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離宮

 森の中の道を馬車で進んでいた。馬車の中には私とアメリさん、そしてランベルト様。


「一つ提案があるんですが。離宮に入れば人目を気にする事はありません。マリー様の、いや、貴族の仮面を脱ぎ捨ててみては?」


「どういう事ですか?」


「ほら、その言い方ですよ。敬語はもう止めて、本来のあなたを見せてほしいんです。もしよろしければ私も止めます」


「何故?」


「あなたは言ったでしょ。私は本当のあなたを知らないと」


「そうですね。じゃ止める」


「そう、その口調だよ」


「いけません、アネット様」


「アメリ、侍女が口出しする事じゃないだろ。それともアネットさんは替え玉だから本物のマリー様の侍女の自分の方が偉いとでも思ってるのか?そうだとしたら大した思い上がりだ」


「そんな事はありません」


「じゃあ、黙っていてほしいな」


「アメリさん、私はアメリさんに感謝してるけど、お貴族様の真似は窮屈で仕方なかったんだよ。今はちょっとすっきりしたよ」


「そうですか、アネット様がそう言われるなら」


「それと、アネットって呼んでも良いかな?僕の事もランベルトだけでいいよ」


「そうね、結婚するならその方が良いよね」


「じゃ、決まり」


 森の中に白い壁が見えてきた。多分ここが狩猟用の離宮なんだろう。


 門を通ると、きれいに整備された庭の先に館が見えた。宮殿と比べると小さいけど、私の感覚では十分大きい。窓の数は1、2、3,4、5。正面の大きな扉と1階と2階が左右の棟に5つづつ、更に屋根裏部屋らしいのがいくつか。とにかく沢山部屋がある。


 左側の奥に(うまや)、右側の奥に少し小さな建物がいくつか、これは召使いなんかが住む所だろうか?それと倉庫らしいのもある。


 館の正面に馬車が止まった。外から馬車の扉を開けてくれて出ると、左右に出迎えの人がずらーと。どこが人目を気にする必要がないのよ。


 左側の先頭にいた背の高い30歳位の男性が一歩前にでてお辞儀をすると、出迎えの人達が一斉にお辞儀をした。


「ランベルト様、お帰りなさいませ」


「ただいま、カール。皆もご苦労」


「こちらがアネット嬢、後ろについているのが彼女の侍女のアメリだ。まず応接室に」


 カールさんに応接室に案内されてランベルトさんと差し向いに座った。アメリさんは私の後ろに立ってる。もうそういう芝居は良いのに。


「アメリさんも隣にすわったら? 疲れるでしょう」


「そういうわけにはまいりません。アネット様」


「でも、私も貴族の振りは止めたんだから」


「これが私の仕事ですから」


「そう?ところで、さっきこの離宮では人目を気にしなくて良いって言ってたけど、人が沢山いるじゃない」


「今この離宮にいるのは全部僕の部下なんだよ。口の堅さは保証して良い」


「ランベルトさん、いえランベルトの部下?家臣じゃなくて?」


「僕は宮廷での仕事の他にちょっと特殊な役割もあってね、そっちの方の部下なんだよ」


「そうなの?どんな役割?」


「秘密」


「じゃあ聞かないけど、その代わりにランベルトの事を教えてよ」


「僕の何を知りたい?」


「ランベルトは正嫡でなくても皇帝陛下の子供なんでしょう?皇帝陛下の息子に生まれるってどんな感じなの?」


「僕は皇后陛下の子であるヨハン兄やハンス兄とは違う。愛妾の子って言うのは嘘さ。本当は僕の母は宮廷で働いてた召使いだったんだよ」


「そうなの?」


「何があったか詳しくは知らないけど、妊娠してる事が分かると母は宮廷の仕事を辞めて実家に帰った。庶民だったから皇后陛下の嫉妬が怖かったのかな?とにかく僕は10歳までは母の私生児として育ったんだ」


「母が病気で亡くなると宮廷から使者が来て僕は皇帝陛下と対面した。それから既に亡くなっていた貴族身分の愛妾の子という事にしたんだ。僕の本当の母が召使いだった事知る人はほんの数人なんだよ」


「ごめん、嫌な事きいちゃったね」


「君の事も聞かせてくれないかな?」


「私は孤児なの。私の本当の両親が誰かは知らない。拾ってくれた義父(おやじさんの家族の元で育ったのよ。家族は義父(おやじさんと義母おばさんに1歳下の義妹(いもうとのアデールに4歳下の義弟おとうとのエリク。」


「私が拾われた時4歳だったから、家には3歳のアデールと生まれたばかりの赤ちゃんのエリクがいたんだって。だから義母さんは私を家に入れるのに大反対だったって義父さんは言ってた。でもアデールがもし私と同じ目にあったらと思ったら放って置けなかったんだって」


「アメリ、君、顔が真っ青だよ。気分が悪いなら下がって休養すると良い」


「いいえ、大丈夫です」


「そうか。無理にとは言わない。アネット、それでその後どうしたんだい?」


「そんなのだから義母さんはいつも私の事を余計者扱いして何も教えてくれなかった。アデールの面倒ばかり見て、私は水汲みとか薪割りとかそんな力仕事ばかりやらされたよ。義父さんは家にいる時は、私に護身術を教えてくれたの。義父(おやじさんは護身術って言ってたけど、本当は傭兵の戦闘術ね。義父さんは傭兵だったのよ」


「なんだって」


「体が小さいから長槍は無理だろうと銃の扱い方を教えてくれたわ。弓もね。あと近接戦闘だとショートソードにナイフに体術。ナイフ投げも教えてくれたよ」


「なんて事だ。護身術知ってるって言ったのは冗談じゃなかったのか」


「だからモンスには傭兵になるために行ったのよ。軍の集積所へ行くはずが間違ってモンスの街の方に行っちゃって。武装してたから市門で警備に止められて、公爵家の家宰のドレ様にこの仕事に勧誘されたの」


「……アネット、ちょっと君の技を見せてくれないかな?」


「何が良い?」


「ここで出来るのはナイフ投げかな?」


「いいわよ。」


 ランベルトは立ち上がると部屋の隅にいた男の人に言った。


「ナイフと的を」


 男の人が入ってきて部屋の向かい側の壁の前の棚に的を掛け、ナイフが4本乗った銀色の盆をソファーの間のテーブルの上に置いた。私は立ち上がって的の反対側の壁の前に立つとその男の人に隣で盆を持つように頼んだ。


「もう少し下に持ってくれる?そう、それ位」


 ナイフが取りやすい高さになったので始める事にする。1本、2本、3本、4本。次々に的の中心に刺さるナイフに私は得意になった。


「どう?」


 ソファーに座るランベルトを見ると顔が青くなっていた。


 あれ?また失敗した?


 なんか前にも同じような事あったよね。アメリさんまで青くなってる。そうか、あの時アメリさん見てなかったっけ。


「凄いね。これからは君を怒らせないようにしないといけないな」


「えー、私ランベルトに腹を立てた事なんかないよ。いつも頼りにしてるのに」


「これからだよ。これからの話」

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