第21章 言葉の真意
「予言は間違いだったんだ」
レイン達の様子を見ながらそう呟いたイアンに、僕は真っ向から反論した。
「何言ってるんだよ! 間違いであってもらったら困るんだ! ねぇ、麒麟」
僕は覚悟を持って麒麟に向き直った。
「僕らは幻属と人間が関わってはいけないっていう麒法の例外にして欲しくてここまで来たんだ。僕らは唯一無二の友達で、お互いしかいないんだ。だから、僕らが一緒にいることを許して欲しいんだ」
麒麟は僕とイアンを目で見ると、やがて笑った。
「えぇ、いいでしょう」
その言葉を僕は一瞬理解できなかった。
人目を忍んで会うことから始まって、僕らは一緒に故郷を飛び出した。長い長い逃亡生活は決して楽なものじゃなかった。不安で心が折れそうなときもあった。イアンとぶつかることもあった。大切な友達も失った。それでも僕らは二人で支え合って歩き続けてきた。一緒にいたい。ただそれだけのために。
「ほんとに、ほんとに僕らは一緒にいていいの?」
信じられなくて僕はもう1度麒麟に訊いた。麒麟は優しく笑って頷いてくれる。
「ええ、もちろん。幻属や人間には私自ら通達を出します。2度とあなた達が追われることは無い。これからも仲良くやっておいき。今私は幻属と人とが罰則なく暮らせる土地を作っている。大戦前のようにまた人間と幻属が平和に暮らしていける世界を夢見てね。その土地は私の力で守られているから安心して暮らすといい。そして、ここにいる者達は例外とみなします。自由にその土地を行来して良い」
そう聞いて僕は目が熱くなった。やったんだ。僕らはやり遂げたんだよ。ベリトル、ねぇ、見てる? 僕らは麒麟に会ったよ。一緒にいられるんだよ。僕らは、やったんだ。
「あれ? 視界がぼやけてる」
周りが上手く見えない。どうしてだろう。嬉しいのになぜか胸が痛い。目が熱くて何かがこぼれおちた。あぁ、僕は泣いているんだ。
「おかしいな。苦しくないのに、涙が出るなんて……」
声が震えて上手く話せない。体も石みたいに固まって重く感じられた。
これほど嬉しかったことはなかった。僕らは、やっと自由を手にしたのだ。ずっと追いかけ、求め続けた言葉を、今ここで手にしたのだ。苦しかった日々が、一緒にいられる、それだけで全て報われた。それだけで十分で、むしろ今までは全てこのためにあったんじゃないかと思う。僕とイアンが苦しんできたことは、全部無駄じゃなかったんだ。全部今に繋がっていたんだ。そう思うと、やっぱり胸が締めつけられるみたいに痛かった。
「やったんだ。僕らは、一緒にいられるんだよ! イアン!」
そう言って隣を見ると、イアンは返事をしなかった。それどころか、片手で口を押さえていて、顔が真っ青になっていたのだ。気分が悪いのだろうか。そうだ、力を使ったらイアンの体に負担がかかるんだ! こんなに大切なことを僕はすっかり忘れていた。
「イアン、大丈夫――」
そう尋ねようとした僕の目の前で、イアンがゴボッと嫌な音を立てた。直後、口を押さえた指の隙間から、大量の鮮血があふれでて地面に落ちた。




