」


「それは楽しみです。この所ずっと楽しいと思える事が無かったので」


「私と一緒に旅した2週間は楽しくなかったですか?」


「楽しくなかったわけではないですが、なにせマリー様のふりをするのに必死でしたから。それよりこの前のお話は楽しかったですよ」


「お話……何のことでしょう?」


「結婚式の後、お話したでしょう?皇帝陛下とヨハン様が帰られた後」


「え、ええ。そうですね。それでは離宮の準備が整ったらまた来ます」


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