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交渉と工作

 皇帝陛下とヨハン様が退出されると、ランベルトさんに更に事情を聞かれた。


「それであなたの本当のお名前は?」


「アネット・ロンです」


「あなたの生い立ちと身代わりになった経緯を教えて貰えますか?」


「私は孤児です。4歳の時傭兵をしていた養父に拾われて育てられました。養父が病死したので仕事を探してモンスの街に行きました」


「街の入口で警備につかまり、公爵家の家宰のドミニク・ドレ様のお屋敷に連れていかれました。そこで2週間淑女として振る舞う訓練を受けました」


「公爵様にお会いして替え玉の仕事を引き受けました。貴族社会についての教育を1月受けた後モンスを旅立ちました。その後の事はご存じの通りです」


「訓練はたった1月半ですか?元孤児と言う事ですが、貴方は貴族にしか見えませんよ。公爵家と血縁関係にあるわけではないのですね」


「いいえ、全く。それで私はどうなるのでしょうか?皇帝陛下とヨハン様を騙した罪で処刑されるんでしょうか?」


「公式にはまだあなたはマリー嬢という事になってますから、処刑なんか出来るわけありません。これから貴方が言われた事をこちら側で確認する事になります」


「もしあなたが言うように本当にマリー嬢が亡くなっていた場合、アンジュ公爵が暴露しない限り貴方はマリー嬢と言う事になります」


「言われる意味が分かりませんが?」


「つまり帝国はあなたをマリー嬢として扱い、アネット・ロンとしては扱わないと言う事です。そうですね、例えばマリー嬢はヨハン様が気に入らなかったため、結婚を拒否したとか」


「それで私をアンジュ領に送り返すと言う事ですか?」


「いえ、帝国は公爵家と争う事は望みません」


「つまりどういう事です?」


「つまり、本当のマリー嬢が亡くなっていた場合、あなたには皇帝家のものと結婚していただきたいと言う事です。神に嘘をつけないと言うなら、結婚式は公開せずに本名で行っても良いですが、あなたには皇帝家の一員になっていただいて公爵家との絆になっていただきたい」


「申し上げたいことがあります。一昨日司教様に告解した際に私が替え玉である事を告白しています」


「なんて事を。昨今では教会は腐敗してしまってます。司教様と言えど神の教えに忠実に告解の内容を漏らさないとは限らないのですよ」


「教会が腐敗しているのは分かっております。私の秘密を守る対価としてローマに1万グルデンの寄進を申し入れました」


「何を言っているのですか?公爵に雇われているあなたはそんな大金は持ってないでしょう?」


「公爵様は私に報酬として出発にあたり公爵令嬢として用意したものを全て私に与えると言われたのです。これはドミニク・ドレ様とアメリさんが確認しています」


「公爵令嬢として用意した全てですか?」


「つまり、10万グルデンの持参金も私のものです」


「なんですって?」


「持参金は花嫁の財産でしょう?」


「それはそうですが」


「帝国は私をマリー様として扱うのでしょう?もし寄進されなければ秘密が明らかになってしまいますよ」


「そうですね。正直びっくりしました。本当にあなたは公爵家に雇われただけの庶民なのですか?」


 私に何かあった場合秘密が公表されることになってる事は言わない。これは切り札。そこまで言わなくてもローマが秘密を知っているだけで彼らの行動を制約するはず。


「それともう一つ」


「まだあるのですか?」


「輿入れに同行してきた人員の身代金として持参金の残りのうち1万グルデンを皇帝家に。彼らを安全に公爵家に戻れるようにしていただきたい」


「あなたの侍女のアメリもですか」


「マリー様の侍女のアメリさんもです」


「それだけですか?」


「それだけです」


「それでは、更に付け加えて説明いたしますね。ヨハン様は実際には庶民であるあなたとの結婚を拒否されました。そこで、皇帝家としては陛下と愛妾との間の非嫡出子との婚姻を提案します。皇帝家の継承権はありませんがよろしいですか?」


「それは構いませんが、どなたです?」


 どうせ随行員が出発して十分な時間が経ったら逃げるから誰でも良いよ。


「私です」


「今なんと」


「私は陛下の隠し子なのですよ。宮廷では皆知っていますから隠し子と言うのは適切でないかもしれませんが」


「ランベルトさん、いえランベルト様は何を言っているのです?それではまるであなたが私に結婚を申し込んでいるようではありませんか」


「全くその通りですよ」


「何をおっしゃいます?正気ですか?」


「あなたを初めて見た時から魅力的な人だと思っていました。ヨハン兄が辞退するなら私はこのチャンスを逃す気はありませんよ」


多分私の顔は真っ赤になっていたと思う。


「でも、でも、もしマリー様がご存命で、ヨハン様を嫌っているため替え玉を使ったとしたらどうです?」


「その場合は皇帝家とアンジュ公爵家との関係は悪化するでしょうけど、役目を果たして自由になったあなたと私の間には何らの障害も無い事になります」


「でも私はずっとマリー様の振りをしていたんですよ。あなたは本当の私をご存じないではありませんか」


「私は馬車の上から降りてきたお転婆さんの事は存じておりますよ。それにご自分では意識されていないかもしれませんが、旅行中は随分気を許しておられたように思いますが。到着されてから急によそよそしくされて少し落ち込みましたよ」


「よそよそしくした気はないのですが。むしろランベルトさん、いえランベルト様がおられなくて心細く感じてました」


「それと、あなたはご自身の事をもっと自覚された方が良い。美貌で名高いマリー様にそっくりだという事はあなたもお美しいという事ではないですか」


「何をおっしゃいます」


「あれ?あなたはマリー様の名声を否定するおつもりなんですか?」


「そんな事は」


「それに」


 そう言うとランベルト様は少し身構えたように思えた。


「先ほどの交渉術には感服いたしました」


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