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第21章 言葉の真意2

「イアン!」


僕が呼ぶのと同時にイアンが力なく倒れ、異変に気がついたレインが咄嗟に抱き止めた。体からすっかり力が抜けており、レインは丁寧に地面に寝かせる。


「イアン! どうしたの!」


クランもニールも、他の軍人達もイアンの傍に駆け寄った。


「イアン、どうしたんだよ。なぁ、イアン!」


ニールが涙で濡れた顔でイアンに声をかけるが返事は無い。


 白い顔のイアンが口から血を垂らしている姿を見て、僕の体から血の気が引いていく。


「まさか、何度もあの力を使ったのか?」


麒麟が焦ったような声で僕に問いかけ、僕は泣きそうになりながら答えた。


「そうなんだ……。その度に酷くなってたんだ。どうしよう、どうしたら……」


レインはそんな、と漏らした。その間にもイアンは地面で倒れたまま何度も咳き込んでは血を吐いた。息がし辛いのか、ゼエゼエと音を立てている。


「イアン、大丈夫だよね? ねぇ、そうだよね?」


怖くて不安でたまらなくて、僕は安心したくて麒麟に迫ったが、イアンの状態を見た麒麟は、首を横に振った。振ってしまった。


「どうにもできない。幻属の力、特にイアンのように見えるのではなく、能動的に力を使ってしまうものは人間の体には負担が大きすぎる。1、2回はなんとかなってもそれから先は私自身どうなるかわからない。物理的な傷であったなら治せたが、こればかりは……」


と言葉を濁した。僕は苦しげに息をするイアンに目線を戻した。僕は、何もできない。


「私が追いかけなければ、イアンはこうならなくて済んだのに、私が……」


そう自分を責めるレインに、イアンは笑った。


「僕は、恨んでなんかないよ……。僕、教えてくれた文字のおかげで、いっぱい本を読んだんだ……。だから、寂しくなんかなかった……。僕、姉さんが大好きだよ……」


血を吐き、喘ぐように息をして、汗が噴き出す姿を見ているだけで泣きそうになる。


「そんな、そんなこと、言わないで、イアン……」


レインがなんとか助けようと動き出す直前、イアンはレインの手を取った。


「文字を、教えてくれてありがとう……。僕のこと、守ってくれて、ありがとう……。ニールから、全部聞いたんだ。望まれずに生まれた僕の命を、救ってくれてありがとう……」


レインの目から涙が溢れるのを見ていたイアンが今にも閉じそうな目で僕を見た。


「カミー……」


その声はますます弱々しくなり、僕は胸が張り裂けるようだった。先ほどまでの痛みと打って変わって、まるで胸をえぐられるような、そんな痛み。


「やだよ。だって、だって、せっかく、これから一緒にいられるっていうのに……」


すると、イアンは僕に話した。


「僕、知ってたんだ。予言のおばあちゃんに、自由を手にできるけど、その時、僕は死ぬって、言われてたんだ……」


それは、初耳だった。予言者の洞窟を出たときイアンは出てくるのが遅かった。あのときイアンは死の宣告をされていたのだ。僕はそんなイアンになんて言った?




「イアン、この旅が終わったらどこに行こうか! ファンダラの遺跡もう一回見に行く? 」


「もう、何ぼーっとしてるんだよ。僕がせっかく楽しい話をしてるのにさ」


「この旅が終わったらどこに行くかって話だよ」


「僕はね、ファンダラの遺跡をもう1回見たいなって思ってる。もちろん、ベリトルに会いに行ってからだけどね。イアンは? 」


そうしてイアンは言っていた。






「僕は、カミーと一緒にいられるならどこでもいいや」






僕はなんてむごいことをしたんだろう。僕はなんて無神経だったんだろう。イアンはこうなることを知っていたけど、僕に心配かけないように隠していたんだ。


 麒麟に許可をもらったらどうするか、そう話していた時にイアンは急に泣いたこともあった。どうしてかと尋ねた僕にイアンは笑顔で言っていた。



「嬉しくて、泣いてるんだよ……。カミーと、今こうして話できてることが嬉しくて……」



壊れてしまいそうだった。自分がバラバラになってしまうんじゃないかってぐらいに、思い出せば思い出すほど辛かった。イアンは一人で全部背負っていたのだ。僕はなんてバカだったんだ。そう責める僕に、イアンは笑顔を向けた。

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