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帝国語

 部屋に戻るとアメリさんが待っていた。


「どういうつもりなんですか?結婚の誓いを拒否するなんて」


「アメリ、結婚の誓いは神様にするのですよ。偽名で神様に誓うなんて出来ません」


「それで、皇帝陛下やヨハン様は何とおっしゃってるんです?事と次第ではアンジュ公爵家は帝国と戦争になります」


「皇帝陛下とヨハン様には私が替え玉だから結婚出来ないと説明いたしました」


 アメリさんには悪いとは思ってるんだよ。


「そんな事……アネット様、ご自分を大切になさって下さい」


「自分を大切にしたらこうなりました。でも皇帝家は私が替え玉でも政略結婚はしたいそうです」


「意味が分かりませんが」


「帝国は公爵家と戦争したくないので、今後も私を替え玉ではなくマリー様として扱うそうです。結婚式は非公開にしてアネット・ロンとしておこなっても良いそうですよ。ヨハン様は替え玉とは結婚したくないそうなので、皇帝陛下の隠し子とはどうかと言われましたよ」


「アンジュ公爵家の後継者が隠し子となんて。あり得ません」


「私は替え玉だから隠し子とならなんとか釣り合うかもしれませんね」


「……皇帝はアネット様を政治の道具として扱おうとしています。それで良いのですか?」


 公爵家こそ私を政治の道具として扱おうとしたと思うけど。


「私にはそんなに選択肢がないと思います」


 逃げるって選択肢はあるよ。


「花嫁が替え玉だと言われて、それでも皇帝が政略結婚を望むのは、公爵家の後継者を皇帝家に取り込んで公爵領を皇帝家のものとする為ではないですか?皇帝家はこれまでも政略結婚で領地を広げてきました。結婚相手が次代の皇帝であるヨハン様となら皇帝家と公爵家は対等ですが、隠し子とだなんて。皇帝家は公爵領を武力を使わずに併合するのが目的なのではないですか?」


「もし相手がその気なら公爵家自身が私が替え玉であると暴露すれば良いでしょう。私は公爵家の後継者でも何でもないのですから。実は司教様に私が替え玉であると告白しているのです。その事は教皇猊下にも伝わるはずです」


「司教様の身が危険では?」


「皇帝家は自らがローマから招いた司教様を暗殺すると?ローマが司教様を暗殺したと皇帝陛下を非難すれば、皇帝陛下の名誉は地に落ち、ヨハン様は次代皇帝になれなくなります」


「そうですね」


「それで、ローマに1万グルデン寄進して、いざと言う時私が替え玉であると公表してもらうようにお願いしたのです。寄進の事は皇帝家でも了解してもらいました。独断だけど公爵家のためだから良いでしょ?勿論ローマとの約束の事は帝国側には秘密にしています」


「もし皇帝家が寄進しなかったらどうするのです?」


「寄進されなければ即座に私が替え玉だって公開されます」


「逆に皇帝家がローマを買収したら?」


「ローマは皇帝家とは対立してるでしょ。何故ローマから司教様を呼んだのか理解できませんね」


 アメリさんはため息をついた。


「アネット様がお望みなら、これ以上私が申す事はありません。ですがアネット様にはもっと注意をお願いしたいと思います。帝国語を覚えられて彼らの会話を理解出来るようにされては?」


 あれあれ?そう言えばアメリさん、さっきから私の事『アネット様』って呼んでるよ?変なの。そりゃ『マリー様』や『お嬢様』じゃあ芝居なのか本気なのか分からないけどさ。


「帝国側の人間に習うのですか?私がどれ位帝国語を習得したか向こうに把握されますね」


「私がお教えしますよ」


「それは無理です。アメリを含め随行員は公爵領に安全に帰還出来るよう帝国側と交渉しました。そのために同じく持参金から身代金1万グルデンを支払う事を約束しました。まあ私が結婚すればどちらにしろ持参金は皇帝家に渡るわけで、身代金は形式的な問題ですが。もし彼らが私を害せば、花嫁を害した上に持参金を略取したと言う事に……」


「私はアネット様を放って公爵領には帰れません」


 アメリさんにしてみれば、このまま帰還すれば『マリー』様を放置して帰ったって事になるか。でも正直アメリさんは足手まといなんだよね。


「公爵様は私が替え玉だと知ってるのだから、アメリさんが帰還してもお咎めにはならないと思いますよ」


「いいえ、アネット様を残して私が帰還すれば、公爵様は私の事を決して許さないでしょう」


 確かに公爵様は厳しそうだよね。それにアメリさんがいた方が色々便利なのは事実。


 私はため息をついた。


「分かりました。他の随行員の方々に帰国するようお話願えますか?」


「了解しました。ところで、その皇帝陛下の隠し子ってどなたか聞いてもよろしいでしょうか?」


 その時、多分私はニタっと笑ってたと思う。


「それが……ランベルトさんなんですよ」


 アメリさんの目が一瞬真ん丸になったかと思うと、納得したような顔つきになった。


「そうでしたか。分かりました」


 帝国側がわがままを言う私を説得するからと言う説明をアメリさんがして、数日後随行員一行は帰還の途についた。


 それから私とアメリさんは部屋に監禁されることになった。部屋の前には常時兵士が『警護』と言う名目で付き、外に出る事は出来ない。確かに宮殿の中の客間で丁重に扱われ、決して乱暴な事をされる事は無かったが。


 閉じ込められた部屋の中で私はアメリさんに帝国語を習い始めた。帝国側の召使い達が部屋を掃除したり、食事を運んできたりする時間を除いて四六時中、アメリさんに帝国語を教えられた。それでも進歩はカメの歩みのように遅かった。


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